屈折率 \(n\) のガラス板表面に薄膜をつけたときの反射光の干渉(設問(1)〜(3))、厚さの異なる2枚のガラス板を透過する光の光路長の差(設問(4))、そして下面が階段状に刻まれた特殊なガラス板による透過光の回折・干渉(設問(5)〜(7))を扱う、波動分野の総合問題です。
薄膜Aの上面は「空気→薄膜A」で屈折率が増えるので反射光は位相反転する。下面は「薄膜A→ガラス」で、\(n_\mathrm{A}\lt n\) よりここでも屈折率が増えるのでもう一度位相反転する。反転が2回(偶数回)起きると、その効果は打ち消し合い、ふつうの「半波長分のずれがない」干渉として扱える。だから弱めあいは「光路差が半波長の奇数倍」のとき。
屈折率 \(n\) のガラス板の上面に、屈折率 \(n_\mathrm{A}\)(\(1 \lt n_\mathrm{A} \lt n\))・厚さ \(t_\mathrm{A}\) の薄膜Aをつける。垂直入射した波長 \(\lambda\) の光を考える。干渉するのは次の2つの反射光である。
① 各境界での反射の位相変化を判定する:
位相反転は2回(偶数回)。2つの反転は打ち消し合うので、干渉条件は光路差だけで決まる。
② 光路差を立式する:反射②の光は薄膜A内(屈折率 \(n_\mathrm{A}\)、厚さ \(t_\mathrm{A}\))を往復するので、反射①との光路差は
$$\Delta = 2 n_\mathrm{A} t_\mathrm{A}$$③ 弱めあいの条件:位相反転が打ち消し合うため、ふつうの干渉と同じく、光路差が半波長の奇数倍のとき弱めあう。
$$2 n_\mathrm{A} t_\mathrm{A} = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \ldots)$$\(t_\mathrm{A}\) について解くと、
$$t_\mathrm{A} = \frac{(2m+1)\lambda}{4 n_\mathrm{A}} \quad (m = 0, 1, 2, \ldots)$$具体的な数値で確認:反射防止膜の代表例として \(n_\mathrm{A}=1.38\)(フッ化マグネシウム)、\(\lambda = 5.50\times10^{-7}\) m(緑色光 550 nm)とする。最小厚さは \(m=0\) のとき:
$$t_\mathrm{A} = \frac{(2\cdot0+1)\times 5.50\times10^{-7}}{4\times 1.38} = \frac{5.50\times10^{-7}}{5.52} \fallingdotseq 9.96\times10^{-8}\ \text{m}$$すなわち約 \(99.6\) nm。このとき光路差は \(\frac{\lambda}{2}=275\) nm となり、確かに半波長分ずれて反射光が弱めあう(反射防止コーティングの原理)。
反射光どうしの干渉では、位相反転の回数の偶奇で条件が入れ替わる。
| 位相反転の回数 | 強めあう(反射が強い) | 弱めあう(反射が弱い) |
|---|---|---|
| 偶数回(0回・2回) | \(2n't = m\lambda\) | \(2n't = \left(m+\frac{1}{2}\right)\lambda\) |
| 奇数回(1回) | \(2n't = \left(m+\frac{1}{2}\right)\lambda\) | \(2n't = m\lambda\) |
薄膜Aは位相反転2回(偶数)なので上段。弱めあいは \(2n_\mathrm{A}t_\mathrm{A}=\left(m+\frac{1}{2}\right)\lambda\) で正しい。
薄膜干渉では、まず各境界面で位相反転が起きるかを必ず判定する。小→大で反射すると反転、大→小では反転しない。反転回数が偶数なら「光路差 = 半波長の奇数倍」で弱めあう。
薄膜Bはガラスより屈折率が大きい(\(n_\mathrm{B} \gt n\))。上面では「空気→薄膜B」で屈折率が増えるから位相反転するが、下面は「薄膜B→ガラス」で屈折率が減るので位相反転しない。反転は1回(奇数回)。半波長分のずれが1回だけ残るので、設問(1)とは強め・弱めの条件が入れ替わる。
薄膜B(屈折率 \(n_\mathrm{B}\)、\(1 \lt n \lt n_\mathrm{B}\)、厚さ \(t_\mathrm{B}\))をつけた場合を考える。\(n_\mathrm{B} \gt n\) である点が設問(1)と決定的に異なる。
① 反射の位相変化:
位相反転は1回(奇数回)。1回分の位相反転(半波長分のずれ)が残る。
② 位相差をていねいに積み上げる:反射②に対する反射①の位相のずれは、
$$\Delta\varphi = \underbrace{\pi}_{\text{反転1回}} + \underbrace{\frac{2\pi}{\lambda}\cdot 2 n_\mathrm{B} t_\mathrm{B}}_{\text{光路差}}$$③ 強めあう条件は全位相差が \(2\pi\) の整数倍:\(\Delta\varphi = 2M\pi\)(\(M\) は整数)。
$$\pi + \frac{4\pi n_\mathrm{B} t_\mathrm{B}}{\lambda} = 2M\pi \quad\Rightarrow\quad 2 n_\mathrm{B} t_\mathrm{B} = \left(M - \frac{1}{2}\right)\lambda$$\(m = M-1\)(\(m=0,1,2,\ldots\))と置き直すと、
$$2 n_\mathrm{B} t_\mathrm{B} = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \ldots)$$具体的な数値で確認:高屈折率膜の例として \(n_\mathrm{B}=2.40\)(酸化チタン)、\(\lambda = 5.50\times10^{-7}\) m とする。最小厚さは \(m=0\) のとき:
$$t_\mathrm{B} = \frac{\lambda}{4 n_\mathrm{B}} = \frac{5.50\times10^{-7}}{4\times 2.40} = \frac{5.50\times10^{-7}}{9.60} \fallingdotseq 5.73\times10^{-8}\ \text{m}$$すなわち約 \(57.3\) nm。このとき光路差は \(2 n_\mathrm{B} t_\mathrm{B} = \frac{\lambda}{2}=275\) nm で、位相反転1回と合わせて反射光が強めあう(反射を強める高反射膜)。
設問(1)の補足表を使えば、計算を省いて結論できる。
偶然どちらも \(\left(m+\frac{1}{2}\right)\lambda\) という同じ形になるが、片方は「弱めあい」、もう片方は「強めあい」を表している点に注意。反転回数の偶奇と「強め/弱め」の指定をセットで読むことが大切。
薄膜Bでは位相反転が1回だけ残るので、同じ光路差でも設問(1)と強め・弱めが逆になる。屈折率の大小(\(n_\mathrm{B} \gt n\) か \(n_\mathrm{A} \lt n\) か)を毎回確認すること。
ガラスの上にA、その上にBを重ねる。設問(1)・(2)と同じ厚さに保ってあるので、「A–B境界の反射」と「A–ガラス境界の反射」がうまく同位相になり、反射が強めあう。これをA・B…と交互に積み重ねると、各層からの反射光が次々と同位相で足し合わさり、反射はどんどん強く、その分透過光は弱くなる。これが高反射ミラー(誘電体多層膜)の正体。
ガラス板の上に薄膜A、さらにその上に薄膜Bをつける(屈折率の大小は \(1 \lt n_\mathrm{A} \lt n \lt n_\mathrm{B}\)、厚さは設問(1)・(2)と同じ)。まず「薄膜AとBの間の面」と「薄膜Aとガラスの間の面」からの2つの反射光(=設問の(あ))を考える。
(あ) — A–B境界とA–ガラス境界の反射の干渉:
位相反転は1回(奇数回)。この2光の光路差は薄膜A内の往復 \(2 n_\mathrm{A} t_\mathrm{A}\)。設問(1)の条件 \(2 n_\mathrm{A} t_\mathrm{A}=\left(m+\frac{1}{2}\right)\lambda\) が成り立っている。全位相差は
$$\Delta\varphi = \pi + \frac{2\pi}{\lambda}\cdot 2n_\mathrm{A}t_\mathrm{A} = \pi + \frac{2\pi}{\lambda}\left(m+\frac{1}{2}\right)\lambda = \pi + (2m+1)\pi = (2m+2)\pi$$\((2m+2)\pi\) は \(2\pi\) の整数倍だから同位相。したがって反射光は (あ)=㋐ 強めあう。
(い)・(う) — 多層化の効果:同様に、薄膜A・Bを交互に重ねていくと、各境界面からの反射光がすべて同位相で重なり合う。よって合わさった反射光は層数を増やすほど
入射した光のエネルギーは保存するので、反射が強くなった分だけ透過光は弱まる。よって透過光は
数値イメージ:1組(A+B)だけでは反射率は数十%程度だが、A・Bを20〜30組積むと反射率は \(99.9\%\) を超え、透過率は \(0.1\%\) 以下になる(誘電体多層膜ミラー)。
高屈折率層と低屈折率層を、各層の光学的厚さがちょうど \(\lambda/4\) になるよう交互に積むと、全境界面からの反射光が同位相でそろう。これが誘電体多層膜(ブラッグミラー)で、金属鏡を上回る反射率(\(99.99\%\) 以上)が得られる。
応用例:
多層膜では各層の反射光が同位相で足し合わさり、層数とともに反射率が上がる。透過光はエネルギー保存からその分弱くなる。設問(1)・(2)の厚さ条件は、この「同位相でそろえる」ための設定だった。
面Ⅰと面Ⅱの間(鉛直方向の距離 \(t\))を、経路1はずっとガラス(屈折率 \(n\))の中を進む。一方、経路2は途中までガラス(厚さ \(t-u\))、残りの \(u\) は真空を進む。同じ \(u\) だけの区間でも、ガラスの中の光路は \(n\) 倍長く数える。だから経路1の方が \((n-1)u\) だけ余分に長い。
屈折率 \(n\) のガラス板2枚を用意する。板1の厚さは \(t\)、板2の厚さは \(t-u\)(\(t \gt u \gt 0\))。面Ⅰと面Ⅱを横切る間(鉛直距離はどちらも \(t\))の光路長を比べる。
① 経路1(板1を透過):面Ⅰから面Ⅱまで、すべてガラス中を距離 \(t\) 進む。屈折率 \(n\) の媒質中の光路長は (屈折率)×(距離) なので、
$$L_1 = n \times t = nt$$② 経路2(板2を透過):面Ⅰから始めて、ガラス中を \(t-u\)、その先は真空(屈折率1)を \(u\) 進んで面Ⅱに達する。よって、
$$L_2 = n(t-u) + 1\cdot u = nt - nu + u = nt - (n-1)u$$③ 差を取る:経路1が経路2よりどれだけ長いか。
$$L_1 - L_2 = nt - \bigl\{\,nt - (n-1)u\,\bigr\} = (n-1)u$$具体的な数値で確認:\(n=1.50\)、\(u=2.0\times10^{-7}\) m とすれば、
$$L_1 - L_2 = (1.50-1)\times 2.0\times10^{-7} = 0.50\times 2.0\times10^{-7} = 1.0\times10^{-7}\ \text{m}$$すなわち 100 nm だけ経路1が長い。ガラスを「真空より \((n-1)\) 倍だけ余分に光路を稼ぐ媒質」とみなす考え方は、次の設問(5)以降の基礎になる。
媒質中では光の速さが \(\dfrac{c}{n}\) に遅くなり、波長も \(\dfrac{\lambda}{n}\) に縮む。同じ実距離 \(L\) を進む間に通る「波の数」は媒質中の方が \(n\) 倍多い。干渉では波の数(=位相)が効くので、実距離 \(L\) の代わりに光路長 \(nL\) を使う。経路2は \(u\) の区間が真空(\(n=1\))なので、その分だけ波の数が少なく、光路が短くなる。
光路長は「屈折率 × 実距離」で測る。厚さ \(u\) のガラスを真空に置き換えると、光路は \((n-1)u\) だけ短くなる。この \((n-1)u\) が、段差のあるガラスでの「隣り合う光の光路差」を生む源になる。
下面が階段状に刻まれたガラス。隣り合う段では、ガラスの厚さが少しずつ違う。段の間隔(斜面に沿った長さ)を \(d\)、傾斜を \(\theta\) とすると、隣の段との厚さの差は \(d\sin\theta\)。設問(4)の結果から、この厚さ差はガラスを真空に置き換えた分として光路差 \((n-1)\,d\sin\theta\) を生む。鉛直に透過した隣どうしの光が強めあうのは、この光路差が波長の整数倍のとき。
下面が間隔 \(d\)・傾斜 \(\theta\) の階段状に刻まれたガラス板(屈折率 \(n \gt 1\))に、上から鉛直に波長 \(\lambda\) の平行光を入射させる。隣り合う段の中央を鉛直に透過する2本の光を比べる(\(m\) は1以上の整数)。
① 隣の段とのガラス厚さの差:段の間隔は斜面に沿って \(d\)、傾斜が \(\theta\) なので、隣の段とのガラスの厚さ(鉛直方向)の差は
$$\Delta t = d\sin\theta$$② 光路差を立式する:厚い段の方は、薄い段に比べてガラスを \(\Delta t\) だけ余分に通る。設問(4)の結果より、ガラス \(\Delta t\) を通る光は真空を通る場合より \((n-1)\Delta t\) だけ光路が長い。よって隣どうしの光路差は
$$\Delta = (n-1)\,\Delta t = (n-1)\,d\sin\theta$$③ 鉛直透過光どうしには位相反転の差がない(どちらも空気→ガラス→空気と同じ経路)ので、強めあう条件は光路差が波長の整数倍:
$$d(n-1)\sin\theta = m\lambda \quad (m = 1, 2, 3, \ldots)$$選択肢では ㋒ \(\;d(n-1)\sin\theta = m\lambda\;\) が該当する。
具体的な数値で確認:\(n=1.50\)、\(d=3.0\times10^{-6}\) m、\(\lambda=6.0\times10^{-7}\) m のとき、\(m=1\) で強めあう傾斜 \(\theta\) を求める。
$$\sin\theta = \frac{m\lambda}{d(n-1)} = \frac{1\times 6.0\times10^{-7}}{3.0\times10^{-6}\times 0.50} = \frac{6.0\times10^{-7}}{1.5\times10^{-6}} = 0.40$$ $$\theta = \sin^{-1}(0.40) \fallingdotseq 23.6^\circ$$このような傾斜なら、鉛直に抜けた隣どうしの光が \(m=1\) で強めあう。
階段の段差を断面で見ると、間隔 \(d\) を斜辺、傾斜角 \(\theta\) とする直角三角形ができる。隣の段との「高さの違い(=ガラス厚さの違い)」はこの斜辺に対する対辺なので \(d\sin\theta\)。もし \(d\) を水平方向の間隔と読むと厚さ差は \(d\tan\theta\) になるが、本問の図5では \(d\) は斜面に沿った間隔なので \(d\sin\theta\) が正しい(選択肢に \(\sin\theta\) があることもこれを裏づける)。
階段状ガラスは回折格子と同じ働きをする。隣り合う光の光路差は「厚さ差 \(d\sin\theta\)」を「光路差 \((n-1)d\sin\theta\)」に直して考える。強めあいは光路差 = \(m\lambda\)。
鉛直方向(\(\alpha=0\))では設問(5)の条件で \(m\) 次の強めあいが起きている。少し斜め(角 \(\alpha\))を見ると、隣の段から出た光どうしには、段の横ずれのぶん新たな光路差が加わる。鉛直の光路差はそのままに、この横ずれの光路差がちょうど1波長分増えると、次の(\(m+1\) 次の)強めあいが斜め方向に現れる。それが最小の正の角 \(\alpha\)。
鉛直からの微小角 \(\alpha\) の方向に進む透過光を考える。設問(5)の条件 \(d(n-1)\sin\theta = m\lambda\) はそのまま満たされている。
① 横ずれによる追加の光路差:隣り合う段の出射点は、斜面に沿った間隔 \(d\) に対し、水平方向には \(d\cos\theta\) だけずれている。観測方向が鉛直から角 \(\alpha\) 傾くと、この横ずれ \(d\cos\theta\) によって隣どうしの光に新たな光路差が生じる:
$$\Delta_\alpha = d\cos\theta \cdot \sin\alpha$$② 強めあいの全条件:鉛直方向の光路差 \((n-1)d\sin\theta\) に、この \(\Delta_\alpha\) を加えた合計が波長の整数倍であればよい:
$$(n-1)d\sin\theta + d\cos\theta\,\sin\alpha = M\lambda \quad (M = \text{整数})$$③ 最小の正の \(\alpha\) を求める:\(\alpha=0\) では \((n-1)d\sin\theta = m\lambda\) で \(M=m\)。次の強めあいは \(M=m+1\) のとき。差を取ると、
$$d\cos\theta\,\sin\alpha = (m+1)\lambda - m\lambda = \lambda$$ $$\sin\alpha = \frac{\lambda}{d\cos\theta}$$\(\alpha\) は微小角なので \(\sin\alpha \fallingdotseq \alpha\) とすると、
$$\alpha_\mathrm{min} \fallingdotseq \frac{\lambda}{d\cos\theta}$$具体的な数値で確認:\(d=3.0\times10^{-6}\) m、\(\theta=23.6^\circ\)(\(\cos\theta\fallingdotseq0.917\))、\(\lambda=6.0\times10^{-7}\) m のとき:
$$\alpha_\mathrm{min} \fallingdotseq \frac{6.0\times10^{-7}}{3.0\times10^{-6}\times 0.917} = \frac{6.0\times10^{-7}}{2.75\times10^{-6}} \fallingdotseq 0.218\ \text{rad}$$約 12.5°。確かに小さい正の角で次の明るい方向が現れる(回折格子の隣の次数に相当)。
この装置は、出射点が水平方向に間隔 \(d\cos\theta\) で並んだ回折格子とみなせる。通常の回折格子の式 \(d'\sin\alpha = M\lambda\)(\(d'\) は格子間隔)で \(d' = d\cos\theta\) とおいたものに、鉛直透過分のオフセット \((n-1)d\sin\theta=m\lambda\) が加わっている。鉛直方向(\(m\) 次)から1次ずれた方向が、最小の \(\alpha\)。
斜め方向の干渉では、鉛直の光路差はそのまま残し、横ずれ \(d\cos\theta\) による追加光路差 \(d\cos\theta\sin\alpha\) を足す。次の強めあいは追加分が1波長になるとき。微小角では \(\sin\alpha\fallingdotseq\alpha\)。
はじめ波長 \(\lambda\) では \(m\) 次の強めあいが鉛直方向に出ていた。波長を \(\lambda+\Delta\lambda\) に少し伸ばすと、同じ \(m\) 次の強めあいの方向が鉛直から微小角 \(\beta\) だけずれる。鉛直方向の光路差は波長に関係なく \(m\lambda\) のままだが、必要な総光路差は \(m(\lambda+\Delta\lambda)\) に増える。その差ぶんを、横ずれによる光路差 \(d\cos\theta\sin\beta\) が埋める。これが分光器(回折格子)が色を分ける仕組み。
設問(5)の条件が満たされた状態(鉛直方向に \(m\) 次の強めあい)から、波長だけを \(\lambda\to\lambda+\Delta\lambda\)(\(\Delta\lambda \gt 0\))に変える。屈折率 \(n\) は変わらない。鉛直方向で強めあっていた光が微小角 \(\beta\) の方向へ移ったとする。
① 変化前(波長 \(\lambda\)、鉛直方向):設問(5)より、
$$(n-1)d\sin\theta = m\lambda \quad\cdots(\text{ア})$$② 変化後(波長 \(\lambda+\Delta\lambda\)、角 \(\beta\) 方向):設問(6)と同じく、横ずれ \(d\cos\theta\) による追加光路差 \(d\cos\theta\sin\beta\) が加わり、同じ \(m\) 次の強めあいを保つ条件は
$$(n-1)d\sin\theta + d\cos\theta\,\sin\beta = m(\lambda + \Delta\lambda) \quad\cdots(\text{イ})$$③ (イ) − (ア) を計算する:左辺どうし、右辺どうしを引くと \((n-1)d\sin\theta\) と \(m\lambda\) が消えて、
$$d\cos\theta\,\sin\beta = m(\lambda+\Delta\lambda) - m\lambda = m\,\Delta\lambda$$\(\beta\) は微小角なので \(\sin\beta \fallingdotseq \beta\) とすると、求める関係は
$$\beta \fallingdotseq \frac{m\,\Delta\lambda}{d\cos\theta}$$具体的な数値で確認:\(m=1\)、\(d=3.0\times10^{-6}\) m、\(\theta=23.6^\circ\)(\(\cos\theta\fallingdotseq0.917\))、\(\Delta\lambda=1.0\times10^{-8}\) m(10 nm 長くする)のとき:
$$\beta \fallingdotseq \frac{1\times 1.0\times10^{-8}}{3.0\times10^{-6}\times 0.917} = \frac{1.0\times10^{-8}}{2.75\times10^{-6}} \fallingdotseq 3.6\times10^{-3}\ \text{rad}$$約 0.21°。波長をわずかに変えるだけで明線の方向が測定可能なほど動くので、この装置で波長(色)を精密に測れる。次数 \(m\) が大きいほど \(\beta\) も大きく、分解能が上がる。
(イ)式を \(\beta\) について微小量で考えると、\(d\cos\theta\,\dfrac{d\beta}{d\lambda} = m\) すなわち \(\dfrac{d\beta}{d\lambda} = \dfrac{m}{d\cos\theta}\)。これは回折格子の角分散そのもので、波長変化に対する明線方向の感度を表す。本問の答え \(\beta = \dfrac{m\Delta\lambda}{d\cos\theta}\) は、この角分散に \(\Delta\lambda\) をかけた量にほかならない。次数 \(m\) が大きいほど、また格子間隔 \(d\cos\theta\) が小さいほど分散が大きく、分光器の分解能が高い。
波長変化による明線の移動は、変化前後の強めあい条件を引き算すると一気に出る。共通項 \((n-1)d\sin\theta\) が消え、\(d\cos\theta\sin\beta = m\Delta\lambda\) が残る。これが回折格子で「色が分かれる」原理。