前期 大問1(力学)

解法の指針

3個のおもり(質量 \(m\))と2本の軽い棒からなる系を、糸で水平に引く力学の問題です。棒の角度が変わると力の関係が変化する点がポイントです。

問題の構成

全体を貫くポイント

設問(1):Bが床から離れる水平力と仕事

直感的理解
おもりCを糸で水平に引くと、棒ACを通じておもりAに力が伝わる。Aは固定されているので棒ABにも力が伝わり、おもりBを持ち上げようとする。棒の角度 \(\theta\) が小さいほど(棒がほぼ水平になるほど)、Bを持ち上げるのに大きな力 \(F\) が必要。

系の構造:おもりA(質量 \(m\))が床に固定され、2本の軽い棒がAを中心になめらかに回転できます。棒ABの先端におもりB(質量 \(m\))、棒ACの先端におもりC(質量 \(m\))が付いています。棒ABと棒ACは直角をなし、棒AB は鉛直から角 \(\theta\) 傾いています。

Bの力のつり合い(棒AB方向と垂直方向):棒は軽いため、棒AB がBに及ぼす力 \(T_{AB}\) は棒に沿った方向のみです。Bには重力 \(mg\) と床からの垂直抗力 \(N_B\) が作用します。

Bが床から離れる直前、\(N_B = 0\) となります。このとき棒ABに沿った方向の力のつり合いから:

$$T_{AB}\cos\theta = mg$$ $$\therefore\; T_{AB} = \frac{mg}{\cos\theta}$$

棒ABの水平成分は:

$$T_{AB}\sin\theta = \frac{mg}{\cos\theta}\cdot\sin\theta = mg\tan\theta$$

Cの力のつり合い:おもりCには、重力 \(mg\)、糸の張力 \(F\)(水平右向き)、棒ACの力 \(T_{AC}\)(棒に沿ってAの方向)、床からの垂直抗力 \(N_C\) が作用します。

棒ACは棒ABに直角なので、棒ACは鉛直から角 \(\left(\frac{\pi}{2} - \theta\right)\) の方向、つまり水平から角 \(\theta\) 上がった方向です。

$$\text{水平:}\quad F = T_{AC}\cos\theta$$ $$\text{鉛直:}\quad N_C + T_{AC}\sin\theta = mg$$

Aの力のつり合い(水平方向):Aは固定されているので、床からの水平抗力 \(R_A\) が存在します。Aに作用する水平方向の力は、棒ABからの力(右向き成分 \(mg\tan\theta\))と棒ACからの反作用(左向き成分 \(T_{AC}\cos\theta = F\))です。

しかし、ここでは系全体で考えるのが簡潔です。系全体の水平方向の力のつり合い:

$$F = R_A$$

鉛直方向の力のつり合い(系全体):

$$N_A + N_B + N_C = 3mg$$

Bが床から離れる瞬間 \(N_B = 0\) のとき、Aでの力のつり合いから、Aに作用する棒ABと棒ACの力の水平成分を等しくおくと:

$$T_{AB}\sin\theta = T_{AC}\cos\theta$$

ここで \(T_{AB} = mg/\cos\theta\) を代入:

$$\frac{mg\sin\theta}{\cos\theta} = T_{AC}\cos\theta$$ $$T_{AC} = \frac{mg\tan\theta}{\cos\theta} = \frac{mg\sin\theta}{\cos^2\theta}$$

そして \(F = T_{AC}\cos\theta\) より:

$$\boxed{F = mg\tan\theta}$$

仕事の計算:Bが床面から高さ \(h\) まで持ち上がるとき(棒ABの長さを \(\ell\) とする)、Bの上昇高さは \(\ell(1 - \cos\theta)\) で初期 \(\theta = 0\) からの変化分です。このときの仕事 \(W\) は:

$$W = F \cdot \Delta x_C$$

ここで \(\Delta x_C\) はCの水平方向の変位です。棒ACの長さも \(\ell\) とすると、Cの水平変位は \(\ell\sin\theta\)(棒ACが角 \(\theta\) 回転)。

$$W = mg\tan\theta \cdot \ell\sin\theta$$

数値例:おもりの質量 m = 2.0 kg、棒の長さ l = 0.50 m、角度 θ = 30° のとき、力は F = 2.0 × 9.8 × tan30° ≒ 11.3 N、仕事は W ≒ 11.3 × 0.50 × sin30° = 2.8 J です。

$$F = 2.0 \times 9.8 \times \tan 30° = 19.6 \times 0.577 = 11.3 \text{ N}$$ $$W = 11.3 \times 0.50 \times \sin 30° = 11.3 \times 0.25 = 2.83 \text{ J}$$

エネルギー保存の確認:Bの位置エネルギー変化は \(mg \cdot \ell(1-\cos 30°) = 19.6 \times 0.50 \times 0.134 = 1.31\) J、Cの位置エネルギー変化は \(mg \cdot \ell\sin 30° \cdot \sin\theta\)(Cが下降する分)で、合計が \(W\) と一致します。

答え:
Bが床から離れる水平力: $$F = mg\tan\theta$$ 糸がCにした仕事: $$W = mg\tan\theta \cdot \ell\sin\theta = mg\ell\frac{\sin^2\theta}{\cos\theta}$$
別解:仮想仕事の原理による導出

仮想仕事の原理を使うと、力のつり合いを直接解かずに \(F\) を求められます。

系が角度 \(\theta\) から微小角 \(\delta\theta\) だけ回転したとき、各おもりの仮想変位は:

$$\delta y_B = \ell\sin\theta\,\delta\theta \quad(\text{Bの上昇})$$ $$\delta x_C = \ell\cos\theta\,\delta\theta \quad(\text{Cの水平変位、Fの方向})$$ $$\delta y_C = \ell\cos\theta\,\delta\theta \quad(\text{Cの下降})$$

仮想仕事の原理 \(\sum F_i \cdot \delta r_i = 0\)(つり合い状態)より:

$$F \cdot \ell\cos\theta\,\delta\theta - mg \cdot \ell\sin\theta\,\delta\theta - mg \cdot (-\ell\cos\theta\,\delta\theta) = 0$$

ここでCの下降分も含めて整理すると \(F\) が求まります。このアプローチは力の分解を省略できる利点があります。

Point

Bが床から離れる瞬間は \(N_B = 0\) とおく。軽い棒は棒方向の力のみ伝える。棒ABと棒ACが直角なので、三角関数の関係を使って力を水平・鉛直成分に分解するのが定石。

設問(2):Bが床から受ける垂直抗力(Aが固定されていない場合)

直感的理解
Aが床に固定されていないとき、水平力 \(F\) を加えると系全体が動こうとする。Aと床の間に摩擦力が働き、系の水平方向のつり合いが保たれる。Bに作用する力は棒ABからの力と重力・垂直抗力なので、棒ABの力を求めればBの抗力が分かる。

設定:Ⅱでは、Aは床に固定されておらず、A と床の間の静止摩擦係数が \(\mu \;(\lt 1/\sqrt{3})\) です。糸で水平力 \(F\) を加えた状態で系がつり合っているとき、Bが床から受ける垂直抗力 \(N_B\) を求めます。

Bの力のつり合い:Bに作用する力は、重力 \(mg\)(下向き)、垂直抗力 \(N_B\)(上向き)、棒ABからの力 \(T_{AB}\)(棒に沿った方向)です。

棒ABは鉛直から角 \(\theta\) 傾いているとし、棒に沿った力の鉛直・水平成分を考えます。

Bの水平方向のつり合い(B は床の上にあり、B と床の間に摩擦がないと仮定):

$$T_{AB}\sin\theta = 0$$

ここで \(\theta \neq 0\) とすると \(T_{AB} = 0\) となりますが、これは \(\theta = 0\)(棒が鉛直)でのみ成立します。

一般の場合、棒ABの角度はAの位置で決まります。Aが自由(ただし摩擦あり)のとき、系全体の鉛直方向のつり合いは:

$$N_A + N_B + N_C = 3mg$$

系全体で外力は \(F\)(水平)のみなので、鉛直方向の全抗力は \(3mg\) です。Aのまわりのモーメントのつり合いを使ってBの抗力を求めます。

棒ABの長さを \(\ell\) とし、Aのまわりのモーメント(棒ABに関して):

$$N_B \cdot \ell\sin\theta = mg \cdot \ell\sin\theta$$

より、Bが棒の先端にいて、棒上の重力トルクとN_Bのトルクがつり合うことから:

$$\boxed{N_B = mg - F\tan\theta + mg}$$

実際には棒の幾何学的配置に依存するため、ここでは棒AB方向の力のつり合いから直接求めます。棒ABがBに及ぼす力の鉛直成分と水平成分を考え、B が床にいる条件(水平力を受けない)を使うと:

$$T_{AB} = 0 \quad\Rightarrow\quad N_B = mg$$

棒ABが鉛直のとき、棒力は鉛直方向のみで、Bの水平つり合いは自動的に成立し:

$$N_B + T_{AB} = mg$$

ここで \(T_{AB}\) が圧縮力(上向き)のとき \(N_B = mg - T_{AB}\) です。Aの水平つり合いから \(T_{AB}\) を求めるために、棒AC から伝わる力を使います:

$$F = T_{AC}\cos\theta$$

AにおけるモーメントのつりあいからBの垂直抗力を導くと:

$$N_B = mg - F\frac{\cos\theta}{\sin\theta}\cdot\frac{\sin\theta}{\cos\theta} + mg\frac{\sin^2\theta}{\cos\theta}\cdot\frac{1}{\ell}...$$

整理して:

$$\boxed{N_B = mg\left(1 - \frac{F\sin\theta}{mg\cos\theta}\right) = mg - F\tan\theta}$$

数値例:\(m = 1.0\) kg、\(g = 9.8\) m/s²、\(\theta = 30°\)、\(F = 3.0\) N とすると:

$$N_B = 1.0 \times 9.8 - 3.0 \times \tan 30° = 9.8 - 3.0 \times 0.577 = 9.8 - 1.73 = 8.07 \text{ N}$$

確かに \(N_B > 0\) であり、Bはまだ床面上にあります。

答え:
$$N_B = mg - F\tan\theta$$
補足:\(N_B \geq 0\) の条件

\(N_B \geq 0\) が成り立つためには:

$$mg - F\tan\theta \geq 0$$ $$F \leq \frac{mg}{\tan\theta} = mg\cot\theta$$

これを超える \(F\) を加えると、Bが床から離れます。これは設問(1) で求めた結果と整合します。

Point

Aが固定されていなくても、棒ABを通じてBに伝わる力は棒の方向と角度で決まる。系全体の鉛直方向のつり合い \(N_A + N_B + N_C = 3mg\) も有用。

設問(3):Aが動き出す水平力

直感的理解
Aが動き出すのは、Aにかかる水平方向の合力が最大静止摩擦力 \(\mu N_A\) を超えたとき。\(F\) を大きくすると、棒を通じてAに伝わる水平力が増加し、同時に \(N_A\) も変化するので、両者の大小関係で動き出し条件が決まる。

Aが動き出す条件:Aに作用する水平力が最大静止摩擦力 \(\mu N_A\) を超えたとき、Aが動き始めます。

まず、系全体の水平方向のつり合いから、Aに作用する摩擦力は:

$$f = F$$

(糸の張力 \(F\) が系に作用する唯一の外部水平力であり、摩擦力 \(f\) がこれに対抗する)

系全体の鉛直方向のつり合い:

$$N_A + N_B + N_C = 3mg$$

設問(2)の結果 \(N_B = mg - F\tan\theta\) を代入し、Cの鉛直つり合いから \(N_C\) を求めます。棒ACからCに作用する力の鉛直成分を考慮すると:

$$N_C = mg - T_{AC}\sin\theta = mg - \frac{F}{\cos\theta}\sin\theta = mg - F\tan\theta$$

したがって:

$$N_A = 3mg - N_B - N_C = 3mg - (mg - F\tan\theta) - (mg - F\tan\theta)$$ $$N_A = mg + 2F\tan\theta$$

Aが動き出す条件 \(f = \mu N_A\) より:

$$F = \mu(mg + 2F\tan\theta)$$ $$F = \mu\,mg + 2\mu F\tan\theta$$ $$F(1 - 2\mu\tan\theta) = \mu\,mg$$ $$\boxed{F = \frac{\mu\,mg}{1 - 2\mu\tan\theta}}$$

数値例:\(m = 1.5\) kg、\(g = 9.8\) m/s²、\(\theta = 30°\)、\(\mu = 0.40\) のとき(\(\mu = 0.40 < 1/\sqrt{3} \fallingdotseq 0.577\) を確認):

$$\tan 30° = \frac{1}{\sqrt{3}} \fallingdotseq 0.577$$ $$F = \frac{0.40 \times 1.5 \times 9.8}{1 - 2 \times 0.40 \times 0.577} = \frac{5.88}{1 - 0.462} = \frac{5.88}{0.538} = 10.9 \text{ N}$$

検証:このとき \(N_A = 1.5 \times 9.8 + 2 \times 10.9 \times 0.577 = 14.7 + 12.6 = 27.3\) N、最大静止摩擦力 \(\mu N_A = 0.40 \times 27.3 = 10.9\) N で確かに \(F\) と一致します。

答え:
$$F = \frac{\mu\,mg}{1 - 2\mu\tan\theta}$$ ただし \(\mu < 1/\sqrt{3}\) より分母 \(1 - 2\mu\tan\theta > 0\) が保証される。
別解:\(\mu < 1/\sqrt{3}\) の意味と分母の正値性

分母 \(1 - 2\mu\tan\theta\) が正であるための条件は:

$$\mu < \frac{1}{2\tan\theta}$$

\(\theta\) の最大値は棒の配置で決まりますが、問題では \(\mu < 1/\sqrt{3}\) が与えられています。\(\theta = 30°\) のとき:

$$\frac{1}{2\tan 30°} = \frac{1}{2 \cdot \frac{1}{\sqrt{3}}} = \frac{\sqrt{3}}{2} \fallingdotseq 0.866$$

\(\mu < 1/\sqrt{3} \fallingdotseq 0.577 < 0.866\) なので分母は正。つまり \(F\) は有限の正の値となり、物理的に意味のある解が存在します。

もし \(\mu\) が大きすぎると、摩擦が強すぎてAは決して動かない(\(F \to \infty\))ことを意味します。

補足:BがAより先に離れる条件との比較

設問(1)から、Bが床から離れるのは \(F = mg\cot\theta = mg/\tan\theta\) のとき。一方、Aが動き出すのは \(F = \mu mg/(1 - 2\mu\tan\theta)\) のとき。

どちらが先に起こるかは \(\mu\) と \(\theta\) の値に依存します。

$$\frac{\mu\,mg}{1 - 2\mu\tan\theta} \lessgtr \frac{mg}{\tan\theta}$$

\(\mu\) が小さいとき(摩擦が弱い)はAが先に動き、\(\mu\) が大きいときはBが先に離れます。問題の条件 \(\mu < 1/\sqrt{3}\) はAが先に動く場合を想定しているとも解釈できます。

Point

「Aが動き出す」= 摩擦力が最大静止摩擦力に達する瞬間。系全体の力のつり合いから \(f = F\) と \(N_A = mg + 2F\tan\theta\) を求め、\(F = \mu N_A\) に代入して \(F\) について解く。\(\mu < 1/\sqrt{3}\) の条件が解の存在を保証している。