鉛直面内で回転する鉄棒に沿って小球が運動する問題です。小球の回転運動におけるエネルギー保存則と、連結が外れた後の放物運動を扱います。
設定:質量 $3m$ の小球が長さ $a$ の鉄棒の端に固定され、鉛直面内で回転します。最下点を角度 $\theta = 0$ の基準とし、初速度 $V_1$ を水平方向に与えます。最下点を重力の位置エネルギーの基準とします。
角度 $\theta$ の位置での高さ:
$$h = a - a\cos\theta = a(1 - \cos\theta)$$(シ) 運動エネルギー:角度 $\theta$ での小球の速さを $v$ とすると、
$$K = \frac{1}{2}(3m)v^2$$(ス) 位置エネルギー:最下点を基準として、
$$U = (3m)g \cdot a(1 - \cos\theta) = 3mga(1 - \cos\theta)$$力学的エネルギー保存則:摩擦がないので、最下点での全エネルギーが保存されます。
$$\frac{1}{2}(3m)V_1^2 = \frac{1}{2}(3m)v^2 + 3mga(1 - \cos\theta)$$整理すると、
$$v^2 = V_1^2 - 2ga(1 - \cos\theta)$$例えば $m = 0.20$ kg、$a = 0.50$ m、$g = 9.8$ m/s²、$V_1 = 3\sqrt{ag} = 3\sqrt{0.50 \times 9.8} = 3\sqrt{4.9} \fallingdotseq 6.64$ m/s として、$\theta = \dfrac{\pi}{2}$(水平位置)のとき:
$$h = a(1 - \cos 90°) = 0.50 \times (1 - 0) = 0.50 \text{ m}$$ $$U = 3 \times 0.20 \times 9.8 \times 0.50 = 2.94 \text{ J}$$ $$K = \frac{1}{2} \times 3 \times 0.20 \times \bigl[6.64^2 - 2 \times 9.8 \times 0.50\bigr] = 0.30 \times (44.1 - 9.8) = 0.30 \times 34.3 = 10.3 \text{ J}$$全エネルギー $E = K + U = 10.3 + 2.94 = 13.2$ J、最下点では $E = \frac{1}{2} \times 0.60 \times 44.1 = 13.2$ J で一致します。
位置エネルギーの基準点は最下点($\theta = 0$)。高さは $a\cos\theta$ の分だけ「中心より下にある」ので、中心からの高さの差で $a(1-\cos\theta)$ となる。角度 $\theta$ の定義(どこから測るか)を問題文で必ず確認すること。
条件:$V_1 = 3\sqrt{ag}$ を代入して $\theta = \dfrac{3\pi}{4}$ での速さを確認します。
$$v^2 = V_1^2 - 2ga(1 - \cos\theta)$$ $$= 9ag - 2ga\left(1 - \cos\frac{3\pi}{4}\right)$$$\cos\dfrac{3\pi}{4} = -\dfrac{\sqrt{2}}{2} \fallingdotseq -0.707$ なので、
$$v^2 = 9ag - 2ga\left(1 + \frac{\sqrt{2}}{2}\right) = ag\left(9 - 2 - \sqrt{2}\right) = ag(7 - \sqrt{2})$$$7 - \sqrt{2} \fallingdotseq 7 - 1.414 = 5.586 > 0$ なので $v^2 > 0$ です。
もし鉄棒(剛体棒)ではなく糸でつないでいた場合、$\theta > \pi/2$ の領域では張力が負(=押す力)になり得るため、糸がたるんで円運動を維持できません。しかし鉄棒は圧縮力(押す力)も伝えられるため、$v^2 \geq 0$ であれば到達可能です。
糸の場合の最高点通過条件は $v^2 \geq ga$(向心力として重力が最低限必要)ですが、鉄棒の場合は $v^2 \geq 0$ で十分です。
鉄棒(剛体)の場合、到達可能条件は $v^2 \geq 0$(エネルギー的に可能か)だけでよい。糸の場合は張力 $\geq 0$ の制約が加わり条件が厳しくなる。問題文で「棒」なのか「糸」なのかを必ず確認しよう。
最高点($\theta = \dfrac{3\pi}{2}$)での速さ:
$$v^2 = V_1^2 - 2ga(1 - \cos\tfrac{3\pi}{2})$$$\cos\dfrac{3\pi}{2} = 0$ なので、
$$v^2 = 9ag - 2ga(1 - 0) = 9ag - 2ag = 7ag$$$7ag > 0$ なので、最高点でもまだ速さが残っています。
検算:最高点の高さは中心から $a$ 上 = 最下点から $2a$ 上。必要な位置エネルギーは $3m \cdot g \cdot 2a = 6mga$。初期運動エネルギーは $\dfrac{1}{2}(3m)(3\sqrt{ag})^2 = \dfrac{27}{2}mga = 13.5mga$。差は $13.5mga - 6mga = 7.5mga > 0$ で、余裕をもって到達できます。
最下点での全エネルギー(運動エネルギー)と最高点の位置エネルギーを直接比較する方法もあります。
$$E_0 = \frac{1}{2}(3m)(3\sqrt{ag})^2 = \frac{1}{2} \cdot 3m \cdot 9ag = \frac{27}{2}mga$$ $$U_{\text{top}} = (3m)g \cdot 2a = 6mga$$ $$E_0 - U_{\text{top}} = \frac{27}{2}mga - 6mga = \frac{27 - 12}{2}mga = \frac{15}{2}mga > 0$$余りが正なので到達可能、かつ最高点での運動エネルギーは $\dfrac{15}{2}mga$ です。
(先の $v^2 = 7ag$ と整合確認:$\frac{1}{2}(3m) \cdot 7ag = \frac{21}{2}mga$…この差は $\theta = 3\pi/2$ の定義に依存。最高点が中心の真上 $a$ なのか最下点から $2a$ なのかで $\cos$ の値が変わる点に注意。)
最高点の判定は $v^2 \geq 0$ のチェックだけで十分。鉄棒が剛体であることがこの問題の本質。$V_1 = 3\sqrt{ag}$ という値は最高点を余裕で通過できるだけの大きさであることを確認しよう。
$\theta = \dfrac{3\pi}{2}$ の位置の分析:最下点から反時計回りに $\dfrac{3\pi}{2}$(270°)回転した位置は、回転中心の真横(左側)にあたります。
高さ:
$$h = a(1 - \cos\tfrac{3\pi}{2}) = a(1 - 0) = a$$これは回転中心と同じ高さ、つまり最下点から $a$ だけ上です。
$\theta = \dfrac{3\pi}{2}$ での速さ:
$$v^2 = 9ag - 2ga(1 - \cos\tfrac{3\pi}{2}) = 9ag - 2ag = 7ag$$ $$v = \sqrt{7ag}$$速度の方向:$\theta = \dfrac{3\pi}{2}$ では小球は回転中心の真横(左)にいるので、速度ベクトルは円の接線方向=鉛直下向きです。
連結が外れた後:小球は重力のみを受けるので、初速度 $v = \sqrt{7ag}$(鉛直下向き)の自由落下として運動します。水平方向の速度成分はゼロなので、真下に落下します。
数値例:$m = 0.20$ kg、$a = 0.50$ m、$g = 9.8$ m/s² のとき:
$v = \sqrt{7 \times 0.50 \times 9.8} = \sqrt{34.3} = 5.86$ m/s(下向き)
回転中心から $a = 0.50$ m 左、高さは回転中心と同じ位置から鉛直下向きに 5.86 m/s で落下を開始します。
全力学的エネルギー(最下点基準):
$$E = \frac{1}{2}(3m)V_1^2 = \frac{1}{2}(3m)(3\sqrt{ag})^2 = \frac{1}{2}(3m)(9ag) = \frac{27}{2}mga$$$\theta = \dfrac{3\pi}{2}$ での位置エネルギーは $3mga$、運動エネルギーは $\dfrac{1}{2}(3m)(7ag) = \dfrac{21}{2}mga$ で、合計 $3mga + \dfrac{21}{2}mga = \dfrac{27}{2}mga$ と一致。
$V_1 = 3\sqrt{ag}$ のとき、各角度での $v^2/(ag)$ を計算すると:
| $\theta$ | $1-\cos\theta$ | $v^2/(ag)$ | 到達 |
|---|---|---|---|
| $0$ | 0 | 9 | ○ |
| $\pi/2$ | 1 | 7 | ○ |
| $3\pi/4$ | $1+\frac{\sqrt{2}}{2} \fallingdotseq 1.71$ | $\fallingdotseq 5.59$ | ○ |
| $\pi$ | 2 | 5 | ○ |
| $3\pi/2$ | 1 | 7 | ○ |
| $2\pi$ | 0 | 9 | ○ |
十分なエネルギーがあるため、小球は完全に一周できます。$\theta = \pi$(最高点)で $v^2 = 5ag > 0$ なので、最も高い地点も通過可能です。
角度 $\theta$ での小球の位置を直交座標で表すと(中心を原点、右を $x$ 正、上を $y$ 正):
$$x = -a\sin\theta, \quad y = -a\cos\theta$$速度は時間微分で:
$$\dot{x} = -a\dot{\theta}\cos\theta, \quad \dot{y} = a\dot{\theta}\sin\theta$$$\theta = \dfrac{3\pi}{2}$ のとき $\cos\dfrac{3\pi}{2} = 0$, $\sin\dfrac{3\pi}{2} = -1$ なので:
$$\dot{x} = 0, \quad \dot{y} = -a\dot{\theta}$$$\dot{\theta} > 0$(反時計回り)なので $\dot{y} < 0$(下向き)。水平成分はゼロで、確かに鉛直下向きのみです。
連結が外れる瞬間の速度ベクトルの方向を正確に求めることが重要。円運動の接線方向は位置の角度に依存するので、$\theta = \dfrac{3\pi}{2}$ では接線方向が鉛直下向きになることを座標から確認しよう。放物運動の初速度の方向を間違えると、その後の軌道計算がすべて狂う。