絶縁体でできた円形ターンテーブル上に固定した棒状導体・正方形コイルにはたらく電流が磁場から受ける力(ローレンツ力)を軸に、力のつり合い・回転のつり合い・単振動・電磁誘導までを横断する電磁気の総合問題です。直線電流がつくる磁場、力のモーメント、復元力による単振動、ファラデーの電磁誘導の法則が次々と登場します。
イ:D の導体にはたらく力 鉛直上向き($+z$)に電流 $I_D$ が流れる長さ $h$ の導体に、$+x$ 向きの磁束密度 $B$ がかかる。電流が磁場から受ける力 $\vec{F} = I\vec{L}\times\vec{B}$ は、向きが「電流 × 磁場」で $+y$ 向き、大きさは
$$F_D = B I_D h$$問題文どおり $y$ 軸の正の向きに、大きさ $B I_D h$ の力がはたらく。
ロ・ハ:回転しないための電流 $I_L$ 線分 DL は $x$ 軸に平行で、D は O から左に $d$、L は O から右に $\ell$ の位置にある。テーブルが回転しないためには、O まわりの力のモーメント(うでの長さ × 力)がつり合う必要がある。
D の力 $F_D = BI_D h$($+y$ 向き、うで $d$)と、L の力 $F_L = BI_L h$(うで $\ell$)がたがいに逆まわりのモーメントを与えればよい。D は左、L は右にあるので、両方とも $+y$ 向きの力なら O まわりのモーメントは逆まわりになる。したがって L にも D と同じ向き(鉛直上向き)に電流を流す(=図の {ロ})。モーメントのつり合いは
$$d\cdot F_D = \ell\cdot F_L \quad\Rightarrow\quad d\,(BI_D h) = \ell\,(BI_L h)$$両辺の $Bh$ を消去して $I_L$ について解くと、
$$I_L = \frac{d}{\ell}\,I_D$$O を原点に右向きを $+x$ とする。力のモーメントを反時計回り正で書くと、$z$ 成分は $\tau = x F_y - y F_x$。両導体の力は $+y$ 向き($F_y>0$)なので、
$$\tau_D = (-d)\,F_D <0\ (\text{時計回り}),\qquad \tau_L = (+\ell)\,F_L >0\ (\text{反時計回り})$$と互いに逆まわりになり、$d F_D=\ell F_L$ でつり合う。もし L の電流を逆向き(下向き)にすると $F_L$ が $-y$ 向きになり、両モーメントが同じまわりに加わってつり合わない。
例えば $d = 0.10$ m, $\ell = 0.20$ m, $I_D = 4.0$ A の場合:
$$I_L = \frac{0.10}{0.20}\times 4.0 = 0.50\times 4.0 = 2.0\ \text{A}$$うでの長さが2倍の L 側は、半分の電流で同じモーメントを生み出せる。
「電流が磁場から受ける力 $F=IBh$」と「力のモーメント=うでの長さ × 力」の2段構え。導体が中心 O の左右どちら側にあるかで、同じ向きの力でも回転のまわりが逆になることに注意。
ニ・ホ:直線電流がつくる磁場 点 D の長い直線導体に鉛直上向きの電流 $I_D$ が流れると、まわりに同心円状の磁場ができる。線分 DL 上では磁場は $y$ 方向を向き、導線からの距離 $r$ における磁束密度は
$$B = \frac{\mu I_D}{2\pi r}$$点 O は D から距離 $d$、点 L は D から距離 $d+\ell$ なので、
$$\text{点 O:}\ B_O = \frac{\mu I_D}{2\pi d},\qquad \text{点 L:}\ B_L = \frac{\mu I_D}{2\pi(d+\ell)}$$ヘ・ト:回転中にコイルが動かない条件 正方形コイルの固定をはずしても、コイルは線分 OL 上から動かず角速度 $\omega$ で回り続けた。テーブルはなめらかなので、L 側の辺(質量 $M$、半径 $\ell$)が円運動するための向心力は、磁場からの力でまかなわれているはずである。
L 側の鉛直な辺(電流 $I_L$、長さ $\ell$)が点 L の磁場 $B_L$ から受ける力の大きさは $F = I_L \ell B_L$。これが O に向かう向き(向心方向)になるように電流の向きが定まる(=図の {ヘ})。この力が向心力 $M\omega^2\ell$ に等しいので、
$$I_L\,\ell\,B_L = M\omega^2 \ell$$$B_L = \dfrac{\mu I_D}{2\pi(d+\ell)}$ を代入し、両辺の $\ell$ を消去すると、
$$I_L\cdot\frac{\mu I_D}{2\pi(d+\ell)} = M\omega^2$$ $$I_L = \frac{2\pi(d+\ell)M\omega^2}{\mu I_D}$$O 側の辺は O の真上(半径 $0$)にあるので、受ける力のモーメント・向心力への寄与は考えなくてよい(速度 $0$)。上側・下側の水平な辺にはたらく力は鉛直方向($z$ 方向)になり、水平面内の円運動の向心力には寄与しない。したがって向心力を担うのは L 側の鉛直な辺のみであり、$I_L\ell B_L = M\omega^2\ell$ が成り立つ。
また、回転しても D の直線電流はコイルと一緒に回るので、コイル上の観測者から見た点 O・点 L の磁場は静止時と同じ $B_O$・$B_L$ のまま(問題文の指定どおり)。
「なめらかなテーブル上で円運動を続けている」=必要な向心力 $M\omega^2\ell$ が磁場の力でぴったり供給されている、と読み替える。直線電流の磁場は距離に反比例($1/r$)し、点 L では $r=d+\ell$ である点に注意。
チ・リ:電流の向きと L 側の辺にはたらく力 一様磁場 $B$ は $+y$ 向き。L 側の鉛直な辺(電流 $I_L$、長さ $\ell$)が受ける力の大きさは、電流が磁場に垂直なので
$$F_L = B I_L \ell$$線分 OL を微小角 $\theta$ だけ反時計回りに傾けた状態で電流を流すと、テーブルは上から見て時計回りに動き始めた。これは L 側の辺にはたらく力が、傾きを元に戻す向き($\theta$ を減らす向き)であることを示す。この条件から正方形コイルの電流の向き(=図の {チ})が定まる。
ヌ:復元力の比例係数 点 L の $y$ 座標を変位 $Y$ とする。$Y = \ell\sin\phi \fallingdotseq \ell\phi$($\phi$ は OL と $x$ 軸のなす角、微小)。L 側の辺が受ける力は大きさ $BI_L\ell$ で向きは一定($x$ 方向)だが、その線分 OL に垂直な成分は、微小角のとき $y$ 軸に平行と近似でき、傾きを戻す向き($Y$ と逆向き)になる。大きさは $BI_L\ell\sin\phi \fallingdotseq BI_L\ell\,\phi = BI_L\ell\cdot\dfrac{Y}{\ell}=BI_L\,Y$。$y$ 軸の正を基準にすると復元向き(負)なので、
$$F_\perp = -I_L B\, Y$$すなわち比例係数は $-I_L B$。これは「変位に比例し向きが逆」の復元力の形であり、L 側の質量 $M$ の運動方程式は
$$M\frac{d^2 Y}{dt^2} = -I_L B\, Y$$となって単振動になる。角振動数は $\omega_0=\sqrt{\dfrac{I_L B}{M}}$。
ル:力がする仕事 $t=0$ で $\phi=\theta$($Y=\ell\theta$、速さ $0$)から、OL が初めて $x$ 軸に平行($Y=0$、つり合いの位置)になるまでの間に、この力がする仕事は運動エネルギーの増加に等しい。$Y=0$ での速さは単振動の最大速度 $v_{\max}=\omega_0\,(\ell\theta)$ なので、
$$W = \frac{1}{2}M v_{\max}^2 = \frac{1}{2}M\,\omega_0^2(\ell\theta)^2 = \frac{1}{2}M\cdot\frac{I_L B}{M}\cdot\ell^2\theta^2 = \frac{1}{2}I_L B\,\ell^2\,\theta^2$$問題文の $\boxed{\text{ル}}\times\theta^2$ の形と比べて、$\boxed{\text{ル}}=\dfrac{1}{2}I_L B\,\ell^2$。
ヲ:周期に関する時刻 $T$ $\phi=\theta$(最大変位)から時計回りに振れ、反対側の最大変位 $\phi=-\theta$ に達した瞬間に折り返して反時計回りに動き始める。この時刻が $t=T$。最大変位から逆側の最大変位までは半周期なので、
$$T = \frac{1}{2}\cdot\frac{2\pi}{\omega_0} = \frac{\pi}{\omega_0} = \pi\sqrt{\frac{M}{I_L B}}$$問1:変位 $Y$ と時刻 $t$ のグラフ $Y(t)=\ell\theta\cos(\omega_0 t)$ で、$\omega_0=\dfrac{\pi}{T}$ だから $Y(t)=\ell\theta\cos\!\left(\dfrac{\pi t}{T}\right)$。周期は $\dfrac{2\pi}{\omega_0}=2T$。
下のグラフは $t=0$ から $t=2T$ までの $Y$ を表したもの(解答用の余弦曲線)。
運動方程式 $M\ddot{Y} = -I_L B\,Y$ は、$\omega_0^2 = \dfrac{I_L B}{M}$ とおくと $\ddot{Y} = -\omega_0^2 Y$。一般解は $Y=A\cos\omega_0 t + C\sin\omega_0 t$。
初期条件 $Y(0)=\ell\theta$、$\dot{Y}(0)=0$(静かに動き始める)より $A=\ell\theta$, $C=0$。よって
$$Y(t)=\ell\theta\cos\omega_0 t,\qquad \omega_0=\sqrt{\frac{I_L B}{M}}$$$Y$ が初めて最小値 $-\ell\theta$ になるのは $\omega_0 t=\pi$、すなわち $t=\dfrac{\pi}{\omega_0}=T$。半周期で折り返すことが確認できる。
単振動では「復元力による位置エネルギー $\frac{1}{2}kY^2$」と運動エネルギーの和が保存する($k=I_L B$)。$Y=\ell\theta$(速さ0)から $Y=0$ までで位置エネルギーが
$$\frac{1}{2}k(\ell\theta)^2-0 = \frac{1}{2}I_L B\,\ell^2\theta^2$$だけ減り、その分が運動エネルギーになる。力がした仕事 $=$ 運動エネルギーの増加 $=\dfrac{1}{2}I_L B\,\ell^2\theta^2$ で、$\boxed{\text{ル}}=\dfrac12 I_L B\ell^2$ と一致する。
「変位に比例した復元力」が見えたら単振動と判断。$M\ddot Y=-kY$ で $k=I_L B$、角振動数 $\omega_0=\sqrt{k/M}$。最大変位から逆側の最大変位までは半周期なので、折り返しの時刻 $T=\dfrac{\pi}{\omega_0}$。仕事は「運動エネルギーの増加」で求めるのが速い。
ワ:L 側の辺の速度の $x$ 成分 $t=0$ で OL は $x$ 軸に平行。角速度 $\omega$ で反時計回りに回るので、時刻 $t$ で OL は $x$ 軸から角 $\omega t$ だけ回った位置にある。L は半径 $\ell$ で円運動するので速さは $\ell\omega$。その $x$ 成分の大きさは
$$|v_x| = \ell\omega\,|\sin\omega t|$$問題文の $\boxed{\text{ワ}}\times|\sin\omega t|$ と比べて $\boxed{\text{ワ}}=\ell\omega$。
カ:起電力の最大値 $V_0$ 磁場 $B$($+y$)中を動く L 側の鉛直な辺(長さ $\ell$)に生じる誘導起電力は、速度の磁場に垂直な成分(=$x$ 成分)から決まる。導体棒に生じる起電力は $V = (\text{磁場に垂直な速度成分})\times B\times(\text{長さ})$ なので、
$$V = |v_x|\,B\,\ell = (\ell\omega\,\sin\omega t)\,B\,\ell = B\ell^2\omega\,\sin\omega t$$これを $V_0\sin\omega t$ と書くと、
$$V_0 = B\ell^2\omega$$正方形コイルの全抵抗を $R$ とすれば、時刻 $t$ の電流は $\dfrac{V_0}{R}\sin\omega t$。
ヨ・タ:電力とジュール熱 時刻 $t$ における消費電力は $P = \dfrac{V^2}{R} = \dfrac{(V_0\sin\omega t)^2}{R} = \dfrac{V_0^2}{R}\sin^2\omega t$。問題文の $\boxed{\text{ヨ}}\times\sin^2\omega t$ と比べて $\boxed{\text{ヨ}}=\dfrac{V_0^2}{R}$。
$\sin^2\omega t = \dfrac{1-\cos2\omega t}{2}$ より、1周(時間 $\dfrac{2\pi}{\omega}$)での電力の平均は $\dfrac{V_0^2}{R}\times0.5$。1周の間に発生するジュール熱は「平均電力 × 時間」で、
$$Q = \frac{V_0^2}{R}\times0.5\times\frac{2\pi}{\omega} = \frac{\pi V_0^2}{R\omega}$$レ:外力を外したあとの角速度 コイルにはジュール熱が発生する=電気エネルギーが熱として失われている。そのエネルギー源は回転の運動エネルギーである。外力を静かに外すと、誘導電流が回転を妨げる向き(レンツの法則)に力を及ぼし続けるため、角速度は減少する(選択肢③)。
正方形コイル(面積 $S=\ell^2$)を貫く磁束は、コイル面の法線が磁場 $B$($+y$)となす角を考えて $\Phi = B\ell^2\cos(\text{法線と }B\text{ のなす角})$。コイル面は線分 OL を含む鉛直面で、OL が $x$ 軸から角 $\omega t$ 回ると法線は $\omega t$ だけ回る。法線が $y$ 軸からずれる角を考えると $\Phi = B\ell^2\cos\!\left(\dfrac{\pi}{2}-\omega t\right)=B\ell^2\sin\omega t$ ……(位相の取り方で符号は変わる)。
起電力は $V=\left|\dfrac{d\Phi}{dt}\right| = B\ell^2\omega\,|\cos\omega t|$ の形になり、位相を $t=0$ の条件(OL が $x$ 軸に平行で $v_x=0$ → 起電力 $0$)に合わせれば、結局 $V=B\ell^2\omega\sin\omega t$、$V_0=B\ell^2\omega$ が得られる。導体棒の運動から求めた結果と一致する。
$\sin^2\omega t$ の1周期平均は $\dfrac{1}{2}$。これは $\sin^2\omega t=\dfrac{1-\cos2\omega t}{2}$ の右辺で、$\cos2\omega t$ の平均が $0$ になるため。だから平均電力は最大電力 $\dfrac{V_0^2}{R}$ の半分 $\dfrac{V_0^2}{2R}$ になる。交流の実効値の考え方($V_{\text{実効}}=V_0/\sqrt2$)と同じ内容である。
動く導体棒の起電力は「磁場に垂直な速度成分 × 磁場 × 長さ」。ここでは速度の $x$ 成分 $\ell\omega\sin\omega t$ が効く。ジュール熱は「(時間平均した電力)×(時間)」。誘導電流は必ず回転を妨げる向き(レンツの法則)なので、外力を外すと回転は減速する。