前期 大問3

解法の指針

独立した2つの問題 A・B からなる総合問題です。A は「シリンダー内を2枚のピストンで3室に仕切った気体」の熱力学、B は「X線の発生とボーア模型による固有X線」の原子物理です。それぞれ独立に解きます。

A. 3室シリンダーの気体(問1〜問6)

B. X線とボーア模型(問7〜問10)

全体を貫く着眼点

A. 問1:状態 I で部屋 B の圧力 $p_B$

直感的理解
ピストン2を固定したままピストン1を右へ押すと、部屋 A がふくらむ分だけ部屋 B が押しつぶされる。装置は外界と熱をやりとりできる(等温)ので B の温度は $T_0$ のまま。体積が縮めばボイルの法則どおり圧力は上がる。

状況:はじめ A, B, C はすべて体積 $V_0$、温度 $T_0$。ピストン2を固定し、ピストン1を右へゆっくり動かして部屋 A の体積が $\dfrac{4}{3}V_0$ になった。装置は外部に熱を通すので、各室は温度 $T_0$ の等温変化

立式(体積保存):ピストン2は固定なので $V_C=V_0$ のまま。シリンダー全体の長さ(=全体積 $3V_0$)は一定だから、B の体積は A がふくらんだ分だけ縮む:

$$V_B = V_0 - \left(\frac{4}{3}V_0 - V_0\right) = V_0 - \frac{1}{3}V_0 = \frac{2}{3}V_0$$

状態方程式(B, 1 モル, 等温 $T_0$):

$$p_B V_B = R T_0 \quad\Rightarrow\quad p_B = \frac{R T_0}{V_B}$$

代入・計算:$V_B=\dfrac{2}{3}V_0$ を代入して

$$p_B = \frac{R T_0}{\frac{2}{3}V_0} = \frac{3 R T_0}{2 V_0}$$
答え: $\displaystyle p_B = \frac{3RT_0}{2V_0}$
補足:ボイルの法則で検算

初期の B は $p_0 V_0 = RT_0$ より $p_0=\dfrac{RT_0}{V_0}$。等温変化ではボイルの法則 $p_0V_0=p_BV_B$ が成り立つので

$$p_B = p_0\frac{V_0}{V_B} = \frac{RT_0}{V_0}\cdot\frac{V_0}{(2/3)V_0} = \frac{3}{2}\cdot\frac{RT_0}{V_0}$$

と同じ結果。体積が $\tfrac23$ 倍に縮んだので圧力は $\tfrac32$ 倍に上がった。

Point

ピストン2固定なら $V_C$ は不変。シリンダーの全長一定から「A の増加=B の減少」。等温なら状態方程式 $pV=RT_0$(=ボイルの法則)が即使える。

A. 問2:ピストン1が部屋 B の気体にした仕事 $W_B$

直感的理解
部屋 B は等温で $V_0\to\dfrac23V_0$ に圧縮される。気体は外から押されてエネルギーを受け取る(=ピストン1が B に正の仕事をする)。図2の斜線部の面積 $RT_0\log\dfrac{V_2}{V_1}$ が「気体が外にする仕事」を与えるので、ピストン1が B にした仕事はその符号を反転したもの。

立式(等温変化で気体が外にする仕事):問題で与えられた「図2の斜線部の面積」より、1 モルの気体が等温で $V_1\to V_2$ するとき気体が外にする仕事は

$$W_{\text{気体が外にする}} = R T_0 \log\frac{V_2}{V_1}$$

B は $V_1=V_0$ から $V_2=\dfrac23 V_0$ へ変化したので、気体 B が外にする仕事は

$$W_{\text{B が外にする}} = R T_0 \log\frac{\frac23 V_0}{V_0} = R T_0 \log\frac{2}{3} \;(<0)$$

負になるのは「B が外にした仕事がマイナス=逆に外から仕事をされた」ことを意味します。

ピストン1が B にした仕事に直す:ピストン1が B にした仕事 $W_B$ は、B が外にした仕事の符号を反転したもの:

$$W_B = -\,W_{\text{B が外にする}} = -R T_0 \log\frac{2}{3} = R T_0 \log\frac{3}{2}$$

数値の確認:$\log\dfrac32 = \log 3 - \log 2 \fallingdotseq 1.099 - 0.693 = 0.405$ なので、たとえば $T_0=300$ K のとき

$$W_B = 8.31 \times 300 \times 0.405 \fallingdotseq 1.01\times10^{3}\ \text{J}$$

のような正の値になり、確かにピストンが気体に仕事をしたことが分かります。

答え: $\displaystyle W_B = R T_0 \log\frac{3}{2}\quad(>0)$
別解:「圧縮では外からされる仕事=面積」と直接読む

$p$-$V$ 図の等温線の下の面積は、膨張なら「気体が外にする仕事」、圧縮なら「外から気体にされる仕事」を絶対値で表す。B は $V_0\to\tfrac23V_0$ の圧縮なので、ピストンが B にした仕事は面積

$$W_B = \int_{\frac23 V_0}^{V_0} p\,dV = R T_0 \log\frac{V_0}{\frac23 V_0} = R T_0 \log\frac{3}{2}$$

と、積分区間を「縮む向き」に取れば最初から正の値として出る。

Point

「気体が外にする仕事」と「外(ピストン)が気体にする仕事」は符号が逆。問題が問うているのはどちら向きの仕事かを必ず確認する。等温の仕事は $RT_0\log(V_2/V_1)$。

A. 問3:全変化での内部エネルギー増加 $\Delta U$ と放出熱 $Q$

直感的理解
問1の操作前(全室 $V_0,T_0$)から、ピストン1を動かし、続いてピストン2を左へ動かして C の体積が $\dfrac43V_0$ になった状態まで。すべて等温(装置は外部に熱を通す)なので、最後にどの室も温度は $T_0$ に戻っている。理想気体の内部エネルギーは温度だけで決まるから、全体の $\Delta U=0$。あとは熱力学第1法則で熱 $Q$ を求める。

最終状態の体積:ピストン1の操作で A は $\dfrac43V_0$(問1)。続いてピストン2を左へ動かし C が $\dfrac43V_0$。全体積 $3V_0$ 一定だから B の体積は

$$V_B' = 3V_0 - \frac43V_0 - \frac43V_0 = 3V_0 - \frac83V_0 = \frac13 V_0$$

(a) 内部エネルギーの総和の増加 $\Delta U$:理想気体の内部エネルギーは温度だけの関数で、各室 1 モルなら $U=C_V T$。すべて等温(始めも終わりも $T_0$)だから各室で $\Delta U=0$。したがって

$$\Delta U = \Delta U_A + \Delta U_B + \Delta U_C = 0$$

(b) 装置から外部に放出された熱 $Q$:熱力学第1法則を全系に適用する。「気体が吸収した熱 $Q_{\text{吸}}$」「気体が外にした仕事 $W_{\text{気体}}$」として

$$\Delta U = Q_{\text{吸}} - W_{\text{気体}} = 0 \quad\Rightarrow\quad Q_{\text{吸}} = W_{\text{気体}}$$

各室が外にする仕事を合計する(すべて等温・1 モル)。A と C は $V_0\to\dfrac43V_0$、B は $V_0\to\dfrac13V_0$:

$$W_{\text{気体}} = RT_0\log\frac{4}{3} + RT_0\log\frac{4}{3} + RT_0\log\frac{1}{3}$$ $$= RT_0\left(\log\frac{4}{3}+\log\frac{4}{3}+\log\frac{1}{3}\right) = RT_0\log\frac{\frac{16}{9}}{3} = RT_0\log\frac{16}{27}$$

$\dfrac{16}{27}<1$ なので $W_{\text{気体}}<0$、つまり気体は正味で外から仕事をされ、同量の熱を吸収する(=吸収熱が負)。よって気体が吸収した熱は

$$Q_{\text{吸}} = RT_0\log\frac{16}{27}\;(<0)$$

放出熱に直す:装置から外部へ放出された熱 $Q$ は吸収熱の符号を反転して

$$Q = -Q_{\text{吸}} = -RT_0\log\frac{16}{27} = RT_0\log\frac{27}{16}\;(>0)$$

数値の確認:$\log\dfrac{27}{16}=\log27-\log16\fallingdotseq3.296-2.773=0.523$。$T_0=300$ K なら $Q\fallingdotseq8.31\times300\times0.523\fallingdotseq1.3\times10^{3}$ J が外へ捨てられる。

答え:
(a) $\displaystyle \Delta U = 0$(すべて等温なので温度が $T_0$ に戻り、内部エネルギーは不変)
(b) $\displaystyle Q = RT_0\log\frac{27}{16}$(装置が外部へ放出した熱)
補足:符号の追い方を整理

等温変化では各室で $\Delta U=0$ なので、室ごとに「吸収熱=気体がした仕事」。A・C は膨張で正の仕事をしながら熱を吸収、B は圧縮されて負の仕事(外からされる)で熱を放出。全部足すと正味は放出側が勝ち、装置全体としては外部へ熱を捨てる。

注意:問われているのは「装置から外部に放出された熱」なので、気体目線の吸収熱 $Q_{\text{吸}}=RT_0\log\frac{16}{27}$(負)の符号を反転した正の量 $RT_0\log\frac{27}{16}$ が答え。

Point

等温の総合変化では「最終的に温度が初期に戻る」ので $\Delta U=0$、$Q=W$。複数の室があるときは各室の仕事を符号込みで合計する。$\log$ は底 $e$(自然対数)であることに注意。

A. 問4:状態(う)での部屋 B の絶対温度 $T_B$

直感的理解
II ではシリンダーを断熱材で覆い、ピストンも断熱材。部屋 B は一度も加熱されず、熱の出入りもないので、はじめから終わりまでずっと断熱変化。状態(う)で体積比 4:1:4 なので B の体積は $\dfrac{V_0}{3}$ に縮む。断熱圧縮なので温度は上がる。$TV^{\gamma-1}=$一定 で求める。

B の体積(状態(う)):状態(う)で A:B:C = 4:1:4。全体積 $3V_0$ なので

$$V_B = \frac{1}{4+1+4}\times 3V_0 = \frac{1}{9}\times 3V_0 = \frac{V_0}{3}$$

立式(B は断熱変化):B は加熱されず、ピストンも断熱材で部屋間の熱のやりとりもない。よって(あ)→(う)はすべて断熱変化。問題で与えられた $pV^\gamma=$一定 と状態方程式 $pV=RT$ から $TV^{\gamma-1}=$一定 が導けるので

$$T_0\,V_0^{\gamma-1} = T_B\,V_B^{\gamma-1}$$

代入・計算:$V_B=\dfrac{V_0}{3}$ を代入して

$$T_B = T_0\left(\frac{V_0}{V_B}\right)^{\gamma-1} = T_0\left(\frac{V_0}{V_0/3}\right)^{\gamma-1} = T_0\cdot 3^{\gamma-1}$$

数値の感覚:単原子分子なら $\gamma=\dfrac53$、$T_B=3^{2/3}T_0\fallingdotseq 2.08\,T_0$。二原子分子なら $\gamma=\dfrac75$、$T_B=3^{0.4}T_0\fallingdotseq 1.55\,T_0$。圧縮されたぶん確かに温度が上がる。

答え: $\displaystyle T_B = 3^{\gamma-1}\,T_0$
補足:$pV^\gamma=$一定 から $TV^{\gamma-1}=$一定 を出す

状態方程式 $pV=RT$ より $p=\dfrac{RT}{V}$。これを $pV^\gamma=$一定 に代入すると

$$\frac{RT}{V}\,V^\gamma = R\,T\,V^{\gamma-1} = \text{一定}\quad\Rightarrow\quad TV^{\gamma-1}=\text{一定}$$

断熱変化で温度と体積を結ぶ便利な関係式。

Point

断熱材で囲まれ加熱もされない室は、たとえ他の室が加熱されても「断熱変化」をする。$pV^\gamma=$一定 と $TV^{\gamma-1}=$一定 を使い分ける。状態(う)の体積比 4:1:4 から B の体積 $V_0/3$ を読み取るのがカギ。

A. 問5:ヒーターが与えた熱の合計 $Q_1+Q_2$

直感的理解
装置は外側を断熱材で覆われ、シリンダーも固定された剛体の閉じた容器。外部への熱の出入りも、外部への仕事もない。だからヒーターが入れた熱 $Q_1+Q_2$ は、まるごと3室の気体の内部エネルギーの増加になる。あとは各室の最終温度を求めて足すだけ。

方針(全系のエネルギー保存):装置は外を断熱材で覆われ、シリンダーは固定の閉じた剛体容器。外部との熱の出入りも、外部への仕事もない。よってヒーターが与えた熱はすべて気体の内部エネルギー増加になる:

$$Q_1 + Q_2 = \Delta U_A + \Delta U_B + \Delta U_C = C_V\big[(T_A-T_0)+(T_B-T_0)+(T_C-T_0)\big]$$

状態(う)の各室の温度を求める:2つのピストンは自由に動けるので、平衡では3室の圧力が等しい:$p_A=p_B=p_C\equiv p$。問4より $T_B=3^{\gamma-1}T_0$、$V_B=\dfrac{V_0}{3}$ なので、B の状態方程式から共通圧力 $p$ が分かる:

$$p = \frac{R T_B}{V_B} = \frac{R\cdot 3^{\gamma-1}T_0}{V_0/3} = \frac{3^{\gamma}\,R T_0}{V_0}$$

A は $V_A=\dfrac49\cdot3V_0=\dfrac43V_0$、圧力 $p$ なので

$$T_A = \frac{p\,V_A}{R} = \frac{1}{R}\cdot\frac{3^{\gamma}RT_0}{V_0}\cdot\frac43 V_0 = \frac43\cdot 3^{\gamma}T_0$$

C も体積・圧力が A と同じだから $T_C = \dfrac43\cdot3^{\gamma}T_0$。

温度の和:

$$T_A+T_B+T_C = \frac43\cdot3^{\gamma}T_0 + 3^{\gamma-1}T_0 + \frac43\cdot3^{\gamma}T_0$$ $$= \frac83\cdot3^{\gamma}T_0 + \frac13\cdot3^{\gamma}T_0 = \frac{9}{3}\cdot3^{\gamma}T_0 = 3\cdot3^{\gamma}T_0 = 3^{\gamma+1}T_0$$

代入:

$$Q_1+Q_2 = C_V\big(3^{\gamma+1}T_0 - 3T_0\big) = 3C_V T_0\big(3^{\gamma}-1\big)$$
答え: $\displaystyle Q_1+Q_2 = 3C_V T_0\left(3^{\gamma}-1\right)$
別解:内部エネルギーを温度の和だけで一気に計算

外部に熱も仕事も逃げないので、$Q_1+Q_2=C_V\big[(T_A+T_B+T_C)-3T_0\big]$。各室の温度を個別に出さなくても、平衡圧力 $p=3^\gamma p_0$ と全体積 $3V_0$ を使えば

$$p(V_A+V_B+V_C)=R(T_A+T_B+T_C)\;\Rightarrow\; 3^\gamma p_0\cdot 3V_0 = R\sum T$$

$p_0V_0=RT_0$ だから $\sum T = 3^{\gamma+1}T_0$。これを代入しても同じく $Q_1+Q_2=3C_VT_0(3^\gamma-1)$。

Point

断熱・剛体・閉鎖容器なら「外への熱・仕事=0」→ ヒーターの熱は全部内部エネルギー増加。$\Delta U=C_V\Delta T$(1 モル)。平衡では各室の圧力が等しいことから最終温度を決める。

A. 問6:状態(い)での体積比 $V_A:V_B:V_C$

直感的理解
状態(い)は「A だけ加熱して止まった」途中状態。B と C はまだ加熱されておらず、両方とも断熱変化。同じ始点($V_0,T_0$)から同じ平衡圧力に達するので、B と C は同じ体積になる。さらに(い)→(う)では C を加熱するので、その間 A と B は断熱。この「断熱どうしの関係」を使うと比が一意に決まる。

どの室が断熱か整理:(あ)→(い)では A のみ加熱。B・C は加熱されず断熱。(い)→(う)では C のみ加熱。このとき A・B は加熱されず断熱。ピストンは断熱材なので、加熱されていない室は常に断熱変化をする。

B と C が(い)で同体積:(あ)→(い)で B も C も「同じ始点 $V_0,T_0$ から、同じ平衡圧力 $p'$ までの断熱変化」。断熱では $pV^\gamma=p_0V_0^\gamma$ なので、同じ $p'$ なら体積も等しい:

$$V_B' = V_C' = V_0\left(\frac{p_0}{p'}\right)^{1/\gamma}$$

A の関係((い)→(う)で A は断熱):A は(い)→(う)で加熱されず断熱。状態(う)では $V_A=\dfrac43V_0$、共通圧力は $p''=3^\gamma p_0$(問5)。A の断熱関係から

$$p'\,V_A'^{\,\gamma} = p''\,V_A^{\,\gamma} = 3^\gamma p_0\left(\frac43 V_0\right)^\gamma = p_0\,(4V_0)^\gamma$$

一方 B の(あ)→(い)断熱関係は $p'\,V_B'^{\,\gamma}=p_0\,V_0^\gamma$。この2式の比をとると $p'$ が消えて

$$\frac{V_A'^{\,\gamma}}{V_B'^{\,\gamma}} = \frac{(4V_0)^\gamma}{V_0^\gamma} \quad\Rightarrow\quad \frac{V_A'}{V_B'} = 4 \quad\Rightarrow\quad V_A' = 4V_B'$$

体積保存で確定:$V_A'+V_B'+V_C'=3V_0$ かつ $V_C'=V_B'$、$V_A'=4V_B'$ だから

$$4V_B' + V_B' + V_B' = 3V_0 \quad\Rightarrow\quad 6V_B' = 3V_0 \quad\Rightarrow\quad V_B' = \frac{V_0}{2}$$ $$V_A' = 2V_0,\qquad V_B' = \frac{V_0}{2},\qquad V_C' = \frac{V_0}{2}$$

よって最も簡単な整数比は

$$V_A : V_B : V_C = 2V_0 : \frac12 V_0 : \frac12 V_0 = 4 : 1 : 1$$
答え: $\displaystyle V_A : V_B : V_C = 4 : 1 : 1$
補足:なぜ B と C が同じになるのか

(あ)→(い)では加熱されるのは A だけ。B と C は外からも他室からも熱をもらえず(断熱材のピストン)、ただ押されて体積が変わるだけ。出発点が同じ($V_0,T_0$)で、平衡で行き着く圧力 $p'$ も共通だから、同じ断熱曲線 $pV^\gamma=p_0V_0^\gamma$ 上の同じ点、つまり同じ体積に落ち着く。これが $V_B'=V_C'$ の理由。

Point

「どの区間でどの室が断熱か」を場面ごとに仕分けるのが核心。断熱の式 $pV^\gamma=$一定 を2つの室で立てて比をとると、未知の圧力が消えて体積比が出る。平衡では圧力が等しい。

B. 問7:X線の最短波長 $\lambda_0$

直感的理解
電極間の高電圧 $V$ で加速された電子は、運動エネルギー $eV$ をもって陽極に衝突する。多くの電子は何回かに分けてX線を出すが、運動エネルギーを一度に全部1個の光子にした電子が最もエネルギーの高い=最短波長のX線を出す。これが連続X線の左端(点P)。

電子の運動エネルギー:電荷 $-e$ の電子が電圧 $V$ で加速されると、得る運動エネルギーは

$$K = eV$$

最短波長の条件:この運動エネルギーがすべて1個のX線光子になる極限を考える。波長 $\lambda_0$ の光子のエネルギーは $\dfrac{hc}{\lambda_0}$ なので、エネルギー保存より

$$eV = \frac{hc}{\lambda_0}$$

$\lambda_0$ について解く:

$$\lambda_0 = \frac{hc}{eV}$$

(電子の質量 $m$ は最終結果には現れない。$V$ が十分大きく相対論を考えなければエネルギー保存だけで決まるため。)

数値の確認:$V=50$ kV、$h=6.63\times10^{-34}$ J·s、$c=3.0\times10^8$ m/s、$e=1.60\times10^{-19}$ C:

$$\lambda_0 = \frac{6.63\times10^{-34}\times3.0\times10^8}{1.60\times10^{-19}\times5.0\times10^4} \fallingdotseq 2.5\times10^{-11}\ \text{m} = 25\ \text{pm}$$
答え: $\displaystyle \lambda_0 = \frac{hc}{eV}$
補足:なぜ連続スペクトルになるのか(制動放射)

陽極に飛び込んだ電子は、原子核の近くで曲げられて減速するときにX線を出す(制動放射)。1個の電子が出すエネルギーは減速のしかたによりさまざまなので、波長は連続的に分布する。運動エネルギーを一度に全部使い切った電子だけが最短波長 $\lambda_0$ を生むので、スペクトルは $\lambda_0$ で急に立ち上がる。

Point

最短波長=「加速エネルギー $eV$ がまるごと1光子になった」極限。$eV=\dfrac{hc}{\lambda_0}$。電圧 $V$ を上げるほど $\lambda_0$ は短くなる(デュエーン–ハントの法則)。

B. 問8:$n=3$ の軌道半径 $r_3$

直感的理解
電子は原子核のクーロン引力を向心力として円運動する。さらに「円周=物質波の波長の $n$ 倍」という量子条件で軌道が選ばれる。$n=3$ の電子から見ると、内側の $n=1$(2個)と $n=2$(8個)の合計10個の電子が核電荷を打ち消すので、見える核電荷は $(Z-10)e$

有効電荷:$n=3$ の電子から見ると、内側にある $n=1$(2個)と $n=2$(8個)の計10個の電子が核電荷を打ち消す。したがって見える核電荷は $+(Z-10)e$。

(i) クーロン力=向心力:$n=3$ の軌道半径を $r_3$、電子の速さを $v$ とすると

$$\frac{k_0 (Z-10) e^2}{r_3^2} = \frac{m v^2}{r_3} \quad\Rightarrow\quad m v^2 = \frac{k_0 (Z-10) e^2}{r_3} \tag{1}$$

(ii) 量子条件:円周が物質波(ド・ブロイ波長 $\lambda=\dfrac{h}{mv}$)の $n=3$ 倍:

$$2\pi r_3 = 3\cdot\frac{h}{m v} \quad\Rightarrow\quad v = \frac{3h}{2\pi m r_3} \tag{2}$$

連立:(2) を (1) に代入する。$v^2=\dfrac{9h^2}{4\pi^2 m^2 r_3^2}$ なので

$$m\cdot\frac{9h^2}{4\pi^2 m^2 r_3^2} = \frac{k_0 (Z-10) e^2}{r_3} \quad\Rightarrow\quad \frac{9h^2}{4\pi^2 m r_3} = k_0 (Z-10) e^2$$

$r_3$ について解いて

$$r_3 = \frac{9 h^2}{4\pi^2 m k_0 (Z-10) e^2}$$
答え: $\displaystyle r_3 = \frac{9 h^2}{4\pi^2 m k_0 (Z-10) e^2}$
別解:量子条件を角運動量で書く

$2\pi r = n\dfrac{h}{mv}$ は $mvr = \dfrac{nh}{2\pi}$(角運動量の量子化)と同値。$n=3$ で $mvr_3=\dfrac{3h}{2\pi}$。これと $mv^2=\dfrac{k_0(Z-10)e^2}{r_3}$ から $v$ を消去しても

$$r_3=\frac{9h^2}{4\pi^2 m k_0 (Z-10)e^2}$$

同じ結果になる。一般には $r_n=\dfrac{n^2 h^2}{4\pi^2 m k_0 Z_{\text{eff}} e^2}$。

Point

ボーア模型は「向心力=クーロン力」と「量子条件」の連立。遮蔽がある問題では核電荷 $Z$ を有効電荷 $Z_{\text{eff}}$ に置き換える。$n=3$ では内側に10個あるので $Z_{\text{eff}}=Z-10$。$r_n\propto n^2/Z_{\text{eff}}$。

B. 問9:エネルギー準位 $E_2,\ E_3$

直感的理解
各軌道の電子の全エネルギー(運動+位置)を求める。クーロン束縛では $E_n=\dfrac{Z_{\text{eff}}^2}{n^2}E_H$ の形になる($E_H$ は水素基底状態のエネルギーで負)。$n=2$ の電子からは内側に2個、$n=3$ の電子からは内側に10個あるので、有効電荷はそれぞれ $(Z-2)$、$(Z-10)$。

軌道 $n$ の電子の全エネルギー:有効電荷を $Z_{\text{eff}}$ とする。問8と同様に向心力の式から運動エネルギー、無限遠を基準とする位置エネルギーは

$$K = \frac12 m v^2 = \frac{k_0 Z_{\text{eff}} e^2}{2 r_n},\qquad U = -\frac{k_0 Z_{\text{eff}} e^2}{r_n}$$

全エネルギーは

$$E_n = K + U = \frac{k_0 Z_{\text{eff}} e^2}{2 r_n} - \frac{k_0 Z_{\text{eff}} e^2}{r_n} = -\frac{k_0 Z_{\text{eff}} e^2}{2 r_n}$$

$r_n=\dfrac{n^2 h^2}{4\pi^2 m k_0 Z_{\text{eff}} e^2}$ を代入すると

$$E_n = -\frac{k_0 Z_{\text{eff}} e^2}{2}\cdot\frac{4\pi^2 m k_0 Z_{\text{eff}} e^2}{n^2 h^2} = -\frac{2\pi^2 m k_0^2 Z_{\text{eff}}^2 e^4}{n^2 h^2}$$

$E_H$ で書き直す:水素原子($Z=1$、$n=1$、遮蔽なし)の基底状態は

$$E_H = -\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2}\;(<0)$$

なので、一般に

$$E_n = \frac{Z_{\text{eff}}^2}{n^2}\,E_H$$

$E_2$($n=2$、内側に2個 → $Z_{\text{eff}}=Z-2$):

$$E_2 = \frac{(Z-2)^2}{2^2}\,E_H = \frac{(Z-2)^2}{4}\,E_H$$

$E_3$($n=3$、内側に10個 → $Z_{\text{eff}}=Z-10$):

$$E_3 = \frac{(Z-10)^2}{3^2}\,E_H = \frac{(Z-10)^2}{9}\,E_H$$

どちらも $E_H<0$ なので負(束縛状態)。

答え: $\displaystyle E_2 = \frac{(Z-2)^2}{4}\,E_H,\qquad E_3 = \frac{(Z-10)^2}{9}\,E_H$
補足:$E=-K=U/2$ の関係

クーロン束縛では $K=-\dfrac12 U$ が成り立ち、$E=K+U=-K=\dfrac{U}{2}$。エネルギーが必ず負になる(束縛されている)こと、$|E|=K$ となることが一目で分かる。問9の符号チェックに便利。

Point

ボーア準位は $E_n=\dfrac{Z_{\text{eff}}^2}{n^2}E_H$。遮蔽で有効電荷が下がるので、$n=2$ は $(Z-2)$、$n=3$ は $(Z-10)$ を使う。内側の電子数は $n=1$ に2個、$n=2$ に8個。

B. 問10:固有X線の波長 $\lambda_2$($n=2\to n=1$)

直感的理解
図2の2本のピークのうち、波長の長い方 $\lambda_2$ は $n=2\to n=1$ の遷移($K_\alpha$ 線)。ここがこの問題のヤマで、「遷移直前、$n=1$ の電子は1個だけ」という指示が効く。落ちてくる電子は、はじめ $n=2$ にいるときは内側の $n=1$ の1個に遮蔽されて $(Z-1)$ を感じ、$n=1$ に落ちた後は内側に電子がないので $Z$ をそのまま感じる。

どちらのピークか:波長が長いほど光子エネルギーは小さい。$n=2\to1$ は $n=3\to1$ よりエネルギーが小さいので、長波長側のピーク $\lambda_2$ が $n=2\to1$($K_\alpha$ 線)に対応する。

遮蔽の見極め(ここが核心):固有X線が出る直前、$n=1$ の軌道には電子が1個しか残っていない。落ちてくる電子について、

放出される光子のエネルギー:遷移で放出される光子のエネルギーは(高い準位)−(低い準位)。$E_2>E_1$(どちらも負)なので

$$\Delta E = E_2 - E_1 = \frac{(Z-1)^2}{4}E_H - Z^2 E_H = E_H\left[\frac{(Z-1)^2}{4} - Z^2\right]$$

$\dfrac{(Z-1)^2}{4}-Z^2<0$ かつ $E_H<0$ なので $\Delta E>0$(ちゃんと正のエネルギーが放出される)。$|E_H|=-E_H$ を使って正の形に整えると

$$\Delta E = \left[Z^2 - \frac{(Z-1)^2}{4}\right]|E_H|$$

光子の関係式と波長:$\Delta E=\dfrac{hc}{\lambda_2}$ より

$$\lambda_2 = \frac{hc}{\Delta E} = \frac{hc}{\left[Z^2 - \dfrac{(Z-1)^2}{4}\right]|E_H|}$$

分母を通分($\times 4$)して整理すると

$$\lambda_2 = \frac{4hc}{\left[4Z^2 - (Z-1)^2\right]|E_H|} = \frac{4hc}{(3Z-1)(Z+1)\,|E_H|}$$

数値の確認(ケイ素 Si, $Z=14$):

$$\Delta E = \left[14^2 - \frac{13^2}{4}\right]\times13.6 = (196 - 42.25)\times13.6 \fallingdotseq 2.09\times10^{3}\ \text{eV}$$ $$\lambda_2 = \frac{1240\ \text{eV·nm}}{2.09\times10^{3}\ \text{eV}} \fallingdotseq 0.59\ \text{nm} \fallingdotseq 590\ \text{pm}$$

これは実際のケイ素 $K_\alpha$ 線(約 0.71 nm)と同じオーダーで、妥当な値。

答え: $\displaystyle \lambda_2 = \frac{hc}{\left[Z^2 - \dfrac{(Z-1)^2}{4}\right]|E_H|} \;=\; \frac{4hc}{(3Z-1)(Z+1)\,|E_H|}$
補足:よくある誤り「両方を $(Z-1)$ で計算してしまう」

モーズリーの法則の簡易版では $K_\alpha$ を $\Delta E=\dfrac34(Z-1)^2|E_H|$ とすることがある。しかしこれは「$n=1$ も $n=2$ も同じ有効電荷 $(Z-1)$」と置く近似。本問は「遷移直前に $n=1$ の電子は1個」とわざわざ指定しており、$n=1$ に落ちた電子は内側に電子がないので有効電荷 $Z$ を感じる。したがって $E_1=Z^2E_H$ を使うのが正しく、$\dfrac34(Z-1)^2$ ではない。問題文の条件を取りこぼさないこと。

Point

固有X線は内殻遷移。$\Delta E=$(上の準位)−(下の準位)$=\dfrac{hc}{\lambda}$。本問では遷移前後で有効電荷が違う点が最大のポイント:$n=2$ で $(Z-1)$、$n=1$(空席を埋めた後)で $Z$。条件を読み落とすと $\dfrac34(Z-1)^2$ の誤答になる。

🔑 総まとめ

A. 熱力学(3室シリンダー) B. 原子物理(X線・ボーア模型)