大問3は、独立した2つの問題 A(熱力学)と B(原子物理)からなる。Aはピストン付き容器Xと真空容器Yをバルブでつなぎ、自由膨張・定積加熱・断熱変化を順に行う典型的な気体の状態変化。Bはがん治療に使われる中性子捕捉療法を題材にした核反応とエネルギー・減速の問題。
ピストンは上から「大気が押す力 \(p_0 S\)」と「おもりの重さ \(mg\)」で下向きに押され、下から「気体が押す力 \(pS\)」で支えられている。静止しているなら、この3つの力がつり合う。つり合いから気体の圧力 \(p\) が決まり、状態方程式 \(pV=nRT\) に体積 \(V=SL\) を入れれば温度が出る。
容器X内のピストンは断面積 \(S\)、その上に質量 \(m\) のおもりが載り、大気圧 \(p_0\) を受けている。気体の圧力を \(p\) とすると、ピストンにはたらく力のつり合いは次のようになる(鉛直方向)。
立式(力のつり合い):下から気体が押す力 \(pS\)、上から大気が押す力 \(p_0 S\) とおもりの重力 \(mg\)。
$$pS = p_0 S + mg$$ $$\therefore\; p = p_0 + \frac{mg}{S}$$状態方程式:ピストン底面が高さ \(L\) にあるので体積は \(V = SL\)。理想気体の状態方程式 \(pV = nRT_1\) に代入する。
$$\left(p_0 + \frac{mg}{S}\right)\!\cdot SL = nRT_1$$途中計算:左辺を展開すると \(\left(p_0 + \dfrac{mg}{S}\right)SL = p_0 SL + mgL = (p_0 S + mg)L\)。よって、
$$T_1 = \frac{(p_0 S + mg)L}{nR}$$\(p_0 = 1.0\times10^5\) Pa、\(m=5.0\) kg、\(g=9.8\) m/s²、\(S=1.0\times10^{-3}\) m²、\(L=0.40\) m、\(n=0.10\) mol のとき、まず気体の圧力は
$$p = 1.0\times10^5 + \frac{5.0\times9.8}{1.0\times10^{-3}} = 1.49\times10^5 \text{ Pa}$$これを状態方程式に入れて
$$T_1 = \frac{1.49\times10^5 \times 1.0\times10^{-3} \times 0.40}{0.10\times8.31} \fallingdotseq 72 \text{ K}$$(実際の解答は文字式のまま。数値は検算用。)
ピストンが自由に動けるとき、気体の圧力は常に \(p_0+mg/S\) で一定(定圧)。温度が変われば体積だけが変化する。
ピストンを高さ \(L\) のまま固定し、真空の容器Yへ通じるバルブを開く。気体は「相手のいない真空」に広がるだけで、ピストンも壁も押さない=仕事をしない。容器は断熱なので熱の出入りもない。仕事も熱もゼロなら内部エネルギーは変わらず、理想気体では温度も変わらない。
問1の状態(温度 \(T_1\))から、ピストン底面を高さ \(L\) の位置に固定したままバルブを開く。気体は容器Yの真空中に広がるだけで、ピストンや壁に対して仕事をしない。
立式(熱力学第一法則):容器・細管・バルブはすべて断熱材なので、外部との熱のやりとりはない(\(Q=0\))。また真空への膨張なので気体は仕事をしない(\(W=0\))。
$$\Delta U = Q - W = 0 - 0 = 0$$結果:理想気体では内部エネルギーは温度だけで決まるので、\(\Delta U = 0\) は温度が変わらないことを意味する。
$$\Delta U = nC_V(T_2 - T_1) = 0 \quad\Rightarrow\quad T_2 = T_1$$体積は \(SL\) から \(SL+V_Y\) に増え、温度は不変なのでボイルの法則(等温)が使える。
$$p_1 (SL) = p_2 (SL + V_Y)$$\(p_1 = p_0+mg/S\) を代入すると
$$p_2 = \left(p_0+\frac{mg}{S}\right)\frac{SL}{SL+V_Y} = \frac{(p_0 S+mg)L}{SL+V_Y}$$圧力は下がるが、ピストンは固定されているので動けない。
真空への自由膨張は \(W=0,\ Q=0 \Rightarrow \Delta T = 0\)。「気体が広がった=温度が下がる」と早合点しないこと。仕事をしていないので温度は変わらない。
バルブを開いたまま(体積 \(SL+V_Y\))ヒーターで加熱して温度を \(T_3\) にし、その後ピストンの固定を外した。すると「ピストンは高さ \(L\) のまま動かなかった」。動かなかった=ピストンが力のつり合いを保っている、ということ。だから固定を外した瞬間の気体の圧力は、ちょうど \(p_0 + mg/S\) になっていたはずだ。温度 \(T_3\) はこの圧力と体積から状態方程式で決まる。
問2の状態からバルブを開いたまま加熱して温度を \(T_3\) にした。加熱中はピストンが固定されているので、気体の体積は \(SL+V_Y\) で一定(定積変化)。その後ピストンの固定を外したところ、ピストンは高さ \(L\) の位置で動かなかった。
立式(ピストンが動かない条件):固定を外してもピストンが動かないということは、その瞬間に気体の圧力 \(p_3\) がちょうどピストンを支えるつり合いの圧力に達していたことを意味する。
$$p_3 = p_0 + \frac{mg}{S}$$状態方程式:体積は \(SL+V_Y\) のままなので、状態方程式に代入する。
$$p_3 (SL + V_Y) = nRT_3$$代入・途中計算:\(p_3 = p_0 + \dfrac{mg}{S} = \dfrac{p_0 S + mg}{S}\) を入れる。
$$T_3 = \frac{p_3 (SL+V_Y)}{nR} = \frac{(p_0 S + mg)(SL + V_Y)}{nRS}$$問2の状態は温度 \(T_2=T_1\)、圧力 \(p_2=\dfrac{(p_0S+mg)L}{SL+V_Y}\)、体積 \(SL+V_Y\)。定積変化なので圧力と温度は比例する(シャルルの法則)。
$$\frac{p_2}{T_2} = \frac{p_3}{T_3} \quad\Rightarrow\quad T_3 = T_2\cdot\frac{p_3}{p_2}$$\(T_2 = T_1 = \dfrac{(p_0S+mg)L}{nR}\)、\(\dfrac{p_3}{p_2} = \dfrac{(p_0S+mg)/S}{(p_0S+mg)L/(SL+V_Y)} = \dfrac{SL+V_Y}{SL}\) より
$$T_3 = \frac{(p_0S+mg)L}{nR}\cdot\frac{SL+V_Y}{SL} = \frac{(p_0 S+mg)(SL+V_Y)}{nRS}$$同じ結果が得られる。
「固定を外してもピストンが動かなかった」は加熱後の圧力がちょうど \(p_0+mg/S\) に達していたことを示す、解答のカギとなる条件。加熱中は体積一定の定積変化。
バルブを閉じて容器Xの気体を切り離し、おもりをゆっくり外す。すると上から押す力が \(p_0 S + mg\) から \(p_0 S\) だけに減るので、気体は膨張してピストンが \(\Delta L\) だけ上昇する。容器は断熱で、しかも「ゆっくり」なので準静的な断熱変化=ポアソンの式 \(pV^\gamma=\text{一定}\) が使える。
問3の状態(圧力 \(p_3=p_0+mg/S\)、体積 \(SL\)、温度 \(T_3\))からバルブを閉じて容器Xの気体を切り離す。そしておもりをゆっくり外すと、ピストンにかかる外力が \(p_0 S+mg\) から \(p_0 S\) に減り、気体は膨張して圧力は \(p_0\) になる。
立式(ポアソンの式):準静的な断熱変化なので \(pV^\gamma = \text{一定}\)。初め(圧力 \(p_0+mg/S\)、体積 \(SL\))と終わり(圧力 \(p_0\)、体積 \(S(L+\Delta L)\))で等しい。
$$\left(p_0 + \frac{mg}{S}\right)(SL)^\gamma = p_0 \,\{S(L+\Delta L)\}^\gamma$$途中計算:両辺を \(S^\gamma\) で割る。
$$\left(p_0 + \frac{mg}{S}\right) L^\gamma = p_0 (L+\Delta L)^\gamma$$ $$\left(\frac{L+\Delta L}{L}\right)^{\gamma} = \frac{p_0 + mg/S}{p_0} = \frac{p_0 S + mg}{p_0 S}$$ $$1 + \frac{\Delta L}{L} = \left(\frac{p_0 S + mg}{p_0 S}\right)^{1/\gamma}$$単原子分子は並進3自由度なので、定積モル比熱と定圧モル比熱は
$$C_V = \frac{3}{2}R, \qquad C_P = C_V + R = \frac{5}{2}R$$したがって比熱比は
$$\gamma = \frac{C_P}{C_V} = \frac{5/2}{3/2} = \frac{5}{3}$$この問題では \(\gamma\) を文字のまま残してよいが、具体的に断熱の傾きを描くときは \(\gamma=5/3\) を使う。
断熱変化では \(pV^\gamma = \text{一定}\)。圧力の初期値と最終値がわかれば体積比(=ピストンの高さ比)が決まる。指数 \(1/\gamma\) の付け方に注意。
(a) 問3の加熱は体積一定(定積)なので、加えた熱はすべて内部エネルギーの増加になる。\(\Delta U=nC_V\Delta T\) の温度差を文字で表せばよい。(b) 問4の断熱膨張では熱の出入りがないので、気体がした仕事はそのまま内部エネルギーの減少分。これを温度差から、あるいは「\(\dfrac{1}{\gamma-1}(p_iV_i-p_fV_f)\)」の形で表せる。
立式:問3はバルブを開いたまま(\(n\) mol 全体)の定積加熱で、温度は \(T_2\)(=\(T_1\))から \(T_3\) へ変化する。単原子分子なので \(C_V=\dfrac{3}{2}R\)。
$$\Delta U = nC_V(T_3 - T_2) = \frac{3}{2}nR(T_3 - T_1)$$代入・途中計算:問1・問3の結果 \(T_1=\dfrac{(p_0S+mg)L}{nR}\)、\(T_3=\dfrac{(p_0S+mg)(SL+V_Y)}{nRS}\) を使って温度差を計算する。
$$T_3 - T_1 = \frac{(p_0S+mg)}{nR}\left[\frac{SL+V_Y}{S} - L\right] = \frac{(p_0S+mg)}{nR}\cdot\frac{V_Y}{S} = \frac{(p_0S+mg)V_Y}{nRS}$$これを \(\Delta U=\dfrac{3}{2}nR(T_3-T_1)\) に代入すると \(nR\) が約分される。
$$\Delta U = \frac{3}{2}nR\cdot\frac{(p_0S+mg)V_Y}{nRS} = \frac{3(p_0 S + mg)V_Y}{2S}$$立式(第一法則):断熱変化では \(Q=0\) なので、気体がした仕事 \(W\) は内部エネルギーの減少分に等しい。\(W=\dfrac{1}{\gamma-1}(p_iV_i - p_fV_f)\)(単原子なら \(\gamma-1=\tfrac{2}{3}\))を使う。初め \(p_i=p_0+mg/S,\ V_i=SL\)、終わり \(p_f=p_0,\ V_f=S(L+\Delta L)\)。
$$W = \frac{1}{\gamma-1}\Bigl[\Bigl(p_0+\frac{mg}{S}\Bigr)SL - p_0\,S(L+\Delta L)\Bigr]$$途中計算:角括弧の中を展開する。\(\left(p_0+\dfrac{mg}{S}\right)SL = p_0 SL + mgL\)、\(p_0 S(L+\Delta L)=p_0 SL + p_0 S\Delta L\) なので、
$$\Bigl(p_0+\frac{mg}{S}\Bigr)SL - p_0 S(L+\Delta L) = mgL - p_0 S\,\Delta L$$\(\gamma=\dfrac{5}{3}\) より \(\dfrac{1}{\gamma-1}=\dfrac{3}{2}\) を掛ける。
$$W = \frac{3}{2}\bigl(mgL - p_0 S\,\Delta L\bigr)$$断熱変化の前後の温度を \(T_3\)(=断熱変化の初め)、\(T_4\)(終わり)とすると、\(Q=0\) より
$$W = -\Delta U = nC_V(T_3 - T_4) = \frac{3}{2}nR(T_3 - T_4) = \frac{3}{2}(p_3 V_3 - p_4 V_4)$$状態方程式 \(p_3 V_3=nRT_3,\ p_4V_4=nRT_4\) を使えば、これは上の \(\dfrac{1}{\gamma-1}(p_iV_i-p_fV_f)\) と同じ式になる。\(p_3V_3=(p_0+mg/S)SL,\ p_4V_4=p_0\,S(L+\Delta L)\) を代入すれば同じ答えに到達する。
問3の定積加熱では \(W=0\) なので、ヒーターが加えた熱はすべて内部エネルギーの増加に使われる。
$$Q = \Delta U = \frac{3(p_0 S + mg)V_Y}{2S}$$各過程で第一法則 \(\Delta U=Q-W\) を正しく使い分ける。定積:\(W=0\)、断熱:\(Q=0\)。仕事は「\(p_iV_i-p_fV_f\) を \(\gamma-1\) で割る」形が便利。
問4ではバルブを閉じて容器Xの気体だけ(体積 \(SL\))を膨張させたが、今度はバルブを開いたまま、容器XとY両方の気体(体積 \(SL+V_Y\))を一緒に断熱膨張させる。圧力の変化(\(p_0+mg/S\to p_0\))は同じなので体積の「倍率」は同じ。ただし容器Yの体積 \(V_Y\) は固定されていてピストンは動けない。だから、増えた体積はすべてピストンの上昇 \(S\Delta L'\) に回り、ピストンはより大きく動くはず。
問3の状態から、今度はバルブを開いたままおもりをゆっくり外す。容器XとYの気体(合わせて \(n\) mol、体積 \(SL+V_Y\))が一緒に断熱膨張し、ピストン底面は高さ \(L+\Delta L'\) になった。
立式(ポアソンの式):圧力は問4と同じく \(p_0+mg/S\) から \(p_0\) へ変化する。容器Yの体積 \(V_Y\) は固定でピストンだけが動くので、終わりの全体積は \(S(L+\Delta L')+V_Y\)。
$$\left(p_0+\frac{mg}{S}\right)(SL+V_Y)^\gamma = p_0\,\bigl\{S(L+\Delta L')+V_Y\bigr\}^\gamma$$途中計算:両辺を比べると、体積の倍率は問4と同じ \(r \equiv \left(\dfrac{p_0 S+mg}{p_0 S}\right)^{1/\gamma}\) になる。
$$\frac{S(L+\Delta L')+V_Y}{SL+V_Y} = \left(\frac{p_0 S+mg}{p_0 S}\right)^{1/\gamma} = r$$左辺の分子を整理すると \(S(L+\Delta L')+V_Y = (SL+V_Y)+S\Delta L'\) なので、
$$S\Delta L' = (r-1)(SL+V_Y) \quad\Rightarrow\quad \Delta L' = \frac{(r-1)(SL+V_Y)}{S}$$一方、問4では同じ \(r\) を使って \(\Delta L = (r-1)L\)。比をとると \(r-1\) が約分される。
$$\frac{\Delta L'}{\Delta L} = \frac{(r-1)(SL+V_Y)/S}{(r-1)L} = \frac{SL+V_Y}{SL} = 1 + \frac{V_Y}{SL}$$断熱変化の「体積倍率」\(r\) は圧力比だけで決まり、問4でも問6でも同じ。問4で膨張するのは体積 \(SL\) の気体、問6では体積 \(SL+V_Y\) の気体。倍率が同じでも元の体積が大きいほど増加分(\(=S\times\)ピストン上昇)も大きい。容器Yは固定なので増えた体積はすべてピストンの上昇に回り、結果として \(\dfrac{SL+V_Y}{SL}\) 倍だけ大きく動く。
断熱変化の体積倍率は圧力比だけで決まる。固定された容器Yの体積分だけ「動かせる気体」が増えるので、ピストンの変位は \(1+\dfrac{V_Y}{SL}\) 倍に拡大される。
核反応では「左右で核子の総数(質量数)が等しい」「左右で電荷の総数(原子番号)が等しい」という保存則が成り立つ。反応式 \(\mathrm{X}+{}^1_0\mathrm{n}\to{}^7_3\mathrm{Li}^*+{}^4_2\mathrm{He}\) の上付き(質量数)と下付き(原子番号)をそれぞれ足し算して、X の番号を逆算する。
核反応では質量数の総和と原子番号(電荷)の総和がそれぞれ保存する。X の質量数を \(A\)、原子番号を \(Z\) とおく。
立式(質量数の保存):左辺 \(A + 1\)(X と中性子)=右辺 \(7 + 4\)(Li* と He)。
$$A + 1 = 7 + 4 = 11 \quad\Rightarrow\quad A = 10$$立式(原子番号の保存):左辺 \(Z + 0\)(中性子の電荷は 0)=右辺 \(3 + 2\)。
$$Z + 0 = 3 + 2 = 5 \quad\Rightarrow\quad Z = 5$$結果:質量数 10、原子番号 5。原子番号 5 はホウ素(B)なので、X は \({}^{10}_{5}\mathrm{B}\)(ホウ素10)。
\({}^{10}\mathrm{B}\) は遅い(熱)中性子を非常によく吸収する。がん細胞にホウ素薬剤を取り込ませてから中性子を当てると、細胞の中でだけ \(\alpha\) 線(\({}^4\mathrm{He}\))と \({}^7\mathrm{Li}\) が生じる。これらは飛程が細胞1個分ほどと短いので、正常な周囲の細胞を傷つけずにがん細胞を選択的に壊せる。これが実際の医療応用(BNCT)である。
核反応の同定は質量数の和・原子番号の和がそれぞれ左右で等しいことを使う。中性子は質量数1・原子番号0、\(\alpha\)粒子(He)は質量数4・原子番号2と覚えておく。
静止していた X に、運動量がほぼゼロの中性子が当たって反応した。だから反応の前後で全運動量はほぼゼロ。生成した Li* と He は互いに反対向きに、同じ大きさの運動量で飛んでいく。運動エネルギーは \(K=\dfrac{p^2}{2m}\) なので、同じ運動量なら質量が小さいほど運動エネルギーは大きい。だから軽い He の方が大きなエネルギーを持つ。総エネルギー 2.31 MeV を質量に反比例して配分すればよい。
反応前、X は静止し、中性子の運動量は無視できるので全運動量はゼロ。反応後の Li* と He は、運動量保存により大きさの等しい運動量を反対向きに持つ。
立式(運動量保存):Li* と He の運動量の大きさを \(p\) とすると、それぞれの運動エネルギーは \(K=\dfrac{p^2}{2m}\) で表せる。
$$p_{\mathrm{Li}} = p_{\mathrm{He}} = p,\qquad K_{\mathrm{Li}} = \frac{p^2}{2m_{\mathrm{Li}}},\quad K_{\mathrm{He}} = \frac{p^2}{2m_{\mathrm{He}}}$$両者の運動エネルギーの比は質量に反比例する。
$$\frac{K_{\mathrm{He}}}{K_{\mathrm{Li}}} = \frac{m_{\mathrm{Li}}}{m_{\mathrm{He}}}$$立式(エネルギー保存):反応で生じた 2.31 MeV がすべて 2つの核の運動エネルギーになる。
$$K_{\mathrm{Li}} + K_{\mathrm{He}} = 2.31 \text{ MeV}$$代入・途中計算:He の運動エネルギーは、総エネルギーを質量に反比例して配分した分。
$$K_{\mathrm{He}} = 2.31 \times \frac{m_{\mathrm{Li}}}{m_{\mathrm{Li}} + m_{\mathrm{He}}} = 2.31 \times \frac{7.0149}{7.0149 + 4.0015}$$ $$= 2.31 \times \frac{7.0149}{11.0164} = 2.31 \times 0.6368 \fallingdotseq 1.47 \text{ MeV}$$\(K_{\mathrm{He}}/K_{\mathrm{Li}}=m_{\mathrm{Li}}/m_{\mathrm{He}}\) より \(K_{\mathrm{Li}} = K_{\mathrm{He}}\cdot\dfrac{m_{\mathrm{He}}}{m_{\mathrm{Li}}}\)。これを \(K_{\mathrm{Li}}+K_{\mathrm{He}}=2.31\) に代入すると
$$K_{\mathrm{He}}\left(1 + \frac{m_{\mathrm{He}}}{m_{\mathrm{Li}}}\right) = 2.31 \quad\Rightarrow\quad K_{\mathrm{He}} = 2.31\cdot\frac{m_{\mathrm{Li}}}{m_{\mathrm{Li}}+m_{\mathrm{He}}}$$同じ式が得られる。なお問題文は質量の文献値を使ってよいとしているが、質量数(7 と 4)で近似しても \(2.31\times\dfrac{7}{11}\fallingdotseq1.47\) MeV とほぼ同じ値になる。
静止状態からの2体分裂では、2粒子の運動量は等大逆向き。同じ運動量なら \(K=\dfrac{p^2}{2m}\) より軽い粒子ほど運動エネルギーが大きい。だから \(\alpha\) 線(He)が大きなエネルギーを持って細胞を破壊できる。
熱運動している中性子の集まりを単原子分子の理想気体とみなす。気体分子の平均運動エネルギーは温度だけで決まり、\(\dfrac{3}{2}kT\) と表せる。室温 27℃ を絶対温度(300 K)に直して代入し、最後にジュールを電子ボルト(eV)に換算する。
熱運動する中性子を単原子分子の理想気体とみなすと、分子1個あたりの平均運動エネルギーは温度で決まる。
立式:単原子分子理想気体の分子1個の平均運動エネルギーは
$$\bar{K} = \frac{3}{2}kT$$代入:\(T = 27\,℃ = 300\) K、\(k = 1.38\times10^{-23}\) J/K を入れる。
$$\bar{K} = \frac{3}{2} \times 1.38\times10^{-23} \times 300 = 6.21\times10^{-21} \text{ J}$$単位換算(J → eV):\(1\ \mathrm{eV} = 1.60\times10^{-19}\) J なので、ジュールを電気素量で割る。
$$\bar{K} = \frac{6.21\times10^{-21}}{1.60\times10^{-19}} \fallingdotseq 3.9\times10^{-2} \text{ eV}$$このように室温程度の熱運動エネルギー(約 0.025〜0.04 eV)まで減速した中性子を熱中性子とよぶ。\({}^{10}\mathrm{B}\) のような原子核は、遅い(エネルギーの低い)中性子ほど吸収しやすいので、治療では中性子を熱中性子まで減速してから照射する。次の問10・問11は、その「減速」の物理である。
単原子分子理想気体の分子1個の平均運動エネルギーは \(\bar{K}=\dfrac{3}{2}kT\)(並進3自由度)。最後に必ず摂氏→絶対温度、\(\mathrm{J}\to\mathrm{eV}\) の換算を忘れないこと。
同じ質量どうしの弾性衝突という特別な場合。ビリヤードの球が止まっている球に当たると、衝突後の2球は必ず直角(90°)の方向に分かれる、という有名な性質がある。中性子が角度 \(\theta\) に散乱されたなら、陽子は反対側に \(90^\circ-\theta\) で飛ぶ。この直交性を使うと、中性子の速さは元の \(\cos\theta\) 倍になり、運動エネルギーは \(\cos^2\theta\) 倍になる。
質量 \(m\) の中性子が、静止した質量 \(m\) の陽子に弾性衝突する。衝突後、中性子は \(x\) 軸から角度 \(\theta\) に、陽子は反対側に角度 \(\phi\) に散乱されたとする。中性子の速さを衝突前 \(v_0\)、衝突後 \(v_1\)、陽子を \(v_2\) とおく。
立式(運動量保存):\(x\) 方向と \(y\) 方向で立てる。
$$x:\quad m v_0 = m v_1\cos\theta + m v_2\cos\phi$$ $$y:\quad 0 = m v_1\sin\theta - m v_2\sin\phi$$立式(エネルギー保存・弾性衝突):
$$\frac{1}{2}m v_0^2 = \frac{1}{2}m v_1^2 + \frac{1}{2}m v_2^2 \quad\Rightarrow\quad v_0^2 = v_1^2 + v_2^2$$途中計算:運動量の式を \(m\) で割って整理する。\(v_0 = v_1\cos\theta + v_2\cos\phi\) と \(v_1\sin\theta = v_2\sin\phi\)。両辺を2乗して足すと、ベクトル \(\vec{v_0}=\vec{v_1}+\vec{v_2}\) から
$$v_0^2 = v_1^2 + v_2^2 + 2 v_1 v_2\cos(\theta+\phi)$$これとエネルギー保存 \(v_0^2 = v_1^2 + v_2^2\) を比べると \(2v_1 v_2\cos(\theta+\phi)=0\)。\(v_1,v_2\neq0\) なので
$$\cos(\theta+\phi) = 0 \quad\Rightarrow\quad \theta + \phi = 90^\circ$$結果:2粒子の進路は直交する。\(\phi=90^\circ-\theta\) を \(v_1\sin\theta=v_2\sin\phi=v_2\cos\theta\) と \(v_0=v_1\cos\theta+v_2\cos\phi=v_1\cos\theta+v_2\sin\theta\) に入れて解くと \(v_1=v_0\cos\theta\)。運動エネルギーの比は速さの2乗の比だから、
$$\frac{E_2}{E_1} = \frac{\frac{1}{2}m v_1^2}{\frac{1}{2}m v_0^2} = \left(\frac{v_1}{v_0}\right)^2 = \cos^2\theta$$陽子の速さは \(v_2=v_0\sin\theta\) になるので、陽子が得た運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv_2^2 = E_1\sin^2\theta\)。中性子が失ったエネルギー \(E_1-E_2 = E_1(1-\cos^2\theta)=E_1\sin^2\theta\) とちょうど一致し、エネルギー保存が確かめられる。\(\theta\) が大きい(正面に近い)ほど多くのエネルギーを失う。
等質量・弾性衝突では、衝突後の2粒子の進路は必ず直交する。中性子は速さが \(\cos\theta\) 倍、運動エネルギーは \(\cos^2\theta\) 倍になる。質量がほぼ等しい水素(陽子)が中性子の減速材として優れている理由でもある。
1回の衝突で運動エネルギーが平均 \(\dfrac{1}{3}\) 倍になる。だから2回で \(\dfrac{1}{9}\)、3回で \(\dfrac{1}{27}\)……と、衝突のたびに \(\dfrac{1}{3}\) ずつ掛かっていく等比的な減衰。何回掛ければ目標まで小さくなるかは、対数を使えば計算できる。10 MeV を熱中性子レベル(問9の約 0.04 eV)まで下げるには、桁が8桁以上下がる必要があるので、けっこうな回数が要る。
1回の衝突で運動エネルギーが \(\dfrac{1}{3}\) 倍になると単純化する。\(K_1\) の運動エネルギーをもつ中性子が \(N\) 回衝突して \(K_2\) になった。
立式(等比減衰):毎回 \(\dfrac{1}{3}\) 倍なので、\(N\) 回後は
$$K_2 = K_1\left(\frac{1}{3}\right)^N$$途中計算(対数をとる):両辺を \(K_1\) で割って常用対数をとる。
$$\left(\frac{1}{3}\right)^N = \frac{K_2}{K_1} \;\Rightarrow\; \frac{K_1}{K_2} = 3^N \;\Rightarrow\; \log_{10}\frac{K_1}{K_2} = N\log_{10}3$$ $$N = \frac{\log_{10}(K_1/K_2)}{\log_{10}3}$$具体計算:\(K_1 = 10\) MeV \(= 1.0\times10^7\) eV、\(K_2\) は問9の平均運動エネルギー \(3.88\times10^{-2}\) eV(以下まで減速)。比を計算する。
$$\frac{K_1}{K_2} = \frac{1.0\times10^7}{3.88\times10^{-2}} \fallingdotseq 2.58\times10^{8}$$ $$\log_{10}\frac{K_1}{K_2} = \log_{10}(2.58\times10^8) = 8 + \log_{10}2.58 \fallingdotseq 8 + 0.41 = 8.41$$\(\log_{10}3 = 0.477\) を使って \(N\) を求める。
$$N = \frac{8.41}{0.477} \fallingdotseq 17.6$$結果:\(N\) は衝突回数(整数)で、\(17.6\) 以上にする必要があるので、切り上げて最低 18 回。
\(\log_{10}(2.58\times10^8)=8+\log_{10}2.58\)。図2は \(y=\log_{10}x\) のグラフなので、横軸 \(x=2.58\) のところを読むと \(\log_{10}2.58\fallingdotseq0.41\)。これに 8 を足して \(8.41\)。あとは \(0.477\) で割れば \(N\fallingdotseq17.6\) となり、整数回なので 18 回と決まる。
1回で \(1/3\) 倍は「水素(陽子)と等質量の弾性衝突を等確率で散乱したときの平均」というモデル値。実際の減速材(水・パラフィンなど水素を多く含む物質)でも、わずか十数回〜二十数回の衝突で高速中性子が熱中性子まで減速される。質量の近い相手(水素)に当てるほど1回で失うエネルギーが大きく、効率よく減速できる(問10の \(\cos^2\theta\) 由来)。
毎回一定の倍率で減る変化は等比数列 → 対数で回数を求めるのが定石。\(N=\dfrac{\log_{10}(K_1/K_2)}{\log_{10}3}\)。回数は整数なので、計算値が \(17.6\) なら切り上げて 18 回。