スピーカーとピストンで構成された気柱の共鳴実験を扱う波動の問題。片側がピストンで閉じた「閉管」の共鳴条件と、開口端補正 $\Delta$ の定量的な決定がテーマです。実験データ(図 3 の 3 本の共鳴曲線)から $\Delta$ と音速 $v$ を連立方程式で求めます。
立式:波の基本式
$$v = f \lambda$$計算:$\lambda$ について解く。
$$\lambda = \dfrac{v}{f}$$$f$ [Hz = 1/s], $v$ [m/s], $\lambda$ [m]。次元チェック:$\dfrac{\text{m/s}}{\text{1/s}} = \text{m}$. OK。
数値例:$v = 340$ m/s, $f = 500$ Hz のとき
$$\lambda = \dfrac{340}{500} = 0.68 \text{ m} = 68 \text{ cm}$$$f = 1000$ Hz では $\lambda = 0.34$ m = 34 cm。気柱の長さ(30〜60 cm)と同程度の波長なので、この振動数範囲で共鳴が起きる理屈と合う。
可聴域との対応:人間の可聴域は 20 Hz〜20 kHz。500〜1000 Hz は「ピアノの中央ド ($\fallingdotseq 262$ Hz) より 1〜2 オクターブ高い」音域で、音声主成分が含まれる聴きやすい周波数帯。
$v = f\lambda$ は波動全般の基本式。空気中の音速は温度に依存($v \fallingdotseq 331 + 0.6 T$ [m/s], $T$ [℃])、常温で約 340 m/s。
立式:気柱の共鳴とは、管内に定在波が立つ条件。ピストンが片側を閉じているので、ピストン端は変位の節、開口端は変位の腹(開口端補正 $\Delta$ だけ外側)。
節〜腹の距離は $\lambda/4$ なので、ピストン端から腹までの距離(実効長 $L + \Delta$)は $\lambda/4$ の奇数倍:
$$L + \Delta = (2n - 1) \frac{\lambda}{4} \quad (n = 1, 2, 3, \ldots)$$計算:$\lambda = v/f$ を代入し、$f$ について解く。
$$L + \Delta = (2n-1) \frac{v/f}{4} = \frac{(2n-1)v}{4 f}$$ $$f = \frac{(2n-1)v}{4(L + \Delta)}$$両端の境界条件:ピストン端で変位=0(節)、開口端で変位が最大(腹)。節と腹の距離は $\lambda/4$。このパターンを作るには、管の実効長が $\lambda/4$, $3\lambda/4$, $5\lambda/4$, ... の奇数倍でないといけない。偶数倍($\lambda/2$, $\lambda$, ...)だと両端で同じ位相になり、「節・腹」の組にならない。
具体例:$L = 0.50$ m, $\Delta = 0.01$ m, $v = 340$ m/s の閉管で、最初の 3 個の共鳴振動数は
$$f_1 = \frac{1 \times 340}{4 \times 0.51} \fallingdotseq 167 \text{ Hz (基本)}$$ $$f_2 = \frac{3 \times 340}{4 \times 0.51} \fallingdotseq 500 \text{ Hz (3倍振動)}$$ $$f_3 = \frac{5 \times 340}{4 \times 0.51} \fallingdotseq 833 \text{ Hz (5倍振動)}$$等差数列ではなく $1:3:5$ の奇数倍等比。これはクラリネットの特徴的な「響きの印象」をもたらしている。
閉管(片側閉じ)は奇数次モードのみ。開管(両側開き)は全次数。この違いは、ギターや管楽器の音色を決める重要な要素(クラリネットは閉管で奇数次倍音、フルートは開管で全倍音)。
立式:図 3 の 3 本の共鳴曲線は、奇数次モード $n = 2, 3, 4$ に対応する。同じ $v$, $\Delta$ で異なる $n$ の曲線が引かれる。
2 つの共鳴点 $(L_1, f_1, n_1)$ と $(L_2, f_2, n_2)$ をグラフから読み取ると、問 2 の式より
$$(2n_1 - 1) v = 4 f_1 (L_1 + \Delta)$$ $$(2n_2 - 1) v = 4 f_2 (L_2 + \Delta)$$計算:$n_1 = 2$ (つまり $2n_1 - 1 = 3$) で $(L_1, f_1) = (35\text{cm}, 709\text{Hz})$、$n_2 = 3$ (つまり $2n_2 - 1 = 5$) で $(L_2, f_2) = (52\text{cm}, 800\text{Hz})$ と読み取ったとする。
両式で $v$ を等しく置いて比をとる:
$$\frac{3}{5} \cdot \frac{4 f_1 (L_1 + \Delta)}{4 f_2 (L_2 + \Delta)} = 1$$ $$3 f_1 (L_1 + \Delta) = 5 f_2 \cdot ? $$整理し直す:$v = \dfrac{4 f_1 (L_1+\Delta)}{3} = \dfrac{4 f_2 (L_2+\Delta)}{5}$ より
$$5 f_1 (L_1 + \Delta) = 3 f_2 (L_2 + \Delta)$$ $$5 \times 709 \times (0.35 + \Delta) = 3 \times 800 \times (0.52 + \Delta)$$ $$3545 \times (0.35 + \Delta) = 2400 \times (0.52 + \Delta)$$ $$1240.75 + 3545 \Delta = 1248 + 2400 \Delta$$ $$1145 \Delta = 7.25$$ $$\Delta = 0.00633 \text{ m} \fallingdotseq 0.01 \text{ m} = 1 \text{ cm}$$有効数字の扱い(読み取り精度)で丸めて $\Delta \fallingdotseq 1$ cm。
グラフの読み取り精度により $\Delta$ は $0.5 \sim 1.5$ cm の範囲で変動しうる。問題の指示「整数値で答える」に従えば $\Delta = 1$ cm が最頻答。
開口端補正の理論値:開口端補正は概ね「管の半径 $R$ × 0.61」(Rayleigh の近似式)で与えられる:
$$\Delta \fallingdotseq 0.61 R$$管径が 3 cm(半径 1.5 cm)なら $\Delta \fallingdotseq 0.61 \times 1.5 = 0.9$ cm ≒ 1 cm。管径が 4 cm(半径 2 cm)なら $\Delta \fallingdotseq 1.2$ cm。今回の実験結果($\Delta \fallingdotseq 1$ cm)とよく整合している。
別法:3 式から最小二乗法的に決定 — グラフから 3 点以上を読み取り、過剰条件から最適な $v$, $\Delta$ を決めることで精度を上げられる。実験物理の分野では、異なる $n$ の共鳴データから物理定数を連立推定するのは基本テクニック。
開口端補正 $\Delta$ は、開口端での音の放射特性による補正項。理論的には管径 $D$ に対して $\Delta \fallingdotseq 0.3 D$(無限バッフル付き)または $\fallingdotseq 0.6 R$($R$ は管半径)。
立式:問 2 の共鳴条件式を $v$ について解く。
$$v = \frac{4 f (L + \Delta)}{2n - 1}$$計算:$\Delta = 0.01$ m を使い、グラフから読み取った $(L_1, f_1, n_1) = (0.35\,\text{m}, 709\,\text{Hz}, 2)$ を代入($2n_1 - 1 = 3$)。
$$v = \frac{4 \times 709 \times (0.35 + 0.01)}{3} = \frac{4 \times 709 \times 0.36}{3} = \frac{1021}{3} \fallingdotseq 340\,\text{m/s}$$検算:$(L_2, f_2, n_2) = (0.52\,\text{m}, 800\,\text{Hz}, 3)$ で同様に($2n_2 - 1 = 5$)、
$$v = \frac{4 \times 800 \times (0.52 + 0.01)}{5} = \frac{4 \times 800 \times 0.53}{5} = \frac{1696}{5} = 339\,\text{m/s} \fallingdotseq 340\,\text{m/s}$$両方から $v \fallingdotseq 340$ m/s で一致 → 有効数字 2 桁で $v \fallingdotseq 3.4 \times 10^2$ m/s。
理想気体中の音速は $v = \sqrt{\gamma R T / M}$($\gamma$: 比熱比, $R$: 気体定数, $T$: 絶対温度, $M$: モル質量)。空気($M = 29$ g/mol, $\gamma = 1.4$)で $T = 293$ K(20℃)のとき
$$v = \sqrt{1.4 \times 8.31 \times 293 / 0.029} \fallingdotseq 343\,\text{m/s}$$今回求めた 340 m/s は、室温の乾燥空気の音速として妥当。実験精度の範囲内で一致している。
温度による変化(近似式):
$$v \fallingdotseq 331.5 + 0.6 T \quad (T \text{ は摂氏温度 }[\text{℃}])$$例えば $T = 15$ ℃ では $v = 331.5 + 9 = 340.5$ m/s、$T = 0$ ℃ では $331$ m/s。夏と冬では音速が 2〜3% 異なる。オーケストラのチューニングで楽器温度を揃えるのはこのため。
湿度の影響:水蒸気(軽いモル質量 18 g/mol)の混入で実効モル質量がやや小さくなり、音速は 1% 弱大きくなる。
気柱共鳴実験は、歴史的に音速の精密測定法として使われてきた(クント管、ヘルムホルツの実験など)。「2 つ以上のデータ点 → 連立 → 物理定数と誤差補正項を同時に決定」というパターンは、物理実験の基本技法。
共鳴条件式を変形:$(L + \Delta) \cdot f = \dfrac{(2n-1)}{4} v$。つまり同じ $n$ の共鳴点を集めたとき、縦軸 $(L+\Delta)\cdot f$ は横軸 $n$ に対して線形。
別表現:$L$ を $y$ 軸、$\dfrac{1}{f}$ を $x$ 軸にプロットすると、各 $n$ ごとに直線が引け、傾き $\dfrac{(2n-1)v}{4}$、切片 $-\Delta$ となる。複数の $n$ の切片が一致する値が $\Delta$、傾きの比から $v$ が決まる。
例:$n=2$ の切片が $-0.009$ m, $n=3$ の切片が $-0.011$ m なら平均で $\Delta \fallingdotseq 0.01$ m = 1 cm。傾き比 $3:5$ に合致すれば共鳴条件式の正しさが検証できる。
今回の閉管共鳴は「均一な円筒の気柱」の共鳴。一方、ワインボトルのような「口が細くて内部が広い」容器の共鳴はヘルムホルツ共鳴と呼ばれ、周波数は
$$f_H = \frac{v}{2\pi}\sqrt{\frac{A}{V L_\text{neck}}}$$ここで $A$ は口の断面積、$V$ は内容積、$L_\text{neck}$ は口の長さ。こちらは気柱共鳴と異なり、1 つの低い共鳴周波数しか持たない(ビンを吹いたときの「ボー」という 1 音)。
本問題の気柱共鳴は「複数の奇数倍の共鳴周波数」を持つのが特徴で、これは楽器(フルート・クラリネット・オルガンパイプ)の倍音構造と直結する。