水平な床の上に置かれた台(質量 \(M\))の上に、半径 \(R\) の四分円弧面 AB と水平面 BC(長さ \(L\)、動摩擦係数 \(\mu'\))がある。小物体(質量 \(m\))を最高点 A(高さ \(R\))から静かに放す問題です。台が固定されている場合と、床上を摩擦なしで自由に動ける場合の 2 パターンを扱います。
台が固定されているので、通常の斜面問題と同じ。円弧面 AB は摩擦がないので、高さ \(R\) から滑り降りた小物体は力学的エネルギー保存で速さが決まります。水平面 BC 上では動摩擦力が仕事をして減速します。
円弧面 AB は滑らかなので、A → B で力学的エネルギー保存則が成り立ちます。
A を基準面(高さ 0)とすると B は高さ \(-R\) ですが、B を基準面にとると:
$$\frac{1}{2}mv_B^2 = mgR$$ $$\therefore v_B = \sqrt{2gR}$$たとえば \(R = 0.50\) m、\(g = 9.8\) m/s² のとき:
$$ v_B = \sqrt{2 \times 9.8 \times 0.50} = \sqrt{9.8} = 3.13 \text{ m/s} $$点 B は円弧の最低点なので、小物体は半径 \(R\) の円運動をしています。円の中心(上方向)に向心加速度が必要です。
鉛直方向の運動方程式(上向き正):
$$N - mg = \frac{mv_B^2}{R}$$\(v_B^2 = 2gR\) を代入:
$$N = mg + \frac{m \cdot 2gR}{R} = mg + 2mg = 3mg$$作用・反作用の法則により、小物体が台から受ける垂直抗力 \(N = 3mg\) の反作用は、小物体が台に及ぼす力で、大きさは同じです。
$$N' = 3mg$$小物体は点 B を通過してから水平面 BC 上を移動し、動摩擦力 \(\mu' mg\) を受けて減速します。B を通過して水平面 BC 上を距離 \(d\) だけ進んで停止したとしましょう。
仕事と運動エネルギーの関係:
$$0 - \frac{1}{2}mv_B^2 = -\mu' mg \cdot d$$ここで \(v_B^2 = 2gR\) を代入:
$$\mu' mg \cdot d = \frac{1}{2}m \cdot 2gR = mgR$$ $$s = -\mu' mg \cdot d = -mgR$$弾性力(摩擦力)がした仕事は \(s = -mgR\) です。ただし、問題文は「弾性力がした仕事 \(s\)」と表現しています。小物体と円弧面の間の垂直抗力(弾性力)は運動方向に垂直なので仕事をしません。
小物体が水平面 BC 上(長さ \(L\))で停止するためには、B での運動エネルギーが動摩擦力の仕事で完全に消費される必要があります。距離 \(L\) 以内で停止すればよいので:
$$\frac{1}{2}mv_B^2 \leq \mu' mg \cdot L$$ $$mgR \leq \mu' mgL$$ $$\mu' \geq \frac{R}{L}$$半径はある値より小さくならないので(問題文の条件)、\(\mu'\) の最小値は:
A での位置エネルギー \(mgR\) が全て摩擦熱に変わる条件:
$$mgR = \mu' mg L$$ $$\mu' = \frac{R}{L}$$これは仕事−エネルギー定理から直接得られる結果と一致します。
円弧面が滑らかで水平面のみ摩擦がある系では、位置エネルギー \(mgR\) と摩擦の仕事 \(\mu'mgL\) の大小比較で停止条件が決まります。
台が動けるので、小物体が右に滑ると台は反作用で左に動きます。水平方向に外力がないため、系全体の運動量が保存されます。また、エネルギー保存には台の運動エネルギーも含める必要があります。
水平方向に外力がないので、系全体の水平運動量は保存されます。初め静止していたので:
$$mv + MV = 0$$ここで \(v\) は小物体の床に対する速度(右向き正)、\(V\) は台の床に対する速度です。
$$V = -\frac{m}{M}v$$台に対する小物体の速度 \(v'\) は:
$$v' = v - V = v + \frac{m}{M}v = v\left(1 + \frac{m}{M}\right) = \frac{(M+m)v}{M}$$円弧面 AB は摩擦がないので、A → B でエネルギー保存:
$$mgR = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}MV^2$$\(V = -\frac{m}{M}v\) を代入:
$$mgR = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}M \cdot \frac{m^2}{M^2}v^2 = \frac{1}{2}mv^2\left(1 + \frac{m}{M}\right) = \frac{m(M+m)}{2M}v^2$$ $$v^2 = \frac{2MgR}{M+m}$$台に対する速さ \(v_B'\) は:
$$v_B' = \frac{(M+m)}{M}v = \frac{(M+m)}{M}\sqrt{\frac{2MgR}{M+m}} = \sqrt{\frac{2(M+m)gR}{M}}$$\(M = 3m\) を代入すると:
$$v^2 = \frac{2 \cdot 3m \cdot gR}{3m + m} = \frac{6mgR}{4m} = \frac{3gR}{2}$$ $$v = \sqrt{\frac{3gR}{2}}$$台の速度:
$$V = -\frac{m}{3m}v = -\frac{1}{3}\sqrt{\frac{3gR}{2}}$$\(M = 3m\) のとき、小物体が台の水平面 BC 上を滑り、摩擦で台に対して静止した場合を考えます。
小物体が台に対して静止 → 系全体が同じ速度 \(v_f\) で動く。
運動量保存:
$$mv + MV = (m + M)v_f$$初め全体が静止していたので \(mv + MV = 0\) より:
$$v_f = 0$$つまり、小物体も台も床に対して静止します。
台に対して小物体が滑った距離を \(\ell\) とすると、摩擦による散逸エネルギー:
$$\mu' mg \ell = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}MV^2 = mgR$$ $$\ell = \frac{R}{\mu'}$$ただし小物体が台の上で停止するには \(\ell \leq L\) が必要です。
台に対する相対加速度を考えます。小物体に対する加速度 \(a = -\mu' g\)、台に対する加速度 \(A = \frac{\mu' mg}{M}\)(右向き)。
相対加速度(小物体の台に対する):
$$a_{\text{rel}} = a - A = -\mu' g - \frac{\mu' mg}{M} = -\mu' g\left(1 + \frac{m}{M}\right) = -\frac{\mu' g(M+m)}{M}$$初速 \(v_B'\)、終速 0 なので:
$$0 = v_B' + a_{\text{rel}} \cdot T$$ $$T = \frac{v_B'}{|a_{\text{rel}}|} = \frac{v_B' \cdot M}{\mu' g(M+m)}$$\(M = 3m\)、\(v_B' = \sqrt{\frac{2(M+m)gR}{M}} = \sqrt{\frac{8gR}{3}}\) を代入:
$$T = \frac{\sqrt{\frac{8gR}{3}} \cdot 3m}{\mu' g \cdot 4m} = \frac{3}{4\mu'}\sqrt{\frac{8R}{3g}} = \frac{3}{4\mu'}\sqrt{\frac{8R}{3g}}$$重心は動かないので、台が左に距離 \(d\) 動き、小物体が台に対して距離 \(\ell\) 右に動いた場合:
小物体の床に対する変位 = \(\ell - d\)(右向き)。重心不動の条件:
$$m(\ell - d) = Md$$ $$m\ell - md = Md$$ $$d = \frac{m\ell}{M + m}$$小物体が台に対して距離 \(L\) 滑って点 C で停止した場合(\(\ell = L\)):
$$d = \frac{mL}{M + m}$$系の全運動量が 0 なので、重心は不動です。小物体が台に対して \(L\) 右に動くと:
これは運動量保存から時間積分しても同じ結果になります。
台が自由に動ける問題では、運動量保存則と重心不動の条件が最も強力なツールです。個別の運動方程式を立てるよりも、保存則を組み合わせて解くのが効率的です。特に「台に対する相対運動」と「床に対する絶対運動」を混同しないことが重要です。