前期 大問3

解法の指針

直感的理解
真空中に置かれたマイケルソン干渉計の問題。光源からの平行光がハーフミラーで2つに分けられ、鏡1(水平の腕)鏡2(鉛直の腕)で反射して再びハーフミラーで合流し、スクリーンに干渉を作る。カギは2つだけ:
① 鏡を光の進む向きに \(\Delta L\) 動かすと、光は往復するので光路差は \(2\Delta L\) だけ変わる。
② 鏡を微小角 \(\theta\) 傾けると、反射光の向きが \(2\theta\) 変わり、スクリーン上で位置によって光路差が変わる=干渉じま(等間隔の明暗)ができる。

スクリーン上には「左(左端)」「右(右端)」の向きが定義されている(図1)。鏡2は上(鉛直の腕)にあり、スクリーンに近づける=下向きに移動反時計回りに回転させる、という設定である。上のシムで「平行移動」モードと「傾き」モードを切り替えて、スクリーンの明暗の変化を体感してほしい。

全体を貫く2つの原理
Point 「往復で2倍」と「傾き θ → 反射光 2θ」の2つを押さえれば、(1)〜(6)はすべてこの2原理の組合せで解ける。

設問(1):鏡2の平行移動による明暗の周期 D

直感的理解
鏡2をスクリーンに向けて(腕に沿って)動かすと、光はその腕を往復する。だから鏡が \(D\) 動くと光路は \(2D\) 長くなる。明→暗→明と1周期戻るには、光路差がちょうど波長 \(\lambda\) 1つ分変われば良い。よって \(2D = \lambda\)。

鏡2を腕方向に距離 \(\Delta L\) 動かすと、光はこの腕を往復するので光路長が \(2\Delta L\) 変化する。したがって2つの光の光路差の変化

$$\Delta(\text{光路差}) = 2\,\Delta L$$

スクリーンは一様に明るくなったり暗くなったりを繰り返す(傾きが無いので場所による差はなく、全面が同時に明暗する)。明るさが最大(明)になるのは光路差が波長の整数倍のとき。もっとも明るい状態から次にもっとも明るい状態に戻るには、光路差がちょうど \(\lambda\) だけ変わればよい:

$$2D = \lambda$$

これを \(D\) について解いて:

$$D = \frac{\lambda}{2}$$
答え:\(D = \dfrac{\lambda}{2}\)
補足:マイケルソン干渉計が超高精度な理由

鏡がわずか \(\lambda/2 \fallingdotseq 250\) nm 動くだけで明暗が1回入れ替わる。明暗の回数を数えれば ナノメートル単位で距離が測れる。重力波検出器 LIGO はこの原理を極限まで高めたもので、陽子1個の直径より小さい鏡の変位を検出する。

Point 「往復するので光路差は移動量の2倍」がすべての出発点。明→明の1周期は光路差 \(\lambda\)、すなわち鏡の移動 \(\lambda/2\)。

設問(2):鏡2を微小角 θ 回転させたときの縞の間隔 d

直感的理解
鏡を \(\theta\) 傾けると、反射の法則(入射角=反射角)から反射光の向きは \(2\theta\) 傾く。すると鏡1からの平らな波と、鏡2からの \(2\theta\) 傾いた波が「くさび形」に重なる。スクリーン上の位置 \(x\) によって光路差が \(2\theta\,x\) だけ変わるので、明暗が等間隔に並ぶ。間隔は \(d = \lambda/(2\theta)\)。

鏡2が \(\theta\) 傾くと、鏡の法線が \(\theta\) 傾くので、反射の法則により反射光の向きは \(2\theta\) だけ変わる。この傾いた波(鏡2からの光)と、鏡1からの傾いていない波が重なる。スクリーン上で「左」を \(x\) の負、「右」を正にとると、位置 \(x\) での2つの光の光路差は近軸近似で

$$\Delta(x) = \Delta_0 + 2\theta\, x$$

と、\(x\) に比例して変化する(\(\Delta_0\) は \(x=0\) での光路差)。明線の条件は「光路差=\(m\lambda\)(\(m\) は整数)」だから、明線の位置 \(x_m\) は

$$\Delta_0 + 2\theta\, x_m = m\lambda \quad\Rightarrow\quad x_m = \frac{m\lambda - \Delta_0}{2\theta}$$

隣り合う明線(\(m\) と \(m+1\))の間隔 \(d = x_{m+1} - x_m\) は

$$d = \frac{(m+1)\lambda - m\lambda}{2\theta} = \frac{\lambda}{2\theta}$$

より厳密には反射光の傾き角を使って \(d = \dfrac{\lambda}{2\sin\theta}\) だが、\(\theta\) が十分小さいので \(\sin\theta \fallingdotseq \theta\) より上式となる。

答え:\(d = \dfrac{\lambda}{2\sin\theta} \fallingdotseq \dfrac{\lambda}{2\theta}\)
別解:くさび形空気層(等厚干渉)とのアナロジー

鏡2を傾けることは、鏡1の像と鏡2の像の間にくさび形のすきまを作ることと等価。頂角 \(2\theta\) のくさびによる等厚干渉では、厚さが \(\lambda/2\) 増えるごとに1本の縞ができる。くさびの頂角が \(2\theta\) なら、横方向に \(x\) 進むと厚さは \(2\theta\,x\)(往復で \(2\)倍が既に含まれる形)変化し、縞間隔 \(d = \dfrac{\lambda}{2\theta}\) が得られ、本文と一致する。

Point 傾き \(\theta\) が大きいほど反射光の傾き \(2\theta\) が大きく、縞間隔 \(d = \lambda/2\theta\) は狭くなる。角度を測れば波長が求まる。

設問(3):θを固定して鏡2を近づけたときの縞の動く向き

直感的理解
傾き \(\theta\) を保ったまま鏡2をスクリーンに近づけると、腕2の光路が全体に短くなる(光路差が一様に減る)。すると各明線は「同じ光路差の場所」を保つために、光路差がもともと大きい側=へずれる。反時計回りに傾けた図1では、右側ほど腕2の光路が長いので、縞は右へ動く。

(2)より、明線の位置は \(x_m = \dfrac{m\lambda - \Delta_0}{2\theta}\)。ここで \(\Delta_0\) は \(x=0\) における光路差で、腕2の往復光路 \(2L\)(\(L\) は鏡2からハーフミラーまでの距離に対応する部分)を含む。図1では反時計回りに傾けたので、反射光は右へ \(2\theta\) 曲がり、右側ほど腕2の光路が長い(=光路差が大きい)。よって \(\Delta(x) = \Delta_0 + 2\theta x\) の符号どおり、\(\Delta_0\) は \(2L\) とともに増減する。

鏡2をスクリーンに近づけると \(L\) が減り、\(\Delta_0\) が減る。ある次数 \(m\) の明線位置は

$$x_m = \frac{m\lambda - \Delta_0}{2\theta}$$

だから、\(\Delta_0\) が減ると \(x_m\) は増加する(\(-\Delta_0\) が大きくなる)。すなわち明線は \(x\) の正の向き=へ動く。

物理的には「腕2を短くした分、同じ明線であり続けるには、腕2の光路がもともと長い右側へ移らねばならない」ということ。

答え:縞はへ動く。
(理由)鏡2を近づけると腕2の光路差が一様に減る。同じ次数の明線は光路差が一定の場所に立つので、傾きにより右側ほど光路が長い図1の配置では、明線は右へずれていくため。
補足:反時計回りと「右が長い」の対応

図1で鏡2の右端が上、左端が下になる向き(反時計回り)に傾けると、鏡2の法線がわずかに右へ傾く。入射する上向きの光は反射して右下方向(\(2\theta\) 傾き)へ進む。進行方向に対して右側の点ほど波面が遅れて到達=光路が長いので、スクリーンの右側ほど腕2の光路差が大きい。したがって \(\Delta(x)=\Delta_0+2\theta x\) の \(+\) 符号が確定し、(6)で「投影光が右へ \(d'\) ずれる」という問題文の記述とも整合する。

Point 縞の移動向きは「光路差の勾配の符号(どちら側が長いか)」と「腕を伸ばすか縮めるか」で決まる。図1では近づける=右へ移動。

設問(4):鏡2の移動速度 V を縞の移動速度 v で表す

直感的理解
鏡2を速さ \(V\) で近づけると、光路差は毎秒 \(2V\) の割合で減る。光路差が \(\lambda\) 減るごとに縞が1本分(間隔 \(d\))流れる。だから縞の速さ \(v\) は「1秒に何本流れるか × 間隔」。整理すると \(V = v\theta\) という簡単な関係になる。

鏡2を速さ \(V\) でスクリーンに近づけると、光路差はスクリーン上のどの点でも毎秒 \(2V\) の割合で減る。光路差が \(\lambda\) 変わるごとに縞1本分(間隔 \(d\))だけ模様が流れる。よって単位時間に流れる縞の本数は \(\dfrac{2V}{\lambda}\) 本、縞の移動速度 \(v\)(=毎秒の本数 × 縞間隔)は

$$v = \frac{2V}{\lambda}\cdot d$$

(2)で得た \(d = \dfrac{\lambda}{2\theta}\) を代入すると

$$v = \frac{2V}{\lambda}\cdot \frac{\lambda}{2\theta} = \frac{V}{\theta}$$

これを \(V\) について解いて

$$V = v\,\theta$$

波長 \(\lambda\) は約分されて消え、\(V\) は縞の速さ \(v\) と傾き \(\theta\) だけで表せる。

答え:\(V = v\,\theta\)(\(\lambda\) は不要)
別解:位相の時間変化から直接求める

明線位置 \(x_m = \dfrac{m\lambda - \Delta_0}{2\theta}\) で、\(\Delta_0 = 2L\)、\(L\) が速さ \(V\) で減るとする(\(\dfrac{dL}{dt} = -V\))。両辺を時間微分すると

$$\frac{dx_m}{dt} = -\frac{1}{2\theta}\frac{d\Delta_0}{dt} = -\frac{1}{2\theta}\cdot 2\frac{dL}{dt} = -\frac{1}{\theta}(-V) = \frac{V}{\theta}$$

縞の速さ \(v = \left|\dfrac{dx_m}{dt}\right| = \dfrac{V}{\theta}\)、すなわち \(V = v\theta\)。本文と一致する。

Point 傾き \(\theta\) が小さいほど縞は疎(\(d\) 大)だが、鏡の微小移動で縞は大きく流れる。だから \(V = v\theta\) で、鏡は縞より \(\theta\) 倍ゆっくり動く。

設問(5):数値計算 — 鏡2の移動速度 V

直感的理解
(4)で得た \(V = v\theta\) に数値を入れるだけ。縞は 1.0 mm/s で流れているが、鏡自体は傾き \(\theta = 10^{-4}\) の分だけ「\(10^{4}\) 倍ゆっくり」動く。だから \(V\) は 0.1 μm/s という、非常に小さな速さになる。

(4)より \(V = v\theta\)。与えられた値は \(v = 1.0\ \text{mm/s} = 1.0\times10^{-3}\ \text{m/s}\)、\(\theta = 1.0\times10^{-4}\ \text{rad}\)(\(\tan\theta \fallingdotseq \theta\) の近似を用いてよい)。代入すると

$$V = v\,\theta = (1.0\times10^{-3}\ \text{m/s}) \times (1.0\times10^{-4})$$ $$V = 1.0\times10^{-7}\ \text{m/s}$$

単位を換えると \(V = 0.10\ \mu\text{m/s} = 100\ \text{nm/s}\)。有効数字2桁で \(1.0\times10^{-7}\ \text{m/s}\)。

答え:\(V = 1.0\times10^{-7}\ \text{m/s}\)(\(= 0.10\ \mu\text{m/s}\))
補足:λ を使わずに済む理由の確認

問題文は \(\lambda = 500\) nm を与えているが、(4)で \(\lambda\) は約分されて消えた。念のため \(\lambda\) を使う経路でも確認すると、縞間隔 \(d = \dfrac{\lambda}{2\theta} = \dfrac{5.0\times10^{-7}}{2\times10^{-4}} = 2.5\times10^{-3}\) m。毎秒の縞本数 \(= v/d = \dfrac{1.0\times10^{-3}}{2.5\times10^{-3}} = 0.40\) 本/s。光路差変化 \(2V = 0.40\times\lambda = 0.40\times5.0\times10^{-7} = 2.0\times10^{-7}\) m/s より \(V = 1.0\times10^{-7}\) m/s。同じ答えになり、\(\lambda\) は結局消える。

Point \(V = v\theta\) は「縞の速さ \(\times\) 微小角」。0.1 μm/s という極微の速さを、1 mm/s という測りやすい縞の速さに拡大して読み取れるのが干渉計の強み。

設問(6):投影光のずれ d′ と縞間隔 d の大小比較

直感的理解
ここは2つの「別の量」を比べる問題。\(d\) は縞と縞の間隔(干渉のこまかさ)。\(d'\) は鏡を傾けたことで光の束そのものが横にずれる量(束の平行移動)。反射光が \(2\theta\) 傾いて距離 \(H\) 進むと、光は \(d' = 2H\theta\) だけ右へずれる。数値を入れると \(d'\) は 20 μm、\(d\) は 2.5 mm。つまり \(d' \ll d\)。

鏡2を \(\theta\) 回転させると反射光の向きが \(2\theta\) 変わる。鏡2からスクリーンまでの距離が \(H\) なので、スクリーン上での光束(投影光)の横ずれは

$$d' = H\tan(2\theta) \fallingdotseq 2H\theta$$

数値は (5) と同じ \(\theta = 1.0\times10^{-4}\) rad、\(\lambda = 500\) nm を用い、\(H = 10\ \text{cm} = 0.10\ \text{m}\):

$$d' = 2 \times 0.10 \times (1.0\times10^{-4}) = 2.0\times10^{-5}\ \text{m} = 20\ \mu\text{m}$$

一方、縞の間隔は (2)(5) より

$$d = \frac{\lambda}{2\theta} = \frac{5.0\times10^{-7}}{2\times(1.0\times10^{-4})} = 2.5\times10^{-3}\ \text{m} = 2.5\ \text{mm}$$

両者の比をとると

$$\frac{d'}{d} = \frac{2H\theta}{\lambda/(2\theta)} = \frac{4H\theta^2}{\lambda} = \frac{4\times0.10\times(1.0\times10^{-4})^2}{5.0\times10^{-7}} = 8.0\times10^{-3}$$

したがって \(d'\) は \(d\) の約 \(1/125\) しかなく、\(d' < d\)(\(d'\) の方が小さい)。理由は、\(d'\) は光束が \(2\theta\) 傾いて距離 \(H\) だけ進む間に横ずれする幾何的な量(\(\theta\) の1次)であるのに対し、縞間隔 \(d = \lambda/(2\theta)\) は波長 \(\lambda\) を微小角 \(2\theta\) で割った量で、微小角で割るぶん大きくなるためである。

答え:\(d' < d\)。
\(d' = 2H\theta = 20\ \mu\text{m}\)、\(d = \dfrac{\lambda}{2\theta} = 2.5\ \text{mm}\)。比は \(\dfrac{d'}{d} = \dfrac{4H\theta^2}{\lambda} \fallingdotseq 8.0\times10^{-3}\)。
(理由)\(d'\) は反射光の傾き \(2\theta\) による光束の平行ずれ(\(\theta\) に比例)で、\(d\) は波長を \(2\theta\) で割った縞間隔(\(1/\theta\) に比例)。微小角では \(1/\theta \gg \theta\) なので \(d \gg d'\)。
補足:d′ が小さいから干渉が観測できる

もし \(d'\) が縞間隔 \(d\) と同程度かそれ以上だと、鏡2からの光束と鏡1からの光束が重ならなくなり、干渉じまがそもそも見えない。\(d' \ll d\) だからこそ、2つの光束はほぼ完全に重なった状態を保ち、その中に細かい干渉じま(間隔 \(d\))がくっきり現れる。傾き \(\theta\) を大きくしすぎると \(d'\) が増え \(d\) が減って、やがて縞は見えなくなる。

Point \(d'\)(光束の右ずれ、\(\propto \theta\))と \(d\)(縞間隔、\(\propto 1/\theta\))は物理的に別の量。両者の比は \(\dfrac{d'}{d} = \dfrac{4H\theta^2}{\lambda}\) で、微小角ほど \(d' \ll d\)。