水平なレール上を、対角線がレールに直交する向きで動く正方形コイルを題材にした電磁誘導の総合問題です。直流電源で固定する場面(前半)と、おもり・棒磁石に引かれて運動する場面(後半)を扱います。
設定:S₁を閉じると、起電力 $E$ の電源が抵抗 $R$ を通して電流を流します。回路の電源側を流れる全電流を $I$ とすると、電源には内部抵抗がなく、レール・コイルの抵抗も無視できるので、回路の抵抗は $R$ だけです。
立式(全電流):オームの法則より、
$$I = \frac{E}{R}$$一辺を流れる電流:頂点 P から入った電流は、抵抗ゼロで対称な2つの道(P-C-Q と P-D-Q)に等しく分かれるので、コイルの一辺を流れる電流は全電流の半分です。
$$I_{\text{辺}} = \frac{I}{2} = \frac{E}{2R}$$コイルが受ける力:磁場 $B$ 中で電流が受ける力は、電流の入口 P と出口 Q を結ぶ「対角線 P-Q」(長さ $d$、レールに直交)に全電流 $I$ が流れていると考えれば計算できます(2つの半分はともに P→Q 向きの実効長をもつため、力は合算され $F=BId$ となる)。
$$F = BId = B \cdot \frac{E}{R} \cdot d = \frac{BEd}{R}$$おもりの質量 $M$:コイルは静止したまま。コイルにはたらく水平な磁気力 $F$ が、糸の張力 $T$ とつり合います。糸の他端のおもり(質量 $M$)も静止しているので $T = Mg$。レールはなめらかなので、
$$F = T = Mg \quad\Rightarrow\quad \frac{BEd}{R} = Mg$$例えば $E = 6.0$ V, $R = 3.0$ Ω, $B = 0.50$ T, $d = 0.20$ m, $g = 9.8$ m/s² の場合:
$$I_{\text{辺}} = \frac{6.0}{2 \times 3.0} = 1.0 \text{ A}$$ $$F = \frac{0.50 \times 6.0 \times 0.20}{3.0} = \frac{0.60}{3.0} = 0.20 \text{ N}$$ $$M = \frac{0.50 \times 6.0 \times 0.20}{3.0 \times 9.8} = \frac{0.60}{29.4} \fallingdotseq 2.0 \times 10^{-2} \text{ kg}$$約 20 g のおもりとつり合うことが分かります。
2つの半分は抵抗ゼロの並列なので、電流は半分ずつ。一方で力は対角線 P-Q(長さ $d$)で考えれば $F=BId$ とまとめられる。コイルの形が正方形でも、力に効くのは「レール間隔 $d$」である点に注意。
設定:S₁を開き S₂を閉じると、おもり(質量 $M$)がコイルをレールに沿って速さ $v$ で引きます。コイルが動くと磁場 $B$ を横切るので誘導起電力が生じます。
誘導起電力:磁場を横切る実効的な長さは、レールに接する2点 P・Q を結ぶ対角線で、レール間隔 $d$ に等しい。半分の道(P-C-Q または P-D-Q)に生じる起電力はいずれも、
$$V_{\text{誘導}} = Bvd$$回路の電流:2つの半分は同じ起電力 $Bvd$ をもつ「電池」が並列に接続された形で、外部抵抗 $R$ に電流を流します。抵抗 $R$ を流れる電流 $I_R$ は、
$$I_R = \frac{Bvd}{R}$$一辺(辺PC・辺PD)の電流:対称性により、$R$ を流れる電流は2つの半分に等しく分かれて戻るので、辺PC・辺PDの電流はその半分です。
$$I_{PC} = I_{PD} = \frac{I_R}{2} = \frac{Bvd}{2R}$$辺PCの電流の向き:レンツの法則より、誘導電流のつくる力は運動(+$x$ 向き)を妨げる向き、すなわち $-x$ 向きにはたらきます。$\vec{F} = I\vec{L}\times\vec{B}$($\vec{B}$ は鉛直上向き $+z$)で力が $-x$ 向きになるには、実効電流が P($+y$ 側)から Q($-y$ 側)へ向かう必要があります。よって辺PCでは電流は P から C へ流れます。
導体棒(実効的には対角線 P-Q)が速度 $\vec{v}$($+x$)で磁場 $\vec{B}$($+z$)中を動くとき、正電荷が受けるローレンツ力は $q\vec{v}\times\vec{B}$。$\hat{x}\times\hat{z} = -\hat{y}$ なので、正電荷は $-y$ 向き(P→Q向き)に押されます。したがって電池の+極は Q 側、電流は外部回路を通って P→(C または D)→Q と循環し、辺PCでは P→C となります。これはレンツの法則から得た結論と一致します。
「運動を妨げる向き」を先に決めてから電流の向きを逆算するのがレンツの法則の使い方。電流の大きさは「全体 $Bvd/R$ → 一辺は半分」と2段階で考える。
立式:設問(2)の状況で、抵抗器 $R$ を流れる電流は $I_R = \dfrac{Bvd}{R}$。抵抗で単位時間あたりに消費されるエネルギー(消費電力)は、
$$P = I_R^2 R$$代入:$I_R = \dfrac{Bvd}{R}$ を代入します。
$$P = \left(\frac{Bvd}{R}\right)^2 R = \frac{B^2 v^2 d^2}{R^2} \cdot R$$整理:
$$P = \frac{B^2 v^2 d^2}{R}$$運動中、コイルが磁場から受ける(運動を妨げる)力は $F = B I_R d = \dfrac{B^2 d^2 v}{R}$。等速でないときでも、この磁気力に逆らってなされる仕事率は最終的にすべて抵抗で熱になります(コイル・レールの抵抗は無視)。よって消費電力は、
$$P = F \cdot v = \frac{B^2 d^2 v}{R} \cdot v = \frac{B^2 v^2 d^2}{R}$$$P = I_R^2 R$ と完全に一致します。電気的に見ても力学的に見ても同じ答えになるのが電磁誘導の美しいところです。
消費電力は「電気的に $I_R^2 R$」でも「力学的に $Fv$」でも求まる。抵抗を流れる電流は一辺の電流の2倍($I_R = 2 \times \frac{Bvd}{2R}$)である点を取り違えないこと。
設定:十分な時間が経つと加速がなくなり、速さは一定値 $v_0$ になります。このとき「コイル+おもり」の系全体の加速度は $0$ です。
立式(つり合い):おもり(質量 $M$)について、糸の張力を $T$ とすると、等速なので、
$$Mg - T = 0 \quad\Rightarrow\quad T = Mg$$コイルについても等速なので、糸の張力 $T$ とコイルが受ける磁気力 $F$ がつり合います。磁気力は設問(2)・(3)と同じく $F = B I_R d = \dfrac{B^2 d^2 v_0}{R}$。
$$T = F \quad\Rightarrow\quad Mg = \frac{B^2 d^2 v_0}{R}$$$v_0$ について解く:
$$v_0 = \frac{MgR}{B^2 d^2}$$ここで設問(1)の結果 $Mg = \dfrac{BEd}{R}$ を代入すると、$M$ や $g$ を含まない形に整理できます。
$$v_0 = \frac{R}{B^2 d^2} \cdot \frac{BEd}{R} = \frac{BEd}{B^2 d^2}$$ $$v_0 = \frac{E}{Bd}$$終端速度では、コイルが磁場から受ける力 $\dfrac{B^2 d^2 v_0}{R}$ が、設問(1)で電源 $E$ が固定時に生み出した力 $\dfrac{BEd}{R}$ とちょうど同じ大きさになります(どちらもおもりの重さ $Mg$ とつり合うため)。
$$\frac{B^2 d^2 v_0}{R} = \frac{BEd}{R} \;\Rightarrow\; Bdv_0 = E \;\Rightarrow\; v_0 = \frac{E}{Bd}$$誘導起電力 $Bv_0d$ が電源の起電力 $E$ にちょうど等しくなる速さ、と読むこともできます。
終端速度は「系全体の合力 = 0」から。設問(1)の関係 $Mg = BEd/R$ を代入して、指定された文字 $R, E, B, d$ だけの形にまとめるのが仕上げのコツ。
設定:図2のように、おもりの代わりに質量 $M_1$ の棒磁石(上がN極 $+m$、下がS極 $-m$、磁極間の距離 $\ell$)を取り付けます。鉛直上向きの磁場 $B_1$ は高さ $z$ とともに変化し $\Delta B_1 = K\Delta z$。いまは $K = 0$ なので、磁場はどの高さでも一様に $B_1 = B$ です。
磁極が受ける力:磁荷モデルでは、磁気量 $m$ の磁極が磁束密度 $B$ の磁場から受ける力は $\dfrac{mB}{\mu}$($\mu$ は空気の透磁率)。鉛直上向きを正とすると、
$$F_{\text{N}} = +\frac{mB}{\mu}\quad(\text{磁場の向き=上}),\qquad F_{\text{S}} = -\frac{mB}{\mu}\quad(\text{磁場と逆=下})$$磁石全体が受ける合力:$K=0$ では両極とも同じ磁場 $B$ の中にあるので、
$$F_{\text{N}} + F_{\text{S}} = +\frac{mB}{\mu} - \frac{mB}{\mu} = 0$$磁石の質量 $M_1$:コイルは止まったまま動かないので、状況は設問(1)と同じです。コイルが受ける磁気力 $\dfrac{BEd}{R}$ が糸の張力 $T$ とつり合い、磁石は重力 $M_1 g$・張力 $T$・磁場からの合力($=0$)でつり合います。
$$\text{磁石:}\; T - M_1 g + (F_{\text{N}} + F_{\text{S}}) = 0 \;\Rightarrow\; T = M_1 g$$ $$\text{コイル:}\; \frac{BEd}{R} = T = M_1 g$$よって $M_1$ は、
$$M_1 = \frac{BEd}{Rg}$$磁気量 $m$ の磁極が磁場の強さ $H$ の場から受ける力は $F = mH$ と定義されます。磁束密度 $B$ と磁場の強さ $H$ の関係は $B = \mu H$ なので、$H = B/\mu$ を代入して、
$$F = mH = m \cdot \frac{B}{\mu} = \frac{mB}{\mu}$$N極($+m$)は磁場の向きに、S極($-m$)は磁場と逆向きに力を受けます。一様磁場ではこの2つが打ち消し合い、磁石全体には回転させようとする偶力(トルク)だけが残り、並進方向の合力は $0$ になります(今回は鉛直に固定されているので並進のつり合いのみ考えればよい)。
一様磁場では磁石にはたらく合力はゼロ。だからこそ設問(1)のおもり(質量 $M$)と同じ条件になり、$M_1 = M = \dfrac{BEd}{Rg}$ が成り立つ。力の「向き(符号)」を問われているので $+/-$ を明記すること。
設定:$K=0$ のまま S₁ を開き S₂ を閉じると、コイルは運動を始め、十分時間が経つと一定の速さ $v_1$ になります。その後 $t=t_1$ で磁束密度の勾配を正の値 $K_0$ にすると、コイルは減速してやがて完全に停止します。
勾配があるときの磁石への力:N極(上)の高さでの磁場を $B_1$、S極(下、$\ell$ だけ低い)での磁場を $B_1 - K_0\ell$ とすると、各極の力(上向き正)は $+\dfrac{mB_1}{\mu}$ と $-\dfrac{m(B_1 - K_0\ell)}{\mu}$。磁石全体が受ける正味の力は、
$$F_{\text{磁石}} = \frac{mB_1}{\mu} - \frac{m(B_1 - K_0\ell)}{\mu} = \frac{m K_0 \ell}{\mu}\quad(\text{上向き})$$停止の条件:コイルが完全に停止すると、誘導起電力も電流もゼロになり、コイルが磁場から受ける力(したがって糸の張力 $T$)もゼロになります。レールはなめらかなのでコイルは $T=0$ でも静止できます。残るのは磁石のつり合いだけ:
$$\frac{m K_0 \ell}{\mu} - M_1 g + T = 0,\qquad T = 0$$ $$\frac{m K_0 \ell}{\mu} = M_1 g$$$K_0$ について解く:
$$K_0 = \frac{\mu M_1 g}{m\ell}$$ここで設問(5)の結果 $M_1 g = \dfrac{BEd}{R}$ を代入します。
$$K_0 = \frac{\mu}{m\ell} \cdot \frac{BEd}{R}$$ $$K_0 = \frac{\mu B E d}{R m \ell}$$$K_0 > 0$ では上ほど磁場が強いので、上のN極が受ける上向きの力 $\dfrac{mB_1}{\mu}$ の方が、下のS極が受ける下向きの力 $\dfrac{m(B_1-K_0\ell)}{\mu}$ より大きくなります。差し引きで上向きの力、
$$\frac{mB_1}{\mu} - \frac{m(B_1 - K_0\ell)}{\mu} = \frac{mK_0\ell}{\mu}$$が残ります。これは「不均一磁場では磁気双極子が磁場の強い方へ引かれる」現象そのものです。この上向きの力が磁石の重さ $M_1 g$ をちょうど支えると、糸の張力が不要になり($T=0$)、コイルを引く力が消えてコイルは停止します。
不均一磁場(勾配 $K_0$)では、磁石の上下の磁極で磁場の強さが違うため正味の力 $\dfrac{mK_0\ell}{\mu}$ が生じる。「完全停止 → コイルの張力ゼロ → 磁場力が磁石の重さを支える」という論理の流れがカギ。
設定:$K=K_0$ にした瞬間、コイルは速さ $v_1$、磁石も同じ速さ $v_1$ で動いています。やがて両方とも停止します。減速の間にコイル・磁石が距離 $h$ だけ動く(磁石が $h$ 降下する)とします。
まず $v_1$ を求める:$v_1$ は $K=0$・S₂閉での終端速度なので、設問(4)とまったく同じ議論により、
$$v_1 = \frac{E}{Bd}$$エネルギー保存則:系(コイル質量 $M$ + 磁石質量 $M_1$)について、減速中に「失った運動エネルギー+重力がした仕事+磁場力がした仕事」が抵抗での発熱 $Q_R$ になります。
重力の仕事と磁場力の仕事はちょうど打ち消し合います(設問(6)で $\dfrac{mK_0\ell}{\mu} = M_1 g$ だったため)。
$$Q_R = \frac{1}{2}(M + M_1)v_1^2 + M_1 g h - M_1 g h = \frac{1}{2}(M + M_1)v_1^2$$文字をそろえる:コイルの質量 $M$ も磁石の質量 $M_1$ も、設問(1)・(5)より等しく $M = M_1 = \dfrac{BEd}{Rg}$。よって、
$$M + M_1 = 2M = \frac{2BEd}{Rg}$$これと $v_1 = \dfrac{E}{Bd}$ を代入します。
$$Q_R = \frac{1}{2} \cdot \frac{2BEd}{Rg} \cdot \left(\frac{E}{Bd}\right)^2 = \frac{BEd}{Rg} \cdot \frac{E^2}{B^2 d^2}$$ $$Q_R = \frac{E^3}{B d g R}$$磁場の上向き力が重力とつり合っているので、磁石にとって「重力+磁場力」の合力はゼロ。つまり磁石が降下しても位置エネルギーの実質的な出入りはありません。系に外から仕事をする保存力が実質ゼロなので、運動エネルギーは全て抵抗での発熱に変わります。
$$Q_R = \frac{1}{2}(M+M_1)v_1^2 = M v_1^2 \quad(\because M = M_1)$$ $$= \frac{BEd}{Rg}\left(\frac{E}{Bd}\right)^2 = \frac{E^3}{Bdg R}$$なお、コイル・磁石それぞれの抵抗は無視できるので、回路で発熱するのは抵抗器 $R$ のみ。よって「抵抗器での消費エネルギー」=「系の運動エネルギーの減少分」となります。
| 場面 | 速さ | 系の運動エネルギー |
|---|---|---|
| 減速開始($t=t_1$) | $v_1 = \dfrac{E}{Bd}$ | $\dfrac{1}{2}(M+M_1)v_1^2$ |
| 停止後 | $0$ | $0$ |
| 差(=抵抗の発熱) | — | $\dfrac{E^3}{Bdg R}$ |
減速中の重力の仕事と磁場力の仕事が相殺するのがこの問題の急所。結果は「最初の運動エネルギーが丸ごと抵抗の熱になる」というシンプルな形。コイルと磁石の質量がともに $\dfrac{BEd}{Rg}$ で等しいことを使って $R,E,B,d,g$ だけにまとめる。