大問1:台上の振り子の運動(運動量保存・エネルギー保存)

解法の指針

この問題は,滑らかな床の上に置かれた台と,その台に取り付けられた振り子という系を扱います。台が固定されている場合と自由に動ける場合で,物理現象が大きく異なります。

問題の核心

キーポイント
外力(床からの摩擦力)が水平方向に働かないため,系全体の水平方向の運動量は保存されます。これが本問を解く最大の鍵です。

数値例:質量 M = 5.0 kg の台上で質量 m = 1.0 kg の振り子が高さ h = 0.20 m から振れるとき、最下点の速さは v = sqrt(2 × 9.8 × 0.20) = 1.98 m/s ≒ 2.0 m/s。運動量保存より台の速度は V = 1.0 × 2.0 ÷ 5.0 = 0.40 m/s。

(1) 台が固定された場合の単振り子

問題設定

直感的理解
台が固定されていれば,振り子は普通の単振り子と同じです。小球の位置エネルギーが運動エネルギーに変換されるだけなので,$mgh = \frac{1}{2}mv^2$ ですべて解けます。

台が動かない(固定されている)場合を考えます。糸が鉛直方向から左に角度 $\theta$ 傾いたところで小球を静止させてから静かに放します。

小球の速度の導出

台が固定されているため,これは単純な単振り子の問題です。 力学的エネルギー保存則を適用します。

最下点を基準とした高さは $h = l(1 - \cos\theta)$ です。
初期状態(静止)と最下点での力学的エネルギー保存:

整理すると:

糸の張力の導出

最下点では,小球は円運動をしています。向心方向(鉛直上向き)の運動方程式を立てます:

$v^2 = 2gl(1-\cos\theta)$ を代入すると:

答え:
小球の速度:$$v = \sqrt{2gl(1 - \cos\theta)}$$ 糸の張力:$$T = mg(3 - 2\cos\theta)$$
別解:半角公式を用いた表現

三角関数の公式 $1 - \cos\theta = 2\sin^2\dfrac{\theta}{2}$ を用いると:

$$v = \sqrt{2gl \cdot 2\sin^2\frac{\theta}{2}} = 2\sqrt{gl}\sin\frac{\theta}{2}$$

この形は,$\theta$ が小さいとき $v \fallingdotseq \sqrt{gl}\cdot\theta$ となり,微小振動の結果と整合します。

Point

固定台上の単振り子では,エネルギー保存で速度を求め,最下点での円運動の運動方程式で張力を求める。高さの計算 $h = l(1-\cos\theta)$ は振り子問題の基本。

(2) 台上の観測者から見た振り子運動

問題設定

直感的理解
加速中は慣性力 $ma$ のせいで小球が角度 $\phi$ に傾きます。加速をやめた瞬間,慣性力が消えるので,小球は「高い位置から放された振り子」として振動を始めます。等速の台は慣性系なので,通常のエネルギー保存が使えます。

小球を最下点に静止させた状態から,ゆっくり台を右向きに加速度 $a$ で加速します。その後瞬時に加速をやめて等速運動させると,台上で小球は振り子運動をします。台に静止した観測者から見たとき,運動中の小球の速度の最大値を求めます。

解法のポイント

「ゆっくり加速」とは,小球が準静的に(振動せずに)釣り合いを保ちながら傾いていくことを意味します。このとき,台に対して小球は静止しています。

ステップ1:加速中の小球の釣り合い角度

台と一緒に加速度 $a$ で動く観測者(非慣性系)から見ると,小球には見かけの力(慣性力)$ma$ が左向きに働きます。

小球が角度 $\phi$ で釣り合うとき(水平方向と鉛直方向):

(1)÷(2)より:

ステップ2:等速運動に切り替わった瞬間

加速をやめて等速運動に切り替わると,慣性力が消えます。小球は角度 $\phi$ の位置から振り子運動を始めます。

台に対して静止した観測者から見ると,台は慣性系になるので,通常の単振り子と同じです。最下点で速度が最大になります。

ステップ3:エネルギー保存

高さの差は $h = l(1 - \cos\phi)$ です。エネルギー保存より:

ステップ4:$\cos\phi$ を $a, g$ で表す

$\tan\phi = a/g$ より,$\cos\phi = \frac{g}{\sqrt{a^2 + g^2}}$ です。

したがって:

答え:
$$v_{\max} = \sqrt{2gl\left(1 - \frac{g}{\sqrt{a^2 + g^2}}\right)}$$
別解:有理化による簡略化

分子分母に $\sqrt{a^2+g^2}+g$ を掛けて有理化すると:

$$1 - \frac{g}{\sqrt{a^2+g^2}} = \frac{a^2}{\sqrt{a^2+g^2}(\sqrt{a^2+g^2}+g)}$$

よって:

$$v_{\max} = a\sqrt{\frac{2l}{\sqrt{a^2+g^2}+g}}$$
別解:見かけの重力を使う方法

加速中の台上では,見かけの重力 $g' = \sqrt{a^2 + g^2}$ が $\phi$ 方向に働くと考えることができます。等速運動に切り替わった後は $g$ に戻りますが,$\phi$ の位置から放したことと同じなので:

$$v_{\max} = \sqrt{2gl(1 - \cos\phi)}$$

ここで $\cos\phi = g/g' = g/\sqrt{a^2+g^2}$ を代入すれば同じ結果が得られます。

Point

「ゆっくり加速」は準静的過程で $\tan\phi = a/g$ を与える。等速に切り替わった瞬間から台は慣性系になるので,通常のエネルギー保存を適用できる。非慣性系→慣性系の切り替えがこの問の核心。

(3) 台が自由に動く場合(θ = 60°)

問題設定

直感的理解
台が固定されていないので,小球が右に振れると台は反作用で左に動きます。運動量保存により $mv + MV = 0$ が成り立つので,小球のエネルギーの一部が台の運動エネルギーに「奪われ」ます。結果として,固定台の場合より小球の速度は遅くなります。

静止した台の上で,糸が鉛直方向から左に角度 $\theta = 60°$ 傾いたところで小球を静止させてから静かに放します。床に静止した観測者から見たとき,小球が最下点に達したときの小球の速度と台の速度,および糸の張力を求めます。

解法の核心:2つの保存則

床は滑らかなので,系に対して水平方向の外力は働きません。よって:

  1. 水平方向の運動量保存:$mv_{\text{球,x}} + MV = 0$(初期運動量は0)
  2. 力学的エネルギー保存:位置エネルギーの減少 = 運動エネルギーの増加

ステップ1:最下点での速度の関係

最下点では糸は鉛直なので,小球は台に対して水平方向にのみ運動します。床から見た小球の水平速度を $v$(右向き正),台の速度を $V$ とします。

運動量保存則より:

(台は小球と逆向きに動く)

ステップ2:エネルギー保存

小球の高さの減少は $h = l(1 - \cos 60°) = l(1 - 1/2) = l/2$ です。

(1)を代入:

整理すると:

ステップ3:台の速度

(1)より:

大きさで表すと:

ステップ4:糸の張力

最下点では,小球は台に対して円運動をしています。台から見た小球の相対速度を求めます。

最下点で台に働く水平方向の力は0(糸は鉛直)なので,台の加速度は0です。よって台から見た向心加速度は:

小球の鉛直方向の運動方程式(上向き正):$ma_c = T - mg$

ここで $a_c = \dfrac{(M+m)g}{M}$ だから

答え:
小球の速度(右向き):$$v = \sqrt{\frac{Mgl}{M+m}}$$ 台の速度(左向き):$$V = -m\sqrt{\frac{gl}{M(M+m)}} \quad \text{(大きさ:} m\sqrt{\frac{gl}{M(M+m)}}\text{)}$$ 糸の張力:$$T = \frac{(2M+m)mg}{M}$$
Point

台が自由に動くと,運動量保存とエネルギー保存の2式を連立する必要がある。張力は「台に対する相対速度」で円運動の式を立てること。最下点では台の水平加速度が0なので,慣性系と同様に扱える。

(4) 撃力を与えた場合:糸が水平になったときの台の速度

問題設定

直感的理解
撃力は台だけに作用するので,直後は台だけが速度 $V_0$ を持ちます。糸が水平のとき糸方向は水平なので,糸が伸びない条件から小球と台の水平速度は等しくなります。つまり,その瞬間は系が「一体」で水平移動しており,重心速度に等しくなります。

静止した台の上で小球を最下点で静止させた後,撃力により台に水平右方向の初速度 $V_0$ を瞬時に与えます。小球が糸が水平になる高さまで達したとき,台の速度を求めます。

撃力直後の初期条件

  • 台の速度:$V_0$(右向き)
  • 小球の速度:$0$(撃力は台のみに作用)
  • 初期運動量:$p_0 = MV_0$

解法1:拘束条件を使う方法

糸が水平になったとき,台の速度を $V$,小球の速度を $(v_x, v_y)$ とします。

運動量保存

拘束条件:糸が伸びないので,糸方向の相対速度成分は0です。

糸が水平のとき,糸方向は水平方向なので:

(2)を(1)に代入:

答え:
$$V = \frac{MV_0}{M+m}$$
別解:重心に注目した解法

撃力直後の運動量は $MV_0$ なので,重心の速度は:

$$v_G = \frac{MV_0}{M+m}$$

糸が水平のとき,小球と台の水平速度が等しい($v_x = V$)ということは,両者が重心と同じ速度で動いていることを意味します。

したがって,直ちに:

$$V = v_G = \frac{MV_0}{M+m}$$
Point

糸が水平のときは拘束条件 $v_x = V$ が成り立つ。これは重心速度と一致するので,重心の等速運動に着目すると素早く解ける。

(5) 糸が水平になったときの小球の速度の大きさ

直感的理解
初期の運動エネルギー $\frac{1}{2}MV_0^2$ が,台の運動エネルギー,小球の運動エネルギー,小球の位置エネルギーに分配されます。$v_x = V$ は(4)で求まっているので,未知数は $v_y$ だけです。
初期 KE
½MV₀²
糸が水平のとき
台 KE: ½MV²
球 KE: ½m(vx²+vy²)
球 PE: mgl
vx = V = MV₀/(M+m)
vy² = MV₀²/(M+m) − 2gl

エネルギー保存則の適用

初期状態(撃力直後)と糸が水平になった状態でエネルギー保存を適用します。

初期状態(最下点,撃力直後)

  • 台の速度:$V_0$
  • 小球の速度:$0$
  • 小球の高さ:$0$(基準)

糸が水平になったとき

  • 台の速度:$V = \frac{MV_0}{M+m}$((4)の結果)
  • 小球の水平速度:$v_x = V = \frac{MV_0}{M+m}$
  • 小球の鉛直速度:$v_y$(未知)
  • 小球の高さ:$l$

$v_x = V$ なので:

エネルギー保存

整理すると:

小球の速度の大きさ

したがって:

答え:
$$|\vec{v}| = \sqrt{\frac{M(2M+m)V_0^2}{(M+m)^2} - 2gl}$$
Point

エネルギー保存で $v_y$ を求めたら,$|\vec{v}|^2 = v_x^2 + v_y^2$ で速さを計算する。$v_x = V$ は(4)の結果をそのまま使えるので,問の流れに沿って解くのが効率的。

(6) 初速度 $V_0$ の最小値

直感的理解
小球が糸の水平位置にちょうど届く条件は,その瞬間の鉛直速度がゼロ($v_y = 0$)です。台が重いほど台が動かず小球にエネルギーが効率よく渡るため,$V_0$ は小さくてよい。台が軽いと台自身がエネルギーを持ち去るので,より大きな $V_0$ が必要です。
臨界条件:vy = 0(ぎりぎり到達)
vy² = MV₀²/(M+m) − 2gl = 0
V₀,min = √(2gl(M+m)/M)

糸が水平に達する条件

小球が糸が水平になる高さに達するためには,その高さで鉛直速度成分が実数でなければなりません。(5)の結果より:

最小条件

ちょうど糸が水平になる高さに達する(その瞬間に $v_y = 0$)のは:

答え:
$$V_{0,\min} = \sqrt{\frac{2gl(M+m)}{M}} = \sqrt{2gl\left(1 + \frac{m}{M}\right)}$$
補足:物理的解釈

この結果は直感的にも理解できます:

  • $M \gg m$(台が非常に重い)のとき:$V_{0,\min} \fallingdotseq \sqrt{2gl}$(台が動かない場合と同じ)
  • $M = m$(台と小球が同じ質量)のとき:$V_{0,\min} = 2\sqrt{gl}$(台が動くため余分なエネルギーが必要)
  • $M < m$(台が軽い)のとき:さらに大きな初速度が必要
Point

「ぎりぎり到達」の条件は $v_y = 0$。$M \gg m$ のとき固定台の結果 $\sqrt{2gl}$ に一致するかを検算すると,式の正しさを確認できる。極限チェックは物理の強力な検算法。