ソレノイドコイルの自己インダクタンス、自己誘導起電力、RL回路のスイッチ切替による過渡現象、さらに相互誘導を扱う総合問題です。コイルに蓄えられるエネルギーと回路方程式が鍵になります。
数値例:L = 0.10 H, R = 20 Ω, E = 6.0 V の回路で、定常電流は I = E/R = 0.30 A。コイルのエネルギーは U = LI²/2 = 0.10 × 0.09/2 = 0.0045 J = 4.5 mJ。
ソレノイドコイル内の磁束密度:
単位長さあたりの巻き数は \(n = N/d\)。電流 \(I\) が流れているときの磁束密度は:
$$ B = \mu_0 n I = \frac{\mu_0 N I}{d} $$コイル内の磁束は(1巻きあたり):
$$ \phi = BS = \frac{\mu_0 N I S}{d} $$電流が \(dI\) だけ増加すると、1巻きあたりの磁束変化は:
$$ d\phi = \frac{\mu_0 N S}{d} \cdot dI $$コイル全体(\(N\) 巻き)の磁束鎖交数の変化は:
$$ N \cdot d\phi = \frac{\mu_0 N^2 S}{d} \cdot dI $$ソレノイドの自己インダクタンスは \(L = \frac{\mu_0 N^2 S}{d}\) です。定義 \(L = \frac{N\phi}{I}\) より \(\phi = \frac{LI}{N}\)、したがって \(d\phi = \frac{L\,dI}{N} = \frac{\mu_0 NS\,dI}{d}\) と確認できます。
ファラデーの法則:
$$ V_L = -N\frac{d\phi}{dt} = -\frac{\mu_0 N^2 S}{d} \cdot \frac{dI}{dt} $$自己インダクタンス \(L = \frac{\mu_0 N^2 S}{d}\) を用いると:
$$ V_L = -L\frac{dI}{dt} $$問題では点aに対する点bの電位として表すので、電流の増加を妨げる向きに起電力が生じます(レンツの法則)。電流が a → コイル内部 → b と流れるとすると:
$$ V_L = -\frac{\mu_0 N^2 S}{d} \cdot \frac{dI}{dt} $$電流 \(I\) が増加(\(dI > 0\))するとき、コイルは電流の増加を妨げるように起電力を生じます。したがって \(V_L < 0\)(点aの電位が点bより高くなる)。これはレンツの法則と一致します。
切替直前(スイッチ①、定常状態):
定常状態ではコイルには誘導起電力が生じない(\(dI/dt = 0\))ので、コイルは単なる導線。回路は、電池 \(E\) → 抵抗C → コイルA(抵抗0)→ 抵抗B が直列(抵抗Aには電流が流れない回路構成と仮定)。
問題の回路図(図2)を読むと、スイッチ①のとき電池を含む閉回路で電流が流れています。定常電流は:
$$ I_0 = \frac{E}{R} $$(抵抗の接続構成により変わりますが、問題の回路から)
切替直後(スイッチ②へ、時刻 \(t_0\)):
コイルの電流は瞬時に変化できないので、切替直後もコイルの電流は \(I_0\):
$$ I(t_0) = \frac{E}{R} $$誘導起電力 \(V_L\):
スイッチ②に切り替えると、コイルと抵抗だけの閉回路になります。コイルは電流を維持しようとする誘導起電力を生じます。回路方程式は:
$$ L\frac{dI}{dt} + RI = 0 $$時刻 \(t_0\) での誘導起電力は:
$$ V_L(t_0) = -L\frac{dI}{dt}\bigg|_{t_0} = RI_0 = E $$コイルに蓄えられたエネルギー \(U = \frac{1}{2}LI^2\) は有限です。もし電流が瞬時に変化すると、\(V_L = -L\frac{dI}{dt} \to \infty\) となり、無限大の起電力が必要になります。物理的にありえないので、電流は連続的に変化します。
十分時間後(\(t_1\))の電流:
RL回路の過渡応答:
$$ I(t) = I_0 e^{-\frac{R}{L}(t - t_0)} $$\(t \to \infty\) で \(I \to 0\):
$$ I(t_1) = 0 $$コイルに蓄えられていたエネルギー \(U_0\):
切替直前(定常電流 \(I_0 = E/R\))のとき:
$$ U_0 = \frac{1}{2}LI_0^2 = \frac{1}{2}L\left(\frac{E}{R}\right)^2 = \frac{LE^2}{2R^2} $$自己インダクタンス \(L = \frac{\mu_0 N^2 S}{d}\) を代入すると:
$$ U_0 = \frac{\mu_0 N^2 S E^2}{2dR^2} $$RL回路の時定数は \(\tau = L/R\) です。\(t = \tau\) で電流は初期値の \(1/e \fallingdotseq 0.368\) 倍になります。「十分な時間」とは \(t \gg \tau\) で、実用上 \(5\tau\) で電流はほぼ0(初期値の0.7%以下)です。
スイッチ①に戻した直後の電流と誘導起電力:
\(I(t_1) = 0\) なので、直後もコイルの電流は0。回路方程式は:
$$ E - L\frac{dI}{dt} - RI = 0 $$\(I = 0\) を代入すると:
$$ L\frac{dI}{dt}\bigg|_{t_1} = E $$コイルAの誘導起電力は:
$$ V_L(t_1) = -L\frac{dI}{dt}\bigg|_{t_1} = -E $$\(V_L\) の時間変化:
時刻 \(t_0\) で②に切替え → \(V_L = +E\)(電流を維持しようとする正の起電力)から指数関数的に0へ減衰。時刻 \(t_1\) で①に戻し → \(V_L = -E\)(電流の増加を妨げる負の起電力)から指数関数的に0へ減衰。
これは図3の(a)〜(d)のうち、\(t_0\) で正のパルス、\(t_1\) で負のパルスが出る波形を選びます。
グラフは (a) を選択(\(t_0\) で正のピーク → 0 → \(t_1\) で負のピーク → 0)
\(V_L = -L\frac{dI}{dt}\) なので、電流が減少中(\(dI/dt < 0\))のとき \(V_L > 0\)、電流が増加中(\(dI/dt > 0\))のとき \(V_L < 0\) です。いずれも指数関数的に0に近づくので、パルス状の波形になります。
新しい自己インダクタンス:
ソレノイド内部の透磁率が \(\mu_0\) から \(\mu_1\) に変わると:
$$ L' = \frac{\mu_1 N^2 S}{d} $$元のインダクタンス \(L = \frac{\mu_0 N^2 S}{d}\) との比は:
$$ L' = \frac{\mu_1}{\mu_0} L $$エネルギーの変化 \(\Delta U\):
スイッチ②で定常状態(電流 \(I_0 = E/R\))のとき、棒をゆっくり挿入。挿入中も定常電流 \(I_0\) が維持されるとすると:
$$ U' = \frac{1}{2}L'I_0^2 = \frac{\mu_1 N^2 S}{2d}\left(\frac{E}{R}\right)^2 $$問題ではスイッチ②の後十分時間が経った後(\(I = 0\))にスイッチ③に切り替えてから棒を挿入。スイッチ③の回路状態で定常電流が流れた状態で棒を挿入するので:
$$ \Delta U = U' - U_0 = \frac{1}{2}(L' - L)I_0^2 = \frac{(\mu_1 - \mu_0)N^2 S E^2}{2dR^2} $$変化する理由:透磁率の大きい棒の挿入により磁束密度が増加し、同じ電流でもコイルに蓄えられる磁気エネルギーが増大する。増加分のエネルギーは電池が供給する。電流は \(E/R\) で不変だが、インダクタンスの増加に伴い蓄積エネルギー \(\frac{1}{2}LI^2\) の \(L\) が増えるため。
棒を挿入する過程で \(L\) が増加 → コイルの磁束が増加 → 誘導起電力が発生 → 電池が余分に仕事をする → エネルギーが増加。機械的には棒を引き込む力が作用し(棒はコイル内に引き込まれる)、外部からの仕事も寄与します。
相互誘導の基本式:
コイルBに生じる誘導起電力は:
$$ V_B = -M\frac{dI_A}{dt} $$スイッチを①から②に切り替えた直後、コイルAの電流は \(I_0 = E/R\) で、減衰が始まります。回路方程式 \(L\frac{dI}{dt} + RI = 0\) より:
$$ \frac{dI_A}{dt}\bigg|_{t_0} = -\frac{R}{L}I_0 = -\frac{R}{L}\cdot\frac{E}{R} = -\frac{E}{L} $$コイルBの誘導起電力:
$$ V_B(t_0) = -M \cdot \left(-\frac{E}{L}\right) = \frac{ME}{L} $$\(L = \frac{\mu_0 N^2 S}{d}\) を代入:
$$ V_B(t_0) = \frac{M E d}{\mu_0 N^2 S} $$\(M\) は「コイルAの電流変化がコイルBにどれだけ磁束変化を引き起こすか」を表す量です。\(M\) が大きいほど、コイル間の磁気結合が強く、コイルBに大きな誘導起電力が生じます。変圧器の原理そのものです。
①に切り替え直後:
電流 \(I = 0\) で、回路方程式 \(E - L\frac{dI}{dt} - RI = 0\) より:
$$ \frac{dI_A}{dt}\bigg|_{t_1} = \frac{E}{L} $$コイルBの誘導起電力:
$$ V_B(t_1) = -M \cdot \frac{E}{L} = -\frac{ME}{L} $$②→①の切替で電流の変化率が \(+E/L\)(増加)、①→②では \(-E/L\)(減少)。コイルBの起電力はこれに比例するので、大きさは同じで符号が逆になります。これは物理的に当然で、磁束が増加する場合と減少する場合でレンツの法則が逆向きに働きます。
エネルギーの流れ:
最終操作として、①→②の後十分時間経過 → ①に切替え → 十分時間経過(定常電流 \(E/R\))→ ③に切替え(電池を外した閉回路)で電流が減衰して0に。
③に切り替える直前のコイルのエネルギーは:
$$ U = \frac{1}{2}L_1 \left(\frac{E}{R}\right)^2 $$ここで \(L_1\) は問2(4)で棒挿入後のインダクタンス \(\frac{\mu_1 N^2 S}{d}\) です。ただし問3の文脈では棒挿入なし(問3は図5の回路)なので \(L = \frac{\mu_0 N^2 S}{d}\) を使います。
③に切り替え後、電流が0まで減衰する過程で、コイルの全エネルギーが3つの抵抗(A, B, C)で消費されます:
$$ Q_{total} = \frac{1}{2}L\left(\frac{E}{R}\right)^2 = \frac{LE^2}{2R^2} = \frac{\mu_0 N^2 S E^2}{2dR^2} $$コイルBは抵抗が無視できるので、相互誘導による起電力が生じてもコイルBではジュール熱は発生しません。コイルBに流れる電流は③の閉回路に影響を与えますが、最終的にコイルAの磁気エネルギーがすべて熱に変換されます。
コイルBの存在は過渡応答の時間的振る舞い(減衰の速さ)には影響しますが、エネルギー収支には影響しません。最初に蓄えられたエネルギー \(\frac{1}{2}LI^2\) は、どのような経路をたどっても最終的にすべて抵抗で熱に変わります。これはエネルギー保存則の要請です。
ただし、コイルBも閉回路を形成している場合(問題では抵抗無視)、相互誘導による電流がコイルBの抵抗で追加のジュール熱を生じる可能性がありますが、本問では無視できます。