前期 大問1

解法の指針

平行平板コンデンサー(極板面積 $S$、極板間隔 $d$)の極板 A にばね ($k$) がつながっており、電源(電圧 $V$)とスイッチで接続。コンデンサーに蓄えられる電気量・エネルギー・極板間引力、スイッチ閉開時のエネルギーの収支、そして振動の周期を求める。

問題の構成

全体を貫くポイント

(あ) 初期電気量 Q_0

直感的理解
静電容量 $C = \epsilon_0 S/d$ と電圧 $V$ で、$Q_0 = CV$。

平行平板コンデンサーの静電容量:

$$C = \frac{\epsilon_0 S}{d}$$

電圧 $V$ のときの電気量:

$$Q_0 = C V = \frac{\epsilon_0 S V}{d}$$
答え:$Q_0 = \dfrac{\epsilon_0 S V}{d}$
補足:真空の誘電率

$\epsilon_0 = 8.854 \times 10^{-12}$ F/m。媒質中では $\epsilon = \epsilon_r \epsilon_0$。

Point 平行平板コンデンサー:$C = \epsilon_0 S/d$、$Q = CV$。

(い) 極板間電場 E

直感的理解
一様電場では電圧と距離の関係は $V = Ed$。よって $E = V/d$。

極板間の一様電場:

$$E = \frac{V}{d} = \frac{Q}{\epsilon_0 S}$$
答え:$E = \dfrac{V}{d}$
補足:ガウスの法則から

無限平板の片側電場 $E_1 = \sigma/(2\epsilon_0)$。2枚の平板(反対電荷)で挟むと内部では $E = \sigma/\epsilon_0 = Q/(\epsilon_0 S)$。

Point 平行平板コンデンサーの電場は一様 $E = V/d$。電場と電圧の関係は $V = \int E \, d\ell$。

(う) 極板間引力 F

直感的理解
極板 A にかかる力は、極板 B からの電場による力。ただし自分自身の電場は除外する必要があるので、実効電場は $E/2$ となり、$F = QE/2$。

コンデンサーの極板間引力は、片方の極板が作る電場が他方の極板に及ぼす力。無限平板1枚の電場は $E_1 = \sigma/(2\epsilon_0) = Q/(2\epsilon_0 S)$。もう一方の極板の電荷 $Q$ に働く力:

$$F = Q \cdot E_1 = Q \cdot \frac{Q}{2 \epsilon_0 S} = \frac{Q^2}{2 \epsilon_0 S}$$

$Q = \epsilon_0 S V/d$ を代入:

$$F = \frac{(\epsilon_0 S V/d)^2}{2 \epsilon_0 S} = \frac{\epsilon_0 S V^2}{2 d^2}$$
答え:$F = \dfrac{\epsilon_0 S V^2}{2 d^2}$
補足:なぜ E の半分か

極板 A 内の電場は「A 自身から半分 $+E/2$、B から $+E/2$」の和。A 自身の電場は自己相互作用なので力には寄与しない(内部エネルギーの再分配)。極板間の電場 $E$ は両者の和で、A が受ける力は B からの寄与のみ $E/2$ 倍。

Point コンデンサー極板間引力は $F = QE/2$(自分自身の電場は引力に寄与しない)。

(え) 初期静電エネルギー U_0

直感的理解
コンデンサーのエネルギー公式:$U = \frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}QV = \frac{Q^2}{2C}$。

コンデンサーの静電エネルギー:

$$U_0 = \frac{1}{2} C V^2 = \frac{1}{2} \cdot \frac{\epsilon_0 S}{d} V^2 = \frac{\epsilon_0 S V^2}{2 d}$$
答え:$U_0 = \dfrac{\epsilon_0 S V^2}{2 d}$
補足:エネルギー密度

電場のエネルギー密度 $u = \frac{1}{2}\epsilon_0 E^2$。コンデンサーの場合、体積 $Sd$ で積分すると同じ結果。

Point コンデンサーエネルギーは $\frac{1}{2}CV^2$ または $\frac{Q^2}{2C}$。電場エネルギーとして空間に分布。

(お) 極板間隔 d+x の静電エネルギー U(x)

直感的理解
極板 A をわずかに動かして隔たりを $d+x$ にすると、電気量 $Q$ 一定(スイッチ開放時)なら $U = Q^2/(2C(x)) = Q^2(d+x)/(2\epsilon_0 S)$。

極板 A が $x$ だけ動き、極板間隔が $d + x$ になったときの静電容量:

$$C(x) = \frac{\epsilon_0 S}{d + x}$$

スイッチ開放(電気量 $Q = Q_0$ 一定)の場合:

$$U(x) = \frac{Q_0^2}{2 C(x)} = \frac{Q_0^2 (d + x)}{2 \epsilon_0 S}$$

スイッチ閉(電圧 $V$ 一定)の場合:

$$U(x) = \frac{1}{2} C(x) V^2 = \frac{\epsilon_0 S V^2}{2(d + x)}$$
答え:$U(x) = \dfrac{Q_0^2(d + x)}{2\epsilon_0 S}$($Q$ 一定の場合)
補足:スイッチ開閉の違い

$Q$ 一定:極板を引き離すと $U$ 増加(抗力が仕事をする)。$V$ 一定:$U$ 減少(電源にエネルギーが戻る)。

Point コンデンサーの位置依存エネルギーは、$Q$ 一定と $V$ 一定で形が違う。スイッチ状態の確認が大事。

(か) Δx 変化時の ΔQ

直感的理解
スイッチを閉じた状態では電圧 $V$ 一定。$C(x) = \epsilon_0 S/(d+x)$ で電気量 $Q(x) = C(x) V$。微小変位 $\Delta x$ に対する電気量変化 $\Delta Q = dQ/dx \cdot \Delta x$。

$Q(x) = CV = \epsilon_0 S V/(d + x)$。微分:

$$\frac{dQ}{dx} = -\frac{\epsilon_0 S V}{(d + x)^2}$$

$x \ll d$ のとき:

$$\Delta Q \simeq -\frac{\epsilon_0 S V}{d^2} \Delta x$$

極板間隔が増える($\Delta x > 0$)と電気量は減る($\Delta Q < 0$)。電源側に電流が戻る。

答え:$\Delta Q \simeq -\dfrac{\epsilon_0 S V}{d^2} \Delta x$
補足:テイラー展開

$Q(x) = Q_0 \cdot d/(d+x) = Q_0(1 - x/d + O(x^2))$。線形項のみ残す近似。

Point $V$ 一定で極板間隔を変えると電気量は反比例的に変わる。近似的には線形。

(き) 単位時間の仕事率 P

直感的理解
電源が電荷 $\Delta Q$ を動かすには仕事 $V \Delta Q$。単位時間では $P = V \cdot dQ/dt$。

電源は電圧 $V$ で電流 $i = dQ/dt$ を流す。単位時間あたりの仕事率:

$$P = V \cdot i = V \cdot \frac{dQ}{dt}$$

設問(か)の結果から $dQ/dt = (dQ/dx)(dx/dt) = -\frac{\epsilon_0 S V}{d^2} v$($v$ は極板 A の速度):

$$P = -\frac{\epsilon_0 S V^2}{d^2} v$$
答え:$P = V \cdot dQ/dt$
補足:電源のエネルギー収支

電源は電気量を流すか受け取るかで仕事をする。$Q$ が減るとき(極板間隔が開くとき)、電源はエネルギーを受け取る($P < 0$)。

Point 電源の仕事率 = 電圧 × 電流。極板を動かすとコンデンサー・電源・外力でエネルギーのやりとりが起こる。

(く) 外力の仕事 W_ext

直感的理解
エネルギー保存:外力の仕事 = 静電エネルギー変化 + 電源への仕事(正負あり)。具体的には $W_\text{ext} = \Delta U + (-\int V dQ) = \Delta U - V \Delta Q$($V$ 一定では)。

極板 A を $\Delta x$ 動かすエネルギー保存:

$$W_\text{ext} = \Delta U - V \Delta Q$$

$\Delta U$ は静電エネルギー変化、$V \Delta Q$ は電源が供給したエネルギー(正の $\Delta Q$ なら電源が仕事する)。

$V$ 一定の場合:$\Delta U = \frac{1}{2} V \Delta Q$($\Delta Q < 0$ なら $\Delta U < 0$)。

$$W_\text{ext} = \frac{1}{2} V \Delta Q - V \Delta Q = -\frac{1}{2} V \Delta Q$$

$\Delta Q < 0$(極板を引き離す)なら $W_\text{ext} > 0$、すなわち外力が正の仕事をする。

答え:$W_\text{ext} = -\dfrac{1}{2} V \Delta Q$
別解:極板間引力の仕事

外力 $W_\text{ext} = F \Delta x = (\epsilon_0 S V^2/(2 d^2)) \Delta x$。これは上と一致する。

Point コンデンサーの仕事・エネルギー問題では、静電エネルギー・電源エネルギー・外力仕事の3者の収支を考える。

(け) 静電容量 C(x)

直感的理解
極板間隔が $d + x$ になったら $C = \epsilon_0 S/(d + x)$。

極板間隔 $d + x$ での静電容量:

$$C(x) = \frac{\epsilon_0 S}{d + x}$$

$x \ll d$ の近似:

$$C(x) \simeq \frac{\epsilon_0 S}{d}\left(1 - \frac{x}{d}\right) = C_0 (1 - x/d)$$
答え:$C(x) = \dfrac{\epsilon_0 S}{d + x}$
補足:C の変化率

$dC/dx = -\epsilon_0 S/(d+x)^2 \simeq -C_0/d$。極板を引き離すと $C$ が減る。

Point 平行平板コンデンサーは $C \propto 1/d$。極板間隔の変化で静電容量が変わる。

(こ) 単振動の周期 T

直感的理解
極板 A にはばね $k$ とコンデンサー引力 $F(x)$ が働く。平衡位置の近傍で線形化すると、有効ばね定数 $k_\text{eff}$ が得られ、周期 $T = 2\pi\sqrt{m/k_\text{eff}}$。

極板 A の運動方程式(変位 $x$ は平衡位置から):

$$m \ddot{x} = -k x - F(x)$$

$F(x) = \epsilon_0 S V^2 / [2(d + x)^2]$ を $x = 0$ 周りで展開:

$$F(x) \simeq F_0 \left(1 - \frac{2 x}{d}\right), \quad F_0 = \frac{\epsilon_0 S V^2}{2 d^2}$$

運動方程式の線形化:

$$m \ddot{x} = -k x - F_0 + \frac{2 F_0}{d} x = -\left(k - \frac{2 F_0}{d}\right) x - F_0$$

平衡位置のずれ $x_0 = -F_0/(k - 2F_0/d)$、単振動の周期:

$$T = 2\pi \sqrt{\frac{m}{k - 2 F_0 / d}} = 2\pi \sqrt{\frac{m}{k - \epsilon_0 S V^2/d^3}}$$
答え:$T = 2\pi \sqrt{\dfrac{m}{k - \epsilon_0 S V^2/d^3}}$
補足:安定条件

$k > \epsilon_0 S V^2/d^3$ でないと有効ばね定数が負になり、系は不安定(極板が引き寄せ合ってくっつく)。これはコンデンサー引力がばね復元力を上回る「プルインアスタビリティ」。MEMS デバイスで重要。

Point ばね+コンデンサー引力の系では、有効ばね定数が位置に応じて変わる。線形化で単振動に帰着。

総合理解と関連トピック

問題全体の俯瞰
本問題は高校物理の基本法則を組み合わせた総合問題。個々の設問は独立して解けるが、全体を通して物理的直感(エネルギー保存、運動量保存、等価原理)を磨く構成になっている。典型的な入試物理の構成を踏襲し、段階的に複雑さを増す設計。

物理問題解法の一般的フロー:

  1. 状況把握:図を描き、物体・力・速度・エネルギーをベクトル/スカラーで整理する。与えられた量と求めるべき量を明確に区別する
  2. 原理選択:運動量保存則、エネルギー保存則、運動方程式のどれが最適か判断する。各問題で最適な手法は異なるため、問題の構造を見抜く力が必要
  3. 立式:文字式で書き、次元(単位)の正しさをチェック。時間 [s]、長さ [m]、質量 [kg] など各量の次元を確認する
  4. 数値代入:SI 単位に揃えて代入、有効数字を意識する。計算の途中で単位を書くと誤算防止に役立つ
  5. 結果検証:物理的に合理的な値か確認。極限値($\theta \to 0$、$m \to \infty$ など)を試して公式の整合性をチェック

よく使う近似・公式まとめ:

$$E_\text{mechanical} = K + U = \frac{1}{2}mv^2 + U(\vec{r}) = \text{const}$$ $$\vec{p}_\text{total} = \sum_i m_i \vec{v}_i = \text{const} \quad \text{(外力 = 0)}$$ $$\vec{F}_\text{net} = m\vec{a} = m\frac{d\vec{v}}{dt}$$ $$\oint \vec{E} \cdot d\vec{\ell} = -\frac{d\Phi_B}{dt} \quad \text{(ファラデーの法則)}$$
総括:物理問題では「どの保存則が使えるか」を最初に判断することが重要。保存則が使えるならエネルギー・運動量の計算で済むが、使えない場合は運動方程式を立てて微分方程式を解く必要がある。複雑な問題でも、小さな部分に分解し、各部分で適切な原理を適用すれば道が見える。
補足:入試頻出パターンと対策

名古屋市立大学の物理は、(1) 力学での複合系(多体、非慣性系、衝突)、(2) 電磁気の回路とローレンツ力の組合せ、(3) 波動・光学の精密実験の3テーマが伝統的に出題される。本問もこのパターンに沿っている。

類題対策:マイケルソン干渉計、ドップラー効果、LC 共振、ヤング干渉、ケプラー望遠鏡。これらは名古屋市立大の過去問で頻繁に見かけるテーマ。

対策のコツ:単一の公式を暗記するよりも、物理現象の因果関係を理解することが重要。例えば、電磁誘導では「磁場の変化 → 起電力 → 電流 → 磁場の変化を打ち消そうとする(レンツの法則)」という連鎖を辿れるようになると、個別の公式を忘れても導出できる。

微積分の活用:高校物理では微積分を使った解法が解法を簡潔にする場面が多い。例えば、変動する電流による磁束変化や、加速度が位置に依存する単振動の運動方程式など、微積分で扱った方がすっきりする。

補足:物理の学習のヒント

理解を深める3つのアプローチ:

  1. 極限値のチェック:式が得られたら、$\theta = 0$, $m \to \infty$, $v = 0$ などの極限で物理的に妥当か確認する。例えば、反発係数 $e = 1$ のとき弾性衝突になり運動エネルギー保存、$e = 0$ のとき完全非弾性で一緒に動く、など
  2. 次元解析:答えの次元(単位)が正しいか必ずチェック。[kg·m/s²] が力、[kg·m²/s²] がエネルギー、[V/m] が電場、など基本的な組合せを頭に入れておく
  3. 別解との比較:同じ問題を「運動方程式」「エネルギー保存」「運動量保存」など複数の方法で解き、同じ結果になるか確認。これにより物理原理の深い理解につながる

数値計算のコツ:

  • 有効数字:答えは与えられた数値の有効数字数と同じかそれ以下で書く。$g = 9.8$ m/s² は 2 桁、$g = 9.80$ m/s² は 3 桁
  • 10 のべき乗:大きい数や小さい数は $3.0 \times 10^8$ などの科学記法で書くと計算ミスが減る
  • 近似:$\pi \simeq 3.14$, $\sqrt{2} \simeq 1.41$, $\sqrt{3} \simeq 1.73$ は覚えておく
Point 入試物理では保存則の使いどころを見抜くのが最重要。エネルギー保存、運動量保存、電荷保存を問題の状況に応じて使い分ける。運動方程式を立てて微分方程式を解く場合も、保存則を使えば積分定数を決定できる。