前期 大問Ⅱ

解法の指針

平行板コンデンサーに厚さ $d$ の誘電体を挿入した状況を扱う。極板 A, B の間に誘電率 $\varepsilon_0$ の空間と誘電率 $\varepsilon_1$ の誘電体がある。誘電体の表面に現れる分極電荷、コンデンサー容量の変化、極板電荷の時間変化などを段階的に問う総合問題です。

問題の構成

全体を貫くポイント

設問(1) 誘電体表面に現れる電荷

直感的理解
電場の中に誘電体(絶縁体)を置くと、分子内の正負電荷が微小にずれて分極する。外部電場が上向きなら、誘電体の下面に正電荷上面に負電荷が現れる。この分極電荷は電場を打ち消す向きに働くので、誘電体内部の電場は弱まる。比誘電率 $\varepsilon_r = \varepsilon_1/\varepsilon_0 > 1$ 倍だけ電場が弱くなる。

考え方:極板 A(正電荷 +Q)から極板 B(負電荷 −Q)へ向かって電場が下向きにかかる。この電場の中に誘電体を置くと、誘電体内の分子が分極する。

分極の向きは、外部電場に対して誘電体内の正電荷が電場の向きに、負電荷が逆向きに微小変位する。その結果:

これらは「分極電荷」と呼ばれる。外部電場を打ち消す向きに分極電場 $E_p$ が発生する。誘電体内部の実効電場は:

$$E_{内} = \frac{E_0}{\varepsilon_r} = \frac{\varepsilon_0}{\varepsilon_1} E_0$$

ここで $\varepsilon_r = \varepsilon_1/\varepsilon_0$ は比誘電率、$E_0$ は真空中の電場。

答え:誘電体の上面(極板 A 側)に負電荷 −Q'、下面(極板 B 側)に正電荷 +Q'が現れる。
ここで分極電荷の大きさは $Q' = Q(1 - \varepsilon_0/\varepsilon_1)$ の関係にある。
補足:誘電体の分極電荷の大きさ

ガウスの法則より、真空の極板電荷 $Q$ が作る電場は $E_0 = Q/(\varepsilon_0 a^2)$。

誘電体内部の電場が $E_1 = E_0 \cdot \varepsilon_0/\varepsilon_1$ となるのは、分極電荷が実効電荷を $Q(\varepsilon_0/\varepsilon_1)$ まで弱めるから。この分極電荷の大きさは:

$$Q' = Q\left(1 - \frac{\varepsilon_0}{\varepsilon_1}\right) = Q \cdot \frac{\varepsilon_1 - \varepsilon_0}{\varepsilon_1}$$

$\varepsilon_1 \gg \varepsilon_0$ なら $Q' \fallingdotseq Q$(極板電荷がほぼ完全に打ち消される)。これが静電遮蔽の原理。

Point

誘電体の分極電荷は「境界面に現れる表面電荷」として扱う。誘電体内部には電荷は発生しない(中性が保たれる)。この表面電荷こそが電場を弱める実効メカニズム。

設問(2) 図 3 の 2 つのコンデンサーの容量 $C_A$, $C_B$

直感的理解
図 3 では「真空部分」と「誘電体部分」がそれぞれ独立した平行板コンデンサーとして描かれている。$C_A$ は真空のみ(厚さ $d$、誘電率 $\varepsilon_0$)、$C_B$ は誘電体のみ(厚さ $d$、誘電率 $\varepsilon_1$)。平行板容量の公式 $C = \varepsilon a^2/d$ を使い、両者は直列接続で合成容量を作る。

考え方:図 3 のように、元のコンデンサーは「真空部分」と「誘電体部分」の 2 つの独立コンデンサーの直列接続として考えられる。

各部分の厚さは元の半分($d$)、極板面積は $a^2$(同じ)。平行板コンデンサーの容量公式:

$$C = \frac{\varepsilon a^2}{d'}$$

$C_A$(真空部分):厚さ $d$、誘電率 $\varepsilon_0$:

$$C_A = \frac{\varepsilon_0 a^2}{d}$$

$C_B$(誘電体部分):厚さ $d$、誘電率 $\varepsilon_1$:

$$C_B = \frac{\varepsilon_1 a^2}{d}$$
答え: $$C_A = \frac{\varepsilon_0 a^2}{d}, \quad C_B = \frac{\varepsilon_1 a^2}{d}$$
別解:合成容量の計算

直列接続の合成容量は:

$$\frac{1}{C_{合}} = \frac{1}{C_A} + \frac{1}{C_B} = \frac{d}{\varepsilon_0 a^2} + \frac{d}{\varepsilon_1 a^2} = \frac{d(\varepsilon_1 + \varepsilon_0)}{\varepsilon_0 \varepsilon_1 a^2}$$ $$C_{合} = \frac{\varepsilon_0 \varepsilon_1 a^2}{d(\varepsilon_0 + \varepsilon_1)}$$

$\varepsilon_1 = \varepsilon_0$(真空と同じ)なら $C_{合} = \varepsilon_0 a^2/(2d)$ となり、元のギャップ $2d$ のコンデンサーと一致する(検算 OK)。

Point

誘電体を部分的に挿入するパターンでは、必ず直列(厚さ方向に分割)か並列(面積方向に分割)のどちらで分解するかを見極める。本問は厚さ方向なので直列。$C_A$ と $C_B$ の合成容量は小さい方に引きずられる。

設問(3) 十分時間経ったときの極板 A, B に蓄えられた電荷 $Q_A$, $Q_B$

直感的理解
直列接続の $C_A$ と $C_B$ には、同じ電荷 $Q$ が流れる(直列の基本性質)。電池の起電力が $V_0$ なら(問題文で $E$ や $V_0$ と書かれている)、合成容量から $Q = C_{合} V_0$。極板 A は $+Q$、極板 B は $-Q$ を蓄える(絶対値は同じ)。

考え方:直列接続された 2 つのコンデンサーには同じ電荷が流れる:$Q_A = Q_B \equiv Q$。これは直列回路の電流が同じであること(=流れた電荷が同じ)から導かれる。

立式:合成容量 $C_{合}$ と起電力 $V_0$(または電池の $E$)の関係:

$$Q = C_{合} V_0 = \frac{\varepsilon_0 \varepsilon_1 a^2}{d(\varepsilon_0 + \varepsilon_1)} \cdot V_0$$

ただし、問題文では「極板間隔は $2d$」で上下それぞれ $d$ ずつなので、元のコンデンサー全体での合成容量になる。図 1 の元の構造は間隔 $2d$ の真空、図 2, 3 は同じ間隔を半分ずつに分けた状況。整理すると:

答え: $$Q_A = Q_B = \frac{\varepsilon_0 \varepsilon_1 a^2 V_0}{d(\varepsilon_0 + \varepsilon_1)}$$
極板 A には $+Q$、極板 B には $-Q$。
補足:$\varepsilon_1 \to \infty$(金属)の極限

もし誘電体が導体($\varepsilon_1 \to \infty$)なら、$\varepsilon_1/(\varepsilon_0 + \varepsilon_1) \to 1$。

$$Q \to \frac{\varepsilon_0 a^2 V_0}{d}$$

これは厚さ $d$ の真空コンデンサーそのもの。導体を挿入すると実効間隔が半分になった結果。

$\varepsilon_1 \to \varepsilon_0$(真空と同じ)なら $Q \to \varepsilon_0 a^2 V_0/(2d)$、元の真空コンデンサー(間隔 $2d$)と一致(検算)。

Point

誘電体を挿入すると実効的な静電容量が増加し、同じ電圧でより多くの電荷を蓄えられる。これがコンデンサー設計で誘電体を使う理由(セラミックコンデンサーの比誘電率は 1000 以上!)。

設問(4) 極板 A を水平移動させたときの $Q_A(t)$ のグラフ

直感的理解
極板 A の位置 $x(t)$ が三角波状に変化($0 \to a \to 0 \to -a \to 0$)すると、面積の重なり $S(t) = a |a - |x(t)||$(実効的な面積)が変化する。容量は面積に比例するので、電荷 $Q_A = C V$ も三角波状に変化する。ピークは極板が最も重なる瞬間($x = 0$)。

考え方:極板 A を横方向に動かすと、極板 A と極板 B の重なり面積が変化する。元の面積は $a^2$、極板 A を $x$ だけずらすと重なり面積は $a(a - |x|)$ となる($|x| \leq a$)。

コンデンサーの容量は面積に比例:

$$C(x) = \frac{\varepsilon \cdot a(a - |x|)}{d}$$

直列接続の合成容量も同様に、$(a - |x|)/a$ 倍になる。

電池に接続されているので電圧は一定 $V_0$。したがって電荷:

$$Q_A(t) = C(x(t)) \cdot V_0 = Q_0 \left(1 - \frac{|x(t)|}{a}\right)$$

ここで $Q_0 = C_{合}(x=0) V_0$ は重なり最大のときの電荷。

$x(t)$ が三角波($0 \to a \to 0 \to -a \to 0$)なら、$|x(t)|$ も三角波($0 \to a \to 0 \to a \to 0$)で、$Q_A(t)$ は逆三角波。$t = 0, T/2, T$ で $Q_0$(最大)、$t = T/4, 3T/4$ で $0$(最小)。

答え:$Q_A(t)$ は三角波状。$t = 0, T/2, T$ で最大値 $Q_0$、$t = T/4, 3T/4$ で最小値 $0$(あるいは $x = \pm a$ で重なりゼロ)。
補足:電荷の時間変化率

$Q_A(t)$ の各線分の傾き($dQ/dt$)は $\pm (Q_0 / a) \cdot (dx/dt)$ に比例。三角波 $x(t)$ の傾きは $\pm 4a/T$ なので、$dQ/dt$ も一定値が半周期ごとに切り替わる:

$$\left|\frac{dQ_A}{dt}\right| = \frac{Q_0}{a} \cdot \frac{4a}{T} = \frac{4 Q_0}{T}$$

この $dQ_A/dt$ が電流 $I$ そのもの(設問(5) の内容)。

Point

電池接続のまま容量を変えると、電荷が自動的に調整される(電荷保存 + 電圧一定)。これが可変コンデンサー(ラジオの同調回路など)の動作原理。

設問(5) 電流 $I(t)$ のグラフ

直感的理解
電流 $I = dQ_A/dt$ は電荷の時間微分。$Q_A(t)$ が三角波なので、その微分は矩形波(方形波)。$Q_A$ が増加する時間区間では $I > 0$(流入)、減少する区間では $I < 0$(流出)。$x(t)$ が三角波で、$|x(t)|$ が三角波、$Q_A(t)$ も三角波、$dQ/dt$ は矩形波(符号が切り替わる)。

立式:電流は電荷の時間微分:

$$I(t) = \frac{dQ_A}{dt}$$

$Q_A(t)$ が三角波なので、その微分は方形波(矩形波)。各半区間で $I$ は一定値となり、符号は $x(t)$ の時間変化の向きに応じて切り替わる。

計算:$x(t)$ が期間 $T$ で $+a \leftrightarrow -a$ を往復する三角波。最大速度は $|dx/dt| = 4a/T$。容量の変化率 $dC/dt = -(C_0/a)|dx/dt|$(極板がずれると $C$ が減る)。

電流の大きさ:

$$|I| = \left|\frac{dQ_A}{dt}\right| = V_0 \left|\frac{dC}{dt}\right| = V_0 \cdot \frac{C_0}{a} \cdot \frac{4a}{T} = \frac{4 C_0 V_0}{T} = \frac{4 Q_0}{T}$$

符号は:

答え:$I(t)$ は矩形波。値は $\pm 4 Q_0 / T$、符号は $T/4$ 周期で切り替わる。
$I > 0$:$T/4 \leq t \leq T/2$ および $3T/4 \leq t \leq T$
$I < 0$:$0 \leq t \leq T/4$ および $T/2 \leq t \leq 3T/4$
補足:電流の向きの物理的解釈

$I > 0$ は極板 A に電荷が流入、$I < 0$ は流出を意味する。

$x$ が原点に近づくとき($|x|$ 減少):重なり面積増加 → 容量増加 → 電荷が必要(流入) → $I > 0$

$x$ が原点から離れるとき($|x|$ 増加):重なり面積減少 → 容量減少 → 電荷が過剰(流出) → $I < 0$

Point

電池接続のコンデンサーで面積を変化させると、面積の時間変化率に比例した電流が流れる。これがキャパシタンスマイクロホン(動くダイアフラムで電流信号を生成)の原理。

具体的な数値例

例として、極板の一辺 $a = 0.10\ \text{m}$、距離 $d = 2.0\ \text{mm} = 2.0 \times 10^{-3}\ \text{m}$、真空の誘電率 $\varepsilon_0 = 8.85 \times 10^{-12}\ \text{F/m}$ の場合、$C_A$ は:

$$C_A = \frac{\varepsilon_0 a^2}{d} = \frac{8.85 \times 10^{-12} \times (0.10)^2}{2.0 \times 10^{-3}} = 4.43 \times 10^{-11}\ \text{F} \fallingdotseq 44\ \text{pF}$$

比誘電率 $\varepsilon_r = \varepsilon_1/\varepsilon_0 = 2.5$(例:紙・プラスチック)なら、$C_B = 2.5 \times C_A \fallingdotseq 110\ \text{pF}$。電源電圧 $V_0 = 10\ \text{V}$ なら、直列合成容量は:

$$C = \frac{C_A C_B}{C_A + C_B} = \frac{44 \times 110}{44 + 110} \fallingdotseq 31\ \text{pF}$$

蓄えられる電荷は:

$$Q = C V_0 = 31 \times 10^{-12} \times 10 = 3.1 \times 10^{-10}\ \text{C}$$