ハンマー投げを力学モデルに置き換えて考える問題です。長さ \(L\)・質量 \(M\) の棒(全質量が中心に集中)が鉛直軸から角度 \(\theta\) 傾き、その下端を支点として鉛直軸まわりに角速度 \(\omega\) で回転しています。棒の中心には、長さ \(L\) の軽いワイヤ(常に水平)で質量 \(m\) の砲丸がつながれています。
棒とともに回転する観測者の立場(回転座標系)に乗り、遠心力を導入して「静止したつり合い」として扱うのがこの問題の骨格です。図の幾何を正確に読み取ることが最大のカギになります。
棒の中心は軸から少し「向こう側」に出ています(水平に \(\frac{L}{2}\sin\theta\))。そこから水平なワイヤが軸をまたいで手前側に長さ \(L\) 伸びるので、砲丸は軸を通り越して反対側にきます。だから軸から砲丸までの水平距離は「ワイヤの長さ \(L\)」から「棒中心のはみ出し \(\frac{L}{2}\sin\theta\)」を引いたものになります。
図1で砲丸は、棒が傾いた側とは反対側にあります。棒の中心(ワイヤの取り付け点)は、鉛直軸から水平方向に
$$ x_{\text{中心}} = \frac{L}{2}\sin\theta $$だけ離れています。ここから水平なワイヤが軸をまたいで反対向きに長さ \(L\) 伸びるので、砲丸の水平位置は軸を通り越します。軸から砲丸までの水平距離 \(l\) は、ワイヤの長さ \(L\) から棒中心のはみ出しを引いたものです。
$$ l = L - \frac{L}{2}\sin\theta = L\left(1 - \frac{\sin\theta}{2}\right) $$もし砲丸が棒と同じ側にあれば \(l = L + \frac{L}{2}\sin\theta\) となります。しかし図1では砲丸は棒と反対側にあり、後半の設問(6)で得られる \(\sin\theta_* = \dfrac{2\alpha}{1+\alpha}\) が数値(イ)(ウ)ときれいに整合するのは \(l = L\left(1-\frac{\sin\theta}{2}\right)\) のときだけです。図の左右関係を必ず確認しましょう。
「ワイヤは常に水平」という条件から、砲丸の高さは棒の中心と同じ \(\dfrac{L}{2}\cos\theta\)。回転半径 \(l\) は水平距離だけで決まります。
回転する物体には、軸から遠ざかろうとする見かけの力(遠心力)がはたらきます。大きさは「質量 × 回転半径 × 角速度の2乗」。設問(1)で回転半径 \(l\) が分かっているので、代入するだけです。
回転半径 \(l\) の位置にある質量 \(m\) の砲丸にはたらく遠心力は、大きさ \(m l \omega^2\)、向きは軸から外向きの水平方向です。
$$ f_m = m\,l\,\omega^2 $$設問(1)の \( l = L\left(1 - \dfrac{\sin\theta}{2}\right) \) を代入します。
$$ f_m = m\,\omega^2 L\left(1 - \frac{\sin\theta}{2}\right) $$地上(慣性系)から見ると、砲丸はワイヤの張力による向心力 \(m l \omega^2\) を受けて円運動しています。砲丸とともに回る観測者(回転系)から見ると砲丸は静止しており、外向きの遠心力 \(f_m = m l \omega^2\) と張力がつり合うと考えます。大きさは同じで、向きと立場が逆です。この問題は回転系でつり合いを立てるので遠心力を使います。
遠心力は回転半径 \(l\) に比例。ここで \(l\) は「棒に沿った距離」ではなく軸からの水平距離である点が重要です。
棒は「全質量 \(M\) が中心に集まっている」とみなせるので、遠心力の計算では棒を中心にある1個の質点として扱えます。棒中心の回転半径は、軸からの水平距離 \(\frac{L}{2}\sin\theta\) です。
問題文より、棒は全質量 \(M\) が中心に位置しているとしてよいので、棒を「棒の中心にある質点 \(M\)」として扱えます。棒中心の回転半径は、軸からの水平距離
$$ r_M = \frac{L}{2}\sin\theta $$です。したがって棒にはたらく遠心力は
$$ f_M = M\,r_M\,\omega^2 = M\omega^2 \cdot \frac{L}{2}\sin\theta = \frac{1}{2}M\omega^2 L\sin\theta $$「中心に集中」の仮定を使わず、一様な棒として微小要素で積分しても結果は一致します。支点から距離 \(s\)(\(0 \le s \le L\))の要素は質量 \(dm=\frac{M}{L}ds\)、回転半径 \(s\sin\theta\) なので
$$ f_M = \int_0^L \frac{M}{L}\,\omega^2 (s\sin\theta)\,ds = \frac{M\omega^2\sin\theta}{L}\cdot\frac{L^2}{2} = \frac{1}{2}M\omega^2 L\sin\theta $$合力の作用点は棒の中心(\(s=\frac{L}{2}\))を通る水平線上になり、「中心に集中」とみなした計算と完全に一致します。
砲丸の遠心力は水平距離 \(l=L(1-\frac{\sin\theta}{2})\)、棒の遠心力は水平距離 \(\frac{L}{2}\sin\theta\)。回転半径は必ず「軸からの水平距離」で測るのがコツです。
棒を支点で支えられた「倒れかけの棒」と考えます。重力 \(Mg\) と棒自身の遠心力 \(f_M\) は棒をさらに外へ倒そうとします。一方、砲丸の遠心力 \(f_m\) はワイヤを通じて棒の中心を軸側へ引き戻し、棒を起こそうとします。この2つの向きのモーメントがつり合うと傾きが一定に保たれます。
支点を原点、外向き(棒が倒れる向き)を \(x\)、上向きを \(y\) とします。棒の中心・砲丸・棒の重力の作用点をおさえます。
支点まわりのモーメント(反時計回り=棒を起こす向きを正)を \(\tau = xF_y - yF_x\) で計算します。作用点はいずれも棒の中心 \(\left(\frac{L}{2}\sin\theta,\ \frac{L}{2}\cos\theta\right)\) です。
砲丸の遠心力(起こす向き):力は \((-f_m,\,0)\)。
$$ \tau_{f_m} = -\,\frac{L}{2}\cos\theta \cdot (-f_m) = +\,f_m\,\frac{L}{2}\cos\theta $$棒の遠心力(倒す向き):力は \((+f_M,\,0)\)。
$$ \tau_{f_M} = -\,\frac{L}{2}\cos\theta \cdot f_M = -\,f_M\,\frac{L}{2}\cos\theta $$棒の重力(倒す向き):力は \((0,\,-Mg)\)。
$$ \tau_{Mg} = \frac{L}{2}\sin\theta \cdot (-Mg) = -\,Mg\,\frac{L}{2}\sin\theta $$つり合い \(\tau_{f_m} + \tau_{f_M} + \tau_{Mg} = 0\) より、両辺を \(\dfrac{L}{2}\) で割って整理すると:
$$ f_m\cos\theta = f_M\cos\theta + Mg\sin\theta $$支点まわりのモーメントは「力の棒に垂直な成分 × 支点からの距離」でも計算できます。作用点はいずれも支点から \(\frac{L}{2}\) の棒中心なので、共通因子 \(\frac{L}{2}\) が出ます。
両辺 \(\frac{L}{2}\) を消して同じ式が得られます。
水平力のモーメントの腕は「高さ \(\frac{L}{2}\cos\theta\)」、鉛直力の腕は「水平距離 \(\frac{L}{2}\sin\theta\)」。向き(起こす/倒す)を符号で丁寧に扱うのが失点しないコツです。
設問(2)(3)の遠心力を(4)のつり合い式に代入すれば、\(\omega^2\) と \(\theta\) の関係が出ます。質量は比 \(\alpha=\frac{m}{M}\) だけで効くので、両辺を \(M\) で割って \(\alpha\) にまとめます。
設問(4)のつり合い式に、設問(2)の \(f_m = m\omega^2 L\left(1-\frac{\sin\theta}{2}\right)\) と設問(3)の \(f_M=\frac{1}{2}M\omega^2 L\sin\theta\) を代入します。
$$ m\omega^2 L\left(1-\frac{\sin\theta}{2}\right)\cos\theta = \frac{1}{2}M\omega^2 L\sin\theta\cos\theta + Mg\sin\theta $$\(\omega^2\) を含む項を左辺に集めます。
$$ \omega^2 L\cos\theta\left[\,m\left(1-\frac{\sin\theta}{2}\right) - \frac{M}{2}\sin\theta\,\right] = Mg\sin\theta $$角括弧の中を整理すると \( m - \dfrac{m+M}{2}\sin\theta \) となるので、
$$ \omega^2 = \frac{Mg\sin\theta}{L\cos\theta\left[\,m - \dfrac{m+M}{2}\sin\theta\,\right]} $$分母・分子を \(M\) で割り、\(\alpha=\dfrac{m}{M}\) を用いると(\(\dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}=\tan\theta\)):
$$ \omega^2 = \frac{g\tan\theta}{L\left[\,\alpha - \dfrac{1+\alpha}{2}\sin\theta\,\right]} = \frac{2g\tan\theta}{L\left[\,2\alpha - (1+\alpha)\sin\theta\,\right]} $$\(\theta\) を大きくすると、分子 \(\tan\theta\) は増加し、分母 \(2\alpha-(1+\alpha)\sin\theta\) は減少します。よって \(\omega^2\) は単調に増加し、分母が \(0\) に近づく角度で発散します。これが「速く回すには \(\theta\) を大きくすればよい」という後半(ア)の根拠です。
質量が比 \(\alpha=m/M\) だけで効くのがこのモデルの美点。分母が正(\(2\alpha > (1+\alpha)\sin\theta\))である間だけ有限の \(\omega\) が存在します。
設問(5)の式で、分母 \(2\alpha-(1+\alpha)\sin\theta\) が \(0\) になると \(\omega^2\) が発散します。この角度 \(\theta_*\) を超えると、どんなに速く回してもつり合いを満たす \(\omega\) が存在しなくなり、傾きを一定に保てません。
設問(5)の結果
$$ \omega^2 = \frac{2g\tan\theta}{L\bigl[\,2\alpha - (1+\alpha)\sin\theta\,\bigr]} $$で、\(\omega^2\) が有限の正の値をとるには分母が正でなければなりません。
$$ 2\alpha - (1+\alpha)\sin\theta > 0 $$\(\theta\) を大きくしていくと \(\sin\theta\) が増え、分母はやがて \(0\) になります。ちょうど \(0\) になる角度 \(\theta_*\) では \(\omega\to\infty\) となり、これを超えると分母が負になってつり合いを満たす実数の \(\omega\) が存在しなくなります。限界の条件は分母 \(=0\):
$$ 2\alpha - (1+\alpha)\sin\theta_* = 0 $$これを \(\sin\theta_*\) について解いて:
$$ \sin\theta_* = \frac{2\alpha}{1+\alpha} $$\(m=7.5\ \mathrm{kg},\ M=100\ \mathrm{kg}\) のとき \(\alpha = \dfrac{7.5}{100}=0.075\)。
$$ \sin\theta_* = \frac{2\times0.075}{1+0.075} = \frac{0.15}{1.075} \fallingdotseq 0.14\ \text{(rad)} $$\(\sin\theta_*\) は \(1\) より十分小さいので \(\sin\theta_*\fallingdotseq\theta_*\) とみなせ、\(\theta_*\fallingdotseq 0.14\ \mathrm{rad}\)。度に直すと(\(\pi\to 3.14\)):
$$ \theta_* \fallingdotseq 0.14 \times \frac{180}{3.14} \fallingdotseq 8.0\ \text{度} $$「つり合いを満たす \(\omega\) が存在しなくなる」=設問(5)の式の分母が \(0\) になると読み替えるのが決め手。判別式ではなく分母のゼロ点で考えます。
後半は「握力(ワイヤの張力の上限)」から回せる最大角速度を求め、そのときの砲丸の速さで 45° 投射したらどこまで飛ぶかを見積もるパートです。数値はすべて有効数字2桁で求めます(\(\theta=0\) とみなすので \(l=L\))。
(ア) θ をどうするか:設問(5)より \(\theta\) を大きくすると \(\omega\) が大きくなります。さらに砲丸の回転方向の速さは \(v = l\omega\) で、\(v^2 = l^2\omega^2\) を計算すると \(\theta\) の増加関数になります。よって空欄は「大きく」。
(イ) \(\theta_*\)〔rad〕:設問(6)に \(\alpha=\dfrac{7.5}{100}=0.075\) を代入します。
$$ \sin\theta_* = \frac{2\alpha}{1+\alpha} = \frac{2\times0.075}{1.075} = \frac{0.15}{1.075} \fallingdotseq 0.14 $$\(\sin\theta_*\) は \(1\) より十分小さいので \(\theta_* \fallingdotseq \sin\theta_* \fallingdotseq \mathbf{0.14}\ \mathrm{rad}\)。
(ウ) \(\theta_*\)〔度〕:ラジアンを度に換算します(\(\pi \to 3.14\))。
$$ \theta_* = 0.14 \times \frac{180}{3.14} = 0.14 \times 57.3 \fallingdotseq \mathbf{8.0}\ \text{度} $$(エ) \(\omega_{\max}^2\)(文字式):ワイヤの張力は砲丸の向心力に等しく、\(\theta=0\)(\(l=L\))では \(m\omega^2 L\)。これが握力の上限 \(Xg\) を超えると外れるので、限界は \(m\omega_{\max}^2 L = Xg\)。
$$ \omega_{\max}^2 = \frac{Xg}{mL} $$(オ) \(\omega_{\max}\)〔rad/s〕:\(X=300\ \mathrm{kg},\ L=2.0\ \mathrm{m},\ g=9.8\ \mathrm{m/s^2},\ m=7.5\ \mathrm{kg}\) を代入します。
$$ \omega_{\max}^2 = \frac{300 \times 9.8}{7.5 \times 2.0} = \frac{2940}{15} = 196 $$ $$ \omega_{\max} = \sqrt{196} = \mathbf{14}\ \mathrm{rad/s} $$(カ) 砲丸の速さ〔m/s〕:\(\theta=0\) で回転半径は \(l=L\) なので、速さは \(v = l\,\omega_{\max} = L\,\omega_{\max}\)。
$$ v = 2.0 \times 14 = \mathbf{28}\ \mathrm{m/s} $$(キ) 飛距離〔m〕:速さ \(v=28\ \mathrm{m/s}\) で水平から \(45^\circ\) に投げたときの水平到達距離は \(R=\dfrac{v^2\sin 2\phi}{g}\)。\(\phi=45^\circ\) で \(\sin 90^\circ = 1\) なので:
$$ R = \frac{v^2}{g} = \frac{28^2}{9.8} = \frac{784}{9.8} = \mathbf{80}\ \mathrm{m} $$このモデルの見積もり \(80\ \mathrm{m}\) は、室伏広治氏の日本記録 \(84.86\ \mathrm{m}\) に近い値になっています。単純化した力学モデルでも、握力の上限・ワイヤ長・砲丸質量という現実的な数値を入れると実際のオーダーを再現できるのが面白いところです。実際には投てき点の高さ(\(1{\sim}2\ \mathrm{m}\))や最適リリース角(45°より少し小さい)などの補正が加わります。
後半で \(\theta=0\) とみなすので、回転半径 \(l=L\)、ワイヤ張力 \(=m\omega^2 L\) がすべての出発点。\(45^\circ\) 投射では \(R=v^2/g\) と最も簡単になることを覚えておきましょう。