前期 大問3

解法の指針

本大問は波動分野、特に音波の屈折(層1・層2・層3という大気3層モデル)ドップラー効果(複数音源・観測者が移動)の複合問題です。前半は音速が層ごとに異なる空気の層で屈折とスネルの法則、全反射を扱い、後半は 135 Hz と 138 Hz の鐘に対して自転車で近づく観測者のうなりを調べます。

全体を貫くポイント

設問(1) - 層1と層2の境界での屈折

直感的理解

層1(地表近く)と層2(上空)では音速が異なり(温度差による)、音波が境界面で曲がる(屈折)。これは水中と空気中の境界での光の屈折と同じ原理 —— 媒質を変わるとき、波長と伝搬方向が変わるが振動数は不変。

スネルの法則:境界面に立てた法線からの角度(入射角 \(\theta_1\)、屈折角 \(\theta_2\))と音速の比で

$$\frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = \frac{V_1}{V_2}$$

波長と速度の関係 \(V = f\lambda\) から、周波数 \(f\) は境界で変わらないので波長 \(\lambda\) は \(V\) に比例する。境界面上で「波面の連続性」を要求すると、波の進行方向(法線となす角)について上式が成り立つ。

例えば \(V_1 = 340\,\text{m/s}, V_2 = 360\,\text{m/s}, \theta_1=30°\) のとき:

$$\sin\theta_2 = \frac{V_2}{V_1}\sin\theta_1 = \frac{360}{340}\sin 30° = \frac{360}{680} \fallingdotseq 0.529$$ $$\theta_2 \fallingdotseq 32.0°$$

上空(層2)が速い場合、屈折角は入射角より大きくなり、光線は法線から離れる方向に曲がる。

答え: \(\dfrac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = \dfrac{V_1}{V_2}\)
補足:気温が上がると音速は速くなる

音速は気温 T(℃)に対して \(V \fallingdotseq 331.5 + 0.6T\) で近似される。夜間は上空の方が暖かく(逆転層)、音が屈折で地表に戻りやすくなるため、遠くの音がよく聞こえることがある。

Point 屈折で変わるのは波長と方向、変わらないのは振動数。スネルの法則は「音速が速い側では法線から離れる」と覚える。

設問(2) - 全反射の臨界角

直感的理解

\(V_2 > V_1\) のとき、入射角を大きくしていくと屈折角 \(\theta_2\) が 90° に達する角度がある。これが臨界角 \(\theta_c\)。それを超える入射角では屈折波が存在できず、すべての波が反射する(全反射)。

全反射条件:屈折角 \(\theta_2 = 90°\) となる入射角 \(\theta_c\) で、スネルの法則は:

$$\frac{\sin\theta_c}{\sin 90°} = \frac{V_1}{V_2} \;\Rightarrow\; \sin\theta_c = \frac{V_1}{V_2}$$

例:\(V_1 = 340, V_2 = 360\) なら

$$\sin\theta_c = \frac{340}{360} \fallingdotseq 0.944$$ $$\theta_c \fallingdotseq 70.8°$$

\(\theta_1 > \theta_c\) のとき、屈折波は存在せず、入射波は全部反射される(大気の場合、これにより音が遠方まで届く「音の導波現象」が起こる)。

答え: \(\sin\theta_c = \dfrac{V_1}{V_2}\)(ただし \(V_2 > V_1\))
補足:大気音響ダクト

冷たい層の上に暖かい層がある逆転層では、下向きに進む音波が全反射で戻り、水平に「閉じ込められる」。これが「音のダクト効果」で、海上や夜間に遠くの音が明瞭に聞こえる原因の一つ。

Point 全反射は「音速が速くなる(波長が長くなる)側へ音が抜けようとする」とき、十分浅い入射角(\(\theta_1 > \theta_c\))で起こる。\(V_2 > V_1\) の条件が不可欠。

設問(3) - 2つの鐘に自転車で近づく:うなりの振動数

直感的理解

図2 の配置:鐘②(135 Hz、左)―― 鐘①(138 Hz、中央)―― 自転車(速さ \(v\) で左向きに進む、鐘①に近づいている)。自転車から見ると:鐘① は「近づいてくる音源」、鐘② も「近づいてくる音源」。両方のドップラー効果で音の振動数が変化し、観測者(自転車)では2つの振動数が同時に聞こえてうなりが生じる

観測者 が 音源 に 近づく場合のドップラー効果:音源静止、観測者速度 \(v\)(音源に向かう向きを正)、音速 \(V\) のとき

$$f' = \frac{V + v}{V} f$$

鐘① (138 Hz) と 鐘② (135 Hz) の両方が観測者に対して「近づく相対運動」:自転車は鐘①に向かって \(v\) で進み、鐘②からも遠ざからず(鐘② ←←鐘① ← 観測者の配置、観測者は右から左へ進む。鐘② も鐘① も自転車から見ると「近づく音源」ではなく、観測者が近づいている。自転車が左に進むと、鐘② には近づき、鐘① にも近づく(間にいない場合)。図2 の配置ではすべて同じ方向に進むので両方とも近づく音源となる)。

したがって:

$$f_1' = \frac{V+v}{V}\cdot 138,\quad f_2' = \frac{V+v}{V}\cdot 135$$

うなり周波数:

$$f_{beat} = |f_1' - f_2'| = \frac{V+v}{V}\cdot |138 - 135| = \frac{V+v}{V}\cdot 3$$

数値例:\(v = 10\,\text{m/s}, V = 340\,\text{m/s}\) の場合

$$f_{beat} = \frac{350}{340}\cdot 3 \fallingdotseq 3.09\,\text{Hz}$$
答え: \(f_{beat} = \dfrac{V+v}{V}|f_1 - f_2| = \dfrac{V+v}{V}\cdot 3\,\text{Hz}\)
補足:観測者が動く場合と音源が動く場合の違い

観測者が動く場合、観測者自身が「音の波面を速く切る」ので、観測振動数は 相対的な音速 \(V+v\) を用いた \(f'=(V+v)f/V\)。一方音源が動く場合は「波長が縮む/伸びる」ので \(f'=Vf/(V-v_S)\)。前者は線形、後者は分母に速度が入る点が異なる。

Point 2つの音源が同じ向きに同じ量だけ「近づく」とき、うなり周波数は同じ係数 \((V+v)/V\) で一律にシフトする。差 \(|f_1-f_2|\) は変わらず、係数だけ倍がかかる。

設問(4) - うなりが 0 になる自転車の速さ

直感的理解

問題の幾何をよく読み返すと、鐘② が自転車の後ろ(遠ざかる側)、鐘① が前(近づく側)なら、片方は \((V+v)/V\) 倍、もう片方は \((V-v)/V\) 倍の係数で周波数がシフトする。両者の差が 0 になる \(v\) を求めよ、ということ。観測者が動くことで「高い音の鐘② が下がり、低い音の鐘① が上がって一致する」瞬間がある。

設定(図2 で自転車は鐘①方向に進む、左向き \(v\)):

うなり = 0 の条件:\(f_1' = f_2'\) すなわち

$$\frac{V+v}{V}\cdot 138 = \frac{V-v}{V}\cdot 135$$

両辺に \(V\) を掛けて整理:

$$(V+v)\cdot 138 = (V-v)\cdot 135$$ $$138V + 138v = 135V - 135v$$ $$138v + 135v = 135V - 138V$$ $$273 v = -3V$$

ここで符号が負となるのは、鐘①(高音)がさらに高く、鐘②(低音)がさらに低くなる方向に動いているため、うなり 0 は物理的に不可能。逆に自転車が右向き(鐘①から遠ざかる、鐘②に近づく)方向だと:

$$\frac{V-v}{V}\cdot 138 = \frac{V+v}{V}\cdot 135$$ $$(V-v)\cdot 138 = (V+v)\cdot 135$$ $$138V - 138v = 135V + 135v$$ $$3V = 273 v$$ $$v = \frac{3V}{273} = \frac{V}{91} = \frac{f_1 - f_2}{f_1 + f_2}\cdot V$$

ここで \(f_1 = 138, f_2 = 135\) を代入:

$$\boxed{v = \frac{138 - 135}{138 + 135}V = \frac{3}{273}\cdot 340 \fallingdotseq 3.74\,\text{m/s}}$$
答え: \(v = \dfrac{f_1 - f_2}{f_1 + f_2}\cdot V \fallingdotseq 3.7\,\text{m/s}\)(鐘①から遠ざかる向き)
別解:周波数合わせの物理的考察

高音の鐘① 138 Hz が下がり、低音の鐘② 135 Hz が上がる。自転車が鐘②に近づくと 135 Hz は上がる、鐘①から遠ざかると 138 Hz は下がる。両方のシフト量を一致させる速さが上記の \(v \fallingdotseq 3.7\,\text{m/s}\)。直感的には「差 3 Hz を和 273 Hz で割って音速に掛ける」。

Point ドップラー効果で「うなり 0」条件は音源周波数の差÷和を V に掛けるで出せる。向きの正負に注意して、幾何(どちらが前方/後方か)を正確に読み取ること。

補足 - 層伝搬時間と観測タイミング

直感的理解

音が層1→層2→層3 と上空へ伝搬する間、各層で音速が異なるので伝搬時間 \(t_1, t_2, t_3\) も変わる。鐘から発射された音が観測点に到達する時刻を計算することで、遠距離音響の時間差や「雷の閃光と轟音の遅延」の定量評価が可能になる。

各層での伝搬時間:層 \(i\) の厚さを \(L_i\)、そこでの音速を \(V_i\) とすると、音がその層を通過する時間は

$$t_i = \frac{L_i}{V_i\cos\theta_i}$$

ここで \(\theta_i\) は層 \(i\) での法線からの角度(屈折で変わる)。

全伝搬時間:

$$t_{total} = \sum_i t_i = \sum_i \frac{L_i}{V_i\cos\theta_i}$$

例:3層構造で \(L_1 = 100, L_2 = 200, L_3 = 300\,\text{m}\)、\(V_1 = 340, V_2 = 350, V_3 = 360\,\text{m/s}\)、鉛直入射(\(\theta_i = 0\))として

$$t_{total} = \frac{100}{340} + \frac{200}{350} + \frac{300}{360} \fallingdotseq 0.294 + 0.571 + 0.833 = 1.70\,\text{s}$$
答え:全伝搬時間は各層の「厚さ/音速」の和。屈折角がある場合は \(L_i/(V_i\cos\theta_i)\)。
補足:稲妻の音と光の時間差

雷の光はほぼ瞬時に伝わる(光速 \(3\times 10^8\,\text{m/s}\))が、音は \(\sim 340\,\text{m/s}\)。光が見えてから音が聞こえるまでの時間差 \(\Delta t\) から、雷までの距離 \(d \fallingdotseq 340\Delta t\,\text{m}\) が分かる。3秒で約 1 km。

Point 音の屈折・伝搬時間は、各層を通過する時間の総和で計算する。大気の温度勾配による音速変化が遠距離音響の伝わり方を決める。