前期 大問1:力学(自転車の駆動系とギア変速)

解法の指針

ペダル → クランク → 前リング → ベルト → 後リング → 後輪 → 地面、と力が伝わっていく自転車の駆動系を、力のモーメントのつり合いで追いかける問題です。後半は「駆動力が速度とともに弱まる」条件下での運動方程式と、変速(ギアチェンジ)の最適化を扱います。

直感的理解

ギアは「てこの連鎖」です。半径の大きい歯車から小さい歯車へ力を渡すと力は大きく(モーメントが小さい半径で受け止められる)、逆に速さは失われます。同軸に固定された歯車どうしは角速度が等しく、ベルトでつながれた歯車どうしは接線(周)速度が等しくなる——この2つのルールだけで全問が解けます。

Point

半径の設定を最初に整理:前リング \(R\)、前・後輪 \(4R\)、クランク長 \(2R\)、後リング(低速リング)\(R/2\)、高速リング \((R/2)/2 = R/4\)。「同軸=同じ \(\omega\)」「ベルト=同じ周速度」を貼り分けるのが鍵。

固定状態の力の伝達 (1)〜(3)

直感的理解

自転車を固定した「つり合い」の状態。各歯車で「入ってくるモーメント=出ていくモーメント」が成り立ちます。ベルトの張力 \(T\) は前リングでは半径 \(R\)、後リングでは半径 \(R/2\) の腕として働くので、同じ \(T\) でも生むモーメントが変わります。

(1) ペダルの力が前リングに及ぼすモーメント M

クランクは前リングの中心を支点に回り、ペダルはその先端(回転半径=クランク長 \(2R\))にあります。運転者はクランクが回る向き、すなわちクランクに垂直な接線方向に大きさ \(F\) を加え続けます。力のモーメントは「力 × 腕の長さ」なので、

$$ M = F \times (\text{腕の長さ}) = F \times 2R = 2FR $$
答え: \(M = 2FR\)

(2) ベルトに伝わる張力 T

前リング(半径 \(R\))は、クランクから受け取ったモーメント \(M=2FR\) と、ベルト張力 \(T\) が半径 \(R\) の位置に生むモーメントがつり合います(駆動系は十分軽く、慣性を無視)。

$$ T \times R = M = 2FR $$ $$ T = \frac{2FR}{R} = 2F $$
答え: \(T = 2F\)(\(F\) の 2 倍

(3) 後輪が地面に及ぼす水平力 F'

まずベルト張力 \(T=2F\) が後リング(半径 \(R/2\))に生むモーメントを求めます。

$$ M_{\text{後軸}} = T \times \frac{R}{2} = 2F \times \frac{R}{2} = FR $$

後リングは後輪(半径 \(4R\))と同軸で固定されているので、このモーメント \(FR\) がそのまま後軸に働きます。後輪は地面で滑らず、後軸まわりのモーメントのつり合いから、後輪が地面を蹴る接地点(半径 \(4R\))での水平力を \(F'\) とすると、

$$ F' \times 4R = M_{\text{後軸}} = FR $$ $$ F' = \frac{FR}{4R} = \frac{F}{4} $$

作用・反作用より、後輪が地面に及ぼす力の水平成分も同じ大きさ \(\dfrac{F}{4}\) です。

答え: \(F' = \dfrac{F}{4}\)(\(F\) の 1/4 倍
💡 補足:モーメントを一気に追いかける「ギア比」の見方

ペダルの力 \(F\) が地面での力 \(F'\) になるまでを、半径比で一発追跡できます。

$$ F' = F \times \underbrace{\frac{2R}{R}}_{\text{クランク→前リング}} \times \underbrace{\frac{R/2}{R}}_{\text{ベルト→後リング}}\!\!\!\times \underbrace{\frac{1}{4R}\cdot R}_{\text{後輪}} $$

整理すると \(F' = F\cdot 2 \cdot \tfrac12 \cdot \tfrac14 = \tfrac{F}{4}\)。半径の大きい歯車で受け、半径の小さい歯車で渡し、最後に大きな車輪(\(4R\))で地面に伝えるため、力は \(1/4\) に「減る」代わりに、後で見るように速さが稼げます。

Point

各歯車で「\(\text{力}\times\text{半径}=\text{モーメント}=\text{一定}\)」を貼る。大きい半径で受けて小さい半径で渡すとモーメントが凝縮され力が増え、最後に大きな車輪半径 \(4R\) で割ると地面への力になる。

自由走行の運動 (4)〜(7)

直感的理解

今度は速度の話。ベルトでつながれた歯車は周速度が等しく同軸の歯車・車輪は角速度が等しい。この2つで、クランクの角速度 \(\omega\) から後輪の回る速さ、そして地面を進む速さ \(v\) までを一本の鎖でつなぎます。力 \(F\) は \(\omega\)(=速さ)が上がるほど弱まるので、加速度はだんだん小さくなり、やがて最高速度で頭打ちになります。

(4) 速さ v を角速度 ω で表す

クランクは前リングに固定されているので、前リングの角速度も \(\omega\)。前リング(半径 \(R\))のふちの周速度、すなわちベルトの速さ

$$ v_{\text{ベルト}} = R\omega $$

後リング(半径 \(R/2\))はベルトで同じ周速度を受けるので、その角速度 \(\omega_r\) は

$$ \frac{R}{2}\,\omega_r = R\omega \quad\Rightarrow\quad \omega_r = 2\omega $$

後輪(半径 \(4R\))は後リングと同軸なので角速度も \(\omega_r = 2\omega\)。後輪は滑らず転がるので、地面に対する速さ \(v\) は

$$ v = 4R \times \omega_r = 4R \times 2\omega = 8R\omega $$
答え: \(v = 8R\omega\)

(5) 加速度 a を v で表す

(3) と同じ力の伝達で、地面への推進力は常に \(F' = \dfrac{F}{4}\)。ここで \(F = F_0\!\left(1 - \dfrac{\omega}{\omega_0}\right)\) です。運動方程式 \(ma = F'\) より

$$ ma = \frac{F}{4} = \frac{F_0}{4}\left(1 - \frac{\omega}{\omega_0}\right) $$

(4) の \(v = 8R\omega\) から \(\omega = \dfrac{v}{8R}\) を代入して \(v\) の関数にします。

$$ ma = \frac{F_0}{4}\left(1 - \frac{v}{8R\omega_0}\right) $$ $$ a = \frac{F_0}{4m}\left(1 - \frac{v}{8R\omega_0}\right) $$
答え: \(a = \dfrac{F_0}{4m}\left(1 - \dfrac{v}{8R\omega_0}\right)\)

(6) 最高速度 v_m

速さが一定とみなせる=加速度 \(a=0\) の速さです。(5) で \(a=0\) とおくと

$$ 1 - \frac{v_m}{8R\omega_0} = 0 \quad\Rightarrow\quad v_m = 8R\omega_0 $$

(これは \(\omega = \omega_0\)、つまりクランクが最大角速度に達した状態に対応します。)

答え: \(v_m = 8R\omega_0\)
🧮 数値例:実際の自転車で試算してみる

前リング半径 \(R = 0.10\) m、最大回転角速度 \(\omega_0 = 8.0\) rad/s、発進時の力 \(F_0 = 200\) N、車体+運転者の質量 \(m = 80\) kg として、各量を計算します。

最高速度:

$$ v_m = 8R\omega_0 = 8 \times 0.10 \times 8.0 = 6.4 \ \text{m/s} $$

時速に直すと \(6.4 \times 3.6 \fallingdotseq 23\) km/h で、街乗り自転車としてもっともらしい値です。

発進時の加速度(\(v=0\)):

$$ a_0 = \frac{F_0}{4m} = \frac{200}{4 \times 80} = 0.63 \ \text{m/s}^2 $$

ちょうど \(v = 3.2\) m/s(\(v_m\) の半分)のときの加速度:

$$ a = \frac{F_0}{4m}\left(1 - \frac{v}{8R\omega_0}\right) = 0.63 \times \left(1 - \frac{3.2}{6.4}\right) = 0.63 \times 0.50 = 0.31 \ \text{m/s}^2 $$

速度が最高速度の半分に達すると、加速度も約半分に落ちることが数値でも確かめられます。

(7) a–v グラフ(低速リング・実線)

(5) の式は \(v\) について1次関数です。したがって \(a\)–\(v\) グラフは右下がりの直線になります。特徴点は次の2つ:

$$ v = 0 \ \text{のとき}\ a = \frac{F_0}{4m}\ (\text{切片}),\qquad a = 0 \ \text{のとき}\ v = v_m = 8R\omega_0 $$

上のシムの青い実線がこのグラフです(スライダーで現在の \(v\) と \(a\) の対応が確認できます)。

答え: 縦軸切片 \(\dfrac{F_0}{4m}\)、横軸切片 \(v = 8R\omega_0\) を結ぶ右下がりの直線。
💡 補足:なぜ推進力は速度の1次関数になるのか

ペダルの力 \(F\) が \(\omega\) の1次関数、\(\omega\) が \(v\) の1次関数(\(\omega=v/8R\))なので、\(F\) は \(v\) の1次関数。推進力 \(F/4\) も1次関数、加速度 \(a=F'/m\) も1次関数になり、グラフは必ず直線です。切片(発進時の加速度)と横軸交点(最高速度)の2点さえ押さえれば作図できます。

Point

速度の鎖は「ベルト=周速度が等しい」「同軸=角速度が等しい」の2本で結ぶ。力の鎖(半径比)と速度の鎖は逆向きに効く——力が \(1/4\) に落ちた分、後輪の速さは \(8R\omega\) と大きく稼げている。

変速機構の最適化 (8)〜(9)

直感的理解

高速リングは半径が後リング(低速)の半分=\(R/4\)。半径が小さいぶん、同じベルト速度でもさらに速く回るので最高速度は2倍になります。ただし引き換えに発進時の加速度は半分。低速リングは「出足が良いが伸びない」、高速リングは「出足は鈍いが伸びる」——スポーツカーのローギアとハイギアの関係そのものです。だから低速で発進 → 途中で高速へ切替が最速になります。

(8) 高速リングの a–v グラフ(破線)

高速リングの半径は後リングの半分、\(\dfrac{1}{2}\cdot\dfrac{R}{2} = \dfrac{R}{4}\)。まず速度の鎖をやり直します。ベルト速度は \(R\omega\) のままなので、高速リング(半径 \(R/4\))の角速度 \(\omega_h\) は

$$ \frac{R}{4}\,\omega_h = R\omega \quad\Rightarrow\quad \omega_h = 4\omega $$

後輪(\(4R\)、同軸)も \(\omega_h=4\omega\) で回るので、

$$ v = 4R \times 4\omega = 16R\omega \quad\Rightarrow\quad \omega = \frac{v}{16R} $$

次に力の鎖。ベルト張力は \(T=2F\) のまま、後軸のモーメントは半径が \(R/4\) になるので

$$ M_{\text{後軸}} = T\times\frac{R}{4} = 2F\times\frac{R}{4} = \frac{FR}{2} $$

これを後輪半径 \(4R\) で割って推進力は \(F'' = \dfrac{FR/2}{4R} = \dfrac{F}{8}\)。運動方程式に \(F=F_0(1-\omega/\omega_0)\) と \(\omega=v/16R\) を代入すると

$$ ma = \frac{F}{8} = \frac{F_0}{8}\left(1 - \frac{v}{16R\omega_0}\right) $$ $$ a = \frac{F_0}{8m}\left(1 - \frac{v}{16R\omega_0}\right) $$

これも直線で、特徴点は次の2つ(低速リングと比べて切片は半分・最高速度は2倍):

$$ v=0 \ \text{で}\ a=\frac{F_0}{8m},\qquad a=0 \ \text{で}\ v=16R\omega_0\,(=2v_m) $$
答え: 縦軸切片 \(\dfrac{F_0}{8m}\)、横軸切片 \(v = 16R\omega_0\) を結ぶ右下がりの破線。

(9) 最短時間で加速する切替速度 v*

「最短時間で大きな速さに達する」=どの速さでも、そのときに出せる加速度が最大になるようリングを選ぶことです。加速度が大きいほど、同じ速度差を短時間で越えられるからです。低速・高速それぞれの加速度(\(F_0/4m\) を単位に整理)は

$$ a_{\text{低}} = \frac{F_0}{4m}\left(1-\frac{v}{8R\omega_0}\right),\qquad a_{\text{高}} = \frac{F_0}{8m}\left(1-\frac{v}{16R\omega_0}\right) $$

低速では \(a_{\text{低}}\) が大きく(切片が2倍)、高速では \(a_{\text{高}}\) が大きい(最高速度が2倍)。切替の最適点は両者が等しくなる交点です。

$$ \frac{F_0}{4m}\left(1-\frac{v}{8R\omega_0}\right) = \frac{F_0}{8m}\left(1-\frac{v}{16R\omega_0}\right) $$

両辺を \(\dfrac{F_0}{8m}\) で割る(左辺は2倍される)と

$$ 2\left(1-\frac{v}{8R\omega_0}\right) = 1-\frac{v}{16R\omega_0} $$ $$ 2 - \frac{v}{4R\omega_0} = 1 - \frac{v}{16R\omega_0} $$

\(v\) の項を右へ、定数を左へ集めます。

$$ 1 = \frac{v}{4R\omega_0} - \frac{v}{16R\omega_0} = \frac{4v - v}{16R\omega_0} = \frac{3v}{16R\omega_0} $$ $$ v_* = \frac{16R\omega_0}{3} $$

(6) の \(v_m = 8R\omega_0\) で割ると

$$ \frac{v_*}{v_m} = \frac{16R\omega_0/3}{8R\omega_0} = \frac{16}{24} = \frac{2}{3} $$
答え: \(v_* = \dfrac{16R\omega_0}{3} = \dfrac{2}{3}\,v_m\)(\(v_m\) の 2/3 倍
💡 別解:グラフの「上側包絡線」を辿るという見方

加速時間は \(t = \displaystyle\int \frac{dv}{a(v)}\) で、\(a(v)\) が大きいほど短くなります。よって各 \(v\) で2本の直線のうち上側を選べば、時間の積分が最小になります。低速リングの直線と高速リングの直線の交点より手前では低速リングが上、交点から先は高速リングが上。したがって交点 \(v_*=16R\omega_0/3\) で切り替えるのが最速で、これは \(\tfrac23 v_m\) に一致します(上のシムで「最適点にセット」を押すと赤い経路が常に2直線の上側を通ることが確認できます)。

注意すべきなのは「\(v_m\) の半分(\(4R\omega_0\))で切替」ではない点。低速・高速で切片も傾きも異なるため、交点は単純な中点にならず \(2/3\) 倍になります。

Point

変速の最適化は「各速度で加速度が最大のギアを選ぶ=2直線の上側の折れ線を辿る」。切替点は2本の \(a\)–\(v\) 直線の交点で、\(v_* = \tfrac23 v_m\)。「最高速度の半分」と早合点しないこと。

まとめ