一輪車と搭乗者を剛体棒としてモデル化し、路面上の直線運動・円運動における摩擦力と加速度の関係を求める問題です。
剛体棒(一輪車+搭乗者)の運動方程式:
水平方向の力は路面からの静止摩擦力 $f$ のみ。鉛直方向は垂直抗力 $N$ と重力 $mg$ がつり合う。
$$ma = f, \quad N = mg$$車輪と路面の間ですべらない条件:静止摩擦力が最大静止摩擦力を超えないこと
$$f \leq \mu N = \mu mg$$$f = ma$ を代入すると:
$$ma \leq \mu mg$$ $$\therefore\; a \leq \mu g$$したがって、すべらずに加速できる加速度の最大値は:
$$\boxed{a_{\max} = \mu g}$$数値例: $\mu = 0.50$, $g = 9.8\;\text{m/s}^2$ のとき:
$$a_{\max} = 0.50 \times 9.8 = 4.9\;\text{m/s}^2$$摩擦力の上限 $\mu mg$ は $m$ に比例し、必要な力 $ma$ も $m$ に比例する。両辺を $m$ で割ると $a \leq \mu g$ となり、質量は消える。これは水平面上の物体の最大加速度が一般に $\mu g$ であることと同じ結論。
一輪車を前に加速する唯一の水平外力は路面からの静止摩擦力。動力(ペダル)は車輪の回転を通じて路面に力を伝えるだけであり、直接的に剛体棒に作用する外力ではない。加速度の限界は静止摩擦係数 $\mu$ と重力加速度 $g$ のみで決まる。
図1-3は剛体棒を進行方向の真後ろから見た図。剛体棒は鉛直から角度 $\theta$ だけ円の中心側に傾いている。
力のつり合い(鉛直方向):
$$N = mg$$水平方向の運動方程式(向心力):
$$f = \frac{mv_0^2}{R}$$接地点まわりのモーメントのつり合い:
重力 $mg$ は鉛直下向き、重心から接地点までの棒に沿った長さを $\ell$ とすると、重力の接地点まわりのモーメントの腕は $\ell\sin\theta$、向心力に必要な摩擦力のモーメントの腕は $\ell\cos\theta$ に相当する。もっと簡潔に、重心に作用する見かけの合力(重力+向心力に対する慣性力)が棒に沿う条件を使うと:
$$\tan\theta = \frac{\text{向心加速度}}{g} = \frac{v_0^2/R}{g}$$ $$\boxed{\tan\theta = \frac{v_0^2}{Rg}}$$接地点 P まわりのモーメントのつり合いを考える。重心 G は接地点から棒に沿って $\ell$ の位置にあり、棒は鉛直から $\theta$ 傾いている。
重力 $mg$(下向き)のモーメントの腕:$\ell\sin\theta$(時計回り)
この傾きを維持するには、向心方向(水平・中心向き)の「慣性力」$\frac{mv_0^2}{R}$(非慣性系で)のモーメントが反時計回りに釣り合う。腕は $\ell\cos\theta$。
$$mg \cdot \ell\sin\theta = \frac{mv_0^2}{R} \cdot \ell\cos\theta$$ $$\tan\theta = \frac{v_0^2}{Rg}$$この結果は円錐振り子の傾き角と全く同じ形。物体を傾けて円運動させるとき、$\tan\theta = v^2/(Rg)$ は普遍的な関係。
等速円運動に必要な向心力 $= $ 摩擦力 $f$:
$$f = \frac{mv_0^2}{R}$$すべらない条件 $f \leq \mu N = \mu mg$ より:
$$\frac{mv_0^2}{R} \leq \mu mg$$ $$v_0^2 \leq \mu Rg$$ $$\boxed{v_1 = \sqrt{\mu Rg}}$$数値例: $\mu = 0.50$, $R = 10\;\text{m}$, $g = 9.8\;\text{m/s}^2$ のとき:
$$v_1 = \sqrt{0.50 \times 10 \times 9.8} = \sqrt{49} = 7.0\;\text{m/s}$$円運動しながら接線方向に加速度 $a$ で加速する場合、摩擦力は向心成分と接線成分の2つを持つ:
向心方向: $f_c = \dfrac{mv_0^2}{R}$
接線方向: $f_t = ma$
合力は直交する2成分のベクトル和:
$$f = \sqrt{f_c^2 + f_t^2} = m\sqrt{\frac{v_0^4}{R^2} + a^2}$$すべらない条件 $f \leq \mu mg$ から:
$$m\sqrt{\frac{v_0^4}{R^2} + a^2} \leq \mu mg$$ $$\frac{v_0^4}{R^2} + a^2 \leq \mu^2 g^2$$ $$a \leq \sqrt{\mu^2 g^2 - \frac{v_0^4}{R^2}}$$$v_0 < v_1 = \sqrt{\mu Rg}$ のとき $\frac{v_0^2}{R} < \mu g$ であるから、根号の中は正。
$$\boxed{a_{\max} = \sqrt{\mu^2 g^2 - \frac{v_0^4}{R^2}}}$$$v_0 = 0$(直線運動)のとき $a_{\max} = \mu g$:I の結果と一致。
$v_0 = v_1 = \sqrt{\mu Rg}$ のとき $\frac{v_0^4}{R^2} = \mu^2 g^2$ となり $a_{\max} = 0$:すでに摩擦力を向心力に全て使い切っていて加速の余地なし。物理的に自然。
摩擦力は「円の中心方向」と「加速方向」のベクトル和として作用する。両成分の二乗和が $(\mu mg)^2$ を超えないことが条件。これは「摩擦円(friction circle)」の概念そのものであり、車両力学の基本原理。
すりばち状路面(傾斜角 $\varphi$、$0 < \varphi < \pi/2$)で等速円運動する場合、路面に対する垂直抗力 $N$ は路面に垂直に作用する。
力の分解:水平方向(向心方向)と鉛直方向に分解する。摩擦力 $f$ は路面に沿って斜面を下る方向(内側向き)に作用すると仮定する。
鉛直方向のつり合い:
$$N\cos\varphi + f\sin\varphi = mg \quad \cdots (1)$$水平方向の運動方程式(向心力):
$$N\sin\varphi + f\cos\varphi = \frac{mv_0^2}{R} \quad \cdots (2)$$接地点まわりのモーメントのつり合いから(II(1) と同様の議論で):
$$\boxed{\tan\theta = \frac{v_0^2}{Rg}}$$$\theta$ の表式は水平路面と同一。路面の傾きは $N$ と $f$ の比率を変えるだけで、重心にはたらく実効的な力のバランスは変わらない。
式 (1), (2) から $N$ を消去して $f$ を求め、$f \leq \mu N$ の条件を課す。
式 (2) $\times \cos\varphi$ − 式 (1) $\times \sin\varphi$:
$$f(\cos^2\varphi + \sin^2\varphi) = \frac{mv_0^2}{R}\cos\varphi - mg\sin\varphi$$ $$f = m\left(\frac{v_0^2}{R}\cos\varphi - g\sin\varphi\right)$$式 (1) $\times \cos\varphi$ + 式 (2) $\times \sin\varphi$:
$$N = m\left(g\cos\varphi + \frac{v_0^2}{R}\sin\varphi\right)$$すべらない条件 $f \leq \mu N$($f > 0$ すなわち $v_0^2 > Rg\tan\varphi$ の場合):
$$\frac{v_0^2}{R}\cos\varphi - g\sin\varphi \leq \mu\left(g\cos\varphi + \frac{v_0^2}{R}\sin\varphi\right)$$ $$\frac{v_0^2}{R}(\cos\varphi - \mu\sin\varphi) \leq g(\mu\cos\varphi + \sin\varphi)$$$\tan\varphi < \frac{1}{\mu}$ のとき $\cos\varphi - \mu\sin\varphi > 0$ であるから両辺を割れて:
$$\frac{v_0^2}{R} \leq g \cdot \frac{\mu\cos\varphi + \sin\varphi}{\cos\varphi - \mu\sin\varphi} = g \cdot \frac{\mu + \tan\varphi}{1 - \mu\tan\varphi}$$ $$\boxed{v_2 = \sqrt{Rg \cdot \frac{\mu + \tan\varphi}{1 - \mu\tan\varphi}}}$$数値例: $\mu = 0.50$, $R = 10\;\text{m}$, $g = 9.8\;\text{m/s}^2$, $\varphi = 20°$($\tan 20° \fallingdotseq 0.364$)のとき:
$$v_2 = \sqrt{10 \times 9.8 \times \frac{0.50 + 0.364}{1 - 0.50 \times 0.364}} = \sqrt{98 \times \frac{0.864}{0.818}}$$ $$= \sqrt{98 \times 1.056} = \sqrt{103.5} \fallingdotseq 10.2\;\text{m/s}$$水平路面での $v_1 = 7.0\;\text{m/s}$ と比較して約 46% 向上している。
$\varphi = 0$(水平路面)のとき:
$$v_2 = \sqrt{Rg \cdot \frac{\mu + 0}{1 - 0}} = \sqrt{\mu Rg} = v_1$$II(2) の結果に一致する。バンク角がある分だけ $v_2 > v_1$ であることも確認できる。
II(2) で水平路面の最大速さは $v_1 = \sqrt{\mu Rg}$ であった。III(2) ですりばち状(外側が高い)路面の最大速さは
$$v_2 = \sqrt{Rg \cdot \frac{\mu + \tan\varphi}{1 - \mu\tan\varphi}} > v_1$$バンク角 $\varphi > 0$ にすると、分子が $\mu$ → $\mu + \tan\varphi$ に増加し、分母が $1$ → $1 - \mu\tan\varphi$ に減少するため、$v_2 > v_1$ となる。
カントがあると車両が外側にずれようとすると高さが上がる → 位置エネルギーが増加 → 外側への飛び出しに対する「ポテンシャルの壁」が生じる。これは摩擦に加えて重力が安定性に寄与する機構と見なせる。
バンク角付き円運動の公式 $v_{\max} = \sqrt{Rg\frac{\mu + \tan\varphi}{1 - \mu\tan\varphi}}$ は入試頻出。特に $\mu = 0$(摩擦なし)のとき $v = \sqrt{Rg\tan\varphi}$ は「バンク角だけで走れる設計速度」。$\mu > 0$ なら設計速度を超えても摩擦が補ってくれる。この公式の $\tan$ の加法定理的構造 $\frac{A+B}{1-AB}$ にも注目しておくとよい。