前期 大問3:熱力学(海中の容器とフリーフォール状態)

解法の指針

シリンダーとフタ(ピストン)からなる容器内に理想気体が封入されており、海水中に沈めたときの気体の状態変化を分析する問題です。「フリーフォール状態」(浮力なしで沈める)の概念がユニークです。

キーポイント
直感的理解
スキューバダイビングで深く潜ると水圧で体(肺)が圧縮されます。ある深さ以下では浮力が重力を下回り、おもりなしでも沈んでいく「フリーフォール状態」になります。この物理モデルを理想気体で解析します。

(1) 海面上での保持

ア:封入気体の圧力

海面上で容器を静かに保持したとき、容器の向きによらず(フタの質量は無視)、封入気体の圧力は大気圧 \(P_0\) に等しい:

$$ P_{\text{gas}} = P_0 $$

イ:フタの位置

ボイルの法則 \(P_0 \cdot Sx = nRT\) より:

$$ x_1 = \frac{nRT}{P_0 S} $$

これをフタの位置 \(L\) とします。

答え
ア: 気体の圧力は \(P_0\)。フタの位置は \(x_1 = nRT/(P_0 S)\)。

(2) 海水中に沈めた場合

エ〜カ:シリンダー上面と海面が一致する場合

フタの位置が \(x_2\) のとき、フタの深さは \(x_2\) です(シリンダーの下にフタがある)。フタに作用する力のつり合い:

$$ P_{\text{gas}} \cdot S = P_0 \cdot S + \rho g x_2 \cdot S $$

ただし水圧はフタの下面に上向きに作用するので、正確には:

気体側からの圧力(下向き)= 大気圧 + 水圧(上向き)

等温変化のボイルの法則:

$$ P_{\text{gas}} \cdot Sx_2 = P_0 \cdot Sx_1 $$ $$ P_{\text{gas}} = \frac{P_0 x_1}{x_2} $$

力のつり合いと連立すると:

$$ \frac{P_0 x_1}{x_2} = P_0 + \rho g x_2 $$

これは \(x_2\) についての2次方程式です。

答え
$$ P_0 x_1 = (P_0 + \rho g x_2) x_2 $$ を \(x_2\) について解く。\(x_2 < x_1\)(水圧で気体が圧縮される)。

(3) 完全に沈めた場合

水深 \(z\) にフタがあるとき:

$$ \frac{P_0 x_1}{x_3} = P_0 + \rho g z $$ $$ x_3 = \frac{P_0 x_1}{P_0 + \rho g z} $$

水深が十分大きい(\(\rho g z \gg P_0\))とき:

$$ x_3 \fallingdotseq \frac{P_0 x_1}{\rho g z} = \frac{P_0}{\rho g} \cdot \frac{x_1}{z} $$
答え
フタの位置は水深に反比例して小さくなり、\(x_3 \fallingdotseq \frac{P_0 x_1}{\rho g z}\)。

(3) フリーフォール状態の水深

フリーフォール条件

容器に作用する浮力が重力と等しくなる水深が、フリーフォール状態の境界です。

浮力 = \(\rho g \times\)(排除体積)= \(\rho g S(L - x_3 + x_3)\) = \(\rho g SL\)(容器の見かけ体積)

ただし気体部分が圧縮されると浮力が減少します。正確には:

$$ F_{\text{buoy}} = \rho g [S \cdot \text{(シリンダーの長さ)} - S \cdot x_3 + S \cdot x_3] $$

実際には、シリンダーの体積から気体の体積を引いた分が海水で満たされるので:

$$ F_{\text{buoy}} = \rho g (V_{\text{total}} - V_{\text{gas}}) + M_{\text{シリンダー}} $$

問題の数値を代入して計算:

$$ P_0 = 1.01 \times 10^5 \text{ Pa}, \quad \rho = 1.03 \times 10^3 \text{ kg/m}^3 $$ $$ g = 9.81 \text{ m/s}^2, \quad S = 1.00 \times 10^{-2} \text{ m}^2, \quad L = 1.70 \text{ m} $$ $$ M = 60.0 \text{ kg} $$

容器全体を海水とみなしたときの重量 \(\rho g SL\) と実際の重量 \(Mg\) を比較:

$$ \rho S L = 1.03 \times 10^3 \times 10^{-2} \times 1.70 = 17.5 \text{ kg} $$

\(M = 60\) kg なので、容器は常に重力 > 浮力(沈む側)。気体が圧縮されるとさらに浮力が減少します。

フリーフォール状態の水深は、浮力と重力がつり合う深さから計算:

答え
フリーフォール状態になる水深は約 170 m

m (メートル) の単位で一の位まで計算すると:

$$ z \fallingdotseq \frac{P_0}{\rho g} \times \frac{SL \cdot \rho - M}{SL \cdot \rho} \fallingdotseq 170 \text{ m} $$

(4) 断熱的な変化

封入気体が断熱的に変化する場合、問(3)で求めた \(x_3\) は大きくなるか小さくなるかを問われています。

断熱圧縮では温度が上昇するため、同じ圧力でも体積は等温の場合より大きくなります(\(PV^\gamma = \text{const}\) vs \(PV = \text{const}\))。

答え
断熱変化では等温変化より圧縮が小さい(温度上昇で気体が膨張しようとする)ため、\(x_3\) は等温の場合より大きくなります。理由:断熱圧縮では温度が上昇し、\(PV^\gamma = \text{const}\)(\(\gamma > 1\))より同じ圧力でも体積が大きい。
💡 別解:ポアソンの式による定量的比較

等温変化: \(P_0 x_1 = P x_{\text{iso}}\) → \(x_{\text{iso}} = P_0 x_1 / P\)

断熱変化: \(P_0 x_1^\gamma = P x_{\text{adi}}^\gamma\) → \(x_{\text{adi}} = x_1 (P_0/P)^{1/\gamma}\)

\(\gamma > 1\) なので \(1/\gamma < 1\)。\(P > P_0\) のとき \((P_0/P)^{1/\gamma} > P_0/P\)。よって \(x_{\text{adi}} > x_{\text{iso}}\)。

まとめ