2つの半円板(半径 $R$、質量 $m$ 各1個)と中央の長方形板(長さ $L$、質量 $M$)を合わせた物体「カタンコトン」が、斜面や水平な板の上を滑る・転がる・転倒する条件を調べる総合問題です。半円板の重心は平坦な直径から $\frac{4R}{3\pi}$ 離れた位置にありますが、本問では2つの半円板を合わせて一体としているので、幾何的重心は中央の長方形板の中央に一致します(対称性)。
立式:斜面上でカタンコトンが滑る方向(下向き)に働く合力は、重力の斜面方向成分から摩擦力を引いたものです。
$$F_{\text{合}} = mg\sin\theta - \mu_1 N = mg\sin\theta - \mu_1 mg\cos\theta$$ここで $m$ はカタンコトン全体の質量(後の問で扱う場合は $M + m$ となるが、斜面上の板Bそのものは質量 $M$ なので、問1では質量記号を $M$ として考えてよい。以下の表記は一般化して $m$ とします)。
滑る条件:$F_{\text{合}} > 0$ となる必要があります。
$$mg\sin\theta - \mu_1 mg\cos\theta > 0$$ $$\sin\theta > \mu_1 \cos\theta \quad \Leftrightarrow \quad \tan\theta > \mu_1$$問題の条件:本問では「転がらず滑る」と設定されているので、$\tan\theta > \mu_1$、すなわち $\mu_1 < \tan\theta$ が成立しています。
カタンコトンは両端が半円形なので原理的には転がれますが、板Aの中央は長方形の平板部分が接地している状態です。平板同士の接触では「転がり」は起きず「並進運動(滑り)」のみとなります。したがって、摩擦力が最大静止摩擦を超えれば滑り始める、という通常の斜面上の物体の問題に帰着します。
静止摩擦の上限は $\mu_1 N = \mu_1 mg\cos\theta$。斜面方向の重力 $mg\sin\theta$ がこれを上回る($\tan\theta > \mu_1$)ときに滑り出す。高校物理で繰り返し出る基本条件。
立式(ニュートンの第二法則):カタンコトンの全質量を $m_\text{tot}$(= $M + m$ または本小問では単に $m$)とし、斜面方向下向きを正として、
$$m_\text{tot} \, a = m_\text{tot} g\sin\theta - \mu_1 m_\text{tot} g\cos\theta$$質量を約分して:
$$a = g\sin\theta - \mu_1 g\cos\theta = g(\sin\theta - \mu_1 \cos\theta)$$$\theta = 30°$, $\mu_1 = 0.25$, $g = 9.8\ \mathrm{m/s^2}$ のとき:
$$a = 9.8 \times (0.5 - 0.25 \times 0.866) \fallingdotseq 9.8 \times 0.284 \fallingdotseq 2.78 \ \mathrm{m/s^2}$$摩擦がないとき($\mu_1=0$)の $a = g\sin\theta = 4.9$ m/s² に対して、摩擦があることで加速度がおよそ半分程度に減速されることが分かります。
動摩擦係数の作用:重力の斜面方向成分 $mg\sin\theta$ が推進力、動摩擦力 $\mu_1 mg\cos\theta$ が抵抗力。両者の差が合力で、加速度は $a = g(\sin\theta - \mu_1\cos\theta)$。
立式(等加速度運動):初速 $v_0 = 0$、加速度 $a$、移動距離 $x(t)$ とすると、
$$x(t) = \frac{1}{2} a t^2$$代入:板Aの長さ $L$ を滑り降りるのに要する時間 $t$ は $x(t)=L$ のとき、
$$L = \frac{1}{2} a t^2$$途中計算:両辺を解いて、
$$t^2 = \frac{2L}{a} \quad \Rightarrow \quad t = \sqrt{\frac{2L}{a}}$$問1(2)の結果 $a = g(\sin\theta - \mu_1 \cos\theta)$ を代入:
$$t = \sqrt{\frac{2L}{g(\sin\theta - \mu_1 \cos\theta)}}$$$L = 2.0$ m, $\theta = 30°$, $\mu_1 = 0.25$ のとき(問1(2)の数値を再利用):
$$t = \sqrt{\frac{2 \times 2.0}{2.78}} \fallingdotseq \sqrt{1.44} \fallingdotseq 1.20 \text{ s}$$加速度 $a$ が小さいほど時間は長く、$a\to 0$($\mu_1\to\tan\theta$)で時間は無限大に発散します。
等加速度運動の基本公式 $L = \frac{1}{2}at^2$ から $t = \sqrt{2L/a}$。斜面運動の加速度を代入すれば完成。
立式(鉛直方向のつり合い):カタンコトン全体を1つの剛体と見ると、点Oで受ける垂直抗力 $N$ と、重力 $(m + M)g$ がつり合います:
$$N = (m + M)g$$代入:問題の条件 $M = 3m$ より、
$$N = (m + 3m)g = 4mg$$図4の条件では、「板Aの溝の左端に点Oがあり、その1点で接触している」という設定です。したがって、床からの垂直抗力は点Oにすべて集中します。カタンコトン全体は点Oを支点として静止しているため、点Oからの垂直抗力はカタンコトン全体の重量 $(m+M)g = 4mg$ に等しくなります。
鉛直方向の力のつり合い:$\sum F_y = 0$ より $N = (m+M)g = 4mg$。重心の位置は問わない。
設定:座標を、点Oを原点、右向きを $x$ 軸正、上向きを $y$ 軸正とします。
板Aの重心は左右対称位置にあり、左端(点O)から右へ $\frac{L}{2}$ 離れた位置。
おもりBはカタンコトンの右半円板の中央(点Oから右へ $\frac{3L}{4}$ ほどの位置 — 簡略化のため $\frac{L}{2} + \frac{L}{4} = \frac{3L}{4}$)にあります。
重心の位置(2物体系):質量 $m$ の板Aと質量 $M$ のおもりBによる合成重心の $x$ 座標は
$$x_G = \frac{m \cdot \dfrac{L}{2} + M \cdot \dfrac{3L}{4}}{m+M}$$$M = 3m$ を代入:
$$x_G = \frac{m \cdot \dfrac{L}{2} + 3m \cdot \dfrac{3L}{4}}{4m} = \frac{\dfrac{mL}{2} + \dfrac{9mL}{4}}{4m} = \frac{\dfrac{2mL + 9mL}{4}}{4m} = \frac{11L}{16}$$モーメントのつり合い:点Oまわりに、垂直抗力 $N$(作用線が $x_N$ で上向き)と重力 $(m+M)g = 4mg$(作用線が $x_G$ で下向き)の作るモーメントを釣り合わせると、
$$N \cdot x_N = 4mg \cdot x_G$$力のつり合いから $N = 4mg$ なので、
$$4mg \cdot x_N = 4mg \cdot \frac{11L}{16} \quad \Rightarrow \quad x_N = \frac{11L}{16}$$(2)の結果、作用点は点Oから $\dfrac{11L}{16}$ 離れた位置。矢印は長さが $4mg$ に比例し、鉛直上向きに描かれます。
剛体が水平面上で静止する条件は、「垂直抗力の作用線が系全体の重心の鉛直線と一致すること」です。直感的には、重い方(おもりB側)に垂直抗力の作用点が寄るはずです。今回 $M = 3m$ なので、重心は板Aの中央($L/2$)ではなく、おもりB側にかなり寄った $\dfrac{11L}{16}$ の位置になります。
多物体の重心:$x_G = \frac{\sum m_i x_i}{\sum m_i}$。支持面上に静止する剛体では、垂直抗力の作用線は重心の鉛直線上に必ず乗る。
転倒条件(幾何):カタンコトンの重心 G の位置は、中心(両半円の対称軸)から見て B 側に $\dfrac{mL}{2(M+m)}$ 離れています(問2と同様の計算)。
カタンコトンの支持面の「B 側の縁」(軸足)は、中心から $\dfrac{L}{2} + R$ 離れた位置にあります。板を角度 $\theta$ だけ傾けたとき、G から軸足までの水平距離は
$$\text{水平ずれ} = \left(\frac{L}{2} + R\right)\cos\theta - \Delta \sin\theta$$ここで $\Delta$ は G の高さ(板からの高さ)です。しかし、もっと簡単な視点として、転倒する直前は「G の鉛直線と軸足が一致」した瞬間です。軸足を支点として、G の水平ずれ(B方向)が重力のモーメントアームになります。
転倒条件(モーメントの臨界)は、問題の注記「$\tan\theta_1$ を解答欄に不等式で記入」に従って、
$$\boxed{\tan\theta_1 > \dfrac{mL}{2(M+m)(L/2 + R)} = \dfrac{mL}{(M+m)(L+2R)}}$$(式中の $X$ にあたる部分)
「あらい板」の表現は、接触面に十分な摩擦があり「滑り」が起きないことを保証するため。したがって、傾き続けると必ず「転倒(転がり)」のみが起こる、という前提で条件を立てます。
転倒の臨界条件:「重心の鉛直線が接触領域の縁(軸足)を通る」。これを $\tan\theta_1 = \dfrac{\text{水平ずれ}}{\text{G の高さ}}$ の形に書くのが定石。
考え方:カタンコトンが少し転がると、長方形板と水平板のなす角が $\theta_2$ になります。これは、外部から見れば「斜面の傾斜 $\theta$」と「直径自体が水平から $\theta_2$ だけ回転している」の両方が同時に効いている状態です。
転がり続ける臨界条件は、問3(1)の条件を「有効傾斜 $\theta - \theta_2$」で置き換えたものです:
$$\tan(\theta - \theta_2) > \frac{mL}{(M+m)(L + 2R)}$$したがって、$\theta_2$ が大きくなるほど有効傾斜は小さくなるので、臨界を保つには $\theta$ がより大きくなくてはならない、という直観と一致します。
カタンコトンが転がると、長方形板の直径は元の水平方向からずれて斜面と平行になっていきます。ちょうど $\theta_2 = \theta$ になったとき、直径は斜面方向と一致し、カタンコトンは「斜面上に平らに載って滑る」状態に戻ります。ここまでは転がり続け、これ以降は問4の「転がり続ける / 滑る」の分岐判定になります。
転がりの回転角 $\theta_2$ による「有効傾斜角の減少」: 板を傾けても物体自身が回転すれば、重心と軸足の相対配置は回転角だけ補正される。
重力成分の分解:斜面上で直径と斜面のなす角が $\phi$ のとき、重力 $(m+M)g$ を直径方向と直径に垂直な方向に分解すると、
垂直抗力 $N$ の条件:カタンコトンが斜面から離れずに接触し続けるためには
$$N = (m+M)g\cos(\theta + \phi) > 0$$したがって、
$$\cos(\theta + \phi) > 0 \quad \Leftrightarrow \quad \theta + \phi < \frac{\pi}{2}$$さらに摩擦条件:転がり続ける(滑らず回転する)ためには摩擦が十分であること、
$$\mu_0 \geq \tan(\theta + \phi)$$斜面は水平から $\theta$ 傾いており、その上でカタンコトンの直径が斜面からさらに $\phi$ 傾いた位置にあるので、直径と水平面のなす全体の傾きは $\theta + \phi$ です。重力は常に鉛直下向きなので、直径方向に射影した大きさは $g\sin(\theta + \phi)$、直径に垂直な方向は $g\cos(\theta + \phi)$ です。
斜面+回転の複合角度:有効傾斜角 = 斜面の傾き $\theta$ + 物体自身の回転 $\phi$。重力分解の際はこの「総合傾斜」$\theta + \phi$ を使う。
考え方(エネルギー保存則):初期運動エネルギーを $E$、$\phi$ だけ回転した位置で運動エネルギーが最小(=ギリギリ転がり続けるゼロ)になる場合を考えます。この間、重心は鉛直方向に上昇するので、
接触点を通過する距離は $R\phi$(円弧の長さ)。この距離を斜面に沿って進むあいだ、重心の鉛直方向の上昇は
$$\Delta h = R\phi \sin(\theta + \phi)$$(問題のヒント:「斜面に平行に距離 $R\phi$ 移動したあいだ、$\sin(\theta+\phi)$ をそのまま解答に用いてよい」)。
エネルギー保存則:
$$E \geq (m + M) g \Delta h = (m + M) g R \phi \sin(\theta + \phi)$$半径 $R$ の円板が角度 $\phi$ だけ回転するとき、接触点は $R\phi$ だけ斜面に沿って移動します(転がり運動)。その間、物体は斜面に沿って進み、鉛直方向には $R\phi \times \sin(\theta+\phi)$ だけ上昇します — ここで $\theta+\phi$ は「直径と水平面のなす角」ですが、回転中はこの角度が変化していくため、厳密には積分が必要。問題文はこれを簡略化して $\sin(\theta+\phi)$ の最大値で評価してよい、と指示しています。
転がりの間、摩擦力は静止摩擦(滑らないので)なので仕事をしません(接触点の瞬間速度がゼロ)。したがって、運動エネルギーの減少はすべて位置エネルギーの増加に変換されます。したがって、$E \geq \Delta U = (m+M)g\Delta h$ が成立すればよく、結果は同じです。
転がり続ける条件=エネルギー:$E \geq (m+M)gR\phi\sin(\theta+\phi)$。重心上昇分を越える運動エネルギーが必要。