前期 大問2:電磁誘導(楕円軌道上の正方形コイル)

解法の指針

楕円レール上を走行するカート(正方形コイル)が帯状の磁場領域を通過するときの電磁誘導を扱う総合問題です。Part I は基本的な誘導起電力とローレンツ力、Part II はダイオード回路によるエネルギー散逸、Part III は2コイル系の抵抗調整による速度制御を問います。

全体を貫くポイント

I-(1) コイルが磁場領域に入るときの誘導起電力

直感的理解
正方形コイルが右向きに速度 \(v\) で進むと、コイルの右辺が先に磁場領域(幅 \(d\)、\(x = 0\) を中心に \(+z\) 方向の磁束密度 \(B\))に入る。右辺だけが磁場を横切るので、この辺に起電力が生じる。コイル全体が磁場内に入ると磁束変化がなくなり起電力はゼロになる。

立式:コイルの中心が P\(_1\)(\(x = -d/2 - L/2\))から右に進み、コイルの右辺が磁場領域に入り始める。右辺が \(x = -d/2\) から \(x = -d/2 + L\) に達するまで、磁場を横切る辺は右辺のみ。

右辺(長さ \(L\))が速度 \(v\) で磁束密度 \(B\) の領域に入ると、この辺に生じる起電力は:

$$\varepsilon = BLv$$

コイルを貫く磁束 \(\Phi\) の変化率からも同じ結果が得られる。右辺が磁場領域に \(\Delta x = v\Delta t\) だけ進入すると:

$$\Delta\Phi = BL \cdot v\Delta t \quad \Rightarrow \quad \varepsilon = \frac{\Delta\Phi}{\Delta t} = BLv$$

電流の向き:レンツの法則より、コイルを貫く \(+z\) 方向の磁束が増加するのを妨げる向き、すなわちコイルに反時計回り(上から見て)の電流が流れる。電流の大きさは:

$$I = \frac{\varepsilon}{R} = \frac{BLv}{R}$$

数値例:\(B = 0.50\) T, \(L = 0.20\) m, \(v = 3.0\) m/s, \(R = 2.0\) \(\Omega\) のとき:

$$\varepsilon = 0.50 \times 0.20 \times 3.0 = 0.30 \;\text{V}$$ $$I = \frac{0.30}{2.0} = 0.15 \;\text{A}$$
答え:
誘導起電力:\(\varepsilon = BLv\)
電流の大きさ:\(I = \dfrac{BLv}{R}\),反時計回り(\(+z\) 方向の磁束増加を妨げる向き)
補足:コイルが完全に磁場内にある場合

コイル全体が磁場領域内に入ると(\(L < d\) の場合)、コイルを貫く磁束は一定(\(\Phi = BL^2\))となり:

$$\varepsilon = -\frac{d\Phi}{dt} = 0$$

このとき電流は流れず、コイルに作用する力もゼロになる。

Point

正方形コイルが帯状磁場を横切るとき、起電力が生じるのはコイルの辺が磁場の境界を横切っている間だけ。コイル全体が磁場内にあるとき(\(L < d\) なら)は磁束変化がなく起電力はゼロ。

I-(2) コイルが磁場に入る際のローレンツ力

直感的理解
磁場中を流れる電流は力を受ける。コイルの右辺に流れる電流 \(I\) が磁場 \(B\) から受ける力(\(F = BIL\))は、コイルの運動を妨げる方向(\(x\) 軸負の向き)に作用する。これはレンツの法則の力学的な表現で、「電磁ブレーキ」の原理そのものである。

電流が磁場から受ける力:コイルの右辺には電流 \(I = \dfrac{BLv}{R}\) が流れており、この辺は磁場 \(B\) 中にある。長さ \(L\) の電流に作用する力は:

$$F = BIL = B \cdot \frac{BLv}{R} \cdot L = \frac{B^2L^2v}{R}$$

数値例:\(B = 0.50\) T, \(L = 0.20\) m, \(v = 3.0\) m/s, \(R = 2.0\) \(\Omega\) のとき:

$$F = \frac{0.50^2 \times 0.20^2 \times 3.0}{2.0} = \frac{0.25 \times 0.04 \times 3.0}{2.0} = \frac{0.030}{2.0} = 0.015 \;\text{N}$$

力の向き:レンツの法則から、この力はコイルの運動を妨げる向き、すなわち\(x\) 軸負の向き(制動力)に作用する。

フレミングの左手の法則で確認:電流が \(+y\) 方向(コイル上辺に向かって)、磁場が \(+z\) 方向のとき、力は \(+y \times +z\) の向き... ではなく、\(I \times B\) の外積で \(-x\) 方向。

コイルの他の辺について:左辺は磁場外にあるため力を受けない。上辺と下辺は磁場内で電流が流れているが、これらの辺に作用する力は \(y\) 方向(上下)で互いに打ち消し合い、\(x\) 方向の正味の力には寄与しない。

答え:
$$F = \frac{B^2L^2v}{R}$$ 向き:\(x\) 軸負の向き(運動を妨げる制動力)
補足:上辺・下辺に作用する力の打ち消し

上辺では電流が \(-x\) 方向に流れ、\(F = IL \times B\) で \(-y\) 方向の力を受ける。下辺では電流が \(+x\) 方向に流れ、\(+y\) 方向の力を受ける。これらは大きさが等しく向きが反対なので打ち消し合う。

結局、\(x\) 方向の正味の力は右辺(磁場内にある辺)の力のみ:

$$F_x = -\frac{B^2L^2v}{R}$$
Point

制動力 \(F = B^2L^2v/R\) は速度 \(v\) に比例する。これは電磁ブレーキの基本原理であり、速度が大きいほど強い制動力が働く。\(B\) を強く、\(R\) を小さくすると制動力は大きくなる。

I-(3) コイルが磁場から出るときのローレンツ力

直感的理解
コイルが磁場領域から出るとき、今度は左辺が磁場境界を横切る。磁束が減少するため、電流の向きは逆転するが、制動力の大きさと向き(運動を妨げる向き)は同じ。対称性から理解できる。

退出時の解析:コイルが磁場領域から出るとき、左辺が磁場境界 \(x = d/2\) を横切る。コイルを貫く磁束は減少するため:

$$\varepsilon = BLv \quad (\text{磁束減少を補う向き})$$

電流の向きは進入時と逆(時計回り)になるが、左辺に作用するローレンツ力は:

$$F = BIL = \frac{B^2L^2v}{R}$$

この力の向きは再び\(x\) 軸負の向き、すなわちコイルの運動を妨げる制動力である。

対称性の理解:進入時も退出時も、制動力の大きさは同じ \(\dfrac{B^2L^2v}{R}\) であり、常に運動を妨げる向きに作用する。これはエネルギー保存則の帰結でもある。

答え:
$$F = \frac{B^2L^2v}{R}$$ 向き:\(x\) 軸負の向き(進入時と同じく制動力)
電流の向きは逆転するが、力の向きは変わらない。
別解:エネルギー保存から制動力を導く

コイルが微小距離 \(\Delta x = v \Delta t\) だけ移動する間にジュール熱として散逸するエネルギーは:

$$\Delta W = I^2 R \cdot \Delta t = \frac{B^2L^2v^2}{R} \cdot \Delta t$$

このエネルギーはコイルの運動エネルギーの減少分に等しいから:

$$F \cdot \Delta x = \Delta W \quad \Rightarrow \quad F \cdot v \Delta t = \frac{B^2L^2v^2}{R} \cdot \Delta t$$ $$\therefore \quad F = \frac{B^2L^2v}{R}$$

この方法では力の向きの情報は得られないが、大きさの確認に有効。

Point

電磁ブレーキでは、電流の向きが変わっても制動力の向きは常に運動を妨げる方向。これはレンツの法則の本質であり、「誘導現象は原因となる変化を妨げる」という原理の力学的表現である。1回の通過で失われるエネルギーは \(\Delta K = \dfrac{B^2L^2d \cdot v}{R}\) となる(速度がほぼ一定と見なせる場合)。

II-(4) ダイオード回路でのエネルギー減衰グラフ

直感的理解
回路にダイオードと電池を挿入すると、電流は一方向にしか流れない。コイルが磁場を通過するたびに一定の条件でのみ電流が流れ、運動エネルギーが散逸する。ダイオードの整流作用により、進入時と退出時のどちらか一方でしか電流が流れないため、1回の通過で失われるエネルギーは抵抗のみの場合の半分になる。

設定:回路にダイオードと電池(起電力 \(V\))を挿入する。ダイオードは一方向にしか電流を通さないため、コイルの磁場通過時に電流が流れるのは進入時または退出時のいずれか一方のみ。

1回の通過で失われるエネルギー:コイルが速度 \(v_n\) で \(n\) 回目の通過をするとき、磁場境界を横切る距離は合計で \(L\)(片方の辺のみ有効)。制動力は \(F = \dfrac{B^2L^2v_n}{R}\) であるから、1回の通過で失われるエネルギーは:

$$\Delta K_n = F \cdot L = \frac{B^2L^2v_n}{R} \cdot L = \frac{B^2L^3v_n}{R}$$

ここで重要なのは、ダイオードがあるため進入時か退出時の一方でしか制動力が働かないこと。速度 \(v_n\) が通過中にほとんど変わらないと近似すると(\(\Delta K_n \ll K_n\)):

$$K_{n+1} = K_n - \Delta K_n = K_n - \frac{B^2L^3}{R} \cdot v_n$$

\(v_n = \sqrt{2K_n/m}\) なので、\(\Delta K_n\) は \(\sqrt{K_n}\) に比例する。しかし、\(\Delta K_n \ll K_n\) の近似のもとでは \(v_n\) はほぼ一定とみなせ、各通過で同程度のエネルギーが失われるため、\(K_n\) は \(n\) に対してほぼ直線的に減少する。

答え:
\(K_n\) は通過回数 \(n\) に対して直線的に減少するグラフ(ア)を選ぶ。
各通過で失われるエネルギーが \(\Delta K \fallingdotseq \dfrac{B^2L^3v}{R}\)(ほぼ一定)であるため。
補足:なぜ指数関数的ではないか

抵抗のみの回路(ダイオードなし)で導体棒が連続的に動く場合は、\(F \propto v\) から速度が指数関数的に減衰する(\(v \propto e^{-t/\tau}\))。しかし本問では:

  • コイルは楕円軌道を周回し、離散的に磁場領域を通過する
  • ダイオードにより片方の通過でのみ制動力が作用する
  • 各通過時間は短く、通過中の速度変化は小さい

このため、1回あたりのエネルギー損失 \(\Delta K\) はほぼ一定となり、\(K_n\) は等差数列的に減少する。

Point

ダイオード回路では、連続的な指数減衰ではなく離散的な等差減少になる。これは各通過で失われるエネルギーがほぼ一定であることに起因する。問題文の「\(\Delta K_n \ll K_n\)」の条件が、\(v_n \fallingdotseq \text{const.}\) の近似を正当化している。

II-(5) n 回通過後の速度の表式

直感的理解
ダイオードと電池がある場合、コイルが磁場を通過するときの回路には電池の起電力 \(V\) も加わる。誘導起電力が電池の起電力を超えたときのみ電流が流れ、制動力が作用する。電池がない場合との違いを比較して理解しよう。

ダイオード+電池回路での電流:ダイオードにより電流は一方向にのみ流れる。誘導起電力 \(\varepsilon = BLv\) が電池の起電力 \(V\) を超えるときのみ電流が流れる:

$$I = \frac{BLv_n - V}{R} \quad (\text{ただし } BLv_n > V \text{ のとき})$$

制動力:

$$F_n = BIL = \frac{BL(BLv_n - V)}{R}$$

\(n\) 回目の通過で磁場境界を横切る距離は \(L\) であるから、エネルギー損失は:

$$\Delta K_n = F_n \cdot L = \frac{BL^2(BLv_n - V)}{R}$$

\(n+1\) 回目の速度は運動エネルギーの関係から:

$$\frac{1}{2}mv_{n+1}^2 = \frac{1}{2}mv_n^2 - \frac{BL^2(BLv_n - V)}{R}$$
答え:
$$v_{n+1}^2 = v_n^2 - \frac{2BL^2(BLv_n - V)}{mR}$$

ただし \(BLv_n > V\) の場合。\(BLv_n \leq V\) のときは \(v_{n+1} = v_n\)(電流が流れないため減速しない)。

補足:最終速度(定常状態)

十分多くの通過後、\(v_n\) が \(V/(BL)\) に近づくと電流がほぼゼロになり、制動力も消失する。したがって最終速度は:

$$v_\infty = \frac{V}{BL}$$

これは誘導起電力が電池の起電力と釣り合う速度であり、この速度以下では電流が流れない。物理的には、電池がコイルの減速に「底」を設けている。

Point

電池+ダイオード回路のポイントは2つ:(1) \(\varepsilon > V\) でないと電流が流れない(閾値がある)、(2) 電流が流れるときの正味の起電力は \(\varepsilon - V = BLv - V\)。これにより速度は \(V/(BL)\) まで下がると減速が止まる。

III-(1) 2コイル系の端子電圧

直感的理解
2つの正方形コイルを持つカートが磁場を通過する。各コイルが異なる抵抗 \(R_1\), \(R_2\) を通じて接続されると、端子A-B間、C-D間の電圧は分圧の関係で決まる。コイルの誘導起電力を内部起電力、コイル自体の抵抗を無視すると、端子電圧は外部抵抗と内部抵抗の比で分配される。

回路解析:コイル1の起電力を \(\varepsilon_1 = BLv_1\)、コイル自体の抵抗を \(R\)、外部抵抗を \(R_1\) とすると、コイル1の回路に流れる電流は:

$$I_1 = \frac{\varepsilon_1}{R + R_1} = \frac{BLv_1}{R + R_1}$$

端子 A-B 間の電圧(\(R_1\) の両端電圧)は:

$$V_{AB} = R_1 I_1 = \frac{R_1 \cdot BLv_1}{R + R_1}$$

同様にコイル2について:

$$V_{CD} = R_2 I_2 = \frac{R_2 \cdot BLv_2}{R + R_2}$$
答え:
$$V_{AB} = \frac{R_1 \cdot BLv_1}{R + R_1}, \quad V_{CD} = \frac{R_2 \cdot BLv_2}{R + R_2}$$
補足:内部抵抗を含む起電力源としての見方

各コイルは「起電力 \(\varepsilon = BLv\)、内部抵抗 \(R\)」の電池とみなせる。端子電圧は:

$$V_{\text{端子}} = \varepsilon - IR = \varepsilon \cdot \frac{R_{\text{ext}}}{R + R_{\text{ext}}}$$

これは電池の端子電圧の公式と全く同じ形。内部抵抗が大きいほど端子電圧は低下する。

Point

各コイルを「内部抵抗 \(R\) の電池」とみなせば、端子電圧は分圧の公式で求まる。\(R_1 \to \infty\)(開放)なら \(V_{AB} \to \varepsilon_1 = BLv_1\)、\(R_1 = 0\)(短絡)なら \(V_{AB} = 0\)。

III-(2) 速度差 |v₁ - v₂| を最小にする R₁

直感的理解
2つのコイルがそれぞれ異なる制動力を受けると、速度差が生じる。\(R_1\) を調整することで制動力のバランスを変え、速度差を最小化できる。制動力は \(F \propto B^2L^2v/(R + R_\text{ext})\) なので、\(R_\text{ext}\) が大きいほど制動力は弱い。速度差を最小にするには、2つのコイルの制動力を等しくする必要がある。

問題設定:2つのコイルが同じカートに取り付けられ、それぞれ抵抗 \(R_1\), \(R_2\) を介して接続されている。コイルの内部抵抗はともに \(R\)。磁場通過後の速度差 \(|v_1 - v_2|\) を最小にする \(R_1\) を求める。

各コイルの制動力:

$$F_1 = \frac{B^2L^2v}{R + R_1}, \quad F_2 = \frac{B^2L^2v}{R + R_2}$$

初期速度が同じ \(v\) のとき、1回の通過で各コイルの速度変化は制動力に比例する(制動力は \(x\) 方向のみ有効)。速度差は:

$$|v_1 - v_2| \propto |F_1 - F_2| = B^2L^2v \left|\frac{1}{R + R_1} - \frac{1}{R + R_2}\right|$$

速度差を最小(ゼロ)にするには:

$$\frac{1}{R + R_1} = \frac{1}{R + R_2} \quad \Rightarrow \quad R_1 = R_2$$

問題で \(R_2 = R\) が与えられている場合:

$$R_1 = R$$
答え:
$$\boxed{R_1 = R}$$

2つのコイルの制動力を等しくするには、外部抵抗を等しくする(\(R_1 = R_2\))。

別解:端子電圧の一致条件からの導出

速度差が最小ということは、各コイルに作用する力のインパルスが等しいということ。別の視点として、端子電圧を等しくする条件を考える:

$$V_{AB} = V_{CD} \quad \Rightarrow \quad \frac{R_1}{R + R_1} = \frac{R_2}{R + R_2}$$

これを解くと \(R_1 = R_2\) が得られる。端子電圧が等しいとき、回路全体のエネルギー散逸のバランスが取れ、速度差が最小になる。

補足:R₁ ≠ R₂ のときの物理的意味

\(R_1 > R_2\) のとき:コイル1の回路は電流が小さく制動力が弱い → コイル1側が速くなる。

\(R_1 < R_2\) のとき:コイル1の回路は電流が大きく制動力が強い → コイル1側が遅くなる。

\(R_1 = R_2\) のとき:両コイルの制動力が等しく、速度差ゼロ。

これは工学的には「インピーダンスマッチング」の概念と類似している。

Point

速度差を最小にする条件は \(R_1 = R_2\)(制動力の一致条件)。外部抵抗を等しくすると、各コイルが磁場から受ける制動力が等しくなり、速度差がゼロになる。この結果はコイルの内部抵抗 \(R\) の値によらない(\(R\) が同じなら)。