水平面と斜面の交線を \(x\) 軸、斜面を登る向きを \(y\) 軸とする座標系で、摩擦のある斜面上の運動を一貫して扱う総合問題です。座標系が「斜面に貼り付いた2次元平面」であることに最後まで気をつけるのがカギです。
斜面を強く押し付けるのは、重力のうち「斜面に垂直な成分」だけ。斜面が急になるほど押し付ける力は弱まり、\(\theta\to 90^\circ\)(垂直な壁)では押し付け \(0\)。だから \(N\) には \(\cos\theta\) が付く。
質点にはたらく力は、重力 \(mg\)(鉛直下向き)、垂直抗力 \(N\)(斜面に垂直)、摩擦力 \(f\)(斜面に沿う)の3つ。斜面に垂直な向きでは摩擦力は寄与しないので、力のつり合いを考えると次の関係になる。
重力を「斜面に垂直な成分」と「斜面に沿う成分」に分解すると、斜面に垂直な成分は \(mg\cos\theta\) である。垂直方向は質点が動かない(斜面にめり込まない・浮かない)ので、つり合いの式は次のとおり。
$$N - mg\cos\theta = 0$$よって、
$$N = mg\cos\theta$$重力ベクトルと「斜面に垂直な方向」のなす角が \(\theta\) になる。これは斜面の傾斜角 \(\theta\) と、図形的に等しい角(平行線の錯角)。垂直方向は重力の \(\cos\theta\) 倍、斜面方向は \(\sin\theta\) 倍。\(\theta\to 0^\circ\)(水平)で \(N\to mg\)、\(\theta\to 90^\circ\) で \(N\to 0\) となることで検算できる。
斜面に垂直な方向には摩擦力は成分を持たないので、\(N=mg\cos\theta\) は摩擦の有無によらず成り立つ。以降のすべての設問で \(\mu N=\mu mg\cos\theta\)、\(\mu'N=\mu' mg\cos\theta\) として使う。
斜面を少しずつ急にしていくと、ある角度でついに滑り出す。その「滑り出す直前」では、ずり下げようとする重力成分 \(mg\sin\theta\) と、踏みとどまる最大静止摩擦 \(\mu N\) がちょうど等しい。この境目の角が \(\theta_0\)。
傾斜角を \(\theta_0\) まで上げたとき、質点はぎりぎり静止している。このとき斜面に沿う向きの力は、ずり下げる重力成分 \(mg\sin\theta_0\) と、それを支える摩擦力がつり合っている。摩擦力は最大静止摩擦 \(\mu N\) に達している(これ以上角度を上げると滑り出す)。斜面に沿う向きのつり合いは次のとおり。
$$mg\sin\theta_0 = \mu N$$設問(1)より \(N=mg\cos\theta_0\) を代入する。
$$mg\sin\theta_0 = \mu \, mg\cos\theta_0$$両辺を \(mg\cos\theta_0\) で割ると \(m,g\) が消え、
$$\mu = \frac{\sin\theta_0}{\cos\theta_0} = \tan\theta_0$$\(\theta_0\) は 摩擦角 と呼ばれ、\(\mu=\tan\theta_0\) という関係は質量 \(m\) や重力加速度 \(g\) によらない。粉や粒を積み上げたときの「山の斜面の角度(安息角)」もこの摩擦角で決まる。
静止の限界では摩擦力が最大静止摩擦 \(\mu N\) ちょうど。\(\mu=\tan\theta_0\) は以降で「\(\theta>\theta_0\) なら必ず滑る(\(\tan\theta>\mu>\mu'\))」という不等式の根拠になる。
斜面を登っている最中は、ずり下げる重力成分も、運動を妨げる動摩擦も、どちらも同じ「下り向き(\(-y\))」にはたらく。だから減速はとても大きい。2つの「ブレーキ」が協力する状態。
\(t=0\) に \(\vec v_0=(0,u)\)(\(y\) 軸正方向、つまり斜面を登る向き)で射出する。登っている間、質点の速度は \(+y\) 向きなので、動摩擦力は速度と逆向き、すなわち \(-y\) 向きにはたらく。\(y\) 軸方向(斜面方向)の運動方程式を立てる。重力の斜面成分 \(mg\sin\theta\) も \(-y\) 向き。
$$ma_1 = -mg\sin\theta - \mu' N$$設問(1)の \(N=mg\cos\theta\) を代入する。
$$ma_1 = -mg\sin\theta - \mu' mg\cos\theta$$両辺を \(m\) で割ると、加速度の \(y\) 成分は次のようになる。
$$a_1 = -g(\sin\theta + \mu'\cos\theta)$$重力も摩擦力(\(\propto N=mg\cos\theta\))も、どちらも \(m\) に比例する。一方で加速度は力を \(m\) で割って得るので、結局 \(m\) は約分されて消える。これは「ガリレオの落体の法則」と同じ構造で、運動の加速度は質量によらない。
登りでは「重力成分」と「摩擦」がともに減速側(\(-y\))。よって \(|a_1|=g(\sin\theta+\mu'\cos\theta)\) は大きい。これが設問(7)で \(|a_1|>|a_2|\) となる根拠。
登りは「初速 \(u\)、一定の減速 \(a_1\)」の等加速度運動。最高点は速度がゼロになる瞬間。鉛直投げ上げと同じ構造なので、\(Y=\tfrac{1}{2}|a_1|t_1^2\) というおなじみの形になる。
登りは初速度 \(u\)、加速度 \(a_1\)(負)の等加速度運動。\(y\) 座標は等加速度運動の公式で表せる。
$$y = ut + \frac{1}{2}a_1 t^2$$最高点は速度がゼロになる時刻 \(t_1\)。速度の式 \(v=u+a_1 t\) より \(t_1\) では \(u+a_1 t_1=0\)、すなわち \(u=-a_1 t_1\)。これを最高点の \(y\) 座標 \(Y\) に代入する。
$$Y = u t_1 + \frac{1}{2}a_1 t_1^2 = (-a_1 t_1)t_1 + \frac{1}{2}a_1 t_1^2$$整理すると、
$$Y = -a_1 t_1^2 + \frac{1}{2}a_1 t_1^2 = -\frac{1}{2}a_1 t_1^2$$\(a_1<0\) なので \(Y>0\) となり、確かに正の高さを表す。
\(v\)-\(t\) グラフは \((0,u)\) から \((t_1,0)\) へ下がる直線。移動距離 \(Y\) はこの三角形の面積。
$$Y = \frac{1}{2}\times t_1 \times u = \frac{1}{2}t_1(-a_1 t_1) = -\frac{1}{2}a_1 t_1^2$$同じ結果が得られる。グラフ面積で考えると暗算的に速い。
\(u=-a_1 t_1\) という「速度ゼロ条件」を使うのが要。\(Y\) を \(a_1,t_1\) だけで表せる形にしておくと、設問(6)(\(a_2,t_2\) 版)と等値して設問(7)(8) に直結する。
下りでは速度が \(-y\) 向きなので、動摩擦は逆の \(+y\)(上り向き)にはたらき、ずり落ちを邪魔する。重力成分(下げる)と摩擦(支える)が引き算になるので、加速はゆるやか。登りより「弱い加速」になる。
最高点でいったん停止した後、その場にとどまらず滑り落ちた(\(\theta>\theta_0\) だから滑る)。下っている間、速度は \(-y\) 向きなので、動摩擦力は逆の \(+y\) 向きにはたらく。重力成分 \(mg\sin\theta\) は \(-y\) 向きのまま。\(y\) 軸方向の運動方程式は次のとおり。
$$ma_2 = -mg\sin\theta + \mu' N$$\(N=mg\cos\theta\) を代入する。
$$ma_2 = -mg\sin\theta + \mu' mg\cos\theta$$両辺を \(m\) で割ると、
$$a_2 = -g(\sin\theta - \mu'\cos\theta)$$\(\theta>\theta_0\) より \(\tan\theta>\mu>\mu'\)、つまり \(\sin\theta>\mu'\cos\theta\) なので \(a_2<0\)。確かに \(-y\) 向き(滑り落ちる向き)に加速する。
\(a_1=-g(\sin\theta+\mu'\cos\theta)\)、\(a_2=-g(\sin\theta-\mu'\cos\theta)\)。違いは摩擦項の符号だけ。動摩擦は必ず速度と逆向きなので、進行方向が反転すると摩擦の向きも反転する。\(|a_1|=g(\sin\theta+\mu'\cos\theta)>g(\sin\theta-\mu'\cos\theta)=|a_2|\)。
下りは重力成分から摩擦を引くので加速がゆるやか。\(\mu'\to\tan\theta\) に近づけると \(a_2\to 0\)(ほとんど滑らない)になることをシムのスライダーで確認できる。
下りは「最高点で静止 → 距離 \(Y\) だけ滑り落ちる」運動。初速ゼロからの等加速度で距離 \(Y\) を時間 \(t_2\) で進む。登りと同じ \(\tfrac{1}{2}\times(\text{加速度})\times(\text{時間})^2\) の形になる。
下りは、最高点(\(y=Y\))で速度ゼロからスタートし、加速度 \(a_2\)(負)で時間 \(t_2\) かけて出発点 \(y=0\) に戻る運動。等加速度運動の式で、出発点(\(y=0\))から見た最高点(\(y=Y\))までの変位を考える。下る向きへの変位は \(\tfrac{1}{2}a_2 t_2^2\)(負)で、これが \(0-Y=-Y\) に等しい。
$$0 - Y = \frac{1}{2}a_2 t_2^2$$これを \(Y\) について解くと、
$$Y = -\frac{1}{2}a_2 t_2^2$$\(a_2<0\) なので \(Y>0\) となり、設問(4) と同じく正の高さを表す。
下りの速さは \(0\) から \(|a_2|t_2\) まで直線的に増える。移動距離 \(Y\) はこの三角形の面積。
$$Y = \frac{1}{2}\times t_2 \times |a_2|t_2 = \frac{1}{2}|a_2|t_2^2 = -\frac{1}{2}a_2 t_2^2$$設問(4) と(6) は同じ \(Y\) を別の量で表したもの。だから \(-\tfrac{1}{2}a_1 t_1^2=-\tfrac{1}{2}a_2 t_2^2\)、すなわち \(|a_1|t_1^2=|a_2|t_2^2\) が成り立つ。これが設問(7)(8) の出発点。
同じ高さ \(Y\) を登って降りる。登りは「重力+摩擦」で減速が激しい → 加速度の大きさが大きい → すぐ止まる(時間が短い)。下りは「重力-摩擦」でゆっくり加速 → 時間がかかる。だから \(|a_1|>|a_2|\)、\(t_1\lt t_2\)。
まず加速度の大きさを比べる。設問(3)(5) より、
$$|a_1| = g(\sin\theta + \mu'\cos\theta), \qquad |a_2| = g(\sin\theta - \mu'\cos\theta)$$\(\mu'>0\) かつ \(\cos\theta>0\) なので、明らかに次が成り立つ。
$$|a_1| > |a_2|$$次に時間を比べる。設問(4)(6) より \(Y\) は共通だから、両式を等値する。
$$-\frac{1}{2}a_1 t_1^2 = -\frac{1}{2}a_2 t_2^2 \quad\Rightarrow\quad |a_1|\,t_1^2 = |a_2|\,t_2^2$$これより \(\dfrac{t_1^2}{t_2^2} = \dfrac{|a_2|}{|a_1|} < 1\)。よって \(t_1 < t_2\)。
したがって、\(t_1 < t_2\) かつ \(|a_1| > |a_2|\) を満たすのは選択肢 (イ)。
同じ距離 \(Y\) を進むのに、登りは「強い減速」で短時間で速度ゼロに達し、下りは「弱い加速」でゆっくり距離を稼ぐ。摩擦が大きいほど \(|a_2|\) が小さくなり \(t_2\) が長くなる(シムで \(\mu'\) を大きくすると \(t_2\) の棒が伸びる)。摩擦のない場合(\(\mu'=0\))は \(|a_1|=|a_2|\)、\(t_1=t_2\) で(ウ)になる。
キー関係は\(|a_1|t_1^2=|a_2|t_2^2\)(同じ \(Y\))。加速度が大きいほど時間は短い。これを次の設問(8) で比 \(r\) として定量化する。
時間比 \(r\) は加速度の比だけで決まる。同じ高さなら「速い方が短時間」。\(r=\sqrt{|a_2|/|a_1|}\) という平方根の形になり、摩擦 \(\mu'\) が大きいほど \(r\) は小さく(登りがより短く)なる。
設問(7) で導いた \(|a_1|t_1^2=|a_2|t_2^2\) を \(r=t_1/t_2\) について解く。
$$\frac{t_1^2}{t_2^2} = \frac{|a_2|}{|a_1|} \quad\Rightarrow\quad r = \frac{t_1}{t_2} = \sqrt{\frac{|a_2|}{|a_1|}}$$ここに \(|a_1|=g(\sin\theta+\mu'\cos\theta)\)、\(|a_2|=g(\sin\theta-\mu'\cos\theta)\) を代入する。\(g\) は約分される。
$$r = \sqrt{\frac{g(\sin\theta - \mu'\cos\theta)}{g(\sin\theta + \mu'\cos\theta)}} = \sqrt{\frac{\sin\theta - \mu'\cos\theta}{\sin\theta + \mu'\cos\theta}}$$分子・分母を \(\cos\theta\)(正)で割って \(\tan\theta\) で表すと、よりすっきりした形になる。
$$r = \sqrt{\frac{\tan\theta - \mu'}{\tan\theta + \mu'}}$$\(\theta>\theta_0\)(滑り落ちる条件)より \(\tan\theta>\mu>\mu'\) なので根号の中は正で、\(0\lt r<1\)。摩擦がなければ(\(\mu'=0\))\(r=1\)(登りと下りが対称)、\(\mu'\to\tan\theta\) で \(r\to 0\)(下りが極端に長くなる)。グラフのドラッグでこの極限が確認できる。
時間比は加速度比の平方根。\(\sin,\cos\) のまま答えても正しいが、\(\tan\theta\) で整理すると \(\mu'\) との比較が見やすい。
出発点に戻ったとき高さは同じ(位置エネルギーの変化ゼロ)。だから「失われた力学的エネルギー」=「最初の運動エネルギー-戻ってきたときの運動エネルギー」。戻りの速さは初速の \(r\) 倍になることが効いてくる。
出発点に戻ったときの速さを \(v_f\) とする。まず \(v_f\) を求める。下りは初速ゼロから時間 \(t_2\)、加速度 \(a_2\) なので \(v_f=|a_2|t_2\)。登りは \(u=|a_1|t_1\)。両者の比を取る。
$$\frac{v_f}{u} = \frac{|a_2|\,t_2}{|a_1|\,t_1}$$ここで設問(7) の \(|a_1|t_1^2=|a_2|t_2^2\) より \(\dfrac{|a_2|}{|a_1|}=\dfrac{t_1^2}{t_2^2}=r^2\)。これと \(\dfrac{t_2}{t_1}=\dfrac{1}{r}\) を使う。
$$\frac{v_f}{u} = \frac{|a_2|}{|a_1|}\cdot\frac{t_2}{t_1} = r^2 \cdot \frac{1}{r} = r \quad\Rightarrow\quad v_f = r\,u$$出発点に戻ったとき高さは元と同じ(位置エネルギーの変化はゼロ)なので、失われた力学的エネルギーは運動エネルギーの減少分に等しい。
$$W = \frac{1}{2}mu^2 - \frac{1}{2}mv_f^2 = \frac{1}{2}mu^2 - \frac{1}{2}m(ru)^2$$整理して、
$$W = \frac{1}{2}mu^2(1 - r^2)$$仮に \(m=2.0\ \text{kg}\)、\(u=6.0\ \text{m/s}\)、\(\theta=60^\circ\)、\(\mu'=0.30\) としてみる。まず時間比 \(r\) を求める。\(\tan 60^\circ=1.73\) なので、
$$r = \sqrt{\frac{\tan\theta - \mu'}{\tan\theta + \mu'}} = \sqrt{\frac{1.73 - 0.30}{1.73 + 0.30}} = \sqrt{\frac{1.43}{2.03}} \fallingdotseq 0.84$$初めの運動エネルギーは、
$$\frac{1}{2}mu^2 = \frac{1}{2}\times 2.0 \times 6.0^2 = 36 \text{ J}$$よって摩擦で失われる力学的エネルギーは、
$$W = \frac{1}{2}mu^2(1 - r^2) = 36 \times (1 - 0.84^2) \fallingdotseq 36 \times 0.29 \fallingdotseq 10.4 \text{ J}$$戻ってきたときの運動エネルギーは \(36 - 10.4 = 25.6\) J、速さは \(v_f = ru = 0.84\times 6.0 \fallingdotseq 5.0\) m/s と確認できる。
動摩擦力の大きさは往復とも \(\mu' mg\cos\theta\) で一定。往復の全移動距離は \(2Y\)(斜面に沿う距離)。失われるエネルギーは摩擦力がした負の仕事の絶対値。
$$W = \mu' mg\cos\theta \times 2Y$$登りのエネルギー保存 \(\tfrac{1}{2}mu^2 = mgY\sin\theta + \mu' mgY\cos\theta\) から \(Y\) を消去すると、最終的に \(W=\tfrac{1}{2}mu^2(1-r^2)\) に一致する(\(r^2=\dfrac{\tan\theta-\mu'}{\tan\theta+\mu'}\) を代入して確認できる)。
カギは戻りの速さが \(v_f=ru\) という関係。\(r<1\) なので必ず \(W>0\)。摩擦がない(\(r=1\))なら \(W=0\)(エネルギー保存)と整合する。
斜め上方に射出すると、速度の向きは時々刻々変わる。重力成分はいつも「斜面を下る向き(\(-y\))」で一定だが、動摩擦はつねに速度と真逆を向くので、向きが速度と一緒に回る。だから摩擦項は単位ベクトル \(\vec v/|\vec v|\) に \(-\) を付けて表す。
斜面上の2次元運動を考える。質点にはたらく「斜面に沿う力」は2つ。
運動方程式 \(m\vec a(t) = \vec F\) は次のとおり。
$$m\vec a(t) = -mg\sin\theta\,\vec e_y - \mu' mg\cos\theta\,\frac{\vec v(t)}{|\vec v(t)|}$$両辺を \(m\) で割ると、加速度ベクトルが得られる。
$$\vec a(t) = -g\sin\theta\,\vec e_y - \mu' g\cos\theta\,\frac{\vec v(t)}{|\vec v(t)|}$$\(\vec v\) が \(+y\) 向き(\(\vec v/|\vec v|=\vec e_y\))なら \(\vec a=-g(\sin\theta+\mu'\cos\theta)\vec e_y\) で設問(3) と一致。\(-y\) 向き(\(\vec v/|\vec v|=-\vec e_y\))なら \(\vec a=-g(\sin\theta-\mu'\cos\theta)\vec e_y\) で設問(5) と一致する。ベクトル式は1次元の2式を1本にまとめたもの。
重力項は向きが \(-y\) で固定、摩擦項は速度の向きとともに回る。この「摩擦の向きが一定でない」ことが、次の設問(11) で軌跡が非対称になる原因。
摩擦がなければ斜方投射と同じ「左右対称の放物線」になる。だが摩擦は速度の向きと逆にはたらき、しかも速いとき(射出直後)ほど効く。そのため (1)山の高さは \(Y\) より低くなり、(2)登りの方が水平に長く、頂点が右寄り の非対称な形になる。
図3 のように斜め上方へ射出する。摩擦がなければ、\(x\) 方向は等速、\(y\) 方向は一定の減速(重力成分のみ)で、ちょうど左右対称な放物線(頂点が中央、最高点 \(=Y\))になる。摩擦が加わると次の2点が変わる。
(1) 最高点が \(Y\) より低くなる。 摩擦は運動中つねにエネルギーを奪う。設問(9) と同じく往復で力学的エネルギーが減るので、登れる高さは \(Y\) に届かない。
(2) 頂点が右(\(x\) 大)に寄り、登り側の水平距離が下り側より長くなる。 動摩擦は速度と逆向きで、速さが大きいほど効く。射出直後は速さが最大なので \(x\) 方向の減速が強くはたらき…と思いきや、軌跡全体では「登り(速い)区間で水平に大きく進み、下り(遅い)区間では水平移動が小さくなる」ため、頂点は中央より右側になる。数値積分(シミュレーション)で確かめると次のようになる。
| 項目 | 摩擦なし | 摩擦あり |
|---|---|---|
| 最高点の高さ | \(=Y\) | \(\lt Y\)(約 0.69 倍) |
| 頂点の x 位置 | 中央 | 中央より右 |
| 登りの水平距離 : 下りの水平距離 | 1 : 1 | 約 1.29 : 1(登りが長い) |
「頂点が \(Y\) より低く、頂点が右寄り(登りの水平距離が長い)」という特徴をもつのは選択肢 (キ) である。
摩擦がなければ \(x\) 方向は等速で、登りと下りに要する時間が等しく軌跡は左右対称。摩擦があると \(x\) 方向にも減速力 \(-\mu' g\cos\theta\,(v_x/|\vec v|)\) がはたらく。\(y\) 方向はもともと重力で強く減速されるので頂点までの時間が比較的短く、頂点を過ぎてからは速さが落ちて \(x\) の進みが鈍る。結果として、頂点に達するまでに横方向へ進む距離の方が、頂点以降に横方向へ進む距離より大きくなり、頂点の \(x\) 座標は全体の中点より右側に来る。微分方程式 \(\dfrac{d\vec v}{dt}=-g\sin\theta\,\vec e_y-\mu' g\cos\theta\,\dfrac{\vec v}{|\vec v|}\) を数値積分すると、このシムの曲線(実線)が描かれる。
最高点が \(Y\) に達する選択肢(中央が \(Y\) のもの)は、摩擦でエネルギーが失われる以上ありえない(消去)。左右対称な放物線も摩擦ありでは不適。頂点が左寄りの形は、射出直後に \(x\) 方向の進みが極端に小さいことを意味するが、実際は射出直後こそ速いので登りの水平距離は長い。よって頂点は右寄り(キ)が残る。
摩擦はエネルギーを奪う(頂点が下がる)と速度と逆向き=向きが回る(左右非対称になる)の2つの効果をもたらす。「対称な放物線」は摩擦ゼロのときだけ。シムの「摩擦なしと比較」で点線(対称)と実線(右寄り・低い)のずれを見比べよう。