断熱壁で囲んだシリンダーA(ヒーター付き)と、等温壁で囲んだシリンダーBを、なめらかなピストンで連結した系を扱う熱力学の総合問題です。前半は単独シリンダーAの定圧変化、後半は2つのシリンダーが連動する複合過程を考えます。
設定:シリンダーAは断熱壁で囲まれていますが、ピストンは外気圧 \(p_0\) を受けながらなめらかに動けます。ピストンが静止する条件は「気体Aの圧力 = 外気圧 \(p_0\)」なので、状態⓪→①は圧力 \(p_0\) 一定の定圧変化です。
立式:1モルの気体を定圧で加熱したとき、与える熱量と温度変化の関係は、定圧モル比熱 \(C_p=\dfrac{5}{2}R\) を用いて、
$$Q_{A1} = C_p (T_{A1} - T_0) = \frac{5}{2}R(T_{A1} - T_0)$$計算:\(T_{A1}\) について解きます。
$$\frac{5}{2}R(T_{A1} - T_0) = Q_{A1} \quad\Rightarrow\quad T_{A1} - T_0 = \frac{2Q_{A1}}{5R}$$ $$T_{A1} = T_0 + \frac{2Q_{A1}}{5R}$$たとえば \(T_0 = 300\) K, \(R = 8.31\) J/(mol·K), \(Q_{A1} = 1.0\times10^3\) J のとき:
$$T_{A1} = 300 + \frac{2 \times 1.0\times10^3}{5 \times 8.31} = 300 + \frac{2000}{41.6} \fallingdotseq 300 + 48 = 348 \text{ K}$$1000 J の熱を加えると、定圧では約 48 K だけ温度が上がることが分かります。
「断熱壁=定積」ではない。ピストンが自由に動くので、断熱壁で囲んでいても外気圧 \(p_0\) のもとでの定圧変化になる。定圧なら \(C_p=\frac{5}{2}R\) を使う。
設定:定圧変化で気体Aがした仕事は、問題文より \(W_{A1} = p_0(V_{A1} - V_0)\) で与えられます。これを \(R, T_0, T_{A1}\) で表します。
立式:1モルの理想気体の状態方程式 \(pV = RT\) を、状態⓪と状態①に適用します。
$$p_0 V_0 = R T_0, \qquad p_0 V_{A1} = R T_{A1}$$計算:仕事の式に代入して整理します。
$$W_{A1} = p_0 V_{A1} - p_0 V_0 = R T_{A1} - R T_0$$ $$W_{A1} = R(T_{A1} - T_0)$$定圧変化では \(p_0 V = RT\) の両辺の変化を取ると \(p_0\,\Delta V = R\,\Delta T\)(\(p_0\) 一定)。左辺がまさに定圧での仕事 \(W=p_0\Delta V\) なので、\(W = R\Delta T = R(T_{A1}-T_0)\) となります。1モルあたり「温度が 1 K 上がるごとに気体は \(R\fallingdotseq 8.31\) J の仕事をする」という意味です。
状態方程式 \(pV=RT\) を「\(pV\) を \(RT\) に置き換える道具」として使うと、体積が消えて温度だけの式になり見通しが良い。1モルなら定圧仕事は \(W = R\Delta T\)。
設定:設問(1)の \(T_{A1}-T_0=\dfrac{2Q_{A1}}{5R}\) と、設問(2)の \(W_{A1}=R(T_{A1}-T_0)\) を組み合わせます。
立式・計算:設問(2)の式に設問(1)の温度変化を代入します。
$$W_{A1} = R(T_{A1} - T_0) = R \cdot \frac{2Q_{A1}}{5R}$$\(R\) が約分されて、
$$W_{A1} = \frac{2}{5}Q_{A1}$$熱力学第一法則 \(Q_{A1}=\Delta U + W_{A1}\) より、内部エネルギー変化は
$$\Delta U = Q_{A1} - W_{A1} = Q_{A1} - \frac{2}{5}Q_{A1} = \frac{3}{5}Q_{A1}$$これは単原子分子の \(\Delta U = \frac{3}{2}R\Delta T = \frac{3}{2}R\cdot\frac{2Q_{A1}}{5R} = \frac{3}{5}Q_{A1}\) と一致します。定圧加熱では \(W:\Delta U = \frac{2}{5}:\frac{3}{5} = 2:3\)、これは \(R : \frac{3}{2}R\) の比に他なりません。
単原子分子の定圧加熱では、熱の \(\frac{2}{5}\) が仕事、\(\frac{3}{5}\) が内部エネルギー。\(C_p=\frac{5}{2}R\) の分母 5 が「\(\frac{2}{5}\)・\(\frac{3}{5}\)」の出どころ。
設定:シリンダーAとBは断面積が等しいピストン(剛体の連結棒つき)でつながり、床に固定されています。ピストンが右へ動いて気体Aが体積 \(\Delta V\) だけ膨張すると、気体Bは同じだけ圧縮されます。
立式:状態⓪では \(V_A = V_B = V_0\)。Aの増加分とBの減少分が等しいので、体積の総和は保存されます。
$$V_{A2} + V_{B2} = V_0 + V_0 = 2V_0$$さらに、状態②での測定結果 \(V_{A2} : V_{B2} = 3 : 1\) より \(V_{A2} = 3V_{B2}\)。これを代入します。
$$3V_{B2} + V_{B2} = 2V_0 \quad\Rightarrow\quad 4V_{B2} = 2V_0$$計算:
$$V_{B2} = \frac{2V_0}{4} = \frac{V_0}{2}$$連結棒は剛体で、左右のピストンの断面積が等しい(\(S\))。ピストンが右へ \(x\) だけ動くと、気体Aの体積は \(+Sx\)、気体Bの体積は \(-Sx\) 変化します。よって \(V_A + V_B\) の変化はゼロで、つねに初期値 \(2V_0\) に保たれます。中央の外気領域の体積は左右のピストンが同じ \(x\) だけ動くので変わりません。
連結ピストン問題の定石は「体積の和が一定」という拘束条件。断面積が等しいことが前提(違う場合は \(S_A\Delta x = -S_B\Delta x\) を別途立てる)。
立式(圧力の関係):ピストン(質量無視)にはたらく力のつり合いを考えます。気体Aは断面積 \(S\) のピストンを右へ \(p_{A2}S\) で押し、気体Bは左へ \(p_{B2}S\) で押します。中央の外気は左右のピストン面を等しい面積で押すので打ち消し合います。したがって、
$$p_{A2} S = p_{B2} S \quad\Rightarrow\quad p_{A2} = p_{B2}$$各気体の変化:
気体Bの等温変化から \(p_{B2} = \dfrac{p_0 V_0}{V_{B2}} = \dfrac{p_0 V_0}{V_0/2} = 2p_0\)。よって \(p_{A2} = p_{B2} = 2p_0\)。両気体が同じ最終圧力 \(2p_0\) に達するグラフを選びます。
連結ピストンの力のつり合い → \(p_{A2}=p_{B2}\) がグラフ選択の決め手。気体Bは等温なので \(pV=\) 一定の双曲線に必ず乗る。
立式:まず気体Aの状態②の圧力を求めます。設問(5)で示したように \(p_{A2}=p_{B2}\)、かつ気体Bは等温変化なので、
$$p_{B2} V_{B2} = p_0 V_0 \quad\Rightarrow\quad p_{B2} = \frac{p_0 V_0}{V_{B2}} = \frac{p_0 V_0}{V_0/2} = 2p_0$$よって \(p_{A2} = 2p_0\)。次に気体Aにボイル・シャルルの法則(状態方程式)を適用します。
$$\frac{p_{A2} V_{A2}}{T_{A2}} = \frac{p_0 V_0}{T_0}$$数値代入・計算:\(p_{A2}=2p_0\)、\(V_{A2}=\dfrac{3V_0}{2}\) を代入して \(T_{A2}\) について解きます。
$$T_{A2} = T_0 \cdot \frac{p_{A2} V_{A2}}{p_0 V_0} = T_0 \cdot \frac{2p_0 \cdot \dfrac{3V_0}{2}}{p_0 V_0} = T_0 \cdot \frac{3 p_0 V_0}{p_0 V_0} = 3T_0$$\(T_0 = 300\) K なら \(T_{A2} = 3 \times 300 = 900\) K。圧力 2 倍・体積 1.5 倍で温度はちょうど 3 倍になります(\(2 \times 1.5 = 3\))。
気体Bが「等温」であることが \(p_{B2}=2p_0\) を決め、それが力のつり合いで気体Aの圧力 \(p_{A2}=2p_0\) を決める。あとは気体Aの状態方程式で温度が \(3T_0\)。
立式:状態⓪→②で気体Aに熱力学第一法則を適用します。気体Aに与えた熱量 \(Q_{A2}\) は、内部エネルギー変化 \(\Delta U_A\) と気体Aがした仕事 \(W_{A2}\) に分配されます。
$$Q_{A2} = \Delta U_A + W_{A2}$$内部エネルギー変化 \(\Delta U_A\):気体Aは単原子分子理想気体なので、定積モル比熱は \(\dfrac{3}{2}R\)。温度は設問(6)より \(T_0 \to T_{A2}=3T_0\)。
$$\Delta U_A = \frac{3}{2}R(T_{A2} - T_0) = \frac{3}{2}R(3T_0 - T_0) = \frac{3}{2}R \cdot 2T_0 = 3RT_0$$計算:\(W_{A2}\) について解きます。
$$W_{A2} = Q_{A2} - \Delta U_A = Q_{A2} - 3RT_0$$気体Aは途中で複雑な変化をしますが、内部エネルギーは「始状態と終状態の温度だけ」で決まる状態量です。途中経路がどうであれ \(\Delta U_A = \frac{3}{2}R(T_{A2}-T_0)\) が使えます。これが第一法則を使う強みです。
単原子分子の内部エネルギーは \(U = \frac{3}{2}nRT\)。温度変化さえ分かれば \(\Delta U\) は経路によらず即座に出る。残りが仕事 \(W_{A2}=Q_{A2}-\Delta U_A\)。
立式(ピストンのエネルギー収支):ピストン(質量無視)は運動エネルギーをためないので、はたらく仕事の総和はゼロです。気体Aがピストンにした仕事 \(W_{A2}\) は、そのままピストンが気体Bにする仕事になります。中央の外気は左右のピストン面に等しい仕事をするため打ち消し合います(体積変化ゼロ)。よって、
$$W_{A2} = (\text{気体Bがされた仕事})$$気体Bの第一法則:気体Bは等温(\(T_0\) 一定)なので内部エネルギー変化はゼロ(\(\Delta U_B = 0\))。気体Bは外へ熱量 \(Q_{B2}\) を放出するので、Bが吸収した熱は \(-Q_{B2}\)。第一法則「\(Q = \Delta U + W_{\text{B が した仕事}}\)」より、
$$-Q_{B2} = 0 + (\text{気体Bがした仕事}) \quad\Rightarrow\quad (\text{気体Bがされた仕事}) = Q_{B2}$$したがって \(W_{A2} = Q_{B2}\)。計算:設問(7)の \(W_{A2} = Q_{A2} - 3RT_0\) と等しいので、
$$Q_{A2} - 3RT_0 = Q_{B2} \quad\Rightarrow\quad Q_{A2} - Q_{B2} = 3RT_0$$\(Q_{A2}-Q_{B2}\) は「系(A+B)に正味で入った熱」です。系全体では気体Bの内部エネルギーは変わらず(等温)、気体Aの内部エネルギーだけが増えます。さらにピストンは仕事をためず、系全体の体積変化はゼロ(外への正味の仕事ゼロ)なので、正味で入った熱はすべて気体Aの内部エネルギー増加 \(\Delta U_A = 3RT_0\) になります。
質量を無視できるピストンは「仕事の中継ぎ役」。\(W_{A2}=Q_{B2}\) が成り立つ。これと設問(7)を組み合わせると、難しそうな \(Q_{A2}-Q_{B2}\) が \(\Delta U_A=3RT_0\) に化ける。
立式(気体Bの等温圧縮の仕事):気体Bは温度 \(T_0\) 一定のまま体積が \(V_1=V_0\) から \(V_2=V_{B2}=\dfrac{V_0}{2}\) へ変化します。問題文で与えられた「等温変化で 1 モルの気体にされた仕事 \(RT_0\log\dfrac{V_1}{V_2}\)」を使います(ここで \(\log\) は問題の指定どおり \(e=2.71828\cdots\) を底とする自然対数 \(\log_e\))。
$$(\text{気体Bにされた仕事}) = RT_0 \log\frac{V_0}{V_{B2}} = RT_0 \log\frac{V_0}{V_0/2}$$数値代入・計算:\(\dfrac{V_0}{V_0/2} = 2\) なので、
$$(\text{気体Bにされた仕事}) = RT_0 \log 2$$気体Bは等温(\(\Delta U_B=0\))なので、された仕事はすべて外へ放出する熱になります(設問(8))。よって \(Q_{B2} = RT_0\log 2\)、かつ \(W_{A2}=Q_{B2}=RT_0\log 2\)。
結果:設問(7)の \(W_{A2}=Q_{A2}-3RT_0\) に代入して \(Q_{A2}\) を求めます。
$$RT_0\log 2 = Q_{A2} - 3RT_0$$ $$Q_{A2} = 3RT_0 + RT_0\log 2 = RT_0(3 + \log 2)$$\(\log 2 = 0.693\cdots\) なので \(Q_{A2} = RT_0(3 + 0.69) \fallingdotseq 3.69\,RT_0\)。たとえば \(R=8.31\) J/(mol·K), \(T_0=300\) K なら:
$$Q_{A2} \fallingdotseq 3.69 \times 8.31 \times 300 \fallingdotseq 9.2\times10^3 \text{ J}$$内訳は、気体Aの内部エネルギー増加 \(3RT_0 \fallingdotseq 7.5\times10^3\) J と、気体Bを圧縮するために費やした仕事 \(RT_0\log 2 \fallingdotseq 1.7\times10^3\) J です。
等温変化では \(p = \dfrac{RT_0}{V}\)。気体がする仕事 \(W_{\text{by}} = \displaystyle\int_{V_1}^{V_2} p\,dV = RT_0\int_{V_1}^{V_2}\frac{dV}{V} = RT_0\log\dfrac{V_2}{V_1}\)。気体がされる仕事はこの符号を反転して \(RT_0\log\dfrac{V_1}{V_2}\) となり、問題文の与式と一致します(高校範囲では結果のみを使えばよい)。
等温の仕事は \(RT_0\log\frac{V_1}{V_2}\)(圧縮なら \(V_1>V_2\) で正)。これが \(Q_{B2}\)=\(W_{A2}\)。最後は設問(7)の関係に代入するだけで \(Q_{A2}=RT_0(3+\log 2)\)。