前期 大問2:自己・相互インダクタンス(コイルの電磁誘導)

解法の指針

直感的理解

前半((1)〜(4))はコイル1本の話。電流を時間に比例して増やしていき、「電流変化 → 磁場 → 磁束 → 自己誘導起電力」という一本道をたどって、最後に自己インダクタンス \(L_1=\dfrac{\mu N^2 S}{\ell}\) を組み立てます。

後半((5)〜(9))はコイル2本を並列につないだ交流回路。並列だから「両コイルの端子電圧は等しい」——この一言がすべての比の関係を生みます。最後にコイルを近づけて相互インダクタンス \(M\) を登場させ、電流の分かれ方がどう変わるかを追います。

この大問で使う道具

単一コイルの解析((1)〜(4))

直感的理解

電圧 \(E\) を \(0\le t\le t_{\mathrm a}\) で単調に増やすと、電流 \(I\) は \(t\) に比例して増加します(\(t=t_{\mathrm a}\) で \(I=I_{\mathrm a}\))。比例だから \(\dfrac{\Delta I}{\Delta t}\) は一定——ここが計算の心臓部です。電流変化が一定なら、コイルが生む自己誘導起電力も一定になります。

(1) 0≦t≦tₐ での点Aの電位 \(V\)(点B基準)

電流は \(0\le t\le t_{\mathrm a}\) で \(t\) に比例し、\(t=t_{\mathrm a}\) で \(I=I_{\mathrm a}\) になるので

$$ I = \frac{I_{\mathrm a}}{t_{\mathrm a}}\,t,\qquad \frac{\Delta I}{\Delta t}=\frac{I_{\mathrm a}}{t_{\mathrm a}}\ (\text{一定}) $$

抵抗以外の電気抵抗は無視できるので、点Aと点Bの間(コイル1)の電位差は、コイルの自己誘導起電力そのものです。電流 \(I\) は A→(コイル)→B の向きに流れて増加しているため、点Aは点Bより高電位になり、点Bを基準とした点Aの電位は

$$ V = L_1\frac{\Delta I}{\Delta t} = L_1\frac{I_{\mathrm a}}{t_{\mathrm a}} $$

右辺に \(t\) が含まれないので、\(V\) は時間によらず一定の正の値です。

答え:\(\displaystyle V = L_1\frac{I_{\mathrm a}}{t_{\mathrm a}}\)(一定、点Aの方が高電位)

(2) コイル1内部の磁場 \(H\) の比例係数

十分に長いソレノイド内部の磁場は一様で \(H=\dfrac{NI}{\ell}\)。ここに \(I=\dfrac{I_{\mathrm a}}{t_{\mathrm a}}t\) を代入すると

$$ H = \frac{N}{\ell}\cdot\frac{I_{\mathrm a}}{t_{\mathrm a}}\,t = \frac{N I_{\mathrm a}}{\ell\, t_{\mathrm a}}\,t $$

\(H\) は \(t\) に比例し、その比例係数は

$$ \frac{N I_{\mathrm a}}{\ell\, t_{\mathrm a}} $$
答え:比例係数 \(\displaystyle \frac{N I_{\mathrm a}}{\ell\, t_{\mathrm a}}\)

(3) \(t=t_{\mathrm a}\) でコイル1を貫く磁束 \(\phi\)

\(t=t_{\mathrm a}\) では \(I=I_{\mathrm a}\) なので、内部の磁束密度は

$$ B = \mu H = \mu\frac{N I_{\mathrm a}}{\ell} $$

断面積 \(S\) を貫く磁束(1巻きあたり)は \(\phi = BS\) だから

$$ \phi = \mu\frac{N I_{\mathrm a}}{\ell}\cdot S = \frac{\mu N S I_{\mathrm a}}{\ell} $$
答え:\(\displaystyle \phi = \frac{\mu N S I_{\mathrm a}}{\ell}\)

(4) コイル1の自己インダクタンス \(L_1\)

巻数 \(N\) のコイルでは、全巻きを貫く鎖交磁束が \(N\phi\)。自己インダクタンスの定義 \(N\phi = L_1 I\) を \(t=t_{\mathrm a}\)(\(I=I_{\mathrm a}\))で使うと

$$ L_1 = \frac{N\phi}{I_{\mathrm a}} = \frac{N}{I_{\mathrm a}}\cdot\frac{\mu N S I_{\mathrm a}}{\ell} = \frac{\mu N^2 S}{\ell} $$
答え:\(\displaystyle L_1 = \frac{\mu N^2 S}{\ell}\)
🧮 補足:数値で確かめる(オーダー感覚)

\(\mu = 4\pi\times10^{-7}\ \mathrm{H/m}\)、\(N=500\)、\(S=1.0\times10^{-4}\ \mathrm{m^2}\)、\(\ell=0.10\ \mathrm{m}\) のとき

$$ L_1 = \frac{4\pi\times10^{-7}\times500^2\times1.0\times10^{-4}}{0.10} \fallingdotseq 3.1\times10^{-4}\ \mathrm{H} $$

およそ \(0.31\ \mathrm{mH}\)。巻数 \(N\) の2乗で効くので、巻数を2倍にすると \(L_1\) は4倍になります。この事実が後半の「コイル2は巻数 \(2N\) → \(L_2 = 4L_1\)」に直結します。

Point

自己インダクタンスは \(L=\dfrac{\mu N^2 S}{\ell}\)。導出の一本道は「\(H=\dfrac{NI}{\ell}\ \to\ B=\mu H\ \to\ \phi=BS\ \to\ N\phi=LI\)」。巻数は2乗で効く点を必ず押さえること。

2コイル並列・結合なし((5)・(6))

直感的理解

コイル1(巻数 \(N\))とコイル2(巻数 \(2N\))を、点C・点Dの間に並列につなぎます。並列だから2つのコイルにかかる電圧はまったく同じ。「電圧が等しい」という条件が、電流の分かれ方 \(\Delta I_1:\Delta I_2\) を決めます。コイル2は巻数が2倍なので \(L_2=4L_1\)——同じ電圧をかけるなら、インダクタンスが大きいコイル2の方が電流変化はゆっくりになります。

(5) コイル1の誘導起電力 \(V_1\)(点Dを基準とした点Cの電位)

結合がないうちは、コイル1に生じるのは自己誘導だけです。コイル1は点C・点Dの間にあり、正の向き(\(I_1\) の向き)は C→D です。誘導起電力の符号は電流変化を妨げる向き(レンツの法則)にとるので

$$ V_1 = -L_1\frac{\Delta I_1}{\Delta t} $$

これが「点Dを基準とした点Cの電位」の値そのものになります(抵抗成分は無視)。

答え:\(\displaystyle V_1 = -L_1\frac{\Delta I_1}{\Delta t}\)

(6) \(\Delta I_1\) は \(\Delta I_2\) の何倍か

コイル1・コイル2は点C・点Dに並列接続されているので、両者の端子電圧は等しい:

$$ -L_1\frac{\Delta I_1}{\Delta t} = -L_2\frac{\Delta I_2}{\Delta t} \quad\Longrightarrow\quad L_1\Delta I_1 = L_2\Delta I_2 $$

コイル2は巻数 \(2N\)(長さ \(\ell\)、断面積 \(S\))なので、(4)の結果 \(L=\dfrac{\mu N^2 S}{\ell}\) より

$$ L_2 = \frac{\mu (2N)^2 S}{\ell} = 4\cdot\frac{\mu N^2 S}{\ell} = 4L_1 $$

よって

$$ \frac{\Delta I_1}{\Delta I_2} = \frac{L_2}{L_1} = \frac{4L_1}{L_1} = 4 $$
答え:\(\displaystyle \frac{\Delta I_1}{\Delta I_2} = 4\)(\(\Delta I_1\) は \(\Delta I_2\) の 4 倍
Point

並列接続の要は「端子電圧が等しい」。これから \(L_1\Delta I_1=L_2\Delta I_2\) が出る。巻数2倍のコイル2は \(L_2=4L_1\) なので、同じ電圧でも電流変化は \(\dfrac14\) にとどまり、コイル1側が4倍速く変化する。

相互誘導を含む解析((7)〜(9))

直感的理解

2つのコイルを近づけると、片方の電流変化がもう片方にも起電力を生みます(相互誘導、大きさ \(M\))。図2の注意書き「コイルの巻きの向きに注意すること」がカギで、2つのコイルは逆向きに巻かれています。このため相手コイルがつくる磁束は自分の磁束を打ち消す向きに加わる逆結合になり、コイル1を貫く磁束は \(\Phi_1 = L_1 I_1 - M I_2\) となります。結果として各コイルの起電力には自己誘導項と符号が逆の相互誘導項 \(+M\dfrac{\Delta I}{\Delta t}\) が付きます。この一項が加わると、電流の分かれ方 \(\Delta I_1:\Delta I_2\) が(6)の 4:1 からずれていきます。

(7) 相互誘導を含む誘導起電力(点Dを基準とした点Cの電位)

コイルを近づけると、各コイルの起電力には「自分の電流変化による自己誘導」に加えて「相手の電流変化による相互誘導」が重なります。図2の巻き向き(互いに逆巻き)から、これは逆結合です。コイル1を貫く磁束は自己磁束から相互磁束を差し引いた \(\Phi_1 = L_1 I_1 - M I_2\) なので、その時間変化から生じる起電力では、相互誘導項が自己誘導項と逆符号になります。

$$ V_1 = -L_1\frac{\Delta I_1}{\Delta t} + M\frac{\Delta I_2}{\Delta t} $$ $$ V_2 = -L_2\frac{\Delta I_2}{\Delta t} + M\frac{\Delta I_1}{\Delta t} $$

いずれも「点Dを基準とした点Cの電位」として、コイル1・コイル2で同じ値になります(並列だから当然です)。

答え: \(\displaystyle V_1 = -L_1\frac{\Delta I_1}{\Delta t} + M\frac{\Delta I_2}{\Delta t}\)、 \(\displaystyle V_2 = -L_2\frac{\Delta I_2}{\Delta t} + M\frac{\Delta I_1}{\Delta t}\)

(8) \(\Delta I_1,\ \Delta I_2\) はそれぞれ \(\Delta I_0\) の何倍か

並列なので \(V_1=V_2\)。(7)の2式(逆結合)を等しいとおくと(\(\Delta t\) は共通なので消える)

$$ -L_1\Delta I_1 + M\Delta I_2 = -L_2\Delta I_2 + M\Delta I_1 $$

移項して \(L_2 = 4L_1\) を代入して整理すると

$$ (L_1 + M)\Delta I_1 = (4L_1 + M)\Delta I_2 \quad\Longrightarrow\quad \frac{\Delta I_1}{\Delta I_2} = \frac{4L_1 + M}{L_1 + M} $$

さらに、点Cでの電流保存(キルヒホッフの第一法則)\(I_0 = I_1 + I_2\) より \(\Delta I_0 = \Delta I_1 + \Delta I_2\)。上の比を満たすように \(\Delta I_1 = (4L_1+M)k,\ \Delta I_2 = (L_1+M)k\) とおくと

$$ \Delta I_0 = \Delta I_1 + \Delta I_2 = \big[(4L_1+M)+(L_1+M)\big]k = (5L_1 + 2M)k $$

したがって

$$ \frac{\Delta I_1}{\Delta I_0} = \frac{4L_1 + M}{5L_1 + 2M},\qquad \frac{\Delta I_2}{\Delta I_0} = \frac{L_1 + M}{5L_1 + 2M} $$
答え: \(\displaystyle \Delta I_1 = \frac{4L_1 + M}{5L_1 + 2M}\,\Delta I_0\)、 \(\displaystyle \Delta I_2 = \frac{L_1 + M}{5L_1 + 2M}\,\Delta I_0\)

(9) \(M = \dfrac{1}{10}L_1\) のとき \(\Delta I_1\) は \(\Delta I_2\) の何倍か

(8)で得た比 \(\dfrac{\Delta I_1}{\Delta I_2} = \dfrac{4L_1 + M}{L_1 + M}\) に \(M = \dfrac{1}{10}L_1\) を代入します。

$$ \frac{\Delta I_1}{\Delta I_2} = \frac{4L_1 + \tfrac{1}{10}L_1}{L_1 + \tfrac{1}{10}L_1} = \frac{\tfrac{40}{10}L_1 + \tfrac{1}{10}L_1}{\tfrac{10}{10}L_1 + \tfrac{1}{10}L_1} = \frac{\tfrac{41}{10}L_1}{\tfrac{11}{10}L_1} $$

\(L_1\) と \(\tfrac{1}{10}\) が約分できて

$$ \frac{\Delta I_1}{\Delta I_2} = \frac{41}{11} \fallingdotseq 3.73 $$

結合がないとき((6))は 4 倍でしたが、逆結合の相互誘導が加わると \(\dfrac{41}{11}\) 倍にわずかに減ります。

答え:\(\displaystyle \frac{\Delta I_1}{\Delta I_2} = \frac{41}{11}\)(約 3.73 倍)
💡 別解:(8)の逆行列を使わずに一気に(9)を出す

(9)だけなら (8) の第2段階(\(\Delta I_0\) との関係)は不要です。並列条件 \(V_1=V_2\) から出た

$$ (L_1 + M)\Delta I_1 = (4L_1 + M)\Delta I_2 $$

に直接 \(M=\tfrac{1}{10}L_1\) を代入し、両辺を \(L_1\) で割ると

$$ \left(1 + \tfrac{1}{10}\right)\Delta I_1 = \left(4 + \tfrac{1}{10}\right)\Delta I_2 \;\Rightarrow\; \tfrac{11}{10}\Delta I_1 = \tfrac{41}{10}\Delta I_2 $$ $$ \frac{\Delta I_1}{\Delta I_2} = \frac{41}{11} $$

結果は当然一致します。

補足:相互インダクタンスの上限(結合係数)

相互インダクタンスは結合係数 \(k\ (0\le k\le1)\) を使って \(M = k\sqrt{L_1 L_2}\) と書けます。ここでは \(L_2 = 4L_1\) なので \(\sqrt{L_1 L_2}=2L_1\)、よって

$$ M = k\cdot 2L_1 \le 2L_1 $$

\(M = \tfrac{1}{10}L_1\) は \(k = \tfrac{M}{2L_1} = 0.05\) に相当し、非常に弱い結合です。上のシミュレーションで \(M/L_1\) を大きくすると比 \(\dfrac{\Delta I_1}{\Delta I_2}=\dfrac{4+M/L_1}{1+M/L_1}\) は 4 から 1 に向かってゆるやかに減少します(逆結合では相互誘導が分流の偏りを弱める向きに働くため)。

Point

相互誘導を含む並列回路は「\(V_1=V_2\)(端子電圧が等しい)」と「\(\Delta I_0=\Delta I_1+\Delta I_2\)(電流保存)」の2本立てで解く。図2の逆巻き(逆結合)では相互誘導項が自己誘導項と逆符号になり、比は \(\dfrac{\Delta I_1}{\Delta I_2}=\dfrac{4L_1+M}{L_1+M}\)。\(M=\tfrac{1}{10}L_1\) を入れて \(\dfrac{41}{11}\) 倍。巻き向き(順結合か逆結合か)で符号が変わる点を必ず確認し、数値を代入する前に文字式で比を確定させるのがミス防止のコツ。

まとめ