前期 大問1(力学)

解法の指針

水平なめらかな床の上に台車M、ばね(ばね定数 $k$、自然長 $d_0$)で支柱に繋がれ、壁との衝突(反発係数 $e$)を繰り返す問題です。問1は台車のみ、問2は台車の上に小物体 $m$ を載せた場合を扱います。

問題の構成

全体を貫くポイント

問1:台車とばねの運動

直感的理解
ばねを $d_0 - d$ だけ縮めた状態から手を離すと、台車は単振動を始めて壁に向かう。壁に衝突すると反発係数 $e$ で跳ね返り、再びばねを縮めて戻ってくる。1回の衝突で速さは $e$ 倍に減る。

(a) 力学的エネルギー $E$

台車を $x = d$($d < d_0$)まで押してばねを縮めた状態で静止させます。ばねの縮み量は $d_0 - d$ です。台車とばねを合わせた全体の力学的エネルギーは弾性エネルギーのみで、

$$E = \frac{1}{2}k(d_0 - d)^2$$

(b) 壁衝突直前の速さ $V_0$ と跳ね返り直後の速さ $V_1$

手をはなすとばねの弾性エネルギーが運動エネルギーに変わり、壁に到達します。$x = 0$(壁に接触)でのばねの長さは $d_0 + $ 台車幅ですが、問題の設定ではばねは自然長に戻った後は台車に力を及ぼさないとして、壁に到達する直前では全エネルギーが運動エネルギーに変換されます。

エネルギー保存より、

$$\frac{1}{2}MV_0^2 = \frac{1}{2}k(d_0 - d)^2$$ $$V_0 = (d_0 - d)\sqrt{\frac{k}{M}}$$

壁との衝突は反発係数 $e$ なので、跳ね返り直後の速さは、

$$V_1 = eV_0 = e(d_0 - d)\sqrt{\frac{k}{M}}$$

(c) 1回目衝突から2回目衝突までの時間 $T$

跳ね返り後、台車は速度 $V_1$ で壁から離れ、ばねの自然長位置($x = d_0$)を通過し、$x = d_0 + A_1$ まで達してから戻ります。ここで $A_1$ は跳ね返り後の振幅です。

台車は $x = 0$ から出発し、$x < d_0$ ではばねは縮んでいるので力を受けません(ばねは台車を押すだけで引かない場合)。$x = d_0$ でばねが自然長に戻り、$x > d_0$ で引き戻されます。

ばねが台車を引く・押す両方の場合(繋がっている場合)を考えると、全区間で単振動です。$x = 0$ で衝突し、速度 $V_1$ で跳ね返ると、$x = d_0$ を中心とする単振動の一部として運動します。

単振動の半周期は $\frac{\pi}{\omega} = \pi\sqrt{\frac{M}{k}}$($x = 0$ → 最遠点 → $x = 0$ の往復)。さらに壁($x = 0$)まで戻る自由区間を加えます。台車は $x = 0$ から壁に衝突するまでの自由飛行時間を含めると、

$$T = \pi\sqrt{\frac{M}{k}} + \frac{2d_0(1 - e^2)}{V_0 \cdot e} \cdot (\text{補正})$$

実際には台車がばねと常に繋がっている(押しも引きもする)なら、$x = 0$ から出発して $x = 0$ に戻るまでの時間は単振動の1周期のうち壁衝突点を含む半周期相当です。

振動中心 $x = d_0$、振幅 $A$($\frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}MV_1^2$ より $A = V_1\sqrt{M/k}$)とすると、

$$x(t) = d_0 - A\cos(\omega t)$$

$x = 0$ となる条件 $\cos(\omega t) = d_0/A$ から、

$$T = \frac{2}{\omega}\arccos\left(\frac{d_0}{A}\right)$$
答え:
(a) $E = \dfrac{1}{2}k(d_0 - d)^2$
(b) $V_0 = (d_0 - d)\sqrt{\dfrac{k}{M}}$, $V_1 = eV_0 = e(d_0 - d)\sqrt{\dfrac{k}{M}}$
(c) 1回目から2回目までの時間は単振動の半周期と自由飛行の合計で構成される。ばねが常に繋がっている場合は $T$ を $\omega = \sqrt{k/M}$ と初期条件から求める。
別解:位相を使った時間計算

振動中心 $x_0 = d_0$、$x(t) = d_0 + A\sin(\omega t + \delta)$ として、$x(0) = 0$, $\dot{x}(0) = V_1 > 0$ の初期条件を満たす $A$, $\delta$ を求めます。

$$d_0 + A\sin\delta = 0 \quad \Rightarrow \quad \sin\delta = -\frac{d_0}{A}$$ $$A\omega\cos\delta = V_1 \quad \Rightarrow \quad A = \sqrt{d_0^2 + \frac{V_1^2}{\omega^2}}$$

次に壁に戻る($x = 0$)のは $\sin(\omega T + \delta) = -d_0/A$ の次の解です。

Point

壁との衝突で速さが $e$ 倍になるため、衝突ごとに振幅が減少する。ばねの復元力は常に $x = d_0$ に向かって働くので、振動中心は変わらない。

問2:台車の上に小物体を載せた場合

直感的理解
台車の上に小物体 $m$ を置くと、台車の加速度が大きくなると小物体が滑り出す。一体で動く間は合計質量 $M + m$ で振動し、滑り始めると台車と小物体は別々の運動方程式に従う。壁衝突時に一体化が解除される場合もある。

(a) 一体で動き始める条件

台車と小物体が一体で動くには、小物体に必要な加速度を静止摩擦力が提供できなければなりません。最大静止摩擦力 $\mu mg$ が加速度 $a$ に対する慣性力 $ma$ 以上:

$$|ma| \leq \mu mg \quad \Rightarrow \quad |a| \leq \mu g$$

一体運動の加速度の最大値はばねの最大復元力から:

$$|a_{\max}| = \frac{k(d_0 - d)}{M + m}$$

一体で動く条件は、

$$\frac{k(d_0 - d)}{M + m} \leq \mu g$$

(b) 台車と小物体の運動方程式

すべりが起きた場合、台車の加速度を $a$、小物体の加速度を $a'$ として、

$$Ma = -k(x - d_0) + \mu' mg \cdot (\text{sign})$$ $$ma' = -\mu' mg \cdot (\text{sign})$$

ここで $\mu'$ は動摩擦係数、sign は相対速度の符号です。台車が壁から離れる方向に動いているとき、小物体は台車に対して壁方向にすべるので、

$$Ma = -k(x - d_0) - \mu' mg$$ $$ma' = +\mu' mg$$

(c) 壁との距離の単振動表現

台車が壁と1回目衝突してから2回目に衝突するまでの運動において、壁と台車左端の距離 $x$ は、

$$x(t) = x_0 + A\sin(\omega t + \delta)$$

ここで $x_0 = d_0$(振動中心)、$\omega = \sqrt{k/M}$(台車のみの場合)または $\omega = \sqrt{k/(M+m)}$(一体の場合)、$A$ と $\delta$ は初期条件から決まります。

初期条件 $x(0) = 0$, $\dot{x}(0) = V_1$ を満たすには、

$$x_0 + A\sin\delta = 0, \quad A\omega\cos\delta = V_1$$ $$A = \sqrt{x_0^2 + \frac{V_1^2}{\omega^2}}, \quad \delta = -\arcsin\frac{x_0}{A}$$
答え:
(a) 一体条件:$\mu \geq \dfrac{k(d_0 - d)}{(M+m)g}$
(b) 台車:$Ma = -k(x - d_0) \mp \mu' mg$、小物体:$ma' = \pm \mu' mg$
(c) $x_0 = d_0$, $\omega = \sqrt{k/M}$, $A = \sqrt{d_0^2 + V_1^2/\omega^2}$, $\delta = -\arcsin(d_0/A)$
補足:衝突ごとの振幅の減衰

$n$ 回目の衝突後の速さは $V_n = e^n V_0$。振幅は $A_n = V_n / \omega = e^n V_0 / \omega$。$n \to \infty$ で振幅がゼロになり、台車はばねの自然長位置 $x = d_0$ に静止します。

衝突回数 $n$ と振幅の関係:$A_n / A_0 = e^n$(指数減衰)

Point

台車上の小物体が滑り出す条件は「加速度の最大値 $>$ $\mu g$」。壁衝突時には台車のみが瞬間的に速度変化するので、衝突直後に小物体は慣性で動き続け、台車に対して相対すべりが発生する。