時刻 $t=0$ に音源は原点 O($x=0$)にあります。この瞬間に発せられた音波は、空気に対して速さ $V$ で $x$ 軸正方向へ伝わります。波面の速さは音源の運動によって変わりません。
点 P は $x=L$ にあるので、波面が距離 $L$ を進むのに要する時間は:
$$t_1 = \frac{(\text{距離})}{(\text{速さ})} = \frac{L}{V}$$数値で確認:$V = 340$ m/s、$L = 170$ m とすると
$$t_1 = \frac{170}{340} = 0.50\;\text{s}$$このとき音源(速さ $v_{\mathrm s} = 20$ m/s と仮定)は $x = v_{\mathrm s} t_1 = 20 \times 0.50 = 10$ m の位置にいます。波面の方がずっと先に進んでいることがわかります。
音波は媒質(空気)を伝わる力学的波動です。いったん放出された波面の進む速さは、媒質に対して一定($V$)で、音源のその後の運動には依存しません。これは光(電磁波)が観測者に対して常に $c$ で進むのとは異なる性質です。音源の運動が効いてくるのは「波長」であって「波速」ではない、というのがドップラー効果の核心です。
音波の速さ $V$ は媒質に対して一定。音源の速度には依存しない。ドップラー効果は「波長の変化」であって「波速の変化」ではない。
音源が速さ $v_{\mathrm s}$ で P に近づきながら振動数 $f_0$ の音を出すと、P 方向の波長は圧縮されます。音源が 1 周期 $T_0 = 1/f_0$ の間に $v_{\mathrm s} T_0$ だけ前進するので、前方の波長は
$$\lambda' = \frac{V}{f_0} - \frac{v_{\mathrm s}}{f_0} = \frac{V - v_{\mathrm s}}{f_0}$$P で観測される振動数は、波速を観測波長で割って
$$f' = \frac{V}{\lambda'} = \frac{V}{V - v_{\mathrm s}} f_0$$P で位相が $2\pi$ 変化するのに要する時間は、観測される 1 周期 $T' = 1/f'$ なので
$$T' = \frac{1}{f'} = \frac{V - v_{\mathrm s}}{V f_0}$$数値で確認:$V = 340$ m/s、$v_{\mathrm s} = 20$ m/s、$f_0 = 440$ Hz とすると
$$f' = \frac{340}{340 - 20} \times 440 = \frac{340}{320} \times 440 \fallingdotseq 468\;\text{Hz}$$ $$T' = \frac{1}{468} \fallingdotseq 2.1 \times 10^{-3}\;\text{s}$$静止時の周期 $T_0 = 1/440 \fallingdotseq 2.3 \times 10^{-3}$ s より短くなっています。
音源が位置 $x$ で 1 つの波面を、その 1 周期後(位置 $x + v_{\mathrm s}/f_0$)に次の波面を発するとします。P($x=L$)に到達する時刻はそれぞれ
$$\frac{L - x}{V}\;(\text{に発した時刻 }t\text{ を足す})\quad\text{と}\quad \frac{L - x - v_{\mathrm s}/f_0}{V}\;(\text{に }t + 1/f_0\text{ を足す})$$到達時刻の差をとると、$P$ で 1 波長分が通り過ぎる時間 $T'$ は
$$T' = \frac{1}{f_0} + \frac{(-x) - (- x - v_{\mathrm s}/f_0)}{V}\times(-1) = \frac{1}{f_0}\left(1 - \frac{v_{\mathrm s}}{V}\right) = \frac{V - v_{\mathrm s}}{V f_0}$$波長から求めた結果と一致します。
「位相が $2\pi$ 変化する時間」=「観測される 1 周期 $T'$」。音源が近づくと $f'$ が上がり $T'$ は短くなる。$v_{\mathrm s} \to V$ で $T' \to 0$(衝撃波)、$v_{\mathrm s} = 0$ で $T' = 1/f_0$。
観測者は音源と同じ位置にいて、ともに速さ $v_{\mathrm s}$ で +x 方向(反射板 P に近づく向き)に動きます。聞こえる音は次の 2 つです。
(a) 直接音:観測者は音源そのものの位置にいるので、音源が出している振動数 $f_0$ をそのまま聞きます。
(b) 反射音:2 段階のドップラーで考えます。
まず、静止した反射板 P が受ける振動数は、I-(2) と同じく音源が近づく効果で
$$f_{\mathrm P} = \frac{V}{V - v_{\mathrm s}} f_0$$反射板はこの $f_{\mathrm P}$ で音を再放出します(静止した 2 次音源)。この音は −x 方向へ戻り、観測者は速さ $v_{\mathrm s}$ でその音源(反射板)に近づく観測者として受けるので
$$f_2 = \frac{V + v_{\mathrm s}}{V} \cdot f_{\mathrm P} = \frac{V + v_{\mathrm s}}{V} \cdot \frac{V}{V - v_{\mathrm s}} f_0 = \frac{V + v_{\mathrm s}}{V - v_{\mathrm s}} f_0$$うなりの振動数は直接音 $f_0$ と反射音 $f_2$ の差:
$$f_{\mathrm{beat}} = |f_2 - f_0| = \left(\frac{V + v_{\mathrm s}}{V - v_{\mathrm s}} - 1\right) f_0 = \frac{2 v_{\mathrm s}}{V - v_{\mathrm s}} f_0$$数値で確認:$V = 340$、$v_{\mathrm s} = 20$、$f_0 = 440$ Hz のとき
$$f_2 = \frac{360}{320} \times 440 = 495\;\text{Hz},\qquad f_{\mathrm{beat}} = 495 - 440 = 55\;\text{Hz}$$ $$\text{検算:}\;\frac{2 \times 20}{340 - 20} \times 440 = \frac{40}{320} \times 440 = 55\;\text{Hz}\;\checkmark$$反射板は入射波の山と谷をそのまま跳ね返すので、反射板が受けた振動数 $f_{\mathrm P}$ で音を出す静止音源とみなせます。したがって反射の問題は必ず「音源 → 反射板」「反射板 → 観測者」の 2 回のドップラーに分解できます。$v_{\mathrm s} \ll V$ のときは $f_{\mathrm{beat}} \fallingdotseq \dfrac{2 v_{\mathrm s}}{V} f_0$ と近似できます。
反射ドップラーは 2 段階。動く音源と動く観測者の効果を順に掛け合わせて $f_2 = \dfrac{V + v_{\mathrm s}}{V - v_{\mathrm s}} f_0$。うなりは差 $f_2 - f_0$。
Q($x=L/2$)の観測者は静止しています。聞こえる 2 つの音を分けて考えます。
直接音 $f_1$:音源が Q に近づきながら出す音。音源が Q より手前($x < L/2$)にいる間は「近づく音源」なので
$$f_1 = \frac{V}{V - v_{\mathrm s}} f_0$$しかし音源が Q を通り過ぎると($x > L/2$)、こんどは「遠ざかる音源」になり
$$f_1' = \frac{V}{V + v_{\mathrm s}} f_0$$反射音 $f_2$:音源が反射板 P に近づきながら出す音を、静止反射板 P が受ける振動数は $\dfrac{V}{V - v_{\mathrm s}} f_0$。反射板はこれを静止 2 次音源として再放出し、−x 方向へ進む。Q は静止しているので追加のシフトはなく
$$f_2 = \frac{V}{V - v_{\mathrm s}} f_0$$反射音は音源が P に到達するまで(つまり Q 通過後もしばらく)この振動数で届きます。
うなりが始まる時刻:音源が Q の手前にいる間は $f_1 = f_2 = \dfrac{V}{V-v_{\mathrm s}} f_0$ で差がゼロ → うなりなし。音源がちょうど Q($x=L/2$)を通過した瞬間に出した直接音が Q に届くと、直接音が $f_1'$(遠ざかる)に切り替わり、うなりが始まります。音源が $x=L/2$ に達する時刻は
$$t = \frac{L/2}{v_{\mathrm s}} = \frac{L}{2 v_{\mathrm s}}$$このとき音源は Q と同じ位置なので、その直接音は遅れなく Q に届きます。よってうなり開始時刻は $\dfrac{L}{2 v_{\mathrm s}}$。(問題の条件「O 通過時に反射波はすでに O に到達」により、反射音はこの時刻には Q に十分届いています。)
うなりの振動数:音源通過後の直接音 $f_1'$ と反射音 $f_2$ の差をとると
$$f_{\mathrm{beat}} = f_2 - f_1' = \frac{V}{V - v_{\mathrm s}} f_0 - \frac{V}{V + v_{\mathrm s}} f_0$$ $$= V f_0 \cdot \frac{(V + v_{\mathrm s}) - (V - v_{\mathrm s})}{(V - v_{\mathrm s})(V + v_{\mathrm s})} = \frac{2 V v_{\mathrm s}}{V^2 - v_{\mathrm s}^2} f_0$$音源が Q より手前にあるとき、直接音は「Q に近づく音源」、反射音は「P に近づく音源 → 静止反射板 → 静止 Q」で、どちらも音源が同じ $v_{\mathrm s}$ で近づく効果だけを受けるため、振動数が等しく $\dfrac{V}{V-v_{\mathrm s}}f_0$ になります。差がゼロなのでうなりは聞こえません。音源が Q を通過して初めて、直接音だけが「遠ざかる」側に変わり、振動数差(うなり)が生まれます。
$v_{\mathrm s} \ll V$ のときは $f_{\mathrm{beat}} \fallingdotseq \dfrac{2 v_{\mathrm s}}{V} f_0$ と近似でき、I-(3) の結果ともなめらかにつながります。
静止観測者では、音源が観測者を通過する瞬間に直接音のドップラーが「近づく↔遠ざかる」で切り替わる。うなりが「いつ始まるか」は、音源が観測者位置に達する時刻で決まる。
図 3-3(A) のチャープは $0<t<T$ で $f_{\mathrm A}(t) = \left(2 - \dfrac{t}{T}\right) f_1$($2f_1$ から $f_1$ へ減少)です。
観測者は音源のすぐ近くにいるので、ある時刻 $t$ に聞く 2 つの音は:
反射板が $x=L_0$ に静止しているので、音波が O → 反射板 → O と往復する時間は
$$\tau = \frac{2 L_0}{V}$$うなりの振動数は 2 つの音の振動数差。チャープ(A)は傾き $-\dfrac{f_1}{T}$ の直線なので
$$f_{\mathrm h} = \left| f_{\mathrm A}(t) - f_{\mathrm A}(t - \tau) \right| = \left| -\frac{f_1}{T}\,t - \left(-\frac{f_1}{T}(t - \tau)\right) \right| = \frac{f_1}{T}\,\tau$$$\tau = \dfrac{2 L_0}{V}$ を代入すると
$$f_{\mathrm h} = \frac{f_1}{T} \cdot \frac{2 L_0}{V} = \frac{2 L_0 f_1}{V T}$$これを $L_0$ について解いて
$$L_0 = \frac{f_{\mathrm h} V T}{2 f_1}$$数値で確認:$f_{\mathrm h}=1.0\times10^2$ Hz、$f_1=3.0\times10^4$ Hz、$T=0.60$ s、$V=3.4\times10^2$ m/s なら
$$L_0 = \frac{100 \times 340 \times 0.60}{2 \times 30000} = \frac{20400}{60000} = 0.34\;\text{m}$$振動数が一定なら直接音と反射音は同じ振動数でうなりは生じません。チャープでは、反射音は「少し前の振動数」を持って戻ってくるため、今の直接音とのあいだに一定の振動数差ができ、その差がうなり振動数になります。差は「チャープの傾き × 往復遅れ」で決まり、遅れ=距離の情報をうなりが運んでくるのです(FMCW レーダーや超音波距離計と同じ原理)。
静止反射板+チャープでは、うなり振動数 =(チャープの傾き)×(往復時間 $2L_0/V$)。距離 $L_0$ がうなりの大きさに直結する。
$t=0$ に音源が出す音の振動数は $f_{\mathrm A}(0) = 2 f_1$。これが反射板(音源へ速さ $v_{\mathrm r}$ で接近)で反射されます。動く反射板の反射は 2 段階:
① 反射板が受ける振動数(反射板=音源 O に向かう動く観測者):
$$f' = \frac{V + v_{\mathrm r}}{V} \cdot 2 f_1$$② 反射板が再放出し、O が受ける振動数(反射板=O に近づく動く音源、O は静止観測者):
$$f'' = \frac{V}{V - v_{\mathrm r}} \cdot f' = \frac{V + v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}} \cdot 2 f_1$$戻ってくる時刻 $t_{\mathrm{A0}}$:$t=0$ の音が反射位置 $x=L_A$ まで行き(時間 $L_A/V$)、同じ距離を戻る(時間 $L_A/V$)ので
$$t_{\mathrm{A0}} = \frac{2 L_A}{V}$$そのときの直接音:$f_{\mathrm A}(t_{\mathrm{A0}}) = \left(2 - \dfrac{t_{\mathrm{A0}}}{T}\right) f_1 = \left(2 - \dfrac{2 L_A}{V T}\right) f_1$。
うなりの振動数は直接音と反射音の差:
$$f_{\mathrm h} = \left| \left(2 - \frac{2 L_A}{V T}\right) f_1 - \frac{V + v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}} \cdot 2 f_1 \right|$$$\dfrac{V + v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}} = 1 + \dfrac{2 v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}}$ を使い、反射音の方が大きいので絶対値を外すと
$$f_{\mathrm h} = 2 f_1 \left( \frac{2 v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}} + \frac{L_A}{V T} \right)$$うなりには 2 つの寄与があります。第 1 項 $\dfrac{2 v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}}$ は反射板が動くことによるドップラーシフト、第 2 項 $\dfrac{L_A}{V T}$ はチャープが往復時間 $2L_A/V$ のあいだに変化したぶんです。反射板が止まれば($v_{\mathrm r}=0$)第 1 項が消え、II-(1) の「$\dfrac{2L_0 f_1}{VT}$ 型」に戻ります($L_A=L_0$)。
動く反射板の反射は「動く観測者」→「動く音源」の 2 段ドップラー:$f'' = \dfrac{V + v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}} f_{\text{入射}}$。チャープによるうなりに、このドップラー分が上乗せされる。
増加チャープ(B)は $f_{\mathrm B}(t) = \left(1 + \dfrac{t}{T}\right) f_1$。$t = t_{\mathrm s}$($0<t_{\mathrm s}<T/2$)に出す音の振動数は
$$f_{\mathrm B}(t_{\mathrm s}) = \left(1 + \frac{t_{\mathrm s}}{T}\right) f_1$$反射音(O が受ける振動数):動く反射板の 2 段ドップラーで II-(2) と同じ係数 $\dfrac{V + v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}}$ が掛かり
$$f'' = \frac{V + v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}} \left(1 + \frac{t_{\mathrm s}}{T}\right) f_1$$戻り時刻 $t_{\mathrm B}$:$t_{\mathrm s}$ に出て、$x=L_B$ で反射し往復するので
$$t_{\mathrm B} = t_{\mathrm s} + \frac{2 L_B}{V}$$そのときの直接音:
$$f_{\mathrm B}(t_{\mathrm B}) = \left(1 + \frac{t_{\mathrm B}}{T}\right) f_1 = \left(1 + \frac{t_{\mathrm s}}{T} + \frac{2 L_B}{V T}\right) f_1$$うなりの振動数(差をとる):
$$f_{\mathrm h} = \left| f_{\mathrm B}(t_{\mathrm B}) - f'' \right| = f_1 \left| \left(1 + \frac{t_{\mathrm s}}{T} + \frac{2 L_B}{V T}\right) - \frac{V + v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}}\left(1 + \frac{t_{\mathrm s}}{T}\right) \right|$$$\dfrac{V + v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}} - 1 = \dfrac{2 v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}}$ を用いて整理すると
$$f_{\mathrm h} = f_1 \left| \frac{2 L_B}{V T} - \frac{2 v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}}\left(1 + \frac{t_{\mathrm s}}{T}\right) \right|$$(A) は減少チャープなので、往復遅れによる項とドップラーによる項が同じ向きに重なって足し算になりました(II-(2) は絶対値が外れて和)。(B) は増加チャープなので、往復遅れ(直接音が反射音より高くなる効果)とドップラー上乗せ(反射音を高くする効果)が逆向きに競合し、差として現れます。だから絶対値が残ります。この符号の違いが、次の II-(4) で 2 つのうなりの差をとると効いてきます。
チャープが増加か減少かで、往復遅れの寄与とドップラー寄与の足し引きの向きが変わる。立式手順(反射音の 2 段ドップラー → 戻り時刻 → 直接音との差)は (A)(B) 共通。
(A) と (B) を同時に発生させると、それぞれ反射波と干渉して 2 つのうなり $f_{\mathrm h}^{\mathrm A}$, $f_{\mathrm h}^{\mathrm B}$ が生じます。ある観測時刻 $t$ における各うなりを、II-(2)・II-(3) と同じ考え方で書きます。反射波が戻ってくる関係から、観測時刻 $t$ に届く反射波は時刻 $t_{\mathrm e}$ に発したもので
$$t_{\mathrm e} = \frac{V + v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}}\,t - (\text{定数項:}L_0\text{ を含む})$$反射音の振動数には係数 $k \equiv \dfrac{V + v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}}$ が掛かります。チャープを代入して各うなりの中身(絶対値の中)を $f_1$ でくくった式を $E_{\mathrm A}, E_{\mathrm B}$ と書くと、計算により
$$f_{\mathrm h}^{\mathrm A} = f_1 |E_{\mathrm A}|,\qquad f_{\mathrm h}^{\mathrm B} = f_1 |E_{\mathrm B}|$$ここで、$E_{\mathrm A}$ には傾き $-1$ のチャープ、$E_{\mathrm B}$ には傾き $+1$ のチャープが入るため、$t$ を含む項と $L_0$ を含む項が逆符号で現れます。実際、両者を足すと
$$E_{\mathrm A} + E_{\mathrm B} = 3(1 - k)$$のように $t$・$L_0$ がすべて相殺し、定数だけが残ります。(A) は減少チャープでドップラーと往復遅れが同符号 → $E_{\mathrm A}<0$、(B) は増加チャープで逆符号 → $E_{\mathrm B}>0$ となるので、差の絶対値は和に等しく
$$\Delta f_{\mathrm h} = \left| f_{\mathrm h}^{\mathrm A} - f_{\mathrm h}^{\mathrm B} \right| = f_1\bigl||E_{\mathrm A}| - |E_{\mathrm B}|\bigr| = f_1\,|E_{\mathrm A} + E_{\mathrm B}| = 3 f_1 (k - 1)$$$k - 1 = \dfrac{V + v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}} - 1 = \dfrac{2 v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}}$ を代入して
$$\Delta f_{\mathrm h} = 3 f_1 \cdot \frac{2 v_{\mathrm r}}{V - v_{\mathrm r}} = \frac{6 v_{\mathrm r} f_1}{V - v_{\mathrm r}}$$(A) と (B) は傾きの符号だけが逆の双子のチャープです。うなりに含まれる「往復遅れの効果」と「観測時刻でのチャープ値」は、傾きの符号が逆なら一方で $+$、他方で $-$ として現れます。一方、反射板が動くことによるドップラー上乗せは両方とも同じ向き(反射音を高くする)。したがって 2 つのうなりの差をとると、距離・時刻に依存する項は打ち消し合い、ドップラー項だけが 3 倍(係数の計算結果)で残ります。これにより、$L_0$ や $T$ や観測時刻を知らなくても $\Delta f_{\mathrm h}$ から $v_{\mathrm r}$ だけを取り出せる——という測定法になっています。
上り/下りの 2 本のチャープのうなりの差をとると、距離・時刻依存が相殺し、反射体の速度に比例する量 $\dfrac{6 v_{\mathrm r} f_1}{V - v_{\mathrm r}}$ だけが残る。FMCW レーダー/ソナーの速度計測の核心。
II-(4) の式を $v_{\mathrm r}$ について解きます。$\Delta f_{\mathrm h}(V - v_{\mathrm r}) = 6 v_{\mathrm r} f_1$ より
$$\Delta f_{\mathrm h}\,V = v_{\mathrm r}\,(6 f_1 + \Delta f_{\mathrm h})\quad\Rightarrow\quad v_{\mathrm r} = \frac{\Delta f_{\mathrm h}\,V}{6 f_1 + \Delta f_{\mathrm h}}$$与えられた値 $\Delta f_{\mathrm h} = 5.0 \times 10^2$ Hz、$f_1 = 3.0 \times 10^4$ Hz、$V = 3.4 \times 10^2$ m/s を代入:
$$v_{\mathrm r} = \frac{(5.0 \times 10^2)(3.4 \times 10^2)}{6 (3.0 \times 10^4) + 5.0 \times 10^2} = \frac{1.70 \times 10^5}{1.80 \times 10^5 + 5.0 \times 10^2}$$ $$= \frac{1.70 \times 10^5}{1.805 \times 10^5} = 0.9418\cdots\;\text{m/s}$$有効数字 2 桁で
$$v_{\mathrm r} \fallingdotseq 0.94\;\text{m/s}$$($T = 0.60$ s は最終式に現れず不要。$\Delta f_{\mathrm h} \ll 6 f_1$ なので $v_{\mathrm r} \fallingdotseq \dfrac{\Delta f_{\mathrm h} V}{6 f_1} = \dfrac{500 \times 340}{180000} \fallingdotseq 0.94$ m/s と近似しても同じ。)
分母の $\Delta f_{\mathrm h} = 5.0\times10^2$ Hz は $6 f_1 = 1.8\times10^5$ Hz に比べてわずか $0.28\%$。よって $V - v_{\mathrm r} \fallingdotseq V$ と近似してよく、$v_{\mathrm r} \fallingdotseq \dfrac{\Delta f_{\mathrm h} V}{6 f_1}$。この近似でも $\dfrac{1.70\times10^5}{1.80\times10^5} = 0.944 \fallingdotseq 0.94$ m/s となり、有効数字 2 桁では厳密値と一致します。物理的には、超音波($f_1 = 3\times10^4$ Hz)のチャープで、ゆっくり動く物体(秒速 1 m 弱)を検出できることを意味します。
$v_{\mathrm r} = \dfrac{\Delta f_{\mathrm h} V}{6 f_1 + \Delta f_{\mathrm h}}$。$\Delta f_{\mathrm h} \ll 6 f_1$ なら $v_{\mathrm r} \fallingdotseq \dfrac{\Delta f_{\mathrm h} V}{6 f_1}$。うなりの測定だけから反射体の速度がわかる。