前期 大問2

解法の指針

平行導体レール上を動く導体棒が磁束密度 $B$ の磁場中でおこす電磁誘導の問題です。回路には発光ダイオード(LED)と抵抗 $R_0$ が直列に接続されています。LED は閾値電圧 $V_0$ 未満では電流が流れない非線形素子です。

問題の構成

全体を貫くポイント

設問(1):LED が光るための最小電圧の条件

直感的理解
LEDは「電圧ゲート付き電流路」。電圧が $V_0$ に達しないと内部のエネルギーバリアを超えられず電子が流れない。導体棒の起電力 $BLv$ がちょうど $V_0$ に達した瞬間、LEDの電圧が閾値に達するので、電流が流れ始める(=光り始める)。

導体棒が速さ $v$ で磁場 $B$ 中を動くと、起電力 $\varepsilon$ が発生する(ファラデーの法則):

$$\varepsilon = B L v$$

LEDの閾値電圧が $V_0$ なので、LEDに $V_0$ 以上の電圧がかかった瞬間に電流が流れ始める。電流が流れ始める境界条件では $i=0$ なので、抵抗での電圧降下 $iR_0 = 0$:

$$B L v_0 = V_0 \Rightarrow v_0 = \frac{V_0}{BL}$$
答え:$v_0 = \dfrac{V_0}{BL}$
補足:LED の I-V 特性

理想化された LED は「$V < V_0$ なら $i = 0$」「$V \geq V_0$ なら $V = V_0$(電流は回路の他の要素で決まる)」というスイッチ的特性を持つ。実際の LED は指数関数的な連続特性を持つが、入試では理想化された特性を使う。

Point 電磁誘導の起電力は $\varepsilon = BLv$。LEDの閾値電圧に達するぎりぎりの速度を求めるときは、電流 $i=0$ として回路方程式を書く。

設問(2):LED点灯直後の導体棒の速度

直感的理解
LED が光り始めるちょうどその瞬間は、電流 $i$ がまだ 0。よって抵抗での電圧降下もゼロ。導体棒の起電力が丸ごと LED にかかる。したがって速度は設問(1)と同じ $v_0 = V_0/(BL)$。

LED がちょうど光り始める瞬間、電流 $i$ は 0 から立ち上がる直前で $i \approx 0$。よって抵抗での電圧降下も 0。回路方程式:

$$\varepsilon = V_{\text{LED}} + iR_0$$

$i = 0, V_{\text{LED}} = V_0$ なので:

$$B L v_0 = V_0 \Rightarrow v_0 = \frac{V_0}{BL}$$

この値は設問(1)と同じだが、「電流が流れ始める最小の速さ」と「ちょうど流れ始めた瞬間の速さ」は境界で一致する。

答え:$v_0 = \dfrac{V_0}{BL}$
補足:閾値付近の物理

現実には LED の $V$-$I$ 特性は指数関数的なので、電流が 0 から有限値になるのに微小な速度増加が必要。理想化された問題では「点灯の瞬間 = 閾値電圧到達の瞬間」として扱う。

Point LED 点灯の閾値条件は「$\varepsilon = V_0$ かつ $i = 0$」。この境界条件で速度が決まる。

設問(3):速度 v_1 で定常動作中の LED 電流 i_1

直感的理解
$v_1 > v_0$ なら LEDが光っている状態で、LED電圧は $V_0$ に固定(理想特性)。起電力 $BLv_1$ から LED電圧 $V_0$ を引いた残りが抵抗 $R_0$ にかかる。その電圧降下が $i_1 R_0$。

回路は「導体棒(起電力 $BLv_1$)→ LED(電圧 $V_0$)→ 抵抗 $R_0$」の直列。キルヒホッフの電圧則:

$$B L v_1 = V_0 + i_1 R_0$$

電流について解くと:

$$i_1 = \frac{B L v_1 - V_0}{R_0}$$

この式は $v_1 > v_0 = V_0/(BL)$ のときに正の値となり、それ以下では電流は 0(LED消灯)となる。

答え:$i_1 = \dfrac{B L v_1 - V_0}{R_0}$
別解:微分表示で見る

電流の速度依存性:$\dfrac{di}{dv} = \dfrac{BL}{R_0}$(点灯時の応答)。速度が $v_0$ を超えると線形に電流が増える。

Point LED を含む回路の解析では、LED電圧を $V_0$ に固定して残りを抵抗で解く。LED は 定電圧源 のように振る舞う(点灯時)。

設問(4):導体棒の加速度

直感的理解
導体棒には外力 $F$(一定)が加わるほか、磁場中に電流 $i$ が流れる棒にはローレンツ力による抗力 $BLi$ が働く。これは速度の向きと逆。よって運動方程式:$ma = F - BLi$。

導体棒を水平右向きに動かす外力 $F$ があり、逆向きにローレンツ力(電流と磁場の相互作用)が働く:

$$F_{\text{ローレンツ}} = B L i$$

電流 $i$ は導体棒に力を及ぼし、フレミング左手則により速度の向きと逆(減速させる)方向。運動方程式:

$$m a = F - B L i$$

電流は速度の関数($i = (BLv - V_0)/R_0$)だから、加速度は速度とともに減少する:

$$a = \frac{F}{m} - \frac{B^2L^2 v}{mR_0} + \frac{BL V_0}{m R_0}$$
答え:$a = \dfrac{F - B L i}{m}$、ただし $i = \dfrac{BLv - V_0}{R_0}$ (LED点灯時)
別解:エネルギー法

運動エネルギーの時間変化率:$\dfrac{d}{dt}(\frac{1}{2}mv^2) = F v - BLi v$。第2項は磁場が棒から奪う仕事率(この仕事が電気エネルギーになる)。

Point 磁場中の電流を流す導体棒にはローレンツ力 $F = BLi$ が働く。向きはフレミング左手則で決定。電磁誘導(起電力)と表裏一体の現象。

設問(5):速度 v_1 で定速運動時の消費電力 W_1

直感的理解
定速 $v_1$ で動かすには、磁場が棒から奪うエネルギーをちょうど補うために外力が一定仕事率 $F v_1$ で働く。このエネルギーは $R_0$ の熱 $i_1^2 R_0$ と LED消費電力 $i_1 V_0$ に分配される。

回路全体で生じる総電気エネルギーの仕事率 = 起電力 × 電流:

$$P_{\text{total}} = \varepsilon \cdot i_1 = B L v_1 \cdot i_1$$

LED 単体の消費電力 $W_L$ は $V_0 \cdot i_1$、抵抗での消費 $W_R = i_1^2 R_0$:

$$W_L + W_R = V_0 i_1 + i_1^2 R_0 = i_1(V_0 + i_1 R_0) = i_1 \cdot BLv_1$$

問題の $W_1$ は LED消費電力を指す:

$$W_1 = i_1 V_0$$
答え:$W_1 = i_1 V_0$
別解:力学的視点

定速運動なので加速度 0、$F = BLi_1$。外力が単位時間にする仕事は $F v_1 = BLi_1 v_1 = \varepsilon i_1$。これが全電気エネルギーに一致。

Point 電磁誘導のエネルギー収支:外力仕事率 = 起電力×電流 = 抵抗熱 + LED消費。

設問(6):LED消費電力 W_L

直感的理解
LED は閾値電圧 $V_0$ 以上では電圧が $V_0$ にロックされる理想特性。点灯中はLEDの電圧変化 = 0。消費電力 $W_L = V_0 \cdot i_1$ となり、電流 $i_1$ が増えた分だけ消費が増える。

LED が光っているときの電圧は $V_0$ に固定(理想化)。したがって LED で消費される電力は:

$$W_L = V_0 \cdot i_1$$

電流 $i_1$ は速度 $v_1$ に比例して増える(設問(3)の結果):

$$i_1 = \frac{B L v_1 - V_0}{R_0}$$

よって LED消費電力は速度の関数:

$$W_L(v_1) = V_0 \cdot \frac{B L v_1 - V_0}{R_0}$$

単位時間あたりのエネルギー変化 $\Delta W_L = V_0 \cdot i_1$。

答え:$\Delta W_L = V_0 \cdot i_1 = \dfrac{V_0 (B L v_1 - V_0)}{R_0}$
補足:LED効率

現実のLEDは $V_0 i$ のうち一部だけが光に変換され、残りは熱になる。理想化では「$V_0 i$ 全てが光」として扱う。

Point LED の消費電力は「閾値電圧 × 電流」。電圧は固定、電流のみが変化する。

設問(7):エネルギー変換の流れ

直感的理解
運動エネルギーが失われて → 起電力により電気エネルギーに変換 → 抵抗で熱として放出、LEDで光として放出。つまり運動 → 電気 → 熱・光の流れ。

導体棒の運動エネルギー(ア=運動エネルギー)は、磁場を介して電流の仕事となり、これが回路の(イ=電気エネルギー)となる。さらに抵抗での(ウ=エネルギー)とLEDの光エネルギーに変換される。

$$\Delta E_{\text{運動}} = \Delta E_{\text{熱}} + \Delta E_{\text{LED}}$$ $$\frac{1}{2}m \Delta(v^2) = i^2 R_0 \Delta t + V_0 i \Delta t$$ $$= i(iR_0 + V_0)\Delta t = i \cdot BLv \Delta t$$
答え:ア=運動, イ=電気, ウ=熱
補足:エネルギー変換の効率

LEDに使われる電気エネルギーの割合 $\eta = V_0 / (V_0 + iR_0)$。電流が大きくなるほど抵抗熱に食われる割合が増え、LEDの効率は下がる。

Point 電磁誘導でのエネルギー変換:運動エネルギー → 電気エネルギー → 熱+光。総和は保存する。

設問(8):運動エネルギーの微少変化量

直感的理解
外力なしで動く導体棒は、電磁ブレーキを受けて減速する。単位時間に運動エネルギーが失われる量 = 起電力×電流(ジュール熱+LED光)。微小時間 $\Delta t$ で速度が $v$ から $v + \Delta v$ に変わる。

外力無しの場合、運動方程式は:

$$m\frac{dv}{dt} = - B L i_1$$

電流 $i_1 = (BLv - V_0)/R_0$ を代入:

$$m\frac{dv}{dt} = -\frac{BL(BLv - V_0)}{R_0}$$

運動エネルギーの変化率:

$$\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}mv^2\right) = m v \frac{dv}{dt} = -BLv \cdot i_1 = -\varepsilon i_1$$

微小時間 $\Delta t$ の間の減少量:

$$\Delta K = -BLv \cdot i_1 \Delta t = -(i_1 V_0 + i_1^2 R_0)\Delta t$$

$\Delta(v^2) = 2v\Delta v$ の形に書くと、LED のみの寄与として:

$$\Delta(v^2)_{\text{LED}} = \frac{2 i_1 V_0 \Delta t}{m}$$
答え:$\Delta(v^2) = \dfrac{2 i_1 V_0 \Delta t}{m}$ (LED消費分)
別解:エネルギー法

エネルギー保存から直接:$\frac{1}{2}m\Delta(v^2) = i_1 V_0 \Delta t \Rightarrow \Delta(v^2) = \frac{2 i_1 V_0 \Delta t}{m}$。

Point 運動エネルギーの変化 = 仕事。電磁誘導での減速は「電気エネルギーへの変換」分に等しい。

設問(9):終端速度 v_2

直感的理解
鉛直面内で自由落下するレールの場合、導体棒は磁場の制動により終端速度に達する(加速度 = 0)。重力$mg$とローレンツ力$BLi$が釣り合い、LEDが点灯する条件も同時に満たす。

重力場中でレール上を落下する導体棒の運動方程式(LED点灯時、下向きを正):

$$m \frac{dv}{dt} = m g - B L i$$

終端速度 $v_2$ では $dv/dt = 0$:

$$m g = B L i_2 \Rightarrow i_2 = \frac{mg}{BL}$$

回路方程式から $BL v_2 = V_0 + i_2 R_0$:

$$B L v_2 = V_0 + \frac{m g R_0}{B L}$$

両辺を $BL$ で割って:

$$v_2 = \frac{V_0}{B L} + \frac{m g R_0}{B^2 L^2}$$
答え:$v_2 = \dfrac{V_0}{B L} + \dfrac{m g R_0}{B^2 L^2}$
別解:エネルギー平衡

重力による単位時間の仕事 = 電気エネルギー消費率:$mgv_2 = V_0 i_2 + i_2^2 R_0$。連立から同じ結果。

Point 電磁制動のもとでの終端速度は $mg = BLi$ の釣り合いから求める。回路方程式と組み合わせて $v$ を決定。

設問(10):LEDが点灯しない質量条件 m_0

直感的理解
質量が小さすぎると、終端速度が低く、LED点灯の閾値速度 $v_0 = V_0/(BL)$ に届かない。LED OFF のときの終端速度は $v_\infty = mgR_0/(B^2L^2)$。これが $v_0$ 未満なら LED は点灯しない。

LEDがずっと点灯しないための条件は、最終的な速度が閾値 $v_0 = V_0/(BL)$ 未満であること。終端速度を考えると、LED OFF 時の等価抵抗 $R_0$ のみで回路方程式:

$$B L v_\infty = i R_0, \quad m g = B L i$$

これらから:

$$v_\infty = \frac{m g R_0}{B^2 L^2}$$

LED点灯しない条件:$v_\infty < v_0 = V_0/(BL)$:

$$\frac{m g R_0}{B^2 L^2} < \frac{V_0}{BL}$$

$m$ について解くと:

$$m < \frac{V_0 BL}{g R_0}$$

したがって臨界質量:

$$m_0 = \frac{V_0 BL}{g R_0}$$
答え:$m \leq m_0 = \dfrac{V_0 BL}{g R_0}$
補足:物理的解釈

質量が非常に小さい → 重力が弱い → 電磁制動の方が強い → 速度が閾値未満で等速になる → LED 消灯のまま。$m = m_0$ でちょうど境界。

Point 電磁誘導で LED が点灯する条件は「起電力が閾値電圧を超える」こと。質量・重力・抵抗のバランスで決まる。

数値例:具体的な値での計算

数値による理解
問題の文字式を具体的な数値で計算してみる。代表値を使うことで物理的な感覚が磨かれる。

代表的な値を代入して計算してみる。物理の式は記号だけでは実感しにくいが、具体的な数値で計算すると実際のスケールが見える。

代表値の例:

例えば、ある問題の結果が $v_0 = \sqrt{g\ell}$ となった場合:

$$v_0 = \sqrt{9.8 \times 0.5} = \sqrt{4.9} \approx 2.2 \text{ m/s}$$

時間の計算例:$t = \sqrt{2h/g}$、$h = 1.0$ m なら:

$$t = \sqrt{2 \times 1.0 / 9.8} = \sqrt{0.204} \approx 0.45 \text{ s}$$

エネルギー計算例:$E = \frac{1}{2}mv^2$、$m = 2.0$ kg, $v = 3.0$ m/s なら:

$$E = \frac{1}{2} \times 2.0 \times 9.0 = 9.0 \text{ J}$$

電気量計算例:$Q = CV$, $C = 1.0 \times 10^{-6}$ F, $V = 5.0$ V なら:

$$Q = 1.0 \times 10^{-6} \times 5.0 = 5.0 \times 10^{-6} \text{ C} = 5.0 \mu\text{C}$$
総括:具体的な数値で計算を追うと、物理量のスケール感覚が身につく。たとえば自由落下 1 秒で 4.9 m、電気量 $\mu$C オーダー、など。
補足:SI 単位系の一覧

基本単位:長さ m (メートル)、質量 kg、時間 s、電流 A、温度 K、物質量 mol、光度 cd。

組立単位の例:速度 m/s、加速度 m/s²、力 N = kg·m/s²、エネルギー J = N·m、電力 W = J/s、電気量 C = A·s、電圧 V = J/C、抵抗 Ω = V/A、磁束密度 T = kg/(A·s²) など。

Point 文字式での解答と並行して、代表的数値での具体的計算を行うと物理的感覚が磨かれる。答えの桁数が妥当かチェックできる。