前期 大問1:力学(立方体ブロックと糸の力学)

解法の指針

一辺 \(\ell\) の立方体ブロック A, A', B1, B2 と質量 \(m\) の小球を糸でつないだ系の力学問題です。3つのパート [A]〜[C] に分かれ、力のつり合い・エネルギー保存則・単振り子の運動を体系的に問います。

全体を貫くポイント

[A] 水平面上の配置(図2)

直感的理解

B1, B2 を間隔 \(\ell\) で置き、その上に A を載せて糸で水平につなぎます。小球は A の下面中央にあり、重力で糸を引っ張ります。対称性から左右の張力は等しく、鉛直方向のつり合いで \(T\) が求まります。

(a) 糸の張力 T

A を B1, B2 の上に左右対称に置き、小球を下にして静かに置いた状態です。小球は A の一辺の中点にあり、3つのブロック正面は同一鉛直面内にあります。

糸の配置を分析する:

B1 と B2 の間隔は \(\ell\) です。小球は A の下面中央(高さは B1, B2 の上面)にあり、糸は B1, B2 の外側端を通って水平に張られています。

A は一辺 \(\ell\) の立方体で、小球は下辺の中点にあります。糸は左右の B1, B2 上面の端を経由して水平に張られるので、小球から B1 上面端までの糸が作る角度を考えます。

図2より、小球の位置は B1 と B2 の間の中央で B の上面の高さにあります。B1 の上面端までの水平距離は \(\ell/2\)、鉛直距離は 0 ですが、糸は B の端を通り上方に A を支えています。

対称性から、小球にかかる2本の糸の張力はともに \(T\) で、糸が鉛直と成す角は図の幾何から \(45°\) です(A の対角線方向)。

鉛直方向のつり合い:

$$ 2T\cos 45° = mg $$ $$ 2T \cdot \frac{1}{\sqrt{2}} = mg $$ $$ \boxed{T = \frac{mg}{2} \cdot \sqrt{2} = \frac{mg}{\sqrt{2}}} $$

ただし、問題文の設定を精密に読むと、A は質量無視できる立方体で小球(質量 \(m\))が一辺の中点に取り付けられています。A の質量は無視でき、B1, B2 がそれぞれ質量 \(m'\) です。小球にかかる重力 \(mg\) のみを支えるので:

$$ 2T\sin 45° = mg $$
\(\displaystyle T = \frac{mg}{\sqrt{2}} = \frac{\sqrt{2}\,mg}{2} = \frac{m'g}{2\sqrt{2}}\)
(問題文の変数記号に合わせると \(T = \frac{m'g}{2\sqrt{2}}\)。ここで \(m\) は小球の質量。)
🧮 数値例で確認

例えば \(m = 0.50\) kg、\(g = 9.8\) m/s² のとき:

$$ T = \frac{0.50 \times 9.8}{\sqrt{2}} = \frac{4.9}{1.414} \fallingdotseq 3.5 \text{ N} $$

糸1本あたり約 3.5 N の張力が必要です。

📌 ポイント

A は「質量無視できる立方体」、\(m\) は小球の質量です。糸が鉛直と成す角を正確に幾何学的に求めることが重要です。

(b) A が B1 から離れるまでの移動距離

糸を切ると、B1 と B2 の間隔が広がっていきます。A は向きを保ったまま下がっていき、B1 と B2 の間隔が \(\sqrt{2}\,\ell\) を超えたところで A は B1, B2 から離れます。

離れる条件:

初期状態では B1 と B2 の間隔は \(\ell\) です。A の対角線の長さは \(\sqrt{2}\,\ell\) なので、間隔が \(\sqrt{2}\,\ell\) になると A の角が B の端にちょうど乗った状態になり、そこから離れます。

B1 と B2 の間隔の変化量:

$$ \Delta d = \sqrt{2}\,\ell - \ell = (\sqrt{2} - 1)\ell $$

対称性から、B1 と B2 はそれぞれ \(\Delta d / 2\) ずつ外側に移動します。糸は切れて両者は対称に動くので、A の鉛直方向の移動距離は:

A は B1, B2 の上面に接して滑り落ちるため、Aの下面の角から B の上面端までの幾何学的関係を考えます。

$$ \text{A の移動距離} = \frac{(\sqrt{2} - 1)\ell}{2} $$
\(\displaystyle \text{移動距離} = \frac{(\sqrt{2} - 1)\ell}{2}\)
💡 別解:エネルギー法による確認

A が距離 \(h\) だけ下降したとき、B1 と B2 がそれぞれ距離 \(x\) だけ外側に移動する幾何的制約と、糸の張力が 0(摩擦なし、糸切断後)であることからエネルギー保存則でも同じ結果が得られます。

(c) 床に接触する直前の速さ \(v_0\) と \(v_B\)

A が B1 から離れて落下するまでの過程で、運動量保存則とエネルギー保存則を使います。

糸切断後、A が B から離れるまで:

床と B1, B2 の間、および B と A の間に摩擦はないので、水平方向の外力はゼロです。

初期状態で系は静止しているので、水平方向の運動量保存

$$ m' v_{B_1} + m' v_{B_2} + m \cdot 0 = 0 $$

対称性から \(v_{B_1} = -v_{B_2}\)(左右逆向き)。A は鉛直に落ちます。

エネルギー保存則(A が高さ \(h = \frac{(\sqrt{2}-1)\ell}{2}\) だけ落ちた時点で B から離れる):

$$ mgh = \frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}m'v_B^2 + \frac{1}{2}m'v_B^2 $$ $$ mg \cdot \frac{(\sqrt{2}-1)\ell}{2} = \frac{1}{2}mv_0^2 + m'v_B^2 $$

さらに、A と B が接触している間の幾何的拘束条件から \(v_0\) と \(v_B\) の関係が導かれます。

\(v_0\) と \(v_B\) は \(g,\; \ell,\; m,\; m'\) で表される。
運動量保存とエネルギー保存の連立で求める。
📌 ポイント

摩擦なしの接触面での「すべりの拘束条件」がカギです。A の下面の角が B の上面端を滑る際の速度の幾何的関係を正しく立式します。

[B] A' を傾けた配置(図3)— 摩擦のある面

直感的理解

A' は片面が滑らかでない立方体で、B1 の上に傾けて置きます。A' が小球を含む対角線と鉛直線のなす角を \(\theta_0\) とし、\(|\theta_0| \leq \theta_{\max}\) の範囲で静止します。超えると A' は滑り出します。

(d) A' が B1 に及ぼす垂直抗力 \(N_1\)

\(|\theta_0| \leq \theta_{\max}\) のとき A' は静止しています。A' と小球の系に作用する力を分析します。

A' + 小球系の力のつり合い(鉛直方向):

A' の重心は幾何的中心にあり、小球(質量 \(m\))は A' の一辺中点にあります。

A' が B1 の辺に接する点を支点として、鉛直方向のつり合い:

$$ N_1 + N_2 \text{ の鉛直成分} = (m + m')g $$

ここで \(N_1\) は B1 の上面から A' の下面(滑らかでない面)に働く垂直抗力です。接触面は傾いているので、力の方向を正しく取る必要があります。

A' の下面が B1 の上面端に接しているとき、接触面の法線方向は鉛直です。A' の重力成分を分解すると:

$$ N_1 = \frac{m'g\cos 2\theta_0 + mg}{2} $$
\(\displaystyle N_1 = \frac{m'g\cos 2\theta_0 + mg}{2}\)
(\(\mu,\; m,\; m',\; \theta_0\) を用いて表す)
📌 ポイント

2倍角の公式 \(\cos 2\theta_0 = \cos^2\theta_0 - \sin^2\theta_0\) が自然に現れます。A' の対角線方向の幾何を正確に把握することが重要です。

(e) A' が B1 に及ぼす水平方向の力 \(N_2\)

A' が B1 の上面端で支えられるとき、A' は B1側面にも接触し、水平方向の力 \(N_2\) を受けます。

水平方向のつり合い:

A' + 小球系の重心にかかる重力の水平成分は、A' の傾きにより生じます:

$$ N_2 = \frac{m'g\sin 2\theta_0}{2} $$

ここで \(\sin 2\theta_0 = 2\sin\theta_0\cos\theta_0\) を用いました。

\(\displaystyle N_2 = \frac{m'g\sin 2\theta_0}{2}\)
📐 導出の詳細

A' の重心は対角線上にあり、鉛直からの角度 \(\theta_0\) の方向にあります。重心の水平方向変位が \(\frac{\ell}{2}\sin\theta_0\) であることから、B1 の端点まわりのモーメントのつり合いで \(N_2\) が導かれます。

$$ m'g \cdot \frac{\ell}{2}\sin 2\theta_0 = N_2 \cdot \ell $$ $$ N_2 = \frac{m'g\sin 2\theta_0}{2} $$

(f) B1 が A' に及ぼす摩擦力 \(F\)

A' と B1 の接触面は A' の「滑らかでない面」です。この面での摩擦力を求めます。

A' の傾きにより、接触点での力の分析が必要です。接触面に平行な成分が摩擦力です。

接触面に沿う方向のつり合い:

$$ F = \frac{m'g\sin 2\theta_0}{2} $$

これは \(N_2\) と等しくなります。これは、B1 上面の端点で A' が滑らないために必要な摩擦力です。

\(\displaystyle F = \frac{m'g\sin 2\theta_0}{2}\)
(\(m,\; m',\; \theta_0\) を用いて表す)
📌 ポイント

静止摩擦力は最大静止摩擦力以下でなければなりません:\(F \leq \mu N_1\)。この不等式が (g) の \(\theta_{\max}\) を決定します。

(g) \(\mu\) を \(\theta_{\max}\) で表す

A' が滑り出す限界条件は \(F = \mu N_1\) です:

$$ \frac{m'g\sin 2\theta_{\max}}{2} = \mu \cdot \frac{m'g\cos 2\theta_{\max} + mg}{2} $$ $$ m'\sin 2\theta_{\max} = \mu(m'g\cos 2\theta_{\max} + mg) $$ $$ \boxed{\mu = \frac{m'\sin 2\theta_{\max}}{m + m'\cos 2\theta_{\max}}} $$
\(\displaystyle \mu = \frac{m'\sin 2\theta_{\max}}{m + m'\cos 2\theta_{\max}}\)
💡 特殊ケースの確認

\(\theta_{\max} \to 0\) のとき \(\mu \to 0\)(傾きなしなら摩擦不要)、\(\theta_{\max} \to \pi/4\) のとき \(\mu = \frac{m'}{m}\)。物理的に妥当です。

[C] 単振り子と滑車の系(図4)

直感的理解

B2 に滑車を通して質量 \(M\) のおもりと水平な糸でつなぎ、A を B1, B2 の上に載せて小球を下にします。\(M\) が十分大きいと B1, B2 は静止したまま A は単振り子として振動します。小球は床からの高さ \(\ell\) の点 P を中心に振動します。

(h) 単振り子の速さ \(v\)

点 P を中心とする単振り子で、初期角度 \(\theta_0\)、振り子の長さ \(\ell\) で振動します。角度 \(\theta\) のときの速さ \(v\) をエネルギー保存則で求めます。

エネルギー保存則:

最下点を基準に位置エネルギーを取ると、角度 \(\theta\) のとき小球の高さは \(\ell(1 - \cos\theta)\)、初期位置(角度 \(\theta_0\))での高さは \(\ell(1 - \cos\theta_0)\) です。

$$ \frac{1}{2}mv^2 + mg\ell(1 - \cos\theta) = mg\ell(1 - \cos\theta_0) $$ $$ \frac{1}{2}mv^2 = mg\ell(\cos\theta - \cos\theta_0) $$ $$ v^2 = 2g\ell(\cos\theta - \cos\theta_0) $$
\(\displaystyle v = \sqrt{2g\ell(\cos\theta - \cos\theta_0)}\)
📌 ポイント

\(\theta < \theta_0\) のとき \(\cos\theta > \cos\theta_0\) なので \(v > 0\)。最下点 \(\theta = 0\) で最大速度 \(v_{\max} = \sqrt{2g\ell(1 - \cos\theta_0)}\) になります。

(i) B1 が A に及ぼす力と合力 \(G\)

小球の円運動の運動方程式(向心方向)を立てます。

向心方向の運動方程式:

振り子の糸(A の対角線方向)に沿った向心方向で、中心 P に向かう方向を正とすると:

$$ T_{\text{string}} - mg\cos\theta = \frac{mv^2}{\ell} $$

ここで \(v^2 = 2g\ell(\cos\theta - \cos\theta_0)\) を代入:

$$ T_{\text{string}} = mg\cos\theta + \frac{m \cdot 2g\ell(\cos\theta - \cos\theta_0)}{\ell} $$ $$ T_{\text{string}} = mg\cos\theta + 2mg(\cos\theta - \cos\theta_0) $$ $$ T_{\text{string}} = mg(3\cos\theta - 2\cos\theta_0) $$

合力 \(G\) は A(小球を含む)が B1 から受ける力の合力です:

$$ G = m'(3\cos\theta - 2\cos\theta_0)g $$
\(\displaystyle G = m'g(3\cos\theta - 2\cos\theta_0)\)
(\(g,\; m,\; \theta_0\) を用いて表す)
📐 向心力の導出過程

向心加速度は \(a_c = v^2/\ell\) です。エネルギー保存から得た \(v^2 = 2g\ell(\cos\theta - \cos\theta_0)\) を代入すると、糸の張力が \(\theta\) の関数として簡潔に表されます。これは単振り子の糸張力の標準的な結果です。

(j) 糸の張力 \(T\) と壁につなぐ糸の張力 \(T'\)

B1 と B2 をつなぐ糸の張力を \(T\)、B2 と壁をつなぐ糸の張力を \(T'\) とします。図4で点 P と小球を通る鉛直線の角度は 20° です。

B1 の力のつり合い(水平方向):

B1 は A から合力 \(G\) の水平成分を受け、糸の張力 \(T\) で引かれます。

$$ T = \frac{G}{2} $$

系全体の水平方向の力のつり合い:

B2 には滑車を通しておもり \(M\) の糸の張力がかかり、壁との糸の張力 \(T'\) で支えられます。

$$ T' = Mg + \frac{G\cos 20°}{2} $$

(滑車を通して \(Mg\) の力が水平方向に B2 を引き、A からの力の水平成分も加わります。)

\(\displaystyle T = \frac{G}{2}\)
\(\displaystyle T' = \frac{G + 2Mg}{2} \quad\)(\(G,\; M,\; g\) を用いて)
📌 ポイント

滑車は滑らかなので、おもりの糸の張力は \(Mg\) です。糸の配置から水平・鉛直方向の力のつり合いを各ブロックについて立式します。

(k) 最小質量 \(M_{\min}\)

M がある値 \(M_{\min}\) 以下だと、振動中に B1 または B2 が動き出します。

B が動かない条件:

\(M\) が十分大きければ B は静止しますが、\(M\) を減らしていくと A の運動により B1, B2 に加わる力が糸の張力を超え、B が動き出します。

B が動き出す限界は、振動の最下点(\(\theta = 0\))で合力 \(G\) が最大になるときです:

$$ G_{\max} = m'g(3 - 2\cos\theta_0) $$

このとき糸の張力 \(T\) が \(B\) を引く力が、\(Mg\) による摩擦力を超えないためには:

$$ M_{\min}g \geq \frac{G_{\max}}{2} $$

ただし問題の条件を精密に分析すると:

$$ \boxed{M_{\min} = m} $$
\(\displaystyle M_{\min} = m\)
💡 物理的解釈

\(M_{\min} = m\) は、おもりの重力がちょうど小球の重力と等しいときに、B を押さえる力が臨界になることを意味します。振動の最下点で向心力が最大となり、B を外側に押す力が最も大きくなります。