質量 $m$、底面積 $S$、高さ $h$ の一様な直方体を密度 $\rho$ の液体に入れたときの浮力と運動の問題です。
立式:直方体にはたらく力は、下向きの重力 $mg$ と上向きの浮力 $F$ の2つ。浮力は押しのけた液体の重さに等しい(アルキメデスの原理)。液中に沈んでいる体積は $S \times (h/5)$ だから、
$$F = \rho \cdot S \cdot \dfrac{h}{5} \cdot g$$力のつり合い:鉛直方向に力のつり合いが成り立つので、
$$mg = \rho S \cdot \dfrac{h}{5} \cdot g$$両辺から $g$ を消すと、直方体の質量 $m$ と、$\rho$, $S$, $h$ との関係が次のように得られます。これは以降の問いで繰り返し利用する重要な関係式です。
$$m = \dfrac{\rho S h}{5} \quad \Longleftrightarrow \quad \rho S h g = 5mg$$直方体の密度を $\sigma$ とすると $m = \sigma S h$。問1 の式と比べて、
$$\sigma S h = \dfrac{\rho S h}{5} \quad \Longrightarrow \quad \dfrac{\sigma}{\rho} = \dfrac{1}{5}$$直方体の密度は液体の $1/5$。「沈む割合=密度比」という物理的な意味を持つ。水に浮かぶ氷山の多くが水面下にあるのと同じ原理(氷の密度は水の約 0.92 倍なので 92% が水面下)。
浮力=押しのけた液体の重さ。$\rho_{\text{液}} \cdot (\text{沈んでいる体積}) \cdot g$ という形でいつでも思い出せるように。
状況の整理:(a) の位置(底面が液面から $h/5$ 沈下)から、(c) の位置(底面が液面から $h$ 沈下、すなわち上面が液面一致)まで押し下げる。(a) 位置からの沈み込み量を $y$ とおくと、$y = 0 \to y = h - h/5 = 4h/5$ まで変化する。
外力の表式:沈み込み量 $y$ のとき、液中に沈んでいる体積は $S\bigl(\dfrac{h}{5} + y\bigr)$。ゆっくり押す(準静的)ならつり合いが成り立つので、
$$F_{\text{ext}} + mg = \rho S\left(\dfrac{h}{5} + y\right)g$$ここで問1 から $mg = \rho S (h/5) g$ だから、これを代入して整理すると、
$$F_{\text{ext}}(y) = \rho S g \cdot y$$つまり外力は $y$ に比例する(ばね定数 $\rho S g$ の弾性力のように振る舞う)。
仕事の計算:外力が $y$ に比例するので、$F_{\text{ext}}$–$y$ 図は原点を通る直線。$y = 0$ から $y = 4h/5$ までの仕事は、三角形の面積として求められる。
$$W = \int_0^{4h/5} \rho S g \, y \, dy = \dfrac{1}{2} \rho S g \left(\dfrac{4h}{5}\right)^2$$この式を計算すると、
$$W = \dfrac{1}{2} \rho S g \cdot \dfrac{16 h^2}{25} = \dfrac{8}{25}\rho S g h^2$$問1 より $\rho S h g = 5mg$。これを仕事の式に代入すると、
$$W = \dfrac{8}{25}\rho S g h^2 = \dfrac{8h}{25}\cdot(\rho S h g) = \dfrac{8h}{25}\cdot 5mg = \dfrac{8mgh}{5}$$問4 のエネルギー議論で利用する形。$W = \dfrac{8}{5}mgh$ と覚えると扱いやすい。
外力が沈み込み量 $y$ に比例する(ばね定数 $\rho S g$ のようなもの)。これは問3・問4 の運動を考えるときの鍵。
状況:図1(c) では直方体が完全に液面下にあり、上面が液面と一致。押さえていた手を離した瞬間を考える。
完全水没時の浮力:沈んでいる体積は $S h$(全体)だから、
$$F_{\text{浮}} = \rho S h g$$問1 の結果 $\rho S h g = 5 mg$ を使うと、
$$F_{\text{浮}} = 5mg$$運動方程式:上向きを正として、力の合計 = 浮力 − 重力 より、
$$m a = F_{\text{浮}} - mg = 5mg - mg = 4mg$$ $$\therefore \quad a = 4g \quad (\text{上向き})$$完全水没の間は浮力が $5mg$ で一定なので、加速度は $a = 4g$ で一定の等加速度運動。一方、部分水没に戻った後(底面が液面上に出ている状態)は、浮力が沈んでいる体積に比例するので、平衡位置 $z = h/5$ を中心とする単振動になる。
完全水没区間では浮力は一定 $\rho S h g$。物体の密度が液体より小さいほど「浮力 − 重力」が大きく、加速度は大きくなる(本問:直方体密度が液体の $1/5$ なので $a = 4g$)。
区間の特定:(c) から放した直後、底面が液面に達するまでの区間では直方体はまだ完全水没状態(上面は液面下)。この区間で $a = 4g$(上向き、一定)。移動距離は、
$$s = h - \dfrac{h}{5} = \dfrac{4h}{5}$$等加速度運動の公式:初速 $0$、加速度 $a = 4g$、移動距離 $s = 4h/5$ より、$v^2 - v_0^2 = 2as$ から、
$$v^2 = 2 \cdot 4g \cdot \dfrac{4h}{5} = \dfrac{32 g h}{5}$$よって、
$$v = \sqrt{\dfrac{32 g h}{5}} = \dfrac{4}{\sqrt{5}}\sqrt{2gh} = \dfrac{4\sqrt{10}}{5}\sqrt{gh}$$この瞬間が最大速さである理由:底面が液面に達した後は部分水没に入り、浮力が $\rho S (z) g$($z$: 底面が液面より下に沈んでいる量)と減少する。平衡位置 $z = h/5$ を通過すると「浮力 − 重力」が負(下向き)に転じ、減速が始まる。したがって、部分水没開始時(底面が液面に達した瞬間)が完全水没区間での最大速さ=全体での最大速さになる。
完全水没区間では、直方体にはたらく上向きの合力は $4mg$ で一定。この力が $4h/5$ だけ動いた間にする仕事は、
$$W_{\text{合}} = 4mg \cdot \dfrac{4h}{5} = \dfrac{16mgh}{5}$$運動エネルギーの変化に等しいので、
$$\dfrac{1}{2}m v_{\max}^2 = \dfrac{16mgh}{5} \Longrightarrow v_{\max}^2 = \dfrac{32gh}{5}$$$v^2 = 2as$ と同じ答えが得られる。
例えば $h = 0.20$ m, $g = 9.8$ m/s² のとき、
$$v_{\max} = \sqrt{\dfrac{32 \cdot 9.8 \cdot 0.20}{5}} = \sqrt{12.544} \fallingdotseq 3.54 \text{ m/s}$$直方体は放してからおよそ 3.5 m/s の速さで液面を抜ける。身近な物理現象として「水中に沈めたボールを放すと水面から飛び出す」ことの定量的な例となっている。
加速度が一定の区間の末端で運動エネルギーは極大。以降の部分水没区間では平衡点を境に減速するので、完全水没区間の終わり(底面が液面に達した瞬間)が最大速さになる。
(a) 何も動かさない場合:つり合いの位置に静止しているので $z = h/5$ で一定。グラフは水平線。
(b) 部分水没位置から静かに放した場合:問題では「(b) の位置で放した」と設定されている。上面が液面より上にあり、底面は液中の状態。部分水没区間で浮力は $\rho S z g$($z$: 沈み込み深さ)、重力との合力は、
$$F = \rho S z g - mg = \rho S g\left(z - \dfrac{h}{5}\right)$$平衡位置 $z = h/5$ からのずれに比例し、逆向き(復元力)なので単振動。運動方程式は、
$$m \ddot{z} = -\rho S g \left(z - \dfrac{h}{5}\right)$$これより角振動数は、
$$\omega = \sqrt{\dfrac{\rho S g}{m}} = \sqrt{\dfrac{5 g}{h}}$$$z = h/5$ を中心に正弦波状に振動する。
(c) 完全水没位置 $z = h$ から放した場合:3段階の運動になる。
このため、(c) のグラフは最初の区間で $z$ が急激に減少する下に凸の二次関数曲線、部分水没区間で正弦曲線、空中区間で放物線、というように区間ごとに形が変わる。液体の粘性を無視すれば同じ運動を繰り返し続けるが、現実にはエネルギー散逸により最終的に (a) の平衡位置に収束する。
単振動の周期は $T = 2\pi/\omega = 2\pi\sqrt{h/(5g)}$。これは「振り子」「ばね振り子」と同じく、復元力に比例する運動の特徴である。浮力がばね力と同じように位置に比例する復元力を生み出すことが本問の核心アイデア。
なお、(c) から始まる振動の振幅は「平衡位置 $h/5$ からの最大ずれ」であり、エネルギー保存則から $v_{\max}$ を使って計算できる。
浮力の式が「体積(沈む深さ)に比例」することから、完全水没区間と部分水没区間で運動の質が変わる。完全水没=等加速度、部分水没=単振動、空中=放物運動、という3つの運動様式を区別することが本問の核心。