磁束密度 $B$ の一様な磁場中を、質量 $M$・縦 $l$・横 $w$ の長方形回路が鉛直下向きに落下する問題です。回路にはコンデンサー(電気容量 $C$)が接続されています。
磁束の変化と誘導起電力:回路全体が磁場中にあるとき、回路の上辺(横幅 $w$)が速度 $v$ で下向きに動くことで磁束が変化します。
回路を貫く磁束の時間変化率は、上辺が磁場領域に入り下辺が出ることで正味の変化を生みます。回路全体が磁場中にある場合、下辺の寄与は磁場外なら変化が生じますが、問題の設定(回路全体が磁場中にいる間)では上辺のみが有効です。
落下速度 $v$ のとき、誘導起電力は:
$$\mathcal{E} = Bwv$$回路に抵抗がないため、誘導起電力はそのままコンデンサーの端子電圧 $V_C$ に等しくなります:
$$V_C = \mathcal{E} = Bwv$$よって、コンデンサーに蓄えられる電荷は:
$$q = CV_C = CBwv$$数値例:B = 0.50 T、w = 0.20 m、v = 2.0 m/s、C = 1.0 × 10⁻³ F のとき:
起電力:0.50 × 0.20 × 2.0 = 0.20 V
電荷:q = CBwv。回路の質量 M = 0.050 kg、落下高さ h = 0.20 m のとき、位置エネルギーの減少は Mgh = 0.050 × 9.8 × 0.20 = 0.098 J です。
レンツの法則より、磁束の増加を妨げる向きに誘導電流が流れます。回路が下向きに落下して磁場領域内の面積が増えると(紙面奥向きの磁束が増加)、磁束を減少させる向きに電流が流れます。
ただし、回路に抵抗がなくコンデンサーのみが接続されている場合、定常的な電流は流れず、代わりにコンデンサーが充電されて端子電圧 $V_C = Bwv$ が保たれます。
速度 $v$ が変化すると起電力が変わり、$q = CBwv$ も変化するため、$I = dq/dt = CBw \cdot (dv/dt) = CBwa$ の過渡的電流が流れます。
抵抗のない回路+コンデンサーでは、「$q = CV$」が核心。オームの法則 $V = IR$ の代わりに、起電力がそのままコンデンサー電圧になることを押さえる。
電流の導出:設問(a)で求めた $q = CBwv$ を時間微分します。
$$I = \frac{dq}{dt} = CBw \frac{dv}{dt} = CBwa$$制動力(アンペール力):磁場中で電流 $I$ が流れる長さ $w$ の導線に働く力は $F = BIw$ です。上辺に流れる電流による制動力は上向きに:
$$F_{\text{制動}} = BIw = B(CBwa)w = CB^2w^2 a$$運動方程式:下向き正として、
$$Ma = Mg - CB^2w^2 a$$$a$ について整理すると:
$$(M + CB^2w^2)a = Mg$$ $$a = \frac{Mg}{M + CB^2w^2}$$数値例:M = 0.10 kg、B = 0.50 T、w = 0.20 m、C = 1.0 × 10⁻³ F、g = 9.8 m/s² のとき:
CB²w² = 1.0 × 10⁻³ × 0.25 × 0.04 = 1.0 × 10⁻⁵ kg
M + CB²w² ≒ 0.10 kg(CB²w² ≪ M なので補正は小さい)
a ≒ 0.10 × 9.8 / (0.10 + 1.0 × 10⁻⁵) ≒ 9.799 m/s²(ほぼ自由落下)
回路が微小距離 $\Delta y$ 落下するとき:
エネルギー保存より $Mg\Delta y = Ma\Delta y + \Delta U_C$ となります。
$U_C = \frac{q^2}{2C} = \frac{C^2B^2w^2v^2}{2C} = \frac{CB^2w^2v^2}{2}$ を時間微分し、$v = at$(等加速度)を代入すると同じ結果が得られます。
抵抗がある回路では制動力は速度に比例($F \propto v$)し、終端速度に漸近する運動になります。しかしコンデンサー回路では制動力が加速度に比例($F \propto a$)するため、運動方程式から直ちに一定の加速度が得られます。
これは「見かけの質量が $M + CB^2w^2$ に増えた自由落下」と解釈できます。
コンデンサー回路の制動力は「加速度に比例」する。抵抗回路の「速度に比例する制動力」との違いを理解すること。$I = dq/dt = CBw \cdot a$ がこの問題の核心。
エネルギー保存則:回路の中心が $y = k$ から $y = k + l/2$ まで落下する間(落下距離 $l/2$)のエネルギー収支を考えます。初速は $v_0$($y = k$ のとき)とします。
重力による位置エネルギーの減少が、運動エネルギーの変化と静電エネルギーの変化に変換されます:
$$Mg \cdot \frac{l}{2} = \frac{1}{2}Mv^2 - \frac{1}{2}Mv_0^2 + U - U_0$$ここで、設問(b)の結果より加速度は一定 $a = \dfrac{Mg}{M + CB^2w^2}$ です。
静電エネルギーは $U = \dfrac{q^2}{2C} = \dfrac{(CBwv)^2}{2C} = \dfrac{CB^2w^2 v^2}{2}$ なので:
$$U = \frac{1}{2}CB^2w^2 v^2$$等加速度運動より $v^2 = v_0^2 + 2a \cdot \dfrac{l}{2}$ を代入して $v^2$ を消去します:
$$v^2 = v_0^2 + \frac{Mgl}{M + CB^2w^2}$$よって $y = k + l/2$ における静電エネルギーは:
$$U = \frac{CB^2w^2}{2}\left(v_0^2 + \frac{Mgl}{M + CB^2w^2}\right)$$特に初速 $v_0 = 0$(回路が磁場領域の上端 $y = k - l/2$ で静止していた場合、$y = k$ に到達するまでに加速しており $v_0 \neq 0$)の場合は、$y = k$ での速度を別途計算する必要があります。
数値例:M = 0.10 kg、B = 0.50 T、w = 0.20 m、C = 1.0 × 10⁻³ F、g = 9.8 m/s²、l = 0.30 m、v₀ = 1.0 m/s のとき:
CB²w² = 1.0 × 10⁻³ × 0.25 × 0.04 = 1.0 × 10⁻⁵ kg
v² = 1.0² + 0.10 × 9.8 × 0.30 / (0.10 + 1.0 × 10⁻⁵) = 1.0 + 2.94 = 3.94 m²/s²
U = 1.0 × 10⁻⁵ / 2 × 3.94 = 1.97 × 10⁻⁵ J ≒ 2.0 × 10⁻⁵ J
全力学的エネルギーと静電エネルギーの和が保存することを利用します。
落下距離 $s = l/2$ の間に重力がする仕事 $W_g = Mg \cdot l/2$ は、運動エネルギーの増分 $\Delta K$ と静電エネルギーの増分 $\Delta U$ に変わります:
$$Mg \cdot \frac{l}{2} = \Delta K + \Delta U$$$\Delta K = Ma \cdot l/2$(等加速度のため)、$a = Mg/(M + CB^2w^2)$ より:
$$\Delta K = \frac{M^2 g l}{2(M + CB^2w^2)}$$ $$\Delta U = Mg \cdot \frac{l}{2} - \frac{M^2 g l}{2(M + CB^2w^2)} = \frac{Mgl}{2} \cdot \frac{CB^2w^2}{M + CB^2w^2}$$この $\Delta U$ に初期値 $U_0 = CB^2w^2 v_0^2/2$ を加えれば同じ結果が得られます。
もし回路に抵抗 $R$ がありコンデンサーがない場合:
一方、コンデンサー回路では制動力が加速度に比例するため、等加速度運動になる点が決定的に異なります。
コンデンサー回路での電磁誘導は「$q = CBwv$」→「$I = CBwa$」→「制動力 $\propto a$」→「等加速度」という論理の流れを一気通貫で理解すること。抵抗回路とは本質的に異なる運動になる。