前期 大問Ⅰ:力学(斜面上の物体と摩擦)

解法の指針

斜面上の物体の運動と摩擦力を扱う力学の総合問題です。エネルギー保存則と運動方程式を組み合わせて解きます。

問題の構成

全体を貫くポイント

数値例:高さ h = 5.0 m のなめらかな斜面を滑り降りる質量 m = 2.0 kg の物体の底での速さは v = sqrt(2 × 9.8 × 5.0) = 9.9 m/s。水平面の動摩擦係数 0.30 で停止距離は d = v² ÷ (2 × 0.30 × 9.8) = 98 ÷ 5.88 = 16.7 m。

設問(1):なめらかな斜面での速さ

直感的理解
摩擦のない斜面では、高さ $h$ だけ下降すると位置エネルギー $mgh$ がすべて運動エネルギーに変換される。斜面の角度に依存せず、高さだけで速さが決まる。

エネルギー保存則(なめらかな斜面、摩擦なし):

$$mgh = \frac{1}{2}mv^2$$

$$v = \sqrt{2gh}$$

斜面の角度 $\theta$ によらず、高さ $h$ のみで速さが決まります。

答え:
$$v = \sqrt{2gh}$$

数値例:角度 \(\theta = 30°\) の斜面上の質量 \(m = 2.0\) kg の物体に作用する重力の斜面方向成分は

\(F = mg\sin\theta = 2.0 \times 9.8 \times \sin 30° = 2.0 \times 9.8 \times 0.50 = 9.8\) N

動摩擦係数 \(\mu = 0.20\) のとき、摩擦力は \(f = \mu mg\cos\theta = 0.20 \times 2.0 \times 9.8 \times \cos 30° = 3.4\) N

Point

なめらかな斜面では力学的エネルギー保存則がそのまま適用でき、速さは高さだけの関数になる。斜面の傾斜角は速さに影響しない。

設問(2):粗い水平面での停止距離

直感的理解
水平面に摩擦があると、運動エネルギーが摩擦力の仕事で奪われる。動摩擦力 $\mu' mg$ が一定なので、停止距離は初期の運動エネルギーを摩擦力で割った値になる。

仕事とエネルギーの定理より:

$$\frac{1}{2}mv^2 = \mu' mg L$$

$$L = \frac{v^2}{2\mu' g} = \frac{2gh}{2\mu' g} = \frac{h}{\mu'}$$

答え:
$$L = \frac{h}{\mu'}$$
Point

摩擦による仕事は $W_f = -\mu' mg L$ であり、これが運動エネルギーを奪う。停止距離が斜面の角度によらず高さ $h$ と摩擦係数 $\mu'$ だけで決まることに注目。

設問(3):全体のエネルギー保存

直感的理解
斜面降下(保存力のみ)と水平面走行(摩擦あり)を通して考えると、最初の位置エネルギー $mgh$ のうち摩擦で失われた分を差し引いた残りが最終的な運動エネルギーになる。

斜面頂上から水平面上の距離 $L$ の地点まで全体で考えると:

$$mgh = \frac{1}{2}mv_f^2 + \mu' mg L$$

$$v_f = \sqrt{2g(h - \mu' L)}$$

答え:
$$v_f = \sqrt{2g(h - \mu' L)}$$
別解:運動方程式から求める

斜面上:$ma_1 = mg\sin\theta$ より $v^2 = 2g\sin\theta \cdot \frac{h}{\sin\theta} = 2gh$

水平面上:$ma_2 = -\mu' mg$ より $v_f^2 = v^2 - 2\mu' g L = 2gh - 2\mu' gL$

同じ結果が得られます。

Point

複雑な経路でも始点と終点のエネルギー収支で考えると立式が簡潔になる。非保存力(摩擦)がある区間だけその仕事を計上すればよい。