ゴム膜の「膜張力」(表面張力と同じ性質)を題材に、風船の内圧を求め、2 つの風船をつないだときの気体の移動と熱力学的な安定性を考える問題です。シャボン玉の物理(ヤング・ラプラスの式)が背景にあります。
立式:液体は非圧縮なので、ピストンが押し込んだ体積はそのまま風船の体積増加 $\Delta V$ になる。半径が $r$ から $r+\Delta r$ に変わるとき、球の体積 $V=\dfrac{4}{3}\pi r^3$ の変化は($\Delta r$ の 1 次まで)
$$\Delta V = \frac{4}{3}\pi\,(r+\Delta r)^3 - \frac{4}{3}\pi r^3 \fallingdotseq 4\pi r^2\,\Delta r$$ピストンにはたらく圧力:ピストンの内側(液体側)には圧力 $p$、外側(大気側)には $p_0$ がかかる。ゆっくり(準静的に)押すので、押し手が出す力は圧力差 $(p-p_0)$ に対応する。よってピストンがする仕事 $W_1$ は、
$$W_1 = (p - p_0)\,\Delta V$$結果:$\Delta V = 4\pi r^2\,\Delta r$ を代入して、
$$W_1 = (p - p_0)\cdot 4\pi r^2\,\Delta r = 4\pi r^2 (p - p_0)\,\Delta r$$ピストンの断面積を $A$、押し込む距離を $\ell$ とすると $\Delta V = A\ell$。押し手が出すべき力は、内側からの $pA$ を押し返す分から、外側の大気が手伝ってくれる $p_0 A$ を差し引いた $(p-p_0)A$。よって仕事は $(p-p_0)A\cdot\ell=(p-p_0)\Delta V$。大気が「背中を押してくれる」効果を忘れないこと。
準静的過程での仕事は「圧力 × 体積変化」。今回は移動するピストンの両側に圧力がかかるので、有効な圧力は差 $(p-p_0)$ になる。$\Delta r$ の 2 次以上を無視すれば $\Delta V=4\pi r^2\Delta r$。
立式:球の表面積は $S=4\pi r^2$。半径が $r\to r+\Delta r$ に変わるときの面積の増分は($\Delta r$ の 1 次まで)
$$\Delta S = 4\pi(r+\Delta r)^2 - 4\pi r^2 \fallingdotseq 8\pi r\,\Delta r$$代入:定義 $\Delta W = \sigma\,\Delta S$ にこれを代入すると、表面積を広げるのに要する仕事 $W_2$ は、
$$W_2 = \sigma\,\Delta S = \sigma\cdot 8\pi r\,\Delta r$$結果:
$$W_2 = 8\pi\sigma r\,\Delta r$$$S=4\pi r^2$ の微小変化は $\Delta S \fallingdotseq 8\pi r\,\Delta r$。$\Delta(r^2)\fallingdotseq 2r\,\Delta r$ を使うと速い。膜には内外 2 面があるが、本問は係数 $\sigma$ が「膜全体の面積増分あたりの仕事」として与えられているので、$S=4\pi r^2$ をそのまま使う。
スライダーで半径 $r$ を変えると、内圧 $p=p_0+2\sigma/r$ の大小が変わる様子を確認できる。
立式:条件より、ピストンの仕事 $W_1$(設問(1))がすべて表面積を広げる仕事 $W_2$(設問(2))に変換される。よって、
$$W_1 = W_2$$代入:$W_1 = 4\pi r^2(p-p_0)\,\Delta r$、$W_2 = 8\pi\sigma r\,\Delta r$ を代入すると、
$$4\pi r^2 (p - p_0)\,\Delta r = 8\pi\sigma r\,\Delta r$$途中計算:両辺を $4\pi r\,\Delta r$($\neq 0$)で割ると、
$$r\,(p - p_0) = 2\sigma$$$p$ について解いて、
$$p = p_0 + \frac{2\sigma}{r}$$半径 $r$ が小さいほど内圧 $p$ は高い($\propto 1/r$)。これがヤング・ラプラスの式。
風船を赤道面で上下半球に切り分けて考える。断面(半径 $r$ の円)にはたらく力のつり合いは、
・内外の圧力差が断面を押し開く力:$(p - p_0)\cdot \pi r^2$
・膜張力が断面の円周に沿って引き戻す力:膜張力の線密度は $\sigma$([力/長さ])なので、円周 $2\pi r$ に沿って $\sigma\cdot 2\pi r$。
つり合いより、
$$(p - p_0)\,\pi r^2 = \sigma\cdot 2\pi r \;\;\Rightarrow\;\; p = p_0 + \frac{2\sigma}{r}$$仕事の収支とまったく同じ式が得られる。シャボン玉では膜が内外 2 面あるので $4\sigma/r$ になるが、本問の $\sigma$ の定義では $2\sigma/r$。
内圧 $p=p_0+2\sigma/r$ は半径に反比例する。「小さい風船ほど内圧が高い」という、直感に反するこの関係が、設問Ⅱ以降のすべての鍵になる。
立式:各風船の内圧は設問Ⅰ(3)より、
$$p_\mathrm{A} = p_0 + \frac{2\sigma}{r_\mathrm{A}}, \qquad p_\mathrm{B} = p_0 + \frac{2\sigma}{r_\mathrm{B}}$$大小の比較:$r_\mathrm{A} < r_\mathrm{B}$ なので $\dfrac{1}{r_\mathrm{A}} > \dfrac{1}{r_\mathrm{B}}$。$\sigma>0$ だから、
$$p_\mathrm{A} > p_\mathrm{B}$$気体は圧力の高い A から低い B へ移る。すると A はさらに縮んで内圧がいっそう上がり、B はふくらんで内圧が下がる。圧力差は広がる一方で平衡に戻れない。したがって A は最後までしぼみきり、B だけに気体が集まる。
ア = ②(小さい):気体は半径の小さい風船からもう一方へ移る。
イ = ④(他方はしぼみきっている):十分時間が経つと、片方が半径 $r_\mathrm{C}$、もう一方はしぼみきる。
下線部の理由:内圧は $p=p_0+2\sigma/r$ で半径に反比例するため、半径の小さい風船ほど内圧が高い。よって気体は半径の小さい風船から大きい風船へ流れ、小さい風船はさらに縮んで内圧が上がり続け、平衡に戻らずしぼみきってしまうから。
「大きい風船のほうが圧力が高そう」という直感は誤り。$p\propto 1/r$ なので小さいほど高圧。2 つつなぐと小さい方が一方的にしぼみ、大きい方だけが生き残る(不安定平衡)。
気体は A・B の 2 つから、最終的に半径 $r_\mathrm{C}$ の 1 つに集まる(等温)。
立式:温度一定なので、気体全体について $pV$ の総和が保存する(ボイルの法則)。各量は
$$p_\mathrm{A}=p_0+\frac{2\sigma}{r_\mathrm{A}},\quad V_\mathrm{A}=\frac{4}{3}\pi r_\mathrm{A}^3,\quad p_\mathrm{B}=p_0+\frac{2\sigma}{r_\mathrm{B}},\quad V_\mathrm{B}=\frac{4}{3}\pi r_\mathrm{B}^3$$最終状態は半径 $r_\mathrm{C}$ の風船 1 つ(他方は体積ゼロ):
$$p_\mathrm{C}=p_0+\frac{2\sigma}{r_\mathrm{C}},\quad V_\mathrm{C}=\frac{4}{3}\pi r_\mathrm{C}^3$$ボイルの法則($pV$ 保存):
$$p_\mathrm{A}V_\mathrm{A} + p_\mathrm{B}V_\mathrm{B} = p_\mathrm{C}V_\mathrm{C}$$代入:共通の $\dfrac{4}{3}\pi$ を約分して、
$$\left(p_0+\frac{2\sigma}{r_\mathrm{A}}\right)r_\mathrm{A}^3 + \left(p_0+\frac{2\sigma}{r_\mathrm{B}}\right)r_\mathrm{B}^3 = \left(p_0+\frac{2\sigma}{r_\mathrm{C}}\right)r_\mathrm{C}^3$$途中計算:各項を展開すると($\dfrac{2\sigma}{r}\cdot r^3 = 2\sigma r^2$)、
$$p_0 r_\mathrm{A}^3 + 2\sigma r_\mathrm{A}^2 + p_0 r_\mathrm{B}^3 + 2\sigma r_\mathrm{B}^2 = p_0 r_\mathrm{C}^3 + 2\sigma r_\mathrm{C}^2$$$p_0$ の項と $\sigma$ の項に整理して、
$$p_0\left(r_\mathrm{A}^3 + r_\mathrm{B}^3 - r_\mathrm{C}^3\right) = 2\sigma\left(r_\mathrm{C}^2 - r_\mathrm{A}^2 - r_\mathrm{B}^2\right)$$$\sigma$ について解いて、
$$\sigma = \frac{p_0\left(r_\mathrm{A}^3 + r_\mathrm{B}^3 - r_\mathrm{C}^3\right)}{2\left(r_\mathrm{C}^2 - r_\mathrm{A}^2 - r_\mathrm{B}^2\right)}$$気体が 1 つの風船に集まると体積は増えるので $r_\mathrm{C}^3 > r_\mathrm{A}^3+r_\mathrm{B}^3$ ではなく、実際には等温で圧力が下がりつつ体積が増える。$\sigma>0$ が成り立つように、分子・分母は同符号(ともに負)になる。具体的には $r_\mathrm{C}^2 < r_\mathrm{A}^2+r_\mathrm{B}^2$ かつ $r_\mathrm{C}^3 > r_\mathrm{A}^3+r_\mathrm{B}^3$ が成り立つ範囲で物理的に意味を持つ。
等温変化はボイルの法則 $\sum pV = $ 一定。$p$ に $p_0+2\sigma/r$、$V$ に $\frac{4}{3}\pi r^3$ を代入し、$\frac{4}{3}\pi$ を約分してから $p_0$ の項と $\sigma$ の項を分離するのが計算の要。
スライダーで $r_\mathrm{D}$ を動かす。内圧 $p(r)$ は $r=1.5r_0$ で最大。$r_\mathrm{D}>1.5r_0$(右下がり領域)だと不安定になる。
立式:半径依存する係数 $\sigma(r)=a\dfrac{r-r_0}{r^2}$ を内圧の式に代入する。
$$p(r) = p_0 + \frac{2\sigma(r)}{r} = p_0 + \frac{2a(r-r_0)}{r^3}$$安定性の判定:2 つの風船が等しい半径 $r_\mathrm{D}$ でつり合っているとき、片方を $r_\mathrm{D}+\delta$、他方を $r_\mathrm{D}-\delta$ とわずかにずらす。気体は内圧の高い方から低い方へ動く。
「半径の異なる 2 つになった」=不安定だったので、条件は $p'(r_\mathrm{D})<0$。
途中計算:$p(r)=p_0 + 2a(r-r_0)r^{-3}$ を $r$ で微分すると、
$$p'(r) = 2a\frac{d}{dr}\!\left(r^{-2} - r_0 r^{-3}\right) = 2a\left(-2r^{-3} + 3r_0 r^{-4}\right) = \frac{2a\,(3r_0 - 2r)}{r^4}$$$p'(r_\mathrm{D})<0$ より($a>0,\ r_\mathrm{D}^4>0$)、
$$3r_0 - 2r_\mathrm{D} < 0 \;\;\Rightarrow\;\; r_\mathrm{D} > \frac{3}{2}r_0$$内圧 $p(r)$ が最大となる半径 $r=\frac{3}{2}r_0$ より大きい(右下がりの領域)とき、等半径のつり合いは不安定になる。
$p(r)-p_0 = 2a\dfrac{r-r_0}{r^3}$。これが最大になる $r$ を、相加・相乗平均などで評価することもできるが、$g(r)=\dfrac{r-r_0}{r^3}$ の微分 $g'(r)=\dfrac{3r_0-2r}{r^4}$ がゼロになる $r=\frac{3}{2}r_0$ が極大(その前後で $g'$ が正→負)であることを確認すれば十分。$r<\frac32 r_0$ で右上がり(安定)、$r>\frac32 r_0$ で右下がり(不安定)。
つり合いの安定・不安定は「内圧の半径依存の傾き」で決まる。$p'(r)>0$ なら安定、$p'(r)<0$ なら不安定。内圧の最大点 $r=\frac32 r_0$ が安定/不安定の境目。
温度スライダーを上げると、大きい風船がさらにふくらみ、共通の内圧が下がる様子を確認できる。
立式:2 つの風船はつながっているので内圧は常に等しく、その共通の値を $p^\ast$ とする。各半径は $p(r)=p^\ast$ の解で、$p(r)=p_0+\dfrac{2a(r-r_0)}{r^3}$ は $r=\frac32 r_0$ で最大値をもつ山型の関数だから、同じ $p^\ast$ に対し
温度を上げると:気体の総体積を増やすには、体積が大きく支配的な大きい風船 $r_2$ を成長させるのが効く。$r_2$ は右下がり領域にあるので、$r_2$ が増えるためには共通内圧 $p^\ast$ が下がる必要がある。
このとき小さい風船 $r_1$ は、右上がり領域なので $p^\ast$ が下がると $r_1$ も小さくなり、$r_0$ に近づいてさらにしぼむ。結局、大きい方がふくらみ、小さい方がしぼみ、全体としては体積が増え(温度上昇と整合)、共通の内圧 $p^\ast$ は低くなる。
風船の内圧は低くなった。
理由:2 つの風船は内圧が等しく、小さい方は内圧の右上がり領域、大きい方は右下がり領域にある。温度上昇で気体の総体積が増えるとき、体積を増やす主役は大きい風船である。大きい風船は半径が増えると内圧が下がる領域にいるので、その半径が増える=共通の内圧が下がる。よって内圧は低くなる。
等しい内圧 $p^\ast$ のもとで総体積 $V_{\rm tot}(p^\ast)=\frac43\pi(r_1^3+r_2^3)$。$p^\ast$ を下げると $r_2$ が大きく増えるので $V_{\rm tot}$ は増加する($r_1$ の減少分より $r_2$ の増加分が勝つ)。気体の状態方程式 $p^\ast V_{\rm tot}=nRT$ で右辺 $T$ が増えるとき、左辺は $V_{\rm tot}$ 増・$p^\ast$ 減で整合する。圧力が下がっても体積がそれ以上に増えれば $p^\ast V_{\rm tot}$ は増えうる。
つながった 2 風船は内圧が共通。温度上昇では「大きい風船(右下がり領域)が膨張を担う」→「その膨張には内圧低下が必要」→内圧は下がる。直感の「温めたら圧力が上がる」を鵜呑みにしないこと。
横軸が温度、縦軸が半径。高温側で 2 本に分かれ、低温側で $r=\frac32 r_0$($>r_0$)に合流する=図 3-4 の⑥。
立式・考え方:設問Ⅲ(2)の結果を逆にたどる。温度を下げると共通内圧 $p^\ast$ は上がり、$p^\ast$ が最大値 $p\!\left(\frac32 r_0\right)$ に近づく。同じ内圧に対応する 2 つの半径(小さい方 $r_1$ と大きい方 $r_2$)は、
$$p^\ast \to p\!\left(\tfrac32 r_0\right) \quad\text{のとき}\quad r_1 \to \tfrac32 r_0,\;\; r_2 \to \tfrac32 r_0$$すなわち温度を下げると、大きい風船は縮み、小さい風船はふくらみ、両者は $r=\frac32 r_0$ で合流する。合流する半径 $\frac32 r_0$ は $r_0$ より大きい。一方、温度を上げると 2 本は離れていく(大きい方は急増、小さい方は $r_0$ へ漸近)。
グラフの特徴:
この「低温で合流・高温で分岐、合流点は $r_0$ より上」を満たすのは図 3-4 の⑥。
図 3-4 の ⑥
低温側で 2 つの半径が $r=\frac32 r_0$($>r_0$)で合流し、高温になるほど上下に分岐する形。
・①③⑤:2 曲線が合流せず、全温度域で分かれたまま → 「Ⅲ(1)で分裂したが、温度を下げれば等半径に戻る」性質を表せない。
・②:両曲線が低温で $r_0$ 付近に集まる → 合流点が $r_0$ になってしまい、合流半径が $\frac32 r_0\,(>r_0)$ である事実と矛盾。
・④:合流はするが、合流点が $r_0$ のすぐ上で、かつ高温側の分岐の形(小さい方が一度ふくらんでから $r_0$ へ戻る)が物理と合わない。
・⑥:低温で 1 点合流($r_0$ より明確に上)、高温で上枝が急増・下枝が $r_0$ へ漸近 → 本問の振る舞いに一致。
内圧 $p(r)$ が $r=\frac32 r_0$ で最大であることがすべての鍵。「同じ圧力に半径が 2 つ対応する(山の左右)」→ 温度低下で圧力が頂点へ近づくと 2 半径が頂点 $\frac32 r_0$ に合流する。グラフ問題は合流点の高さ($r_0$ か $\frac32 r_0$ か)で選択肢を切り分ける。