一様な導体中での自由電子の運動と、磁場中を動く導体棒の電磁誘導・電磁力の問題です。
立式:一様な導体内では電場も一様で、両端の電位差 $V$ と長さ $\ell$ を使って次のように書ける。
$$V = \int_0^{\ell} E \, dx = E \cdot \ell$$よって、
$$E = \dfrac{V}{\ell}$$電場の向きは電位の高い端($+V$ 側)から低い端($0$ 側)に向かう向き。
自由電子は負電荷 $-e$ を持つので、電場 $E$ が右向きなら電子にはたらく力 $-eE$ は左向き。つまり電子は電位の高い方へドリフトする(通常の電流は正電荷の流れる向きなので、電子の動きと逆)。本問では電場の向きと電子の動きの向きをしっかり区別するのがポイント。
$E = V/\ell$ は「1 m あたり何 V の電位差があるか」という電場の定義から直接出てくる式。単位は V/m = N/C。
力のつり合い:自由電子は電場から力 $eE$(大きさ)を受け、同時に陽イオンとの衝突による抵抗力 $ku$(速度に比例)を受ける。定常状態(ドリフト)ではこの 2 力がつり合うので、
$$eE = ku \quad \Longrightarrow \quad u = \dfrac{eE}{k}$$問1 の $E = V/\ell$ を代入して、
$$u = \dfrac{eV}{k\ell}$$電流の表式:断面積 $S$、単位体積あたり自由電子数 $n$、ドリフト速さ $u$ のとき、単位時間に断面を通過する電子の個数は $n u S$ 個。したがって電流(正電荷の流れる向きの大きさ)は、
$$I = e n u S$$$u$ の値を代入すると、
$$I = e n S \cdot \dfrac{eV}{k\ell} = \dfrac{e^2 n S V}{k \ell}$$銅線($n \sim 8.5 \times 10^{28}$ /m³)に 1 A の電流が流れるとき、断面積 $S = 10^{-6}$ m² で計算すると、
$$u = \dfrac{I}{e n S} = \dfrac{1}{1.6 \times 10^{-19} \times 8.5 \times 10^{28} \times 10^{-6}} \fallingdotseq 7.4 \times 10^{-5} \text{ m/s}$$つまり電子は平均して $0.074$ mm/s 程度しか進まない(めっちゃ遅い!)。電気信号が速く伝わるのは、電子の動きではなく電場の変化が光速に近い速さで伝わるから。
$eE = ku$ は「終端速度」の式。自由電子は一定の加速と衝突による減速の繰り返しでドリフト速度に達する。電流 $I = enuS$ はこの平均速度で単位時間に流れる電荷量。
抵抗 R の計算:オームの法則 $V = R I$ から $R = V / I$。問2 の結果を代入して、
$$R = \dfrac{V}{I} = \dfrac{V}{\dfrac{e^2 n S V}{k \ell}} = \dfrac{k \ell}{e^2 n S}$$これは $R = \rho \cdot \ell / S$ の形(抵抗率 $\rho = k/(e^2 n)$)と対応している。導体の長さに比例し、断面積に反比例するという、オームの法則の標準形。
ジュール熱の計算:単位時間に発生するジュール熱 $P$ は消費電力 $P = V I$ に等しい。
$$P = V I = V \cdot \dfrac{e^2 n S V}{k \ell} = \dfrac{e^2 n S V^2}{k \ell}$$これは $P = V^2 / R$ の形でも書ける:
$$P = \dfrac{V^2}{R}$$$R = k\ell/(e^2 n S)$ を代入すると、先の表式と一致することを確認できる。
自由電子 1 個が陽イオン衝突で失うエネルギー率は、電場がする仕事率 $e E u = eE \cdot (eE/k) = e^2 E^2 / k$。単位体積あたり $n$ 個、体積 $S\ell$ で合計すると、
$$P = n S \ell \cdot \dfrac{e^2 E^2}{k} = \dfrac{e^2 n S (V/\ell)^2}{k} \cdot \ell = \dfrac{e^2 n S V^2}{k \ell}$$巨視的な $P = V I$ と一致。ジュール熱は「電子が散逸した運動エネルギー」の積み重ねと理解できる。
抵抗率 $\rho = k / (e^2 n)$。$k$ が大きい(衝突頻度が高い)と抵抗が増える。温度上昇で金属の抵抗が増えるのは、格子振動の振幅が大きくなり衝突頻度が増すため。
誘導起電力:磁束密度 $B$、導体棒の長さ $\ell$、速さ $u$ のとき、棒に生じる誘導起電力は、
$$V_{\text{induced}} = B \ell u$$回路電流:回路抵抗を $R$ とすると、
$$i = \dfrac{V_{\text{induced}}}{R} = \dfrac{B \ell u}{R}$$電磁力と力のつり合い:電流 $i$ が磁場 $B$ 中を流れる棒は、力 $F_{\text{EM}} = B i \ell$ を(進む向きと逆向きに)受ける(レンツの法則)。等速で引くには、外力 $F$ がこれとつり合う必要がある。
$$F = B i \ell = \dfrac{B^2 \ell^2 u}{R}$$これを $u$ について解くと、
$$u = \dfrac{F R}{B^2 \ell^2}$$向きは外力 $F$ の向き(外力と同じ向きに一定速度で動く)。
単位時間あたりのジュール熱:定常状態では運動エネルギーは変化しないので、外力の仕事率がすべて熱として散逸する。
$$P = F u = \dfrac{B^2 \ell^2 u^2}{R} = \dfrac{F^2 R}{B^2 \ell^2}$$また、回路でのジュール熱 $i^2 R$ で計算しても、
$$i^2 R = \left(\dfrac{B\ell u}{R}\right)^2 R = \dfrac{B^2 \ell^2 u^2}{R}$$同じ値になる(エネルギー保存)。
等速で引くので、外力の仕事は全てジュール熱になる(運動エネルギー変化 0、位置エネルギー変化 0)。したがって、単位時間あたりのジュール熱=外力の仕事率 $P = Fu$。$u$ が求まれば $P$ は即座にわかる。
エネルギー保存の観点から「仕事率 = 熱発生率」が自動的に成り立つのがポイント。電磁力は外力に対して「ブレーキ」のように働き、その逆向き抗力で $F$ と綱引きする。
電磁誘導の「発電」のしくみ:運動エネルギー($Fu$)を磁場を介して電気エネルギー($Vi$)に変え、抵抗でジュール熱 $i^2 R$ として散逸する。発電機の基本原理。
回路の状況(図2):スイッチ $S_1$ を閉じると、$S_1$ は抵抗 $R_1$ と並列につながっている。$R_1$ 以外の部分(導線・導体棒・スイッチ)の電気抵抗はすべてゼロなので、$S_1$ を閉じると $R_1$ は抵抗ゼロの $S_1$ で短絡(ショート)され、回路全体の抵抗が $R_{\text{回路}} = 0$ になる。
「棒は動けない」ことの証明:導体棒が速さ $u$ で動くと、誘導起電力 $BLu$ が生じる。回路抵抗が $0$ なので、回路を流れる電流の大きさは
$$i = \dfrac{BLu}{R_{\text{回路}}} = \dfrac{BLu}{0}$$となる。もし $u \neq 0$ なら $i$ は無限大に発散してしまい、物理的に不可能。したがって棒は動くことができず、
$$u = 0$$でなければならない。つまり、いくら力 $F$ を加えても棒は加速できず、静止したままになる。
静止を支える電流:では外力 $F$ は何とつり合っているのか。棒が静止($u=0$)でも、抵抗ゼロの回路には起電力 $0$($BLu=0$)に対して任意の大きさの定常電流が流れうる($0 = i \times 0$ は任意の $i$ で成立)。この電流 $i$ が磁場 $B$ 中で棒に与える力 $BiL$ が外力 $F$ とつり合うよう、電流が自動的に決まる。
$$F = BiL \quad \Longrightarrow \quad i = \dfrac{F}{BL}$$この一定電流 $i = F/(BL)$ が流れることで電磁力 $BiL = F$ が外力をちょうど打ち消し、棒は力のつり合いを保って静止し続ける。
問4 では $S_1$ を開いているため、電流は $R_1$(抵抗 $R$)を通って流れる。回路抵抗が有限なので、棒は誘導起電力と電磁力を伴いながら一定速さ $u = \dfrac{FR}{B^2L^2}$ で等速運動できた。
問5 では $S_1$ を閉じて $R_1$ を短絡するので回路抵抗が $0$ になり、上の式で $R\to 0$ とすると $u\to 0$。つまり棒の速さは $0$ に張りつく。抵抗の有無で「等速運動」と「静止」が切り替わるのがこの問題の核心。
抵抗ゼロの回路では「起電力 = 抵抗 × 電流」が $BLu = 0\times i = 0$ を要求するため、棒の速さは $u=0$ に固定される。それでも電流は流れることができ、その電磁力 $BiL$ が外力とつり合って静止を保つ。「抵抗ゼロ → 速度ゼロ拘束」という発想がカギ。