一辺 \(l\) の正方形コイルABCDが抵抗 \(R\) につながれ、台車ごと \(x\) 軸方向へ動く問題です。ポイントは「磁場を横切る辺があるときだけ誘導起電力が生じる」こと。コイルが磁場に入る途中・出る途中は片方の辺だけが磁場を横切るので起電力が発生しますが、コイル全体が磁場の中に完全に入っている間は、貫く磁束が変化しないので起電力は生じません。
前半 (1)〜(4) は「一定速度 \(v_0\) でロープに引かれて通過する」場面(エネルギーは全部ジュール熱に化ける)。後半 (5)〜(9) は「ロープが外れて電磁ブレーキだけで減速する」場面(運動エネルギーがジュール熱に変わって減っていく)です。
「磁束が変化する=起電力が生じる」。正方形コイルでは、片方の辺だけが磁場境界をまたぐときに磁束が変わる。両辺とも磁場内(または両辺とも磁場外)なら磁束一定で起電力ゼロ。この区別が全問の土台になる。
\(0\le x\le l\) では先頭の辺ABだけが磁場を横切っています。磁場を横切る「1本の導体棒」が \(Blv_0\) の電池になり、抵抗 \(R\) に電流を流すイメージ。向きは「磁束の増加を妨げる」向き(レンツの法則)で決まります。
立式(起電力):\(0\le x\le l\) では辺AB(長さ \(l\))だけが磁場を横切ります。磁場を横切る辺に生じる誘導起電力の大きさは
$$ e_0 = Bl v_0 $$電流の大きさ:コイルの抵抗は無視できるので、回路の全抵抗は \(R\) だけ。オームの法則より
$$ |I| = \frac{e_0}{R} = \frac{Blv_0}{R} $$向きの決定:磁場 \(B\) は \(z\) 軸正(水平面に対して上向き)。コイルが進入すると、コイルを上向きに貫く磁束が増加します。レンツの法則より、誘導電流はこの増加を妨げる(下向きの磁束をつくる)向き、すなわち上から見て時計回り。図の辺ABでは B→A の向きに流れます。問題の正の向きは「A→B」なので、符号は負:
$$ I = -\frac{Blv_0}{R} $$辺AB中の正電荷が受ける力は \(\vec F = q\vec v\times\vec B\)。\(\vec v = v_0\hat x,\ \vec B = B\hat z\) とすると
$$ \vec v\times\vec B = v_0 B(\hat x\times\hat z) = -v_0 B\,\hat y $$力は \(-y\) 向き。図で辺ABは B が \(+y\) 側(奥)、A が \(-y\) 側(手前)にあるので、正電荷は A 側へ押される=AB内部で電流は B→A。レンツの法則の結論と一致します。
大きさ \(Blv_0/R\) は確実に。符号は「A→B を正」という問題の約束で決まる。進入時はレンツの法則で B→A(時計回り、上から見て)なので負。退出時は逆向き(正)になる。
一定速なので運動エネルギーは変わりません。ということは、電流が流れて発生したジュール熱は、そのぶん巻き取り機が余分に引いた仕事から来ています。熱が出るのは電流が流れている「進入中」と「退出中」の2区間だけ。各区間の消費電力 × 時間を足せば総熱量です。
立式:電流が流れるのは進入区間 \(0\le x\le l\) と退出区間 \(2l\le x\le 3l\)。それぞれ長さ \(l\) を速さ \(v_0\) で通るので、電流が流れる時間は各区間で
$$ t_1 = \frac{l}{v_0} $$各区間の消費電力(=抵抗の発熱率)は
$$ P = \frac{e_0^{\,2}}{R} = \frac{(Blv_0)^2}{R} = \frac{B^2l^2v_0^2}{R} $$各区間の発熱量:
$$ P\,t_1 = \frac{B^2l^2v_0^2}{R}\cdot\frac{l}{v_0} = \frac{B^2l^3v_0}{R} $$総量(進入+退出の2区間):
$$ J_1 = 2\times\frac{B^2l^3v_0}{R} = \frac{2B^2l^3v_0}{R} $$制動力 \(F=BIl=\dfrac{B^2l^2v_0}{R}\) が2区間(合計距離 \(2l\))で運動を妨げる。台車は等速なので、制動力に逆らってなされた仕事がすべてジュール熱になる:
$$ J_1 = F\times 2l = \frac{B^2l^2v_0}{R}\times 2l = \frac{2B^2l^3v_0}{R} $$電力積分と同じ結果。(4) で見る \(J_w=J_1\) の伏線でもあります。
熱が出るのは電流が流れる2区間だけ(完全内部 \(l\le x\le 2l\) は起電力ゼロで発熱ゼロ)。「\(P\times t\)」でも「\(F\times\)距離」でも同じ値になるのがエネルギー保存の証拠。
台車は等速なので合力ゼロ。電磁ブレーキ(制動力)がかかっている間は、それと同じ大きさの張力で巻き取り機が引っぱっていないと速さが保てません。ブレーキがかかるのは電流が流れる進入・退出の2区間。それ以外は張力ゼロ(引く必要なし)。だからグラフは2つの長方形になります。
立式:制動力(電磁ブレーキ)の大きさは、電流 \(I=\dfrac{Blv_0}{R}\) が磁場中の辺(長さ \(l\))に受ける力:
$$ F_{\text{制動}} = BIl = B\cdot\frac{Blv_0}{R}\cdot l = \frac{B^2l^2v_0}{R} $$張力の決定:台車は等速なので合力ゼロ。巻き取り向き(\(+x\))を正とすると、張力は制動力とつり合う大きさで \(+x\) 向き。電流が流れる区間だけで生じる:
$$ F = \begin{cases} \dfrac{B^2l^2v_0}{R} & (0\lt x\lt l,\ 2l\lt x<3l) \\[4pt] 0 & (l\lt x<2l) \end{cases} $$「等速=合力ゼロ」だから張力=制動力。制動力がゼロの区間(完全内部)では張力もゼロ。摩擦や慣性で悩む必要はなく、電流が流れているか否かだけで場合分けできる。
(3) のグラフで、張力 \(F\) と距離のグラフが囲む面積が「仕事」です。長方形2つの面積を足すだけ。そして台車の運動エネルギーは終始変わらないので、巻き取り機が費やした仕事はまるごと抵抗のジュール熱になっているはず。つまり \(J_w=J_1\) が成り立ちます。
立式(グラフの面積):(3) の \(F\)–\(x\) グラフで、仕事は「面積」。長方形2つ(高さ \(\dfrac{B^2l^2v_0}{R}\)、幅 \(l\))の合計:
$$ J_w = \frac{B^2l^2v_0}{R}\times l \;+\; \frac{B^2l^2v_0}{R}\times l $$計算:
$$ J_w = 2\times\frac{B^2l^3v_0}{R} = \frac{2B^2l^3v_0}{R} $$J₁ との関係:台車は始めから終わりまで速さ \(v_0\) で運動エネルギーが変化しない。よってエネルギー保存より、巻き取り機がした仕事はすべて抵抗のジュール熱になる:
$$ J_w = J_1 = \frac{2B^2l^3v_0}{R} $$等速運動では「加えた仕事=発生した熱」。\(J_w=J_1\) は偶然ではなくエネルギー保存の必然。グラフの面積で仕事を求める手法は入試頻出。
後半はロープが外れ、磁場は \(x\ge 0\) の全域に広がっています。台車が磁場に入り始めると(\(0\le x\le l\))、先頭の辺ABが磁場を横切り電流が流れ、電磁ブレーキで減速します。ところがコイルがすっぽり磁場に入りきると(\(x\ge l\))、後ろの辺CDも磁場内に入って磁束が変化しなくなり、電流もブレーキも消えます。だから減速はちょうど \(x=l\) で止まり、以後は等速です。
理由の説明:磁場は \(x\ge 0\) の全域。台車が \(0\le x\le l\) にある間は先頭の辺ABだけが磁場を横切り、磁束が増加して起電力が生じ、電磁ブレーキで減速する。\(x\ge l\) になると後ろの辺CD(座標 \(x-l\ge 0\))も磁場内に入り、コイルを貫く磁束が \(Bl^2\) で一定になる。磁束が変化しないので起電力も電流も消え、ブレーキがなくなる。よって減速が終わる位置は
$$ x_1 = l $$v₁ を求める:運動方程式 \(m\dfrac{dv}{dt}=-\dfrac{B^2l^2}{R}v\) を、\(v=\dfrac{dx}{dt}\) を使って位置の式に直す(両辺 \(dt\) を払う):
$$ m\,dv = -\frac{B^2l^2}{R}\,dx $$これを \(x:0\to l\)、\(v:v_0\to v_1\) で積分(左右とも一定係数なので単純な差になる):
$$ m(v_1 - v_0) = -\frac{B^2l^2}{R}\cdot l = -\frac{B^2l^3}{R} $$よって
$$ v_1 = v_0 - \frac{B^2l^3}{mR} $$制動力は速度に比例するので、時間に対しては \(v(t)=v_0e^{-t/\tau}\)(\(\tau=mR/B^2l^2\))という指数減衰です。しかし今回問われているのは「ある位置 \(x_1\) に達したときの速度」。運動方程式に \(v=dx/dt\) を代入すると \(m\,dv=-\dfrac{B^2l^2}{R}dx\) となり、\(v\) が消えて位置に対しては一次関数で減る(\(v=v_0-\dfrac{B^2l^2}{mR}x\))。時間の指数減衰と位置の一次減少は矛盾しません(減速するほど同じ距離を進むのに時間がかかるため)。
速度比例の抵抗力でも、\(v\,\dfrac{dv}{dx}\) 形に直すと位置に対して一次で減速する(\(v\) が約分で消える)。\(x_1=l\) は「コイル全体が磁場に入りきる位置」=磁束が一定に転じる境目。
減速区間で台車にはたらく水平方向の力は電磁ブレーキだけ(レールはなめらか、ロープなし)。微小時間 \(\Delta t\) の間に速度が \(v\to v+\Delta v\) と変わるので、加速度を \(\dfrac{\Delta v}{\Delta t}\) と書いて「\(ma=F\)」を立てます。ブレーキ力は速度 \(v\) のときの電流に比例します。
力の整理:速度 \(v\) のとき、辺ABに生じる起電力は \(Blv\)、流れる電流は \(I=\dfrac{Blv}{R}\)。この電流が磁場中の辺(長さ \(l\))に受ける力(制動力)の大きさは
$$ F = BIl = \frac{B^2l^2v}{R} $$運動方程式:微小時間 \(\Delta t\) で速度が \(\Delta v\) 変化するので加速度は \(\dfrac{\Delta v}{\Delta t}\)。制動力は運動を妨げる向き(負)だから
$$ m\frac{\Delta v}{\Delta t} = -\frac{B^2l^2v}{R} $$整理すると(\(\Delta t\) を払った形):
$$ m\,\Delta v = -\frac{B^2l^2v}{R}\,\Delta t $$制動力 \(=\dfrac{B^2l^2v}{R}\) は速度に比例。負号は「運動を妨げる向き」を表す。\(\dfrac{\Delta v}{\Delta t}\) はそのまま加速度で、後半 (7)(8) の計算の起点になる。
速度が \(v\to v+\Delta v\)(\(\Delta v<0\))に変わると運動エネルギーが少し減ります。\(\Delta v\) は小さいので、\((\Delta v)^2\) は無視。すると減少量は \(mv|\Delta v|\) の形になり、(6) の運動方程式を代入すれば \(v\) と \(\Delta t\) だけの式になります。
立式:速度が \(v\to v+\Delta v\) に変わるときの運動エネルギーの変化は
$$ \Delta K = \frac{1}{2}m(v+\Delta v)^2 - \frac{1}{2}mv^2 = mv\,\Delta v + \frac{1}{2}m(\Delta v)^2 $$近似:\((\Delta v)^2\) の項(=\((\Delta t)^2\) のオーダー)を無視すると
$$ \Delta K \fallingdotseq mv\,\Delta v $$代入:(6) より \(m\,\Delta v = -\dfrac{B^2l^2v}{R}\Delta t\) なので、これを掛け合わせる形で使うと
$$ \Delta K \fallingdotseq v\cdot(m\,\Delta v) = v\cdot\left(-\frac{B^2l^2v}{R}\Delta t\right) = -\frac{B^2l^2v^2}{R}\Delta t $$減少量は \(\Delta K\) の大きさなので
$$ |\Delta K| = \frac{B^2l^2v^2}{R}\,\Delta t $$「\(\Delta K\fallingdotseq mv\Delta v\)」は微小変化の定石。運動方程式 \(m\Delta v=-\dfrac{B^2l^2v}{R}\Delta t\) を代入すると、次の (8) の発熱量とぴったり一致する(=エネルギー保存の確認)。
抵抗の発熱は「\(I^2R\times\)時間」。速度 \(v\) のときの電流 \(I=\dfrac{Blv}{R}\) を使えばすぐ出ます。そして出てきた式は (7) の運動エネルギー減少とまったく同じ。台車が失った運動エネルギーが、そのまま抵抗の熱になっている証拠です。
立式:速度 \(v\) のときの電流は \(I=\dfrac{Blv}{R}\)。抵抗 \(R\) の消費電力は \(I^2R\) なので、微小時間 \(\Delta t\) の発熱量は
$$ Q = I^2 R\,\Delta t = \left(\frac{Blv}{R}\right)^2 R\,\Delta t $$計算:
$$ Q = \frac{B^2l^2v^2}{R^2}\cdot R\,\Delta t = \frac{B^2l^2v^2}{R}\,\Delta t $$制動力 \(F=\dfrac{B^2l^2v}{R}\) が速度 \(v\) の台車にする(負の)仕事の仕事率は \(-Fv=-\dfrac{B^2l^2v^2}{R}\)。\(\Delta t\) 間の仕事の大きさ \(\dfrac{B^2l^2v^2}{R}\Delta t\) が発熱量と一致します。力学(仕事)と電気(\(I^2R\))のどちらから攻めても同じ値になる、というのがこの問題の核心です。
(7) と (8) が一致することは、この装置が運動エネルギーを電気(=熱)に変換する電磁ブレーキだという物理を数式で確かめたことになる。次の (9) はこれを全区間で足すだけ。
(7)(8) で「失った運動エネルギー=抵抗の発熱」が分かりました。台車は \(v_0\) から減速し始め、\(x=l\)(速度 \(v_1\))で減速が止まって以後ずっと \(v_1\)。磁場は \(x\ge 0\) に無限に広がっているので、二度と磁場から出ることはなく、これ以上熱は出ません。だから総発熱量は「はじめと終わりの運動エネルギーの差」で一発です。
立式(エネルギー保存):\(t\ge 0\) で失う運動エネルギーがすべて抵抗の発熱になる。台車は \(v_0\) から減速し、\(x_1=l\) で \(v_1=v_0-\dfrac{B^2l^3}{mR}\) となって以後は等速(磁場は無限に続くので二度と磁束は変化しない)。よって総発熱量は
$$ Q_{\text{total}} = \frac{1}{2}mv_0^2 - \frac{1}{2}mv_1^2 = \frac{1}{2}m(v_0^2 - v_1^2) $$代入:\(v_0^2-v_1^2=(v_0-v_1)(v_0+v_1)\) を使う。\(v_0-v_1=\dfrac{B^2l^3}{mR}\)、\(v_0+v_1=2v_0-\dfrac{B^2l^3}{mR}\) だから
$$ Q_{\text{total}} = \frac{1}{2}m\cdot\frac{B^2l^3}{mR}\left(2v_0 - \frac{B^2l^3}{mR}\right) $$整理:
$$ Q_{\text{total}} = \frac{B^2l^3}{2R}\left(2v_0 - \frac{B^2l^3}{mR}\right) = \frac{B^2l^3v_0}{R} - \frac{B^4l^6}{2mR^2} $$(8) より微小発熱は \(dQ=\dfrac{B^2l^2v^2}{R}dt\)。\(v\,dt=dx\) を使うと \(dQ=\dfrac{B^2l^2}{R}v\,dx\)。さらに (5) の \(v=v_0-\dfrac{B^2l^2}{mR}x\) を \(x:0\to l\) で積分すれば同じ結果が得られます。
$$ Q=\int_0^{l}\frac{B^2l^2}{R}\left(v_0-\frac{B^2l^2}{mR}x\right)dx = \frac{B^2l^3v_0}{R}-\frac{B^4l^6}{2mR^2} $$エネルギー保存で解いた結果と一致します。
感覚をつかむため、仮に \(B = 0.50\) T、\(l = 0.20\) m、\(v_0 = 3.0\) m/s、\(R = 0.10\) Ω、\(m = 1.0\) kg として代入してみます。
まず制動に効く量 \(\dfrac{B^2l^3}{mR}\)(= \(v_0-v_1\))を計算:
$$ \frac{B^2l^3}{mR} = \frac{(0.50)^2\times(0.20)^3}{1.0\times 0.10} = \frac{0.25\times 0.0080}{0.10} = 0.020\ \text{m/s} $$よって終速は \(v_1 = 3.0 - 0.020 = 2.98\) m/s(ほとんど減らない=ブレーキは弱い)。総発熱量は
$$ Q_{\text{total}} = \frac{B^2l^3v_0}{R} - \frac{B^4l^6}{2mR^2} $$ $$ = \frac{0.25\times 0.0080\times 3.0}{0.10} - \frac{(0.25)^2\times(0.20)^6}{2\times 1.0\times(0.10)^2} $$ $$ = 0.060 - 2.0\times10^{-5} \fallingdotseq 0.060\ \text{J} $$運動エネルギー差 \(\tfrac12 m(v_0^2-v_1^2)=\tfrac12\times1.0\times(3.0^2-2.98^2)\fallingdotseq 0.060\) J とも一致し、検算になります。第2項が非常に小さいのは、コイルが磁場に入りきる \(l\) の距離が短く、失う運動エネルギーが小さいためです。
「はじめの運動エネルギー \(-\) 終わりの運動エネルギー」で総熱量が求まる。減速が \(x=l\) で止まるので、終速は \(v_1\)。積分でもエネルギー保存でも同じ答えになるのが検算のコツ。