前期 大問2(電磁気:荷電粒子運動と電磁誘導)

解法の指針

本問は電磁気の2テーマ:

全体を貫くポイント

問1(1):領域V内で荷電粒子が電場から受ける力

直感的理解
電場 $\vec{E}$ の中にある電荷 $q$ は、$\vec{F} = q\vec{E}$ で表される力を受けます。大きさは $qE$、方向は電場と同じ向き(正電荷の場合)。

電場中の荷電粒子に働く力:

$$\vec{F}_\text{電場} = q\vec{E}$$

大きさは

$$F = |q| E$$

方向:正電荷 $q > 0$ なら電場と同じ向き、負電荷なら逆向き。

答え: $$F = qE$$
補足:電場の強さの単位

電場の強さ $E$ の SI 単位は [N/C] または [V/m]。1 N/C = 1 V/m。どちらも同じ物理量を表します。

例えば $E = 100$ V/m、$q = 1.6 \times 10^{-19}$ C の場合、$F = 1.6 \times 10^{-17}$ N — 電子1個に働く力としては十分な大きさです。

Point

電場 $E$ 中の電荷 $q$ に働く力:$F = qE$。方向は正電荷なら $E$ の方向、負電荷なら逆方向。

問1(2):直進するための磁束密度の大きさ $B_0$(速度セレクタ)

直感的理解
速度セレクタの原理:電場と磁場が直交する場を設定し、特定の速度の荷電粒子だけがまっすぐ進むようにする。電場による力 $qE$ と、磁場によるローレンツ力 $qvB$ が逆向きに等大で釣り合う条件が $v = E/B$、つまり $B = E/v$。

ローレンツ力:速さ $v$ で $x$ 軸方向に進む電荷 $q$ が、$z$ 軸方向(紙面の奥)への磁場 $\vec{B}$ を受けると、フレミングの左手則から

$$F_\text{磁場} = q v B$$

向きは $\vec{v} \times \vec{B}$ で決まる($-y$ 方向、下向き)。

電場と磁場の力の釣り合い:直進するためには、電場による力 $qE$(上向き)と磁場による力 $qvB$(下向き)が等しい:

$$q E = q v B$$ $$\boxed{B_0 = \frac{E}{v}}$$
答え: $$B_0 = \frac{E}{v}$$
補足:速度セレクタの応用

この直交電磁場の配置は「ヴィーンフィルタ」とも呼ばれ、質量分析器の前段で使われて一定の速度の粒子だけを通過させる装置。この速度条件に合わない粒子は、電場か磁場のどちらかの力で曲げられて除去されます。

Point

速度セレクタ:$qE = qvB$ → $v = E/B$。特定速度の粒子だけ直進。

問1(3):電場が荷電粒子にした仕事

直感的理解
仕事は $W = \vec{F} \cdot \vec{d}$。電場による力 $qE$ が、粒子の変位 $2x_1$(領域Vから領域Wの距離)に対して働くので、$W = qE \cdot 2x_1 = 2qEx_1$。

立式(仕事の定義):一様電場 $E$ が荷電粒子に及ぼす力 $F = qE$。粒子が電場方向に距離 $d = 2x_1$ だけ移動するとき、

$$W = F \cdot d = qE \cdot 2x_1 = 2qEx_1$$

正負の符号:電場方向に移動する(仕事が正)か、逆方向(仕事が負)かは電場の向きと変位の向きの関係次第。問題文の設定では、電場が粒子の進行方向の成分を持っているものとし、仕事は正

答え: $$W = 2 q E x_1$$
補足:磁場は仕事をしないことの確認

ローレンツ力 $\vec{F}_B = q\vec{v}\times\vec{B}$ は常に速度 $\vec{v}$ に垂直。したがって $\vec{F}_B \cdot \vec{v} = 0$、すなわち磁場は仕事をしません(運動エネルギーを変化させない)。電場だけが粒子を加速・減速できるという基本原理。

Point

仕事 = 力 × 距離(同方向成分)。一様電場での仕事 = $qE \times d$。磁場は仕事をしない(速度に垂直)。

問1(4):領域W内で直進するための電場 $E'_0$

直感的理解
領域VからWまでの間(領域P)で、電場に加速されて速度が変化します。Wに入ったときの速度 $v'$ は、エネルギー保存則から $\dfrac{1}{2}m v'^2 = \dfrac{1}{2}m v^2 + 2qEx_1$ → $v' = \sqrt{v^2 + 4qEx_1/m}$。Wでの磁場は $B_0$ のまま、直進するためには $qE'_0 = qv'B_0$ → $E'_0 = v' B_0 = v' \cdot E/v$。

領域 P での加速:領域VからWまでの距離 $2x_1$ を電場 $E$ が加速する。仕事 = 運動エネルギーの変化より、

$$\frac{1}{2}m v'^2 = \frac{1}{2}m v^2 + 2qEx_1$$ $$v' = \sqrt{v^2 + \frac{4qEx_1}{m}}$$

領域 W での釣り合い:磁束密度は $B_0$ のまま、直進するためには

$$q E'_0 = q v' B_0$$ $$E'_0 = v' B_0 = \sqrt{v^2 + \frac{4qEx_1}{m}} \cdot \frac{E}{v}$$

または整理して:

$$E'_0 = \frac{E}{v}\sqrt{v^2 + \frac{4qEx_1}{m}}$$
答え: $$E'_0 = \frac{E}{v}\sqrt{v^2 + \frac{4qEx_1}{m}} = E_0\sqrt{1 + \frac{4qEx_1}{mv^2}}$$
補足:加速分を無視できるとき

$qEx_1 \ll mv^2$(電場による加速が運動エネルギーに比べて小さい)場合、$v' \fallingdotseq v$ で、$E'_0 \fallingdotseq E$。

逆に、電場が強力で $qEx_1 \gg mv^2$ のとき、$v' \fallingdotseq 2\sqrt{qEx_1/m}$ に近く、領域W での速度は初速度 $v$ とほぼ無関係になります。

Point

加速後の速度:エネルギー保存。領域W の磁場がもとのままなら、電場もそれに応じて $v'$ に比例して増やす必要がある(速度セレクタの条件)。

問1(5):領域V内に磁場 $B'$ のみ、速さ $w$、角度 $\theta$ で射出 — 振幅 $A$ と周期 $T$

直感的理解
電場をすべて切り、領域V に $x$ 軸正向きの磁場 $B'$ のみを加えた場合、荷電粒子は磁場に垂直な面内で円運動、磁場方向には等速運動。$xy$ 平面での $y$ 座標は円運動の投影なので単振動(正弦波)に見える。振幅は円運動半径に $\sin\theta$($y$ 軸方向の速度成分)、周期は磁場中の円運動の周期。

速度の分解:$w$ が $x$ 軸から角度 $\theta$ で射出 → $v_x = w\cos\theta$(磁場方向)、$v_\perp = w\sin\theta$(磁場に垂直、$yz$ 平面内)。

磁場に垂直な面での円運動:半径

$$r = \frac{m v_\perp}{qB'} = \frac{m w \sin\theta}{qB'}$$

周期:磁場中の円運動の周期は速度によらず

$$T = \frac{2\pi m}{qB'}$$

$y(t)$ の挙動:$y$ は円運動の $y$ 成分だから、振幅 $r$ の正弦波:

$$y(t) = r \sin\left(\frac{2\pi t}{T}\right) = \frac{m w \sin\theta}{qB'} \sin\left(\frac{q B' t}{m}\right)$$

したがって、振幅 $A = \dfrac{m w \sin\theta}{qB'}$、周期 $T = \dfrac{2\pi m}{qB'}$。

問題文の選択肢から:

答え:振幅 $A = \dfrac{m w \sin\theta}{qB'}$(選択肢 (c))、周期 $T = \dfrac{2\pi m}{qB'}$(選択肢 (g))
補足:らせん運動の全体像

磁場方向の成分 $v_x = w\cos\theta$ は等速、磁場に垂直な成分 $v_\perp = w\sin\theta$ は円運動。合計はらせん運動。$y$-$t$ グラフ($xy$ 平面への投影)は正弦波。

らせんのピッチ:$v_x \cdot T = w\cos\theta \cdot \dfrac{2\pi m}{qB'} = \dfrac{2\pi m w \cos\theta}{qB'}$。

Point

磁場中の荷電粒子:磁場方向は等速、垂直方向は円運動 → らせん。$r = mv_\perp/(qB)$、$T = 2\pi m/(qB)$(速度によらない)。

問2(1):時刻 $t$ でコイルを貫く磁束

直感的理解
不均一磁場 $B = B_0 - K x$ の中をコイルが移動すると、コイル内部の磁束は位置に依存。磁束はコイル断面全体にわたって磁場の面積分で求めるため、$x$ 方向の線形変化を積分する必要があります。

磁場の空間分布:$B(x, y) = B_1 - K y$($y$ 方向に線形減少、$0 \leq y \leq a$)。ここで $y$ はコイルの位置座標(水平方向)。

コイル内の磁束:コイルは $y$ 方向に辺の長さ $a$、水平方向($x$ 方向)に辺の長さ $b$ の長方形なので、

$$\Phi(t) = \int_{y_0(t)}^{y_0(t)+a} (B_1 - K y) \cdot b \, dy$$

ここで $y_0(t) = v_1 t$ はコイルの下端の位置(時刻 $t$ のとき $v_1 t$ だけ移動)。

積分計算:

$$\Phi(t) = b \left[B_1 y - \frac{K y^2}{2}\right]_{v_1 t}^{v_1 t + a}$$ $$= b \left[B_1 \cdot a - \frac{K}{2}((v_1 t + a)^2 - (v_1 t)^2)\right]$$ $$= b \left[B_1 a - \frac{K}{2}(2 v_1 t \cdot a + a^2)\right] = ab(B_1 - K v_1 t) - \frac{K a^2 b}{2}$$

つまり、コイルの「重心 $y_{cm} = v_1 t + a/2$」における磁場 × 面積 $ab$ の形で表せる:

$$\Phi(t) = ab \cdot (B_1 - K (v_1 t + a/2)) = ab(B_1 - K v_1 t) - \frac{K a^2 b}{2}$$
答え: $$\Phi(t) = ab\left[B_1 - K\left(v_1 t + \frac{a}{2}\right)\right]$$
補足:線形磁場と「平均」の関係

線形に変化する場を面積分する場合、その面の「中心点」での値に面積をかけるだけで済みます(対称性)。コイルの $y$ 方向中心は $y_0 + a/2$ なので、その点の磁場 $B_1 - K(y_0 + a/2)$ にコイル面積 $ab$ をかけるだけ。

Point

不均一磁場での磁束:$\Phi = \int B \, dS$。線形分布では面の中心点の値 × 面積で求まる。

問2(2)(3):コイルに必要な力・コイルになされる仕事

直感的理解
コイルを動かすと誘導電流 $I$ が流れ、コイルの各辺が磁場からローレンツ力を受けます。上下の2辺は磁場強度が異なるので力が打ち消し合わないため、正味の力(レンツの法則によるブレーキ力)が発生。コイルを一定速度で動かすには、この抵抗力に打ち勝つ外力が必要。仕事は抵抗でのジュール熱として散逸。

(2) コイルを速さ $v_1$ で動かすのに必要な力

誘導起電力:磁束の時間微分で

$$V_\text{ind} = -\frac{d\Phi}{dt} = -ab \cdot \left(-Kv_1\right) = Kabv_1$$

誘導電流:コイル抵抗 $R$ として

$$I = \frac{V_\text{ind}}{R} = \frac{Kabv_1}{R}$$

コイルが受ける力(ブレーキ力):コイルの上辺と下辺でそれぞれ $I a B_\text{辺}$ の力がかかり、磁場強度の差から正味で

$$F_\text{抵抗} = I \cdot a \cdot (B_\text{上} - B_\text{下}) = I \cdot a \cdot Ka = IKa^2$$

または、別表現として:

$$F_\text{抵抗} = \frac{V_\text{ind}^2}{R v_1} = \frac{(Kab v_1)^2}{R v_1} = \frac{K^2 a^2 b^2 v_1}{R}$$

必要な外力(釣り合い):

$$F_\text{外} = F_\text{抵抗} = IKa^2 = \frac{K^2 a^2 b^2 v_1}{R}$$
答え(2): $$F_\text{外} = IKa^2 \text{(または)} \frac{K^2 a^2 b^2 v_1}{R}$$

(3) $t = 0 \to t_0$ の間にコイルになされる仕事

仕事 = 力 × 距離(または力 × 速度 × 時間):

$$W = F_\text{外} \cdot v_1 t_0 = I K a^2 \cdot v_1 t_0$$

整理すると:

$$W = \frac{K^2 a^2 b^2 v_1^2 t_0}{R}$$

これは電流 $I$ が抵抗 $R$ で時間 $t_0$ 発生するジュール熱と等しい:

$$W = I^2 R t_0 = \left(\frac{Kabv_1}{R}\right)^2 R t_0 = \frac{K^2 a^2 b^2 v_1^2 t_0}{R}$$

両者が一致 → エネルギー保存則が成立(外から加えた仕事 = コイルの抵抗で熱として散逸)。

答え(3): $$W = I^2 R t_0 = \frac{K^2 a^2 b^2 v_1^2 t_0}{R}$$
補足:エネルギー収支

コイルが動く前後でコイル内部に蓄えられるエネルギー変化はゼロ(コイル自身の動く前後で電気的・磁気的エネルギーは同じ)。したがって、外から加えた仕事はすべて抵抗でジュール熱として散逸。これが「電磁誘導のエネルギー保存の式」の形になっています。

Point

電磁誘導による運動抵抗:コイルにかかる力 $F = IBL$ = 磁気ブレーキ力。仕事 $W = F v t$ = ジュール熱 $I^2 R t$。