地球表面の「重力」は万有引力と遠心力の合力です。赤道では遠心力が最大、極では遠心力ゼロ。さらに月の引力が地球上の場所によって異なるため「潮汐力」が生じ、海面が月に近い側と遠い側で膨らみます。この問題は I(地表の重力)→ II(潮汐力の導出)→ III(数値計算)と段階的に進みます。
地球の自転軸からの距離が遠心力の大きさを決めます。赤道では自転軸からの距離は地球半径 \(R\) そのもの。緯度 \(\lambda\) の地点では自転軸からの距離が \(R\cos\lambda\) に縮むので、遠心力もその分小さくなります。
地球の自転角速度は \(\omega = \dfrac{2\pi}{T_1}\) です。
赤道上の点 B:自転軸からの距離は \(R\) なので、遠心力は
$$f_B = mR\omega^2 = mR\left(\frac{2\pi}{T_1}\right)^2$$向きは中心から外向き(地球中心と反対方向)です。
緯度45°の点:自転軸からの距離は \(R\cos 45°= \dfrac{R}{\sqrt{2}}\) なので、遠心力の大きさは
$$f_{45} = m \cdot R\cos 45° \cdot \omega^2 = \frac{mR}{\sqrt{2}}\left(\frac{2\pi}{T_1}\right)^2$$この遠心力の向きは自転軸から垂直に外向き(水平方向)であり、地表面に対して斜めになります。
遠心力は自転軸に垂直な方向に働きます。赤道上では万有引力と正反対ですが、それ以外の緯度では万有引力と正反対にはなりません。そのため厳密な「重力」の方向は鉛直方向(地球中心方向)からわずかにずれます。ただし遠心力は万有引力に比べて非常に小さい(約0.3%)ため、実用的にはこのずれは無視できます。
遠心力は「自転軸からの距離」で決まる。緯度 \(\lambda\) の地点では自転軸からの距離が \(R\cos\lambda\) なので、遠心力は \(m R\cos\lambda \cdot \omega^2\)。極(\(\lambda = 90°\))ではゼロ。
赤道で体重計に乗ると、万有引力が体を引っ張りますが、遠心力が外向きに押し返します。「重力」はこの差し引きの結果です。遠心力が大きいほど重力加速度は小さくなります。
赤道上の質量 \(m\) の物体に働く力は、地球中心向きの万有引力と外向きの遠心力です。重力はこの合力なので:
$$mg_B = \frac{GM_1 m}{R^2} - mR\omega^2$$両辺を \(m\) で割ると:
$$g_B = \frac{GM_1}{R^2} - R\omega^2 = \frac{GM_1}{R^2} - R\left(\frac{2\pi}{T_1}\right)^2$$数値的な見積もり:\(R = 6.4 \times 10^6\) m, \(T_1 = 86400\) s とすると
$$R\omega^2 = R\left(\frac{2\pi}{T_1}\right)^2 = 6.4 \times 10^6 \times \left(\frac{6.28}{86400}\right)^2 \fallingdotseq 0.034 \;\text{m/s}^2$$これは \(g \fallingdotseq 9.8\) m/s² の約0.3%であり、非常に小さい補正であることがわかります。
極(緯度90°)では遠心力がゼロなので \(g_{\text{pole}} = GM_1/R^2\) です。したがって赤道と極の重力加速度の差は
$$g_{\text{pole}} - g_B = R\left(\frac{2\pi}{T_1}\right)^2 \fallingdotseq 0.034 \;\text{m/s}^2$$実際の地球では地球が楕円体であることも寄与して、赤道での \(g \fallingdotseq 9.78\) m/s²、極での \(g \fallingdotseq 9.83\) m/s² です。
地表の重力加速度は「万有引力による加速度 \(GM_1/R^2\) から遠心力による加速度 \(R\omega^2\) を引いたもの」。東大入試では \(\omega = 2\pi/T_1\) と丁寧に置き換えること。
地球と月は共通の重心 O のまわりを互いに公転しています。重心は質量の逆比の位置にあるので、重い地球のほうが O に近く、軽い月のほうが O から遠くなります。シーソーの支点と同じ原理です。
地球(質量 \(M_1\))と月(質量 \(M_2\))の中心間距離を \(a\) とします。共通重心 O から地球中心までの距離を \(r_1\)、月中心までの距離を \(r_2\) とすると:
重心の条件:
$$M_1 r_1 = M_2 r_2$$距離の条件:
$$r_1 + r_2 = a$$これを連立して解きます。第1式より \(r_1 = M_2 r_2 / M_1\) を第2式に代入:
$$\frac{M_2}{M_1}r_2 + r_2 = a \quad \Rightarrow \quad r_2\left(\frac{M_1 + M_2}{M_1}\right) = a$$ $$r_2 = \frac{M_1 a}{M_1 + M_2}, \qquad r_1 = \frac{M_2 a}{M_1 + M_2}$$\(t = 0\) で月は \(+x\) 方向にあるので、地球中心の位置ベクトルは \(-x\) 方向に \(r_1\)、月の位置ベクトルは \(+x\) 方向に \(r_2\) です。
\(M_1 = 6.0 \times 10^{24}\) kg, \(M_2 = 7.3 \times 10^{22}\) kg, \(a = 3.8 \times 10^8\) m のとき:
$$r_1 = \frac{7.3 \times 10^{22}}{6.0 \times 10^{24} + 7.3 \times 10^{22}} \times 3.8 \times 10^8 \fallingdotseq 4.6 \times 10^6 \;\text{m}$$これは地球半径 \(R = 6.4 \times 10^6\) m より小さく、共通重心 O は地球内部にあることがわかります。
重心の位置は質量の逆比で決まる。\(M_1 \gg M_2\) なので \(r_1 \ll r_2\) となり、共通重心は地球中心のすぐ近くにある。
地球全体は重心 O のまわりを公転しています。地球中心では月の引力と公転の遠心力がちょうど釣り合いますが、月に近い地点では月の引力が遠心力より強く(月の方へ引かれる)、月から遠い地点では遠心力が月の引力より強くなります(月と反対側に引かれる)。この差が「潮汐力」です。
潮汐力の導出の基本的な考え方:
地球は重心 O のまわりを角速度 \(\Omega = 2\pi/T\) で公転しています。問題の設定では地球は自転しない(全ての点が同じ角速度 \(\Omega\) で並進的に回転する)ため、地球上の全ての点で遠心力は同じです。
地球中心では月の引力と遠心力が釣り合います。地球中心と月中心の距離は \(a\) なので:
$$\text{遠心力(全点共通)} = \frac{GM_2 m}{a^2} \quad(\text{月と反対向き})$$月に最も近い地点(地球中心から月方向に \(R\) の点):
この点と月中心の距離は \(a - R\) なので、月からの引力は:
$$F_{\text{grav}} = \frac{GM_2 m}{(a-R)^2} \quad(\text{月の方向})$$潮汐力 = 月の引力 − 遠心力(ベクトル差):
$$f_{\text{tidal}} = \frac{GM_2 m}{(a-R)^2} - \frac{GM_2 m}{a^2}$$\(a \gg R\) の近似を適用します。\((a-R)^{-2} = a^{-2}(1 - R/a)^{-2} \fallingdotseq a^{-2}(1 + 2R/a)\) より:
$$f_{\text{tidal}} = \frac{GM_2 m}{a^2}\left(1 + \frac{2R}{a}\right) - \frac{GM_2 m}{a^2} = \frac{2GM_2 mR}{a^3}$$向きは月の方向(外向き)です。
月から最も遠い地点(地球中心から反月方向に \(R\) の点):
この点と月中心の距離は \(a + R\) なので:
$$f_{\text{tidal}} = \frac{GM_2 m}{a^2} - \frac{GM_2 m}{(a+R)^2}$$\((a+R)^{-2} \fallingdotseq a^{-2}(1 - 2R/a)\) より:
$$f_{\text{tidal}} = \frac{GM_2 m}{a^2} - \frac{GM_2 m}{a^2}\left(1 - \frac{2R}{a}\right) = \frac{2GM_2 mR}{a^3}$$向きは月と反対方向(こちらも外向き)です。
月に最も近い点の潮汐力: \(\dfrac{2GM_2 mR}{a^3}\)(月の方向・外向き)
月から最も遠い点の潮汐力: \(\dfrac{2GM_2 mR}{a^3}\)(月と反対方向・外向き)
いずれも大きさは等しく、方向は地球中心から外向き。これが潮汐による海面の膨らみが月に近い側と遠い側の両方に生じる理由です。
地球中心からの変位 \(\delta\)(月方向を正)に対して、地球表面の点と月中心の距離は \(a - \delta\) です。潮汐力は:
$$f = \frac{GM_2 m}{(a - \delta)^2} - \frac{GM_2 m}{a^2}$$\(\delta / a \ll 1\) のテイラー展開:
$$(a - \delta)^{-2} = a^{-2}\left(1 - \frac{\delta}{a}\right)^{-2} \fallingdotseq a^{-2}\left(1 + \frac{2\delta}{a} + \cdots\right)$$よって:
$$f \fallingdotseq \frac{2GM_2 m \delta}{a^3}$$月に近い側 \(\delta = R\) で \(f = 2GM_2 mR/a^3\)(月向き)、月から遠い側 \(\delta = -R\) で \(f = -2GM_2 mR/a^3\)(反月向き)。いずれも外向きの力となります。
潮汐力は \(R/a^3\) に比例する。距離の3乗で効くため、太陽は月より質量がはるかに大きくても、距離も遠いので潮汐力は月より小さい。月に近い側も遠い側も同じ大きさの外向き力を受けるため、地球の両側で海面が膨らみ、1日に2回の満潮が生じる。
地球表面で月の方向と90°の位置(赤道上の真上・真下の点)では、潮汐力は地球中心に向かいます。月-反月方向では外向きに引かれ、垂直方向では内向きに押される。この非一様な変形パターンが潮汐の原因です。
地球中心と月を結ぶ線(\(x\) 軸)と、地球中心から点 Q への方向がなす角を \(\theta\) とします。
点 Q の位置ベクトルを成分に分解して潮汐力を求めます。地球表面の点 Q では、\(x\) 方向の変位が \(R\cos\theta\)、\(y\) 方向の変位が \(R\sin\theta\) です。
\(a \gg R\) の近似のもと、潮汐力の成分は次のようになります:
\(x\) 成分(月方向):月の引力の \(x\) 成分と遠心力の差を計算すると
$$f_x = \frac{2GM_2 m R \cos\theta}{a^3}$$\(y\) 成分(月方向に垂直):
$$f_y = -\frac{GM_2 m R \sin\theta}{a^3}$$負号は地球中心に向かう方向(\(y\) の変位と逆方向)を表します。
\(\theta = 90°\) の場合(点 Q が月方向と垂直の位置):
$$f_x = 0, \quad f_y = -\frac{GM_2 mR}{a^3}$$潮汐力は地球中心に向かう方向で、大きさは \(\dfrac{GM_2 mR}{a^3}\) です。
角度 \(\theta\) の点 Q での潮汐力:
動径方向(外向き正): \(\dfrac{2GM_2 mR\cos\theta}{a^3}\)
接線方向: \(-\dfrac{GM_2 mR\sin\theta}{a^3}\)(地球-月方向に引き寄せる)
大きさ: \(\dfrac{GM_2 mR}{a^3}\sqrt{1 + 3\cos^2\theta}\)
潮汐力のパターンをまとめると:
このパターンにより地球は月方向に引き伸ばされ、垂直方向に押しつぶされます。これが潮汐変形の原因であり、1日に2回の満潮(月に近い側と遠い側)と2回の干潮(垂直方向)が生じる理由です。
潮汐力はベクトル量。動径成分は \(2\cos\theta\) に比例し、接線成分は \(-\sin\theta\) に比例する。\(\theta = 0°, 180°\) で最大(外向き)、\(\theta = 90°\) で内向きに転じる。この「外向き+内向き」のパターンが潮汐の楕円変形を生む。
太陽は月よりはるかに重い(約2700万倍)ですが、はるかに遠い(約390倍)。潮汐力は距離の3乗に反比例するので、距離の効果が質量の効果に勝ち、月のほうが太陽より潮汐力が強くなります。
II 部で求めた潮汐力 \(\dfrac{2GM_2 mR}{a^3}\) の形から、潮汐力は天体の質量に比例し、距離の3乗に反比例することがわかります。
太陽による潮汐力と月による潮汐力の比:
月の潮汐力: \(\dfrac{2GM_2 mR}{a^3}\)、太陽の潮汐力: \(\dfrac{2GM_3 mR}{b^3}\)(\(b\) は地球-太陽間距離)
$$\frac{\text{太陽の潮汐力}}{\text{月の潮汐力}} = \frac{M_3}{M_2} \cdot \left(\frac{a}{b}\right)^3$$表1-1 の数値を代入します:
$$\frac{M_3}{M_2} = \frac{2.0 \times 10^{30}}{7.3 \times 10^{22}} = \frac{2.0}{7.3} \times 10^{8} \fallingdotseq 2.74 \times 10^{7}$$ $$\frac{a}{b} = \frac{3.8 \times 10^{8}}{1.5 \times 10^{11}} = \frac{3.8}{1.5} \times 10^{-3} \fallingdotseq 2.53 \times 10^{-3}$$ $$\left(\frac{a}{b}\right)^3 = (2.53 \times 10^{-3})^3 = 2.53^3 \times 10^{-9}$$\(2.53^3 = 2.53 \times 2.53 \times 2.53\) を計算します:
$$2.53^2 = 6.40, \quad 2.53^3 = 6.40 \times 2.53 \fallingdotseq 16.2$$ $$\left(\frac{a}{b}\right)^3 \fallingdotseq 16.2 \times 10^{-9} = 1.62 \times 10^{-8}$$最終的に:
$$\frac{M_3}{M_2}\left(\frac{a}{b}\right)^3 = 2.74 \times 10^{7} \times 1.62 \times 10^{-8} \fallingdotseq 0.44$$有効数字を考慮すると、答えは1桁の数で約 0.5 です。つまり太陽の潮汐力は月の潮汐力の約半分であり、潮の満ち引きでは月の効果が支配的です。
1桁の数としては 0.5(または「約半分」)。太陽の潮汐力は月の潮汐力の約46%。
太陽と月の潮汐力が同じ方向に重なるとき(新月・満月:太陽-地球-月が一直線)、潮汐力が強め合って大潮になります。90°ずれるとき(上弦・下弦の月)、太陽の潮汐力が月の潮汐力を打ち消す方向に働き、小潮になります。
大潮の潮汐力は月の潮汐力の \(1 + 0.46 = 1.46\) 倍、小潮は \(1 - 0.46 = 0.54\) 倍です。大潮と小潮の比は約 \(1.46/0.54 \fallingdotseq 2.7\) 倍で、実際に観測される潮位差の変動と整合します。
潮汐力は \(M/r^3\) に比例する。太陽は月の \(2.7 \times 10^7\) 倍重いが、距離は約400倍遠い。\(400^3 = 6.4 \times 10^7\) なので距離の効果が質量の効果を上回り、月のほうが潮汐力は大きい。東大入試ではこの数値計算を丁寧に実行できることが求められる。