金属の電気伝導を「自由電子1個の運動方程式」から組み立て直す大問です。静電気力と抵抗力のつり合いでドリフト速度を出し、そこから電流・抵抗・抵抗率・消費電力を導きます(問1)。問2では試料がオームの法則に従わない非線形抵抗になり、I-V グラフと回路方程式(負荷直線)の交点を読む力が問われます。問3はソレノイドの磁束・自己インダクタンスから RL 直列交流回路へと発展します。
両端に起電力 \(E\) をかけると、長さ \(L\) の試料の内部には一様な電場ができる。電場の大きさ(電場の強さ)は「電位差 ÷ 長さ」だから \(E/L\)。この電場が電子を押す。ただし電子は負電荷 \(-e\) なので、力の向きは電場と逆=電流と逆向き。だからこそ電子は電流と逆に流れる。
長さ \(L\) の試料の両端に電位差 \(E\) がかかっている。試料内の電場は一様なので、その強さは
$$E_{\text{内}} = \frac{E}{L}\ \text{[V/m]}$$自由電子の電荷は \(-e\)(\(e>0\))。静電気力は \(F=(\text{電荷})\times(\text{電場})\)。電場の向きは電流の向き(正の向き)だから、電子が受ける力は:
$$F = (-e)\cdot \frac{E}{L} = -\frac{eE}{L}$$符号がマイナスなので、力は電流と逆向き(負の向き)。大きさは \(\dfrac{eE}{L}\) である。
電流の向きは「正の電荷が動く向き」と定義される。金属中で実際に動くのは負電荷の電子なので、電子は電流と逆向きに流れる。力の向きも逆になっている(\(-eE/L\))のはそのため。この符号の管理が問(2)以降で効いてくる。
一様な電場の強さは電位差 ÷ 長さ \(=E/L\)。負電荷 \(-e\) が受ける力は電場と逆向きで \(-eE/L\)。
電子は電場に押されて加速しそうだが、金属原子との衝突による抵抗力 \(-kv\)(速度に比例、進行方向と逆)を受ける。やがて静電気力と抵抗力がつり合って加速度が 0 になり、一定の速度で流れ続ける。これは空気抵抗を受ける物体の「終端速度」とまったく同じ考え方。
定常状態では自由電子の加速度は 0。よって静電気力と抵抗力 \(-kv\) がつり合う。正の向きを電流の向きとして運動方程式の右辺を 0 とおくと:
$$-\frac{eE}{L} + (-kv) = 0$$これを \(v\) について解く:
$$kv = -\frac{eE}{L} \quad\Rightarrow\quad v = -\frac{eE}{kL}$$\(v<0\) は「電子が電流と逆向き(負の向き)に流れる」ことを表しており、物理的に正しい。
空気抵抗 \(-kv\) を受けて落下する物体は、重力 \(mg\) とつり合った時点で終端速度 \(v_f=mg/k\) になる。ここでは重力の役割を静電気力 \(eE/L\) が果たしており、\(|v|=\dfrac{eE/L}{k}=\dfrac{eE}{kL}\)。力のつり合いで速度が決まるという構造はまったく同じ。
抵抗力が速度に比例する系では、力のつり合いで一定速度(終端速度)が決まる。ここでは \(|v|=eE/(kL)\)。
電流は「1 秒間に断面を通り抜ける電気量」。単位体積あたり \(n\) 個の電子が速さ \(|v|\) で流れているなら、断面積 \(S\) を 1 秒間に通る電子は「\(n\times S\times |v|\) 個」。1 個の電荷は \(e\) だから、電流は \(I=neS|v|\)。速さ \(|v|\) は問(2)で分かっているので代入するだけ。
電流:単位体積あたり \(n\) 個の電子が速さ \(|v|=\dfrac{eE}{kL}\) で流れる。断面積 \(S\) を通る電流は \(I=neS|v|\):
$$I = neS\cdot\frac{eE}{kL} = \frac{ne^2ES}{kL}\ \text{[A]}$$試料の抵抗:試料の両端電圧は \(E\)。オームの法則 \(R=\dfrac{E}{I}\) より:
$$R = \frac{E}{I} = \frac{E}{\dfrac{ne^2ES}{kL}} = \frac{kL}{ne^2S}\ [\Omega]$$抵抗率:\(R=\rho\dfrac{L}{S}\) の関係を \(\rho\) について解く:
$$\rho = R\cdot\frac{S}{L} = \frac{kL}{ne^2S}\cdot\frac{S}{L} = \frac{k}{ne^2}\ [\Omega\!\cdot\!\text{m}]$$抵抗 \(R\) は長さ \(L\) に比例し断面積 \(S\) に反比例する(\(R\propto L/S\))が、抵抗率 \(\rho=k/(ne^2)\) には \(L,\,S\) が現れない。抵抗率は「その物質固有の値」で、電子密度 \(n\) と衝突のしやすさ \(k\) だけで決まる。これは物質を特徴づける量であるという実感と合う。
電流の定義は\(I=neSv\)、抵抗は\(R=\rho L/S\)。抵抗率 \(\rho=k/(ne^2)\) は形によらない物質固有の量。
仕事率(1 秒あたりの仕事)は「力 × 速度」。電子は力 \(-eE/L\) を受け、速度 \(-eE/(kL)\) で動く。力と速度が同じ向き(どちらも負の向き)なので、電場は電子に正の仕事をする。この仕事が、最終的に金属原子との衝突で熱(ジュール熱)に変わる。
電子1個の仕事率は「電場からの力 × 電子の速度」。力 \(-\dfrac{eE}{L}\)、速度 \(-\dfrac{eE}{kL}\) を掛け合わせる:
$$P_1 = \left(-\frac{eE}{L}\right)\times\left(-\frac{eE}{kL}\right)$$負×負で正になり、大きさを計算すると:
$$P_1 = \frac{e^2E^2}{kL^2}\ \text{[W]}$$電子は一定速度(加速度 0)なので運動エネルギーは増えない。したがって電場がした正の仕事は、すべて抵抗力(衝突)による負の仕事で打ち消されている。抵抗力の仕事率は \((-kv)\times v = -kv^2 = -k\left(\dfrac{eE}{kL}\right)^2=-\dfrac{e^2E^2}{kL^2}\) で、確かに符号が逆で大きさが等しい。奪われたエネルギーが熱になる。
仕事率は力 × 速度。等速運動では電場の正の仕事=抵抗(衝突)による損失で、これがジュール熱の正体。
試料全体の消費電力は「電子1個の仕事率 × 電子の総数」。試料の体積は \(S\times L\) で、その中に単位体積あたり \(n\) 個いるから、電子の総数は \(nSL\) 個。問(4)の \(P_1\) をこの個数だけ足し合わせればよい。答えは \(P=IE\)(電流×電圧)とも一致するはず。
試料の体積は \(SL\)、その中の自由電子の総数は \(n\times SL = nSL\) 個。問(4)の1個あたりの仕事率 \(P_1=\dfrac{e^2E^2}{kL^2}\) を電子の個数だけ足す:
$$P = P_1\times nSL = \frac{e^2E^2}{kL^2}\times nSL$$整理すると:
$$P = \frac{ne^2SE^2}{kL}\ \text{[W]}$$消費電力は「電流 × 電圧」でも求まる。試料に流れる電流は問(3)の \(I=\dfrac{ne^2ES}{kL}\)、両端電圧は \(E\) だから:
$$P = IE = \frac{ne^2ES}{kL}\times E = \frac{ne^2SE^2}{kL}$$ミクロに足し上げた結果とマクロな \(P=IE\) が完全に一致する。これはモデルが正しいことの確認になる。
ミクロの積み上げ(1個の仕事率 × 個数)と、マクロの\(P=IE=I^2R=V^2/R\)は必ず一致する。検算に使える。
\(k\) は「電子がどれだけ衝突で邪魔されるか」を表す抵抗係数。温度が上がると金属原子の熱振動が激しくなり、電子は原子とぶつかりやすくなる。つまり抵抗が増える。\(\rho=k/(ne^2)\) から分かるように、金属の抵抗率は温度とともに増えるので、\(k\) は増大する。
抵抗率は問(3)より \(\rho=\dfrac{k}{ne^2}\)。金属では温度が上がると抵抗率 \(\rho\) が大きくなることが実験的に知られている。電子密度 \(n\) と電荷 \(e\) は温度でほとんど変わらないので、\(\rho\) の増加は \(k\) の増加を意味する。
ミクロに見ると、温度上昇で金属原子の熱振動が激しくなり、電子が原子に衝突する頻度が増える。衝突が増えれば電子は流れにくくなり、抵抗力の比例係数 \(k\) は大きくなる。
$$T\uparrow \;\Rightarrow\; \text{原子の熱振動}\uparrow \;\Rightarrow\; \text{衝突頻度}\uparrow \;\Rightarrow\; k\uparrow$$① 増大。理由:温度上昇で金属原子の熱振動が激しくなり、自由電子と原子の衝突頻度が増えるため、抵抗力の比例係数 \(k\) は大きくなる。
金属は温度が上がると抵抗が増える(\(k\) 増大)が、半導体は逆に温度が上がると抵抗が減る。半導体では温度上昇によって電流を運べる自由電子の数 \(n\) が急増するので、衝突が増える効果を上回って抵抗が下がるためである。金属の話(\(n\) がほぼ一定)とは主役が違う点に注意。
金属の抵抗は温度上昇で増大(原子の熱振動→衝突増)。よって \(k\) は増大。半導体は逆で、\(n\) が増えて抵抗が減る。
試料と抵抗 \(R\) が直列につながれている。電源の起電力は「電流が一周する間の電圧上昇」で、それは各素子での電圧降下の合計に等しい(キルヒホッフの電圧則)。試料での電圧降下が \(V\)、抵抗での電圧降下が \(RI\)。内部抵抗と導線抵抗は 0 なので、両者を足せば \(E\)。
キルヒホッフの第二法則(電圧則):一周の起電力は電圧降下の総和に等しい。導線と電源の内部抵抗は無視できるので、電圧降下は「試料の \(V\)」と「抵抗 \(R\) の \(RI\)」だけ:
$$E = V + RI$$\(E=V+RI\) を \(I\) について解くと \(I=\dfrac{E-V}{R}\)。これは \(V\)-\(I\) 平面上で傾き \(-1/R\)、切片 \(E/R\) の直線(負荷直線)。試料の I-V 特性曲線(図3)とこの直線の交点が、実際に流れる電流と試料の電圧=動作点になる。次問(8)でこの交点を読む。
直列回路は起電力 = 各素子の電圧降下の和。\(E=V+RI\) を変形した \(I=(E-V)/R\) が負荷直線になる。
試料はオームの法則に従わない(\(V/I\) が一定でない)ので、計算だけでは電流が決まらない。そこで負荷直線 \(I=(11.5-V)/100\) と試料の I-V 曲線(図3)を同じグラフに描いて交点を読む。交点が実際の動作点。試料の消費電力はその点の \(V\times I\)。
問(7)より \(E=V+RI\)。\(R=100\,\Omega,\ E=11.5\,\text{V}\) を代入して負荷直線を作る:
$$I = \frac{E-V}{R} = \frac{11.5 - V}{100}$$この直線を図3のグラフに重ねると、\(V\) 軸切片 \((11.5,\,0)\)、\(I\) 軸切片 \((0,\,0.115)\) を結ぶ直線になる。試料の特性曲線との交点(動作点)を読むと:
$$V \fallingdotseq 5.5\ \text{V},\qquad I \fallingdotseq 0.060\ \text{A}$$試料の消費電力はこの動作点での \(V\times I\):
$$P_{\text{試料}} = V I \fallingdotseq 5.5\times 0.060 \fallingdotseq 0.33\ \text{W}$$負荷直線 \(I=\dfrac{11.5-V}{100}\) と図3 の交点(動作点)は \(V\fallingdotseq 5.5\) V, \(I\fallingdotseq 0.060\) A。
$$P_{\text{試料}} = VI \fallingdotseq 0.33\ \text{W}$$もし試料がオーム抵抗(一定の \(R_0\))なら \(I=E/(R_0+R)\) で一発だが、この試料は \(V/I\) が電流とともに変化する非線形抵抗。式が 1 本足りないので、もう 1 本の関係=試料の I-V 曲線をグラフから補って交点で解く。ダイオードや電球のフィラメントを含む回路と同じ考え方。
非線形抵抗を含む回路は負荷直線と特性曲線の交点(動作点)で解く。消費電力はその点の \(V\times I\)。
動作点での試料の抵抗 \(V/I\) が分かれば、抵抗率の温度依存 \(\rho=\rho_0(1+\alpha t)\) を逆に使って温度 \(t\) が求まる。まず動作点の \(V/I\) を計算し、\(R=\rho L/S\) から \(\rho\) を出し、\(\rho=\rho_0(1+\alpha t)\) を \(t\) について解く。
まず動作点(問(8))での試料の抵抗を求める:
$$R_{\text{試料}} = \frac{V}{I} \fallingdotseq \frac{5.5}{0.060} \fallingdotseq 91.7\ \Omega$$次に \(R=\rho\dfrac{L}{S}\) と抵抗率の温度依存 \(\rho=\rho_0(1+\alpha t)\) を組み合わせる。数値 \(\rho_0=2.0\times10^{-8}\ \Omega\!\cdot\!\text{m},\ L=0.50\ \text{m},\ S=2.0\times10^{-10}\ \text{m}^2\) を代入すると、\(0\,^\circ\text{C}\) での抵抗の係数は:
$$\frac{\rho_0 L}{S} = \frac{2.0\times10^{-8}\times 0.50}{2.0\times10^{-10}} = 50\ \Omega$$よって \(R_{\text{試料}} = 50\,(1+\alpha t)\)。ここに \(R_{\text{試料}}\fallingdotseq 91.7\ \Omega,\ \alpha=4.0\times10^{-3}\ \text{K}^{-1}\) を入れて \(t\) を解く:
$$91.7 = 50\,(1+\alpha t)\ \Rightarrow\ 1+\alpha t = 1.83\ \Rightarrow\ t = \frac{1.83-1}{4.0\times10^{-3}} \fallingdotseq 2.1\times10^{2}\ ^\circ\text{C}$$この問題はグラフの読み取り値 \((V,I)\) から \(R\) を出すため、動作点の読みが数 % ずれると温度も数十 K ずれる。動作点を \((5.5\,\text{V},0.060\,\text{A})\) と読めば \(R\fallingdotseq 91.7\,\Omega\)、\(t\fallingdotseq 208\,^\circ\text{C}\)。有効数字2桁で \(2.1\times10^{2}\,^\circ\text{C}\) とするのが妥当。抵抗率が \(0\,^\circ\text{C}\) 基準で与えられているので、求まる \(t\) はセ氏温度である点に注意。
\(R=\rho_0(1+\alpha t)\dfrac{L}{S}\) を \(t\) について逆に解く。\(\rho_0 L/S\) がちょうど \(0\,^\circ\text{C}\) での抵抗(ここでは 50 Ω)。
直列だから試料と抵抗には同じ電流 \(I\) が流れる。消費電力は「電圧 × 電流」。同じ \(I\) なので、電圧降下が大きいほうが電力を多く消費する。試料の電圧降下 \(V\) と抵抗の電圧降下 \(RI=100I\) を比べればよい。つまり条件は \(V \gt 100I\)、すなわち試料の抵抗 \(V/I \gt 100\,\Omega\)。
直列なので試料と抵抗の電流は等しく \(I\)。消費電力は \(P=(\text{電圧})\times I\) だから、大小は電圧降下の大小で決まる。試料の消費電力が抵抗の消費電力より大きい条件は:
$$V I \gt (RI)\,I \;\Longleftrightarrow\; V \gt RI \;\Longleftrightarrow\; \frac{V}{I} \gt R = 100\ \Omega$$つまり試料の抵抗 \(V/I\) が \(100\,\Omega\) を超えればよい。試料は電流が大きいほど \(V/I\) が大きくなる(図3 の曲線は上に凸)ので、電流が大きい=\(E\) が大きいほど条件を満たしやすい。境界 \(V/I=100\) は図3 上で直線 \(I=V/100\) と曲線の交点、\(V\fallingdotseq 6.2\ \text{V},\ I\fallingdotseq 0.062\ \text{A}\) 付近。このときの起電力は:
$$E_{\text{境界}} = V + 100I \fallingdotseq 6.2 + 100\times0.062 \fallingdotseq 12.4\ \text{V}$$各 \(E\) で動作点を読み \(V/I\) を評価する:
$$ \begin{array}{c|c} E & V/I \\ \hline 1\,\text{V} & \fallingdotseq 37\ \Omega \\ 2\,\text{V} & \fallingdotseq 43\ \Omega \\ 6\,\text{V} & \fallingdotseq 65\ \Omega \\ 10\,\text{V} & \fallingdotseq 85\ \Omega \\ 14\,\text{V} & \fallingdotseq 112\ \Omega \\ \end{array} $$\(V/I \gt 100\,\Omega\) を満たすのは \(E=14\,\text{V}\) だけ(\(E \gt 12.4\,\text{V}\) が必要)。
(お) 14 V のみ(試料の抵抗 \(V/I\fallingdotseq 112\,\Omega \gt 100\,\Omega\)。他の \(E\) では \(V/I \lt 100\,\Omega\))。
試料の I-V 曲線は上に凸(電流が増えるほど傾きがなだらか)なので、電流が大きい動作点ほど\(V/I\)(試料の抵抗)が大きい。抵抗 \(R\) は一定 \(100\,\Omega\)。だから \(E\) を上げて動作点を右上に動かすほど、試料の抵抗が \(R\) を追い越し、試料の消費電力が抵抗を上回る。逆に \(E\) が小さいと試料は「ほぼオーム的な立ち上がり部分」を使うので \(V/I\) が小さく、抵抗 \(100\,\Omega\) に負ける。
直列では電流が共通なので、消費電力の大小=電圧降下の大小=抵抗の大小。試料 \(V/I\) が \(R\) を超えるかで判定。
ソレノイドの内部には一様な磁場ができる。その強さは「単位長さあたりの巻数 × 電流」に比例する。単位長さあたりの巻数は \(N/l\)。磁束は「磁束密度 × 断面積」で、1 巻きの輪を貫く磁束を求める。
ソレノイド内部の磁束密度は、単位長さあたりの巻数 \(\dfrac{N}{l}\) を使って \(B=\mu_0\dfrac{N}{l}I\)。コイルを貫く磁束(1 巻きの輪を貫く磁束)は \(\varPhi=BS\):
$$B = \mu_0\frac{N}{l}I$$ $$\varPhi = B S = \mu_0\frac{N}{l}I\cdot S = \frac{\mu_0 N I S}{l}\ \text{[Wb]}$$ここで求めた \(\varPhi=\dfrac{\mu_0 NIS}{l}\) は「輪 1 個を貫く磁束」。コイル全体では \(N\) 個の輪がこの磁束を共有するので、誘導起電力を考えるときは \(N\) 倍した鎖交磁束 \(N\varPhi\) を使う(次問(12)で登場)。混同しないように区別しておく。
ソレノイド内部は\(B=\mu_0\dfrac{N}{l}I\)。輪 1 個を貫く磁束は \(\varPhi=BS=\dfrac{\mu_0 NIS}{l}\)。
電流が変化すると磁束も変化し、各巻きに誘導起電力が生じる。コイル全体はそれが \(N\) 個直列に足されたもの。1 巻きの起電力はファラデーの法則 \(\left|\dfrac{\varDelta\varPhi}{\varDelta t}\right|\)、コイル全体はその \(N\) 倍。これを \(\varDelta I/\varDelta t\) の形に直せば、係数がそのまま自己インダクタンス \(L\)。
電流が \(\varDelta t\) の間に \(\varDelta I\) だけ変化すると、問(11)の磁束 \(\varPhi=\dfrac{\mu_0 NIS}{l}\) が変化する。1 巻きの誘導起電力はファラデーの法則より \(\dfrac{\varDelta\varPhi}{\varDelta t}\)。コイル全体はこれが \(N\) 巻き分足し合わされる:
$$|V| = N\left|\frac{\varDelta\varPhi}{\varDelta t}\right| = N\cdot\frac{\mu_0 N S}{l}\cdot\frac{\varDelta I}{\varDelta t} = \frac{\mu_0 N^2 S}{l}\cdot\frac{\varDelta I}{\varDelta t}$$自己インダクタンスは \(|V|=L\dfrac{\varDelta I}{\varDelta t}\) で定義される。上式と見比べて:
$$L = \frac{\mu_0 N^2 S}{l}\ \text{[H]}$$巻数 \(N\) を増やすと、①磁場が \(N\) 倍(\(B\propto N\))、②起電力を足す巻き数も \(N\) 倍。この2つの効果が掛かって\(L\propto N^2\) になる。ソレノイドのインダクタンスが巻数の 2 乗で効くのはこのため。問(15)で「巻数 2 倍・長さ 2 倍」を扱うとき、この \(N^2/l\) 依存が鍵になる。
自己インダクタンス \(L=\dfrac{\mu_0 N^2 S}{l}\)。磁場が \(N\) 倍・足す巻き数が \(N\) 倍で \(N^2\) に比例する。
コイルA は抵抗をもたない純インダクタンス \(L\)。純インダクタンスの両端電圧は「\(L\times\) 電流の変化率」。電流が \(I=I_0\sin\omega t\) なら、その変化率(時間微分)は \(I_0\omega\cos\omega t\)。よって電圧は \(\sin\) が \(\cos\) に変わり、電流より位相が \(\tfrac{\pi}{2}\) 進む。
コイルA は純インダクタンス \(L\)。その両端の電位差は \(V_A=L\dfrac{\varDelta I}{\varDelta t}\)。電流 \(I=I_0\sin\omega t\) の変化率(時間微分)を求める:
$$\frac{\varDelta I}{\varDelta t} = \frac{\varDelta}{\varDelta t}\bigl(I_0\sin\omega t\bigr) = I_0\,\omega\cos\omega t$$よって:
$$V_A = L\cdot I_0\omega\cos\omega t = \omega L I_0\cos\omega t$$\(\cos\omega t=\sin\!\left(\omega t+\dfrac{\pi}{2}\right)\) なので、コイルの電圧は電流より位相が \(\tfrac{\pi}{2}\) 進む。また電圧の最大値は \(\omega L I_0\) で、\(\omega L\) を誘導リアクタンスと呼ぶ(抵抗と同じ次元 \(\Omega\))。周波数が高いほどコイルは電流を通しにくくなる。
純コイルの電圧は\(V_A=\omega L I_0\cos\omega t\)。電流より位相が \(\tfrac{\pi}{2}\) 進み、最大値は \(\omega L I_0\)(\(\omega L\)=誘導リアクタンス)。
回路は抵抗 \(R\) とコイルA(\(L\))の直列。電源電圧は「\(R\) の電圧」+「\(L\) の電圧」。\(R\) の電圧は \(\sin\)(電流と同位相)、\(L\) の電圧は \(\cos\)(\(\tfrac{\pi}{2}\) 進み)。\(\sin\) と \(\cos\) の和は合成公式で 1 つの \(\sin(\omega t+\beta)\) にまとまり、その振幅が最大値、\(\beta\) が位相差になる。
電源電圧は「\(R\) の電圧」と「コイルA の電圧」の和。\(R\) の電圧は \(RI=RI_0\sin\omega t\)、コイルの電圧は問(13)より \(\omega L I_0\cos\omega t\):
$$V = RI_0\sin\omega t + \omega L I_0\cos\omega t$$与えられた合成公式 \(a\sin\theta+b\cos\theta=\sqrt{a^2+b^2}\,\sin(\theta+\beta),\ \tan\beta=\dfrac{b}{a}\) を、\(a=RI_0,\ b=\omega L I_0\) として使う:
$$V = I_0\sqrt{R^2+(\omega L)^2}\,\sin(\omega t+\beta),\qquad \tan\beta=\frac{\omega L I_0}{R I_0}=\frac{\omega L}{R}$$電源電圧の最大値は振幅 \(I_0\sqrt{R^2+\omega^2L^2}\)。位相差 \(\alpha\) は「電圧の位相 − 電流の位相」で \(\alpha=\beta\)。ここで \(\beta>0\)(電圧が電流より進む)なので \(\alpha>0\):
$$V_{\max}=I_0\sqrt{R^2+\omega^2L^2},\qquad \tan\alpha=\frac{\omega L}{R}$$\(RI_0\)(横)と \(\omega L I_0\)(縦)を直角に足すと、斜辺が \(V_{\max}=I_0\sqrt{R^2+\omega^2L^2}\)。斜辺の傾き角が位相差 \(\alpha\) で \(\tan\alpha=\dfrac{\omega L}{R}\)。RL 直列では電圧が電流より進む(\(\alpha>0\))ことが図から一目で分かる。\(\sqrt{R^2+\omega^2L^2}\) をインピーダンス \(Z\) という。
RL 直列の電源電圧は\(V_{\max}=I_0\sqrt{R^2+\omega^2L^2}\)、位相差 \(\tan\alpha=\dfrac{\omega L}{R}>0\)(電圧が電流より進む)。
まず新コイルの自己インダクタンス \(L'\) を \(L=\dfrac{\mu_0 N^2 S}{l}\) の式に代入して求める。抵抗は \(R\) のまま。同じ電源(電圧の最大値・角周波数が同じ)につなぐので、電流の最大値はインピーダンス \(Z'=\sqrt{R^2+(\omega L')^2}\) で決まり直す。平均消費電力は抵抗だけが消費し \(\dfrac12 I_0'^2 R\)。
新コイルの自己インダクタンス:\(L=\dfrac{\mu_0 N^2 S}{l}\) に「断面積 \(S\)、長さ \(2l\)、巻数 \(2N\)」を代入する:
$$L' = \frac{\mu_0 (2N)^2 S}{2l} = \frac{4\mu_0 N^2 S}{2l} = 2\cdot\frac{\mu_0 N^2 S}{l} = 2L$$抵抗は \(R\) のまま(問題文で「その抵抗は \(R\) に等しかった」)。同じ電源なので電圧の最大値は元の回路と同じ \(V_{\max}=I_0\sqrt{R^2+\omega^2L^2}\)(問(14))。新回路のインピーダンスは \(Z'=\sqrt{R^2+(\omega\cdot 2L)^2}=\sqrt{R^2+4\omega^2L^2}\) だから、新しい電流の最大値は:
$$I_0' = \frac{V_{\max}}{Z'} = \frac{I_0\sqrt{R^2+\omega^2L^2}}{\sqrt{R^2+4\omega^2L^2}}$$平均消費電力は抵抗 \(R\) だけが消費する(コイルは平均では電力を消費しない)。\(I=I_0'\sin(\cdots)\) の抵抗での平均電力は \(\dfrac12 I_0'^2 R\):
$$\overline{P} = \frac{1}{2}I_0'^2 R = \frac{1}{2}R\cdot\frac{I_0^2\,(R^2+\omega^2L^2)}{R^2+4\omega^2L^2}$$コイルは電流が増えるとき電源からエネルギーを蓄え、減るとき返す。1 周期で平均するとコイルの正味の消費電力は 0。したがって回路全体の平均消費電力は抵抗 \(R\) のジュール熱だけ。実効値で書けば \(\overline{P}=I_{\text{eff}}^2 R=\left(\dfrac{I_0'}{\sqrt2}\right)^2 R=\dfrac12 I_0'^2 R\)。力率 \(\cos\alpha'=R/Z'\) を使った \(\overline{P}=\dfrac12 V_{\max}I_0'\cos\alpha'\) からも同じ結果になる。
\(L\propto \dfrac{N^2}{l}\) なので巻数2倍・長さ2倍で \(L'=2L\)。同じ電源なら電流はインピーダンスで決まり直し、平均電力は抵抗だけの \(\tfrac12 I_0'^2R\)。