熱気球の浮力と理想気体の状態方程式を組み合わせた問題です。前半(設問1〜3)は気球内部の空気を加熱して浮力を得る過程、後半(設問4〜7)は乾燥空気の断熱変化と水蒸気の凝結潜熱による温度変化を扱います。
この問題は状態方程式 → 浮力 → 断熱変化 → 相変化と、熱力学の主要テーマが一連の流れで出題されています。気球底部が開放(等圧)であることが全体の鍵。内部圧力は常に外気圧 \(P\) に等しく、加熱による変化は体積膨張(=密度低下)として現れます。
気球内の空気は外気と同じ圧力 \(P\) 、温度 \(T_0\) で体積 \(V_b\) を占めています。理想気体の状態方程式で物質量を求め、モル質量 \(A\) をかければ質量が出ます。気球の底は開放されているので、内部圧力は常に外気圧と等しい点がポイントです。
気球内の空気は温度 \(T_0\)、圧力 \(P\)(外気と等しい)の理想気体(モル質量 \(A\))で、体積 \(V_b\) を占めています。状態方程式を適用します。
物質量を \(n\) とすると \(m = nA\) なので:
$$PV_b = nRT_0 = \frac{m}{A}RT_0$$\(m\) について解くと:
$$m = \frac{PAV_b}{RT_0}$$気球内空気の密度 \(\rho\) は:
$$\rho = \frac{m}{V_b} = \frac{PA}{RT_0}$$温度が高いほど密度は低くなり、これが浮力の源です。密度は温度に反比例します。
気球底部が開放されているので、内部圧力は常に外気圧 \(P\) に等しい。加熱しても圧力は変わらず、体積が膨張して密度が下がります。この「等圧条件」を見逃さないこと。
浮力はアルキメデスの原理に従い、「気球が押しのけた外気の重さ」に等しくなります。気球の体積が \(V_b\) なので、外気の密度 \(\rho_{\text{ext}}\) を使えば浮力が求まります。離陸条件は「浮力 = ゴンドラ+内部空気の全重量」です。
浮力 \(F\) は気球が排除した外気の重さに等しい(アルキメデスの原理):
$$F = \rho_{\text{ext}} \cdot g \cdot V_b$$外気の密度は設問(1)と同じ形で:
$$\rho_{\text{ext}} = \frac{PA}{RT_0}$$よって浮力は:
$$F = \frac{PA}{RT_0} \cdot g \cdot V_b = \frac{PAV_bg}{RT_0}$$離陸の瞬間の力のつりあいを考えます。内部温度を \(T_b\) とすると、内部空気の質量は \(m_{\text{int}} = \frac{PAV_b}{RT_b}\) です。離陸条件は:
$$F = (M + m_{\text{int}})g$$ $$\frac{PAV_bg}{RT_0} = Mg + \frac{PAV_bg}{RT_b}$$整理すると:
$$\frac{PAV_b}{RT_0} - \frac{PAV_b}{RT_b} = M$$ $$\frac{PAV_b}{R}\left(\frac{1}{T_0} - \frac{1}{T_b}\right) = M$$離陸温度 \(T_b\) について解くと:
$$\frac{1}{T_b} = \frac{1}{T_0} - \frac{MR}{PAV_b}$$ $$T_b = \frac{T_0}{1 - \dfrac{MRT_0}{PAV_b}}$$離陸条件 \(\frac{MRT_0}{PAV_b} < 1\) は、ゴンドラ質量 \(M\) が大きすぎると離陸できないことを意味します。分母 \(PAV_b\) が大きいほど(気球が大きいほど)離陸しやすくなります。
実際の熱気球では \(T_b \fallingdotseq 370\)〜\(400\) K(約100〜130°C)で離陸します。
外気の密度 \(\rho_0 = \frac{PA}{RT_0}\) と内部空気の密度 \(\rho_b = \frac{PA}{RT_b}\) の差による正味の浮力は:
$$F_{\text{net}} = (\rho_0 - \rho_b) g V_b = \frac{PAV_bg}{R}\left(\frac{1}{T_0} - \frac{1}{T_b}\right)$$これがゴンドラの重さ \(Mg\) に等しいとき離陸します。
浮力は外気の密度 × 体積 × g で決まり、内部温度には依存しません。温度が変わるのは内部空気の重さです。「浮力 − 全重量 > 0」で離陸します。
気球底部が開放されているので、加熱は定圧過程です。定圧比熱 \(C\)(単位質量あたり)を使って \(Q = mC\Delta T\) で熱量が求まります。ただし、加熱中に空気が底部から逃げ出すため、質量 \(m\) は加熱前の初期質量を使います。
気球底部は開放されているので、加熱過程は定圧変化です。単位質量あたりの定圧比熱を \(C\) とすると、質量 \(m\) の空気を温度 \(T_0\) から \(T_b\) まで加熱するのに必要な熱量は:
$$Q = mC(T_b - T_0)$$設問(1)の結果 \(m = \frac{PAV_b}{RT_0}\) と設問(2)の結果 \(T_b = \frac{T_0}{1 - \frac{MRT_0}{PAV_b}}\) を代入すると:
$$T_b - T_0 = \frac{T_0}{1 - \frac{MRT_0}{PAV_b}} - T_0 = T_0 \left(\frac{1}{1 - \frac{MRT_0}{PAV_b}} - 1\right)$$ $$= T_0 \cdot \frac{\frac{MRT_0}{PAV_b}}{1 - \frac{MRT_0}{PAV_b}} = \frac{MRT_0^2}{PAV_b - MRT_0}$$よって:
$$Q = \frac{PAV_b}{RT_0} \cdot C \cdot \frac{MRT_0^2}{PAV_b - MRT_0} = \frac{MCPAV_bT_0}{PAV_b - MRT_0}$$もし気球が密閉容器なら定積過程となり、\(Q = mC_v(T_b - T_0)\) となります。定圧比熱 \(C_p > C_v\) なので、同じ温度変化に対して開放系の方が多くの熱量が必要です。これは、定圧加熱では膨張仕事 \(P\Delta V\) にもエネルギーが使われるためです。
2原子分子理想気体では \(C_p = \frac{7}{2}\frac{R}{A}\)、\(C_v = \frac{5}{2}\frac{R}{A}\) です。
底部開放 = 定圧過程なので定圧比熱 \(C\) を使います。密閉系なら定積比熱 \(C_v\) を使う点と混同しないこと。問題文で「単位質量あたりの定圧比熱」と指定されているので、\(Q = mC\Delta T\) がそのまま使えます。
乾燥空気は窒素 \(\text{N}_2\) と酸素 \(\text{O}_2\) が主成分で、どちらも2原子分子です。2原子分子の比熱比は \(\gamma = C_p/C_v = 7/5 = 1.4\) です。この値が断熱変化の公式に直接使われます。
空気のモル質量は \(A = 2.90 \times 10^{-2}\) kg/mol で、2原子分子として扱います。
設問(4):空気 1 kg の物質量は:
$$n = \frac{m}{A} = \frac{1}{2.90 \times 10^{-2}} \fallingdotseq 34.5 \text{ mol}$$2原子分子の自由度は 5(並進 3 + 回転 2)なので:
$$C_v = \frac{5}{2}R, \quad C_p = \frac{7}{2}R$$ $$\gamma = \frac{C_p}{C_v} = \frac{7}{5} = 1.4$$設問(5):初期状態 \(P_1 = 5.00 \times 10^5\) Pa で体積が変化する断熱過程を考えます。断熱変化ではポアソンの式が成り立ちます:
$$PV^\gamma = \text{const}, \quad TV^{\gamma - 1} = \text{const}$$体積が \(V_1\) から \(V_2\) に変化したとき、温度比は:
$$\frac{T_2}{T_1} = \left(\frac{V_1}{V_2}\right)^{\gamma - 1}$$\(\gamma - 1 = 2/5\) なので、体積比 \(V_2/V_1 = 1/2\) の場合(問題で与えられた比率から):
$$\frac{T_2}{T_1} = 2^{2/5} = \left(2^2\right)^{1/5} = 4^{1/5}$$問題で与えられた数値 \((1/2)^{2/5}\) の逆数として \(T_2 = T_1 \times 2^{2/5}\) が得られます。
断熱変化では以下の3つの関係式が同値です:
$$PV^\gamma = \text{const}$$ $$TV^{\gamma-1} = \text{const}$$ $$TP^{-\frac{\gamma-1}{\gamma}} = \text{const}$$問題の条件に合わせて最も便利な式を選びます。体積比が与えられていれば2番目、圧力比なら3番目が便利です。
\(P_1V_1^\gamma = P_2V_2^\gamma\) より:
$$P_2 = P_1\left(\frac{V_1}{V_2}\right)^\gamma = P_1 \times 2^{7/5}$$理想気体の状態方程式 \(PV = nRT\) から:
$$T_2 = \frac{P_2V_2}{nR} = \frac{P_1 \times 2^{7/5} \times V_1/2}{nR} = T_1 \times 2^{7/5 - 1} = T_1 \times 2^{2/5}$$\(\gamma = 7/5\) は2原子分子の基本。断熱膨張では温度が下がり、断熱圧縮では温度が上がります。これが上昇気流で雲ができる理由(断熱膨張 → 冷却 → 水蒸気凝結)につながります。
断熱膨張で冷えた空気が飽和状態に達すると、水蒸気が凝結(液化)します。凝結の際に潜熱が放出され、これが周囲の空気を温めます。実際の大気中では、この潜熱放出が積乱雲の発達エネルギー源になっています。
設問(6):水蒸気が凝結する際に放出される潜熱を求めます。凝結する水蒸気の質量を \(m_w = 5.00 \times 10^{-3}\) kg、蒸発の潜熱を \(L = 2.80 \times 10^6\) J/kg とすると:
$$Q = m_w L = 5.00 \times 10^{-3} \times 2.80 \times 10^6 = 1.40 \times 10^4 \text{ J}$$この熱が空気 \(m_{\text{air}} = 1\) kg(定圧比熱 \(C_p\))を温めます。温度上昇 \(\Delta T\) は:
$$\Delta T = \frac{Q}{m_{\text{air}} C_p} = \frac{m_w L}{m_{\text{air}} C_p}$$2原子分子の単位質量あたりの定圧比熱は \(C_p = \frac{7R}{2A}\) です。数値を代入すると:
$$C_p = \frac{7 \times 8.31}{2 \times 2.90 \times 10^{-2}} = \frac{58.17}{0.0580} \fallingdotseq 1.00 \times 10^3 \text{ J/(kg\cdot K)}$$ $$\Delta T = \frac{1.40 \times 10^4}{1.00 \times 10^3} = 14.0 \text{ K}$$設問(7):設問(5)で求めた断熱膨張後の温度を \(T_1\) とすると、凝結後の最終温度は:
$$T_{\text{final}} = T_1 + \Delta T = T_1 + 14.0 \text{ K}$$設問(5)の結果を用いて最終温度が確定します。断熱膨張だけなら \(T_1\) まで下がりますが、凝結潜熱により 14.0 K だけ温度が回復します。
実際の大気では、水蒸気が凝結しない場合の温度低下率を乾燥断熱減率(約 9.8 K/km)、凝結が起きている場合を湿潤断熱減率(約 5〜6 K/km)と呼びます。
湿潤断熱減率が乾燥断熱減率より小さいのは、まさにこの問題で計算したように、凝結潜熱が放出されて温度低下を緩和するためです。この差が積乱雲の急速な成長を引き起こします。
定圧条件で凝結潜熱がすべて空気の加温に使われるとすると:
$$m_w L = m_{\text{air}} C_p \Delta T$$数値を代入:
$$5.00 \times 10^{-3} \times 2.80 \times 10^6 = 1.00 \times 1.00 \times 10^3 \times \Delta T$$ $$\Delta T = \frac{1.40 \times 10^4}{1.00 \times 10^3} = 14.0 \text{ K}$$断熱膨張で冷えた空気が凝結潜熱で部分的に温まる。これが「湿潤断熱過程」の本質です。
凝結潜熱 \(Q = m_w L\) を空気の熱容量 \(m_{\text{air}} C_p\) で割ると温度上昇が求まります。大気中の雲の形成過程の本質は「断熱膨張による冷却 → 飽和 → 凝結 → 潜熱放出 → 温度上昇」の連鎖です。