独立した2つの問題からなる。Aは単原子分子気体Aと二原子分子気体Bを詰めた2連風船「気球」の浮力・状態変化(等圧加熱・断熱膨張・熱交換)を扱う熱力学。Bは円軌道上を等速円運動する観測者が静止音源の音を聞くドップラー効果の問題で、ベクトルの内積で「音源方向の速度成分」を求めるのが要。
浮力は「押しのけた空気の重さ」。単位体積あたりなら、ちょうどその場所の大気の重さ密度(密度×重力加速度)に等しい。気球が温まって中身が軽くなると、押しのける空気の重さ>気球の重さ となって浮き始める。求めるのは地上での大気の重さ密度。
浮力の大きさは、押しのけた大気(空気)の重さに等しい(アルキメデスの原理)。気球の体積を \(V\) とすると、浮力は周囲大気の密度を \(\rho_{\text{大気}}\) として \(\rho_{\text{大気}}\,V g\)。よって単位体積あたりの浮力は
$$\frac{\text{浮力}}{V}=\rho_{\text{大気}}\,g$$大気を理想気体とすると、地上(圧力 \(p_0\)、温度 \(T_0\)、モル質量 \(M\))での密度は、状態方程式 \(p_0 V_{\text{大気}}=n_{\text{大気}}RT_0\) と \(\rho=\dfrac{n_{\text{大気}}M}{V_{\text{大気}}}\) から
$$\rho_{\text{大気}}=\frac{Mp_0}{RT_0}$$したがって、求める単位体積あたりの浮力は
$$\frac{\text{浮力}}{V}=\rho_{\text{大気}}\,g=\frac{Mp_0\,g}{RT_0}$$このあとの問2で「浮力=気球の重さ」を立てるとき、浮力は(単位体積あたりの浮力)×(気球の体積 \(V\))で表される。気球の体積 \(V\) は気体ABの体積の和で温度に依存するため、まず体積によらない量である「単位体積あたりの浮力」を押さえておくと見通しがよい。
単位体積あたりの浮力はその場所の大気の重さ密度 \(\rho g\)そのもの。密度は状態方程式から \(\rho=\dfrac{(\text{圧力})M}{R(\text{温度})}\) で求める。
温めると気体ABが膨張して気球の体積が増え、押しのける空気が増えて浮力が大きくなる。気球の中身(気体AB)の重さは変わらないので、ある温度で「浮力=重さ」になった瞬間に浮き始める。風船は大気圧と等圧なので、温度が上がると体積は \(T\) に比例して増える。
気球が浮き始めるのは、浮力=気球全体の重さになった瞬間。気球を構成する風船等の質量は無視できるので、重さは気体ABの重さの和。
気球の重さ:気体Aの質量は \(nM_{\mathrm A}\)、気体Bの質量は \(nM_{\mathrm B}\) なので
$$W=(nM_{\mathrm A}+nM_{\mathrm B})\,g=n(M_{\mathrm A}+M_{\mathrm B})\,g$$気球の体積:温度 \(T_1\)、圧力 \(p_0\)(地上の大気圧)における気体ABの体積を状態方程式で求める。物質量はそれぞれ \(n\) なので
$$V_{\mathrm A}=\frac{nRT_1}{p_0},\qquad V_{\mathrm B}=\frac{nRT_1}{p_0}$$ $$V=V_{\mathrm A}+V_{\mathrm B}=\frac{2nRT_1}{p_0}$$浮力:問1の単位体積あたりの浮力 \(\dfrac{Mp_0 g}{RT_0}\) に体積 \(V\) を掛ける。
$$F_{\text{浮力}}=\frac{Mp_0 g}{RT_0}\cdot\frac{2nRT_1}{p_0}=\frac{2nMgT_1}{T_0}$$つり合いの式:浮力=重さ より
$$\frac{2nMgT_1}{T_0}=n(M_{\mathrm A}+M_{\mathrm B})\,g$$\(n,\,g\) を約分して \(T_1\) について解くと
$$T_1=\frac{(M_{\mathrm A}+M_{\mathrm B})\,T_0}{2M}$$気球の平均密度 \(\rho_{\text{気球}}=\dfrac{n(M_{\mathrm A}+M_{\mathrm B})}{V}\) が周囲大気の密度 \(\rho_{\text{大気}}=\dfrac{Mp_0}{RT_0}\) より小さくなれば浮く。
気体ABを温めると体積 \(V\) が増えて \(\rho_{\text{気球}}\) が下がる。両密度が等しくなる温度が \(T_1\)。つまり「中身2モルの平均モル質量 \(\frac{M_{\mathrm A}+M_{\mathrm B}}{2}\) が、大気のモル質量 \(M\) より重くても、温めて膨らませれば浮かせられる」という熱気球の原理そのもの。
等圧(大気圧と一致)なので体積は \(T\) に比例。「浮力=重さ」の式で \(n,g\) を約分するのがコツ。気体は2つあるので体積も浮力も2倍を忘れない。
風船は大気圧と等圧のまま温まるので、これは定圧変化。定圧で温めるときの吸熱は \(Q=nC_p\Delta T\)。単原子のAと二原子のBでは定圧モル比熱が違う(\(\frac52 R\) と \(\frac72 R\))ので、別々に計算して足す。
風船は大気圧と等圧のまま温度を上げるので定圧変化。温度上昇 \(\Delta T=T_1-T_0\) のとき、各気体に与えた熱量は \(Q=nC_p\Delta T\)。
気体A(単原子、\(C_p=\frac52 R\)):
$$Q_{\mathrm A}=n\cdot\tfrac52 R\,(T_1-T_0)$$気体B(二原子、\(C_p=\frac72 R\)):
$$Q_{\mathrm B}=n\cdot\tfrac72 R\,(T_1-T_0)$$合計:
$$Q=Q_{\mathrm A}+Q_{\mathrm B}=n\left(\tfrac52+\tfrac72\right)R\,(T_1-T_0)=6nR\,(T_1-T_0)$$問2の \(T_1=\dfrac{(M_{\mathrm A}+M_{\mathrm B})T_0}{2M}\) を代入する。
$$T_1-T_0=\frac{(M_{\mathrm A}+M_{\mathrm B})T_0}{2M}-T_0=\frac{(M_{\mathrm A}+M_{\mathrm B}-2M)\,T_0}{2M}$$ $$Q=6nR\cdot\frac{(M_{\mathrm A}+M_{\mathrm B}-2M)\,T_0}{2M}=\frac{3nRT_0\,(M_{\mathrm A}+M_{\mathrm B}-2M)}{M}$$定圧変化なので熱力学第一法則 \(Q=\Delta U+W_{\text{気体}}\) で内訳を確認できる。気体がした仕事は \(W=p_0\Delta V\)。AB合計の体積変化は \(\Delta V=\dfrac{2nR(T_1-T_0)}{p_0}\) なので
$$W=p_0\Delta V=2nR(T_1-T_0)$$内部エネルギー変化は \(\Delta U=n(\tfrac32 R+\tfrac52 R)(T_1-T_0)=4nR(T_1-T_0)\)。
$$Q=\Delta U+W=4nR(T_1-T_0)+2nR(T_1-T_0)=6nR(T_1-T_0)$$たしかに一致する。定圧では「与えた熱の一部が膨張の仕事に、残りが温度上昇に使われる」。
定圧加熱は\(Q=nC_p\Delta T\)(定積の \(C_V\) ではない!)。単原子 \(C_p=\frac52 R\)、二原子 \(C_p=\frac72 R\)。合計すると係数が \(\frac52+\frac72=6\) ときれいになる。
断熱板を閉じたので気体ABは熱のやりとりをせず、それぞれ独立に断熱変化する。上昇すると周囲の大気圧が下がる(\(p_0\to a p_0\)、\(0<a<1\))ので、両気体は断熱膨張して温度が下がる。膨張の度合いは比熱比 \(\gamma\) で決まり、単原子Aと二原子Bで冷え方が違う。
断熱板を閉じた後、気体ABは熱のやりとりをせず、それぞれ独立に断熱変化する。上昇に伴い圧力は \(p_0\to a p_0\)(\(0<a<1\))。ゆっくりした変化なので断熱の式 \(pV^\gamma=\text{一定}\) が使える。
状態方程式 \(pV=nRT\) より \(V=\dfrac{nRT}{p}\) を代入すると、\(pV^\gamma=\text{一定}\) は温度と圧力の関係に書き換えられる。
$$p\left(\frac{nRT}{p}\right)^{\!\gamma}=\text{一定}\;\Rightarrow\; T^{\gamma}p^{1-\gamma}=\text{一定}\;\Rightarrow\; T\,p^{\frac{1-\gamma}{\gamma}}=\text{一定}$$初め \((p_0,\,T_2)\)、後 \((a p_0,\,T)\) なので
$$T_2\,p_0^{\frac{1-\gamma}{\gamma}}=T\,(a p_0)^{\frac{1-\gamma}{\gamma}} \;\Rightarrow\; T=T_2\left(\frac{p_0}{a p_0}\right)^{\frac{1-\gamma}{\gamma}}=T_2\,a^{\frac{\gamma-1}{\gamma}}$$気体A(単原子):\(\gamma_{\mathrm A}=\dfrac{\frac52 R}{\frac32 R}=\dfrac53\) なので \(\dfrac{\gamma-1}{\gamma}=\dfrac{2/3}{5/3}=\dfrac25\)。
$$T_{\mathrm A}=T_2\,a^{\frac25}$$気体B(二原子):\(\gamma_{\mathrm B}=\dfrac{\frac72 R}{\frac52 R}=\dfrac75\) なので \(\dfrac{\gamma-1}{\gamma}=\dfrac{2/5}{7/5}=\dfrac27\)。
$$T_{\mathrm B}=T_2\,a^{\frac27}$$\(0<a<1\) のとき、指数が大きいほど \(a^{\text{指数}}\) は小さくなる。\(\frac25=0.4 > \frac27\fallingdotseq0.286\) なので \(a^{2/5}<a^{2/7}\)、すなわち \(T_{\mathrm A}<T_{\mathrm B}\)。
同じだけ膨張しても、自由度の少ない単原子気体Aの方がよく冷える。単原子は内部エネルギーがすべて並進運動なので、膨張の仕事に温度(並進エネルギー)が直接削られやすいため。
断熱準静的過程では \(dU=-p\,dV\)(\(dQ=0\))。理想気体で \(dU=nC_V dT\)、状態方程式の微分 \(p\,dV+V\,dp=nR\,dT\) と組み合わせると、\(\gamma=C_p/C_V\) を用いて
$$\frac{dT}{T}=\frac{\gamma-1}{\gamma}\frac{dp}{p}$$両辺を積分(\(\log\) を用いる)すると \(\log T=\dfrac{\gamma-1}{\gamma}\log p+\text{定数}\)、すなわち \(T\,p^{-\frac{\gamma-1}{\gamma}}=\)一定。高校範囲では \(pV^\gamma=\)一定 と状態方程式の連立で同じ結果が得られる。
断熱では\(pV^\gamma=\)一定。温度と圧力で書くと \(T\,p^{(1-\gamma)/\gamma}=\)一定。指数は単原子で \(\frac25\)、二原子で \(\frac27\)。\(0<a<1\) だから両者とも \(T_2\) より低温になる。
上空(気圧 \(a p_0\))で断熱板を開くと、温度 \(T_{\mathrm A},\,T_{\mathrm B}\) の気体ABが熱交換して同じ温度になり、体積(=浮力)が変わって高度がずれる。そこから冷やして温度 \(T_3\) にすると同じ中心高度(同じ気圧 \(a p_0\))に戻って静止。同じ高度で静止=同じ浮力=同じ全体積。気球の重さは変わらないので、結局「元と同じ全体積になる温度」を求めればよい。
「断熱板を開く前と同じ中心高度に戻って静止した」がカギ。同じ高度では中心高度の大気圧が同じ(\(a p_0\))で、その高度の大気の密度も同じ。気球が静止=浮力と重さがつり合う。気球の重さ(気体ABの重さ)は変化していないので、つり合う浮力も同じ=押しのける体積(気球の全体積)も同じでなければならない。
熱交換前(問4の状態)の全体積:気体Aは温度 \(T_{\mathrm A}\)、気体Bは温度 \(T_{\mathrm B}\)、ともに圧力 \(a p_0\)。
$$V_{\text{元}}=\frac{nRT_{\mathrm A}}{a p_0}+\frac{nRT_{\mathrm B}}{a p_0}=\frac{nR(T_{\mathrm A}+T_{\mathrm B})}{a p_0}$$熱交換+冷却後の全体積:断熱板を開いて熱交換すると温度がそろい、さらに冷却器で両気体を温度 \(T_3\) にする(圧力は同じ高度なので \(a p_0\))。
$$V_{\text{後}}=\frac{nRT_3}{a p_0}+\frac{nRT_3}{a p_0}=\frac{2nRT_3}{a p_0}$$同じ高度に戻る条件(全体積が等しい):
$$\frac{2nRT_3}{a p_0}=\frac{nR(T_{\mathrm A}+T_{\mathrm B})}{a p_0}$$\(\dfrac{nR}{a p_0}\) を約分して \(T_3\) について解くと
$$2T_3=T_{\mathrm A}+T_{\mathrm B}\;\Rightarrow\; T_3=\frac{T_{\mathrm A}+T_{\mathrm B}}{2}$$条件どおり \(T_2\) を用いずに表せた。
断熱板を開いて熱交換すると、両気体は共通温度 \(T_m\) になる。このとき内部エネルギーは保存し \(n\tfrac32 R\,T_{\mathrm A}+n\tfrac52 R\,T_{\mathrm B}=n\bigl(\tfrac32 R+\tfrac52 R\bigr)T_m\) より
$$T_m=\frac{3T_{\mathrm A}+5T_{\mathrm B}}{8}$$このときの全体積は \(\dfrac{2nRT_m}{a p_0}\) で、一般に \(2T_m\neq T_{\mathrm A}+T_{\mathrm B}\)(重みが違うため)。だから高度がずれる。そこから冷却して \(2T_3=T_{\mathrm A}+T_{\mathrm B}\) を満たす \(T_3\) まで下げると元の体積=元の高度に戻る。
「同じ高度で静止」=同じ浮力=同じ全体積と読み替えるのが急所。圧力は同じ高度なら同じ \(a p_0\) なので、状態方程式から全体積は \(T_{\mathrm A}+T_{\mathrm B}\)(前)と \(2T_3\)(後)に比例し、等号から即 \(T_3\) が出る。
観測者は円軌道を回りながら音源Sの音を聞く。聞こえる振動数が変わるのは「Sに近づく/遠ざかる速さ」のせい。S方向の速度成分が \(0\)になる瞬間だけ、もとの振動数 \(f_0\) がそのまま聞こえる。これは観測者がSを通る軸(直線OS)を横切る瞬間に起こる。\(t=0\) に軸上(\(\theta=0\))でちょうど \(f_0\)。次に \(f_0\) を聞くのは反対側の軸上(\(\theta=\pi\))。
観測者の速度のうち、振動数の変化に効くのは音源Sを結ぶ方向(SP方向)の速度成分 \(v_{\mathrm{SP}}\)だけ。\(v_{\mathrm{SP}}=0\) のときは近づきも遠ざかりもしないので、聞こえる振動数は \(f_0\) のまま。
観測者は円周上を等速円運動するので速度は常に円の接線方向(半径OPに垂直)。\(v_{\mathrm{SP}}=0\) になるのは、速度ベクトルがSP方向と垂直になるとき。これは観測者が直線OS(軸)上に来る瞬間。なぜなら、観測者が軸上にあるとSPもOPも同じ軸上にあり、速度(OPに垂直)はSPにも垂直になるから。
軸上に来るのは \(\theta=0\)(\(t=0\)、Sと反対側)と \(\theta=\pi\)(Sと同じ側)の2か所。\(t=0\) に \(\theta=0\) で \(f_0\) を観測したので、次に \(f_0\) を観測するのは \(\theta=\pi\) になったとき。\(\theta=\omega t\) より
$$\omega t=\pi\;\Rightarrow\; t=\frac{\pi}{\omega}$$問7で導く \(v_{\mathrm{SP}}=\dfrac{r\omega d\sin\theta}{\sqrt{r^2+d^2-2rd\cos\theta}}\) において、\(v_{\mathrm{SP}}=0\) は分子 \(\sin\theta=0\)、すなわち \(\theta=0,\pi,2\pi,\dots\)。\(t=0\)(\(\theta=0\))の次は \(\theta=\pi\)、よって \(t=\dfrac{\pi}{\omega}\) と一致する。
ドップラーで効くのは音源方向の速度成分だけ。円運動の観測者が \(f_0\) を聞くのは、速度がSPと垂直になる軸を横切る瞬間(\(\theta=0,\pi\))。半周ぶんで \(t=\pi/\omega\)。
観測者の速度ベクトル \(\vec v\)(接線方向、大きさ \(r\omega\))の、SP方向への「影の長さ」が \(v_{\mathrm{SP}}\)。これは内積 \(\vec v\cdot\dfrac{\vec{\mathrm{SP}}}{|\vec{\mathrm{SP}}|}\) で取り出せる。座標を置いてベクトルで計算するのが確実。
原点をO、Sを \((d,0)\) に置く。観測者は半径 \(r\) の円周上で反時計回りに角速度 \(\omega\) で回るので、時刻 \(t\)(\(\theta=\omega t\))の位置は
$$\mathrm{P}=(r\cos\theta,\;r\sin\theta)$$速度ベクトル:位置を時間で微分する(等速円運動の速度は接線方向、大きさ \(r\omega\))。
$$\vec v=(-r\omega\sin\theta,\;r\omega\cos\theta)$$SP方向ベクトルと大きさ:
$$\vec{\mathrm{SP}}=\mathrm{P}-\mathrm{S}=(r\cos\theta-d,\;r\sin\theta),\qquad |\vec{\mathrm{SP}}|=\sqrt{r^2+d^2-2rd\cos\theta}$$内積で速度成分を取り出す:\(v_{\mathrm{SP}}=\vec v\cdot\dfrac{\vec{\mathrm{SP}}}{|\vec{\mathrm{SP}}|}\)。まず分子の内積を計算する。
$$\vec v\cdot\vec{\mathrm{SP}}=(-r\omega\sin\theta)(r\cos\theta-d)+(r\omega\cos\theta)(r\sin\theta)$$ $$=-r^2\omega\sin\theta\cos\theta+r\omega d\sin\theta+r^2\omega\sin\theta\cos\theta=r\omega d\sin\theta$$第1項と第3項が相殺して、きれいに \(r\omega d\sin\theta\) だけが残る。これを \(|\vec{\mathrm{SP}}|\) で割って
$$v_{\mathrm{SP}}=\frac{r\omega d\sin\theta}{\sqrt{r^2+d^2-2rd\cos\theta}}$$ここで \(\vec{\mathrm{SP}}\) は「SからPへ向かう向き」。\(v_{\mathrm{SP}}>0\) は観測者がその向き(Sから離れる向き)に動く=遠ざかることを意味する。観測する振動数は、Sに向かう速度成分が \(-v_{\mathrm{SP}}\) なので
$$f=\frac{V-v_{\mathrm{SP}}}{V}f_0$$\(0<\theta<\pi\) では \(\sin\theta>0\) なので \(v_{\mathrm{SP}}>0\)(遠ざかる、低く聞こえる)。\(\pi<\theta<2\pi\) では \(\sin\theta<0\) なので \(v_{\mathrm{SP}}<0\)(近づく、高く聞こえる)。これは \(t=0\) で観測者がSの真向かいから動き出す状況と整合する。
速度成分は内積 \(\vec v\cdot\hat{\mathrm{SP}}\)で取り出す。計算の山場は内積の分子で\(r^2\omega\sin\theta\cos\theta\) の項が相殺し \(r\omega d\sin\theta\) が残る点。分母は余弦定理の形 \(\sqrt{r^2+d^2-2rd\cos\theta}\)。
振動数が一番低くなるのは、観測者がSから最も速く遠ざかる瞬間、つまり \(v_{\mathrm{SP}}\) が最大の正の値になるとき。問題文より \(\cos\theta=d/r\) でその最大が起こる。そのときの \(v_{\mathrm{SP}}\) を計算し、ドップラーの式に入れれば最小振動数が出る。
最小の振動数になるのは観測者がSから最も速く遠ざかるとき、すなわち \(v_{\mathrm{SP}}\) が最大の正の値をとるとき。問題文よりそれは \(\cos\theta=\dfrac{d}{r}\) のときに起こる。
(a) そのときの \(v_{\mathrm{SP}}\):\(\cos\theta=\dfrac{d}{r}\) を問7の式に代入する。このとき \(\sin\theta=\sqrt{1-\dfrac{d^2}{r^2}}=\dfrac{\sqrt{r^2-d^2}}{r}\)。まず分母を計算する。
$$\sqrt{r^2+d^2-2rd\cdot\frac{d}{r}}=\sqrt{r^2+d^2-2d^2}=\sqrt{r^2-d^2}$$分子は
$$r\omega d\sin\theta=r\omega d\cdot\frac{\sqrt{r^2-d^2}}{r}=\omega d\sqrt{r^2-d^2}$$よって
$$v_{\mathrm{SP}}=\frac{\omega d\sqrt{r^2-d^2}}{\sqrt{r^2-d^2}}=\omega d$$(b) 最小の振動数:観測者は \(v_{\mathrm{SP}}=\omega d\) でSから遠ざかるので、Sに向かう速度成分は \(-\omega d\)。動く観測者のドップラーの式より
$$f_{\min}=\frac{V-v_{\mathrm{SP}}}{V}f_0=\frac{V-\omega d}{V}f_0$$\(g(\theta)=\dfrac{\sin\theta}{\sqrt{r^2+d^2-2rd\cos\theta}}\) を \(\theta\) で微分して \(0\) とおく。商の微分から、分子が \(0\) になる条件を整理すると
$$\cos\theta\,(r^2+d^2-2rd\cos\theta)-\sin\theta\cdot rd\sin\theta=0$$\(\sin^2\theta=1-\cos^2\theta\) を代入して整理すると \((r^2+d^2)\cos\theta-2rd\cos^2\theta-rd(1-\cos^2\theta)=0\)、すなわち \(rd\cos^2\theta-(r^2+d^2)\cos\theta+rd=0\)。これを \(\cos\theta\) について解くと \(\cos\theta=\dfrac{d}{r}\)(もう一つの解 \(\dfrac{r}{d}>1\) は不適)。問題文の条件と一致する。
\(\cos\theta=d/r\) を代入すると分母が\(\sqrt{r^2-d^2}\)になり、分子の \(\sqrt{r^2-d^2}\) と約分して \(v_{\mathrm{SP}}=\omega d\) ときれいになる。最小振動数は遠ざかる向きなので分子が \(V-\omega d\)。
振動数が一番高くなるのは、観測者がSに最も速く近づく瞬間。これは問8の遠ざかりと対称で、\(\cos\theta=d/r\) かつ \(\sin\theta<0\) の位置。近づく速さの大きさは問8と同じ \(\omega d\) なので、最大振動数は \(f_0\) を \(\dfrac{V+\omega d}{V}\) 倍したもの。
最大の振動数は観測者がSに最も速く近づくとき。問8と対称で、\(\cos\theta=\dfrac{d}{r}\) かつ \(\sin\theta<0\)(\(\pi<\theta<2\pi\))の位置で起こる。このとき \(v_{\mathrm{SP}}\) は最大の負の値をとり、その大きさは問8と同じ \(\omega d\)。
すなわち \(v_{\mathrm{SP}}=-\omega d\)(Sに向かう速度成分は \(+\omega d\))。ドップラーの式より
$$f_{\max}=\frac{V-v_{\mathrm{SP}}}{V}f_0=\frac{V-(-\omega d)}{V}f_0=\frac{V+\omega d}{V}f_0$$\(v_{\mathrm{SP}}=\dfrac{r\omega d\sin\theta}{\sqrt{r^2+d^2-2rd\cos\theta}}\) は \(\theta\to 2\pi-\theta\)(\(\sin\)の符号反転、\(\cos\)はそのまま)で符号だけが反転する。だから遠ざかる最大 \(+\omega d\) と近づく最大 \(-\omega d\) は大きさが等しい。
結果として \(f_{\min}=\dfrac{V-\omega d}{V}f_0\) と \(f_{\max}=\dfrac{V+\omega d}{V}f_0\) は \(f_0\) を中心に対称に振れる。
最大振動数は近づく向きなので分子が \(V+\omega d\)。最小(問8)と最大(問9)は \(f_0\) をはさんで対称:\(\dfrac{V\mp\omega d}{V}f_0\)。
最小振動数の位置と最大振動数の位置はどちらも \(\cos\theta=d/r\) だが、\(\sin\theta\) の符号が逆(最小は上半分、最大は下半分)。観測者は反時計回りに一定の角速度で回るので、その2点の角度差を \(\omega\) で割れば時間になる。\(r=2d\) なら \(\cos\theta=1/2\) なので角度がきれいに決まる。
\(r=2d\) のとき \(\cos\theta=\dfrac{d}{r}=\dfrac{d}{2d}=\dfrac12\)。これを満たす \(\theta\)(\(0\le\theta<2\pi\))は \(\theta=\dfrac{\pi}{3}\) と \(\theta=2\pi-\dfrac{\pi}{3}=\dfrac{5\pi}{3}\) の2つ。
最小振動数の位置:遠ざかる最大(\(v_{\mathrm{SP}}=+\omega d\))なので \(\sin\theta>0\)。よって \(\theta_{\min}=\dfrac{\pi}{3}\)。
最大振動数の位置:近づく最大(\(v_{\mathrm{SP}}=-\omega d\))なので \(\sin\theta<0\)。よって \(\theta_{\max}=\dfrac{5\pi}{3}\)。
観測者は反時計回り(\(\theta\) 増加)に回るので、最小(\(\theta=\frac{\pi}{3}\))を観測したあと次に最大(\(\theta=\frac{5\pi}{3}\))を観測するまでの角度変化は
$$\Delta\theta=\frac{5\pi}{3}-\frac{\pi}{3}=\frac{4\pi}{3}$$角速度 \(\omega\) で回るので、かかる時間は
$$t=\frac{\Delta\theta}{\omega}=\frac{4\pi}{3\omega}$$\(v_{\mathrm{SP}}\) の符号は \(\sin\theta\) と同じ。\(\theta=\frac{\pi}{3}\)(最小)から反時計回りに進むと、\(\theta=\pi\) で \(v_{\mathrm{SP}}=0\)(\(f_0\))を通り、その後 \(\sin\theta<0\) になって遠ざかりから近づきへ転じ、\(\theta=\frac{5\pi}{3}\) で近づく速さが最大(最大振動数)になる。この間に他の極大・極小はない(極値は \(\cos\theta=d/r\) の2点だけ)ので、最小の次の最大は確かに \(\theta=\frac{5\pi}{3}\)。
逆に最大(\(\theta=\frac{5\pi}{3}\))から次の最小(\(\theta=\frac{\pi}{3}+2\pi=\frac{7\pi}{3}\))までは \(\Delta\theta=\frac{7\pi}{3}-\frac{5\pi}{3}=\frac{2\pi}{3}\)、時間 \(\dfrac{2\pi}{3\omega}\)。最小→最大(\(\frac{4\pi}{3\omega}\))と最大→最小(\(\frac{2\pi}{3\omega}\))の和は \(\dfrac{6\pi}{3\omega}=\dfrac{2\pi}{\omega}\)=1周期で、つじつまが合う。
最小・最大とも \(\cos\theta=d/r\) だが \(\sin\theta\) の符号が逆。\(r=2d\) で \(\cos\theta=\frac12\) → \(\theta=\frac{\pi}{3}\)(最小)と \(\frac{5\pi}{3}\)(最大)。回る向き(反時計回り)に注意して角度差 \(\frac{4\pi}{3}\) を \(\omega\) で割る。