ばねで仕切られたシリンダー内の2室(空間A・空間B)に封入された理想気体の問題です。ピストンの移動に伴うばねの伸縮と、おもり$Q_1$の追加による状態変化を追います。
状態1(初期状態):ばねが自然長で、ピストンはシリンダーの中央にある。空間A・空間Bともに圧力$p_0$、体積$V_0$、温度$T_0$です。ピストンの断面積を$S$、ばね定数を$k$とします。
状態2のピストンの力のつり合い:おもり$Q_1$(質量$M$)をピストンの上(空間A側)に静かに乗せると、ピストンが距離$d$だけ空間A側に移動(空間Aが圧縮される方向)して平衡します。ばねは自然長から$d$だけ縮むので、ピストンを空間B側に押す力$kd$が生じます。
ピストンのつり合い:
$$p_{A2} \cdot S = p_{B2} \cdot S + Mg - kd$$ここで、ばねが縮むと弾性力はピストンを押し戻す(空間B側へ押す)方向に働くので$-kd$ではなく$+kd$がB側…と符号に注意が必要です。シリンダーが水平の場合、ピストンの力のつり合いは:
$$p_{A2} \cdot S + kd = p_{B2} \cdot S + Mg$$すなわち:
$$p_{A2} - p_{B2} = \frac{Mg - kd}{S}$$ただし、シリンダーが鉛直でA側が下、B側が上の場合(おもりをピストン上に乗せる設定から):
$$p_{A2} \cdot S = p_{B2} \cdot S + Mg + kd$$ $$p_{A2} = p_{B2} + \frac{Mg + kd}{S}$$体積変化:空間Aの体積が$V_0 - Sd$、空間Bの体積が$V_0 + Sd$に変化します。
数値例:具体的な数値で計算します。p₀ = 1.0 × 10⁵ Pa、S = 2.0 × 10⁻³ m²、k = 500 N/m、d = 0.10 m、M = 5.0 kg、g = 9.8 m/s² の場合:
おもりの重力は Mg = 5.0 × 9.8 = 49 N、ばねの弾性力は kd = 500 × 0.10 = 50 N です。
$$\frac{Mg + kd}{S} = \frac{49 + 50}{2.0 \times 10^{-3}} = \frac{99}{0.0020} = 4.95 \times 10^4 \text{ Pa}$$よって圧力差は 4.95 × 10⁴ Pa。等温変化なら状態方程式から各圧力が確定します。
体積は$V_{A2} = V_0 - Sd$, $V_{B2} = V_0 + Sd$。状態方程式と連立して$p_{A2}$, $p_{B2}$を求める。
おもりを乗せてピストンが$d$だけ移動する過程で、おもりの位置エネルギー減少分$Mgd$と、ばねの弾性エネルギー増加分$\frac{1}{2}kd^2$を比較できます。
$$W_{\text{おもり}} = Mgd = 5.0 \times 9.8 \times 0.10 = 4.9 \text{ J}$$ $$U_{\text{ばね}} = \frac{1}{2}kd^2 = \frac{1}{2} \times 500 \times 0.01 = 2.5 \text{ J}$$差の $4.9 - 2.5 = 2.4$ J が気体の内部エネルギー変化(等温でなければ温度上昇)に対応します。準静的に変位する場合、力のつり合いから直接圧力を求める方法がより直接的です。
ピストンが空間A側(下方)に移動するとき:
いずれの場合も、ピストンが自然長位置からずれた方向と逆向きに弾性力が働きます。符号を毎回図に描いて確認するのが安全です。
ピストンの力のつり合いでは、気体の圧力(面積をかけて力にする)、ばねの弾性力($kd$)、おもりの重力($Mg$)の3つの力の向きを図に描いてから立式すること。符号ミスが最も多い箇所です。
状態3の条件:ピストンが状態1の位置(シリンダー中央)に戻る → ばねは自然長 → 弾性力$= 0$。空間Aの体積は$V_0$、空間Bの体積も$V_0$に戻ります。
ピストンの力のつり合い(状態3):ばねの弾性力がゼロなので:
$$p_{A3} \cdot S = p_{B3} \cdot S + Mg$$ $$p_{A3} = p_{B3} + \frac{Mg}{S}$$空間Bの状態変化:空間Bは外部から加熱されていないので、断熱変化または等温変化として扱います。体積が$V_0 + Sd$(状態2)→$V_0$(状態3)に変化。等温変化であれば:
$$p_{B2}(V_0 + Sd) = p_{B3} \cdot V_0$$空間Aの状態方程式:状態1と状態3で空間Aを比較します。物質量$n_A$は不変:
$$\frac{p_0 V_0}{T_0} = \frac{p_{A3} V_0}{T_{A3}}$$ $$T_{A3} = \frac{p_{A3}}{p_0} T_0$$数値例(続き):$Mg/S = 49/(2.0 \times 10^{-3}) = 2.45 \times 10^4$ Pa として、$p_{A3} = p_0 + Mg/S = 1.0 \times 10^5 + 2.45 \times 10^4 = 1.245 \times 10^5$ Pa。
$$T_{A3} = \frac{1.245 \times 10^5}{1.0 \times 10^5} \times T_0 = 1.245\,T_0$$温度が約$25\%$上昇することになります。
空間Bが断熱変化する場合は$pV^{\gamma} = \text{const}$を使います($\gamma$は比熱比)。
$$p_{B2}(V_0 + Sd)^{\gamma} = p_{B3} V_0^{\gamma}$$単原子分子理想気体なら$\gamma = 5/3$。この場合、等温変化とは圧力の値が異なりますが、問題の条件(断熱か等温か)に従って選択します。一般に壁が断熱材であれば断熱変化、十分ゆっくりで熱伝導があれば等温変化です。
状態3ではばねが自然長に戻るため弾性力が消える。しかしおもり$Q_1$の重力$Mg$は残るので、$p_{A3} \neq p_{B3}$であることに注意。「ばねが自然長 → 両室の圧力が等しい」と早合点しないこと。
熱力学第一法則:空間Aの気体について:
$$Q_{\text{in}} = \Delta U_A + W_A$$ここで$\Delta U_A$は空間Aの気体の内部エネルギー変化、$W_A$は空間Aの気体が外部にした仕事です。
内部エネルギー変化:単原子分子理想気体($n_A$ mol)の場合:
$$\Delta U_A = n_A C_V (T_{A3} - T_0) = \frac{3}{2} n_A R (T_{A3} - T_0)$$状態方程式$p_0 V_0 = n_A R T_0$より$n_A R = p_0 V_0 / T_0$を代入:
$$\Delta U_A = \frac{3}{2} \cdot \frac{p_0 V_0}{T_0} \cdot \frac{Mg \cdot T_0}{p_0 S} = \frac{3}{2} \cdot \frac{Mg V_0}{S}$$仕事の計算:状態2→状態3でピストンが距離$d$だけ移動(空間Aが膨張)。気体Aがピストンを押す力は$p_A \cdot S$(変化する)ですが、定圧過程でない場合は積分が必要です。定圧変化として近似できる場合:
$$W_A = p_{A3} \cdot S \cdot d$$数値例:$n_A = 1.0$ mol、$R = 8.3$ J/(mol·K)、$T_0 = 300$ K、$T_{A3} = 375$ K のとき:
$$\Delta U_A = \frac{3}{2} \times 1.0 \times 8.3 \times (375 - 300) = \frac{3}{2} \times 8.3 \times 75 = 933.8 \text{ J}$$ $$W_A = 1.245 \times 10^5 \times 2.0 \times 10^{-3} \times 0.10 = 24.9 \text{ J}$$ $$Q_{\text{in}} = 933.8 + 24.9 = 958.7 \text{ J} \fallingdotseq 960 \text{ J}$$具体的な値は状態2→3の過程の性質(定圧・非定圧)と$p_A$の変化に依存する。
系全体(空間A + 空間B + ばね + おもり)のエネルギー保存から考えます:
$$Q_{\text{in}} = \Delta U_A + \Delta U_B + \Delta U_{\text{ばね}} + \Delta U_{\text{おもり}}$$状態2→3で:
$\Delta U_B$は空間Bの温度変化から計算。この方法は仕事の積分を避けられるメリットがあります。
数値例:$\Delta U_{\text{ばね}} = -\frac{1}{2} \times 500 \times 0.01 = -2.5$ J、$Mgd = 49 \times 0.10 = 4.9$ J
熱力学第一法則の適用範囲に注意。空間Aの気体のみに適用するか、系全体に適用するかで式が異なる。系全体なら内部の力(ばね・気体間)は内力になり、外からの仕事はおもりの重力のみとなる。