机の上を滑らずに転がる円筒の内壁に、質量 $m$ の小物体 A・B が中心軸 O をはさんで対称に固定されている総合力学の問題です。A・B は円筒と一体となって回転し、同時に中心 O と同じ水平速度 $v_0$ で並進します。
立式:系(円筒+A+B、全質量 $M + 2m$)に注目する。中心 O は水平方向に等速 $v_0$ で動き、鉛直方向には動かない。A・B は中心まわりに等速円運動するが、対称性から重心の鉛直加速度はゼロ。
鉛直方向の運動方程式は
$$N - (M + 2m)g = 0$$計算:
$$N = (M + 2m)g$$向きは鉛直上向き。水平方向は等速運動なので、摩擦力は $f = 0$(滑らず転がる条件では必要に応じて発生するが、等速なら不要)。
A の鉛直加速度は $a_{Ay} = r\omega^2 \cos\omega t$、B のそれは $a_{By} = -r\omega^2 \cos\omega t$。合計すると
$$m a_{Ay} + m a_{By} = 0$$よって A・B 合計の鉛直方向の運動量変化率はゼロ。系全体の重心の鉛直加速度もゼロなので、垂直抗力 $N$ は単に重力と釣り合う値で済む。
剛体+内部物体の問題では、まず系全体で運動方程式を立てるのが定石。対称配置なので、内部の円運動の影響が打ち消されることを見抜くと、複雑な力のやり取りを経由せず床からの力が求まる。
立式:A と B は剛体(円筒)の対称点で、中心 O からの位置ベクトルが互いに逆向き $\vec{r}_A = -\vec{r}_B$。中心まわりの角速度 $\vec{\omega}$ は共通なので、
$$\vec{v}_A' = \vec{\omega} \times \vec{r}_A, \quad \vec{v}_B' = \vec{\omega} \times \vec{r}_B = -\vec{\omega} \times \vec{r}_A = -\vec{v}_A'$$すなわち中心 O から見た B の相対速度は A の相対速度の逆向きで、大きさは等しい。
ラボ系の速度:速度の合成則「ラボ系 = 並進 + 相対」より、$\vec{v}_1$ が A の相対速度だから、
$$\vec{v}_2 = \vec{v}_0 + \vec{v}_B' = \vec{v}_0 - \vec{v}_1$$相対速度の大きさ:$\vec{v}_B' = -\vec{v}_1$ より
$$|\vec{v}_2'| = |-\vec{v}_1| = |\vec{v}_1|$$水平右向きを $x$、鉛直上向きを $y$ とする。A が O に対して角度 $\theta$ の位置にいるとき、
$$\vec{r}_A = (r\cos\theta, r\sin\theta), \quad \vec{v}_A' = r\omega(-\sin\theta, \cos\theta)$$B は直径反対側なので
$$\vec{r}_B = -\vec{r}_A, \quad \vec{v}_B' = -\vec{v}_A' = r\omega(\sin\theta, -\cos\theta)$$ラボ系では $\vec{v}_B = (v_0, 0) + r\omega(\sin\theta, -\cos\theta)$ となり、A の相対速度成分に $(-1)$ を掛けたものを $\vec{v}_0$ に加えた形になっている。
剛体の対称点にある 2 物体の中心基準の相対速度は「大きさ同じ・向き逆」。この対称性は後の問 5 でも効いてくる(A と B の位置エネルギーの和が一定になる理由)。
立式:転がり条件より $r\omega = v_0$、すなわち $\omega = v_0/r$。A の相対速度の大きさは $r\omega = v_0$。ラボ系の速度は
$$\vec{v}_A = \vec{v}_0 + \vec{v}_A'$$成分で書く。$x$ を水平右向き、$y$ を鉛直上向きとし、$t=0$ で A が最上点にあるとすると、
$$\vec{v}_A = (v_0 + v_0 \cos\theta,\; v_0 \sin\theta)$$速さの 2 乗は
$$|\vec{v}_A|^2 = (v_0 + v_0\cos\theta)^2 + (v_0\sin\theta)^2 = v_0^2(2 + 2\cos\theta) = 2v_0^2(1 + \cos\theta)$$最大・最小:$\cos\theta = 1$($\theta = 0$:最上点)で $|\vec{v}_A|^2 = 4v_0^2$、$\cos\theta = -1$($\theta = \pi$:最下点)で $|\vec{v}_A|^2 = 0$。運動エネルギーは
$$K_A = \tfrac12 m |\vec{v}_A|^2 = m v_0^2 (1+\cos\theta)$$ $$K_{A,\max} = 2mv_0^2,\qquad K_{A,\min} = 0$$滑らずに転がる剛体の瞬間的な接触点(床との接点)の速度はゼロ。この瞬間、A が最下点(=接触点)にいるときは、A の速度もゼロ。これで $K_{A,\min} = 0$ が直観的に分かる。
逆に A が最上点にいる瞬間は、接触点から見て円周上で最も遠い点(距離 $2r$)なので、接触点まわりの角速度 $\omega$ により速度は $2r\omega = 2v_0$ となる。
転がり運動では「接地点の速度 = 0」「最上点の速度 = $2v_0$」が鍵。これは自動車のタイヤの上側が地面側の 2 倍の速さで動くという身近な例と同じ。
立式:転がり条件 $v_0 = r\omega$ より $\omega = v_0/r$。円筒が 1 回転する周期は
$$T = \frac{2\pi}{\omega}$$計算:$\omega = v_0/r$ を代入して
$$T = \frac{2\pi}{v_0/r} = \frac{2\pi r}{v_0}$$別の見方:周期 $T$ の間に円筒の接触点が進む距離は円周 $2\pi r$(転がり運動の定義)。中心 O も同じく $v_0 T$ 進むから、$v_0 T = 2\pi r$ として同じ式が得られる。
$$v_0 T = 2\pi r \quad\Rightarrow\quad T = \frac{2\pi r}{v_0}$$問 3 で「$t = 0$ で A が最高位置にあった」とされているため、それから円筒が 1 回転した時点で A は再び最高点に戻る。半回転した時点($t = T/2$)では A は最下点(床接触)にある。
転がり運動の周期 = 並進距離が円周 $2\pi r$ になる時間 = $2\pi r / v_0$。この関係を「並進と回転のリンク」として覚えておくと応用が効く。
立式:机の上面を基準とすると、中心 O の高さは $r$ で一定。$t=0$ で A が最上点($\theta = 0$)にあり、角度 $\theta = \omega t$ で進む。
A の高さ:
$$y_A(t) = r + r\cos(\omega t)$$B は直径の反対側なので:
$$y_B(t) = r - r\cos(\omega t)$$位置エネルギー:
$$U_A(t) = m g y_A(t) = mgr(1 + \cos\omega t)$$ $$U_B(t) = m g y_B(t) = mgr(1 - \cos\omega t)$$和をとると $\cos$ 項が打ち消し合う:
$$U_A + U_B = mgr(1+\cos\omega t) + mgr(1-\cos\omega t) = 2mgr$$A 単独のグラフ:$\omega = v_0/r$ を代入して $U_A(t) = mgr(1 + \cos(v_0 t/r))$。
曲線は余弦型で、$2mgr$ と $0$ の間を滑らかに振動する(上のシム右側グラフ参照)。
グラフは $[0, T]$ の区間で $2mgr$ から $0$ を経て $2mgr$ に戻る余弦波形。
系の全運動エネルギー(円筒の並進 + 回転 + A + B)と全位置エネルギーの和は保存される(重力は保存力、床からは仕事をしない)。A の運動エネルギーは問 3 で時間変化する。$U_A + U_B = 2mgr = \text{const}$ かつ円筒の KE は等速運動で一定。したがって B の運動エネルギーが A と逆位相で振動している(A が速い時に B が遅い)ことが導かれる。
$$K_A(t) + K_B(t) = \text{一定}$$対称配置の 2 質点では、位置エネルギーの和は剛体の重心の高さ(今回は $2r$)で決まる一定値。これは重心定理の一例でもある。グラフ問題は「初期値・最大値・最小値・対称性」を押さえれば定性的に描ける。