水平面上の円形レール(半径 $l$)に、中心の回転軸から端まで渡した導体棒を回転させる「ファラデーの円板(単極誘導)」型の電磁誘導の問題です。Ⅰで起電力の係数を求め、Ⅱで直流電源につないだときのモーメント・回転向き・定常角速度、Ⅲでコンデンサーにつないだときの蓄積エネルギー、Ⅳでは端子 O–P 間を「仮想コンデンサー」とみなす巧妙な解釈で全体を統一的に理解します。
立式:導体棒が時刻 $t$ までに角度 $\theta = \omega_1 t$ だけ回転したとき、棒が掃いた扇形の面積は
$$S = \frac{1}{2}l^2\theta = \frac{1}{2}l^2 \omega_1 t$$この扇形を貫く磁束 $\Phi$ は、磁束密度 $B$ が一様で面に垂直なので
$$\Phi = B S = \frac{1}{2}B l^2 \omega_1 t$$ファラデーの電磁誘導の法則より、起電力の大きさは磁束の時間変化率です。
$$E_1 = \left|\frac{d\Phi}{dt}\right| = \frac{1}{2}B l^2 \omega_1$$これを問題文の表式 $E_1 = \alpha\omega_1$ と比べると、係数 $\alpha$ は次のように決まります。
$$\alpha\omega_1 = \frac{1}{2}B l^2 \omega_1 \quad\Longrightarrow\quad \boxed{\alpha = \frac{1}{2}l^2 B}$$数値で確認:$l = 0.20$ m, $B = 0.50$ T のとき
$$\alpha = \frac{1}{2}\times 0.20^2 \times 0.50 = \frac{1}{2}\times 0.040 \times 0.50 = 0.010\ \text{V}\cdot\text{s}$$さらに $\omega_1 = 10$ rad/s なら $E_1 = \alpha\omega_1 = 0.010\times 10 = 0.10$ V となります。
中心から距離 $r$ の微小部分は速さ $v = r\omega_1$ で動きます。磁場中を動く長さ $dr$ の微小部分に生じる起電力は $dE = vB\,dr = r\omega_1 B\,dr$。これを棒全体で足し合わせると
$$E_1 = \int_0^l r\omega_1 B\,dr = \omega_1 B\cdot\frac{l^2}{2} = \frac{1}{2}l^2 B\,\omega_1$$面積変化率で求めた結果と一致し、$\alpha = \tfrac12 l^2 B$ を得ます。$r$ で積分すると $\tfrac{l^2}{2}$ が現れるのがこの問題の特徴です。
回転する棒が掃くのは「扇形」であり $S = \tfrac12 l^2\theta$。長方形 $l\times(\text{移動距離})$ と混同しないこと。係数 $\alpha=\tfrac12 l^2 B$ は単位 〔V$\cdot$s〕=〔Wb〕をもち、以降の設問すべてで再利用される基本量です。
接続直後の電流:棒は静止していて逆起電力は $0$、電源の内部抵抗は無視できるので、回路の抵抗 $R$ により
$$I = \frac{V}{R}$$微小部分のアンペール力:中心から距離 $r$ にある長さ $dr$ の部分に働く力は
$$dF = BI\,dr$$この力が中心 O のまわりにつくるモーメントの微小分は、腕の長さ $r$ を掛けて
$$dN = r\,dF = BIr\,dr$$棒全体で積分:$r$ を $0$ から $l$ まで足し合わせると
$$N = \int_0^l BIr\,dr = BI\cdot\frac{l^2}{2} = \frac{BIl^2}{2}$$ここに $I = \dfrac{V}{R}$ を代入して
$$\boxed{N = \frac{Vl^2 B}{2R}}$$数値で確認:$V = 6.0$ V, $l = 0.20$ m, $B = 0.50$ T, $R = 2.0\ \Omega$ のとき
$$N = \frac{6.0\times 0.20^2\times 0.50}{2\times 2.0} = \frac{6.0\times 0.040\times 0.50}{4.0} = \frac{0.12}{4.0} = 0.030\ \text{N}\cdot\text{m}$$棒に流れる電流が受ける合力は $F = BIl$。電流は棒に一様に流れるので、この合力の作用点は棒の中点 $r=\dfrac{l}{2}$ とみなせます。よって
$$N = F\times\frac{l}{2} = BIl\times\frac{l}{2} = \frac{BIl^2}{2} = \frac{Vl^2 B}{2R}$$積分による結果と一致します。係数 $\alpha=\tfrac12 l^2 B$ を使うと $N = \alpha I = \dfrac{\alpha V}{R}$ とも書けます。
モーメントの積分で $\displaystyle\int_0^l r\,dr = \frac{l^2}{2}$ が現れるのは、Ⅰの起電力 $\displaystyle\int_0^l r\omega B\,dr$ とまったく同じ構造。回転する導体棒では「$r$ の積分」が起電力にもモーメントにも共通して現れます。
電流の向き:図2-1の回路をたどると、電源 → 抵抗 → 端子P → 円形レール → 導体棒の端 → 回転軸(端子O)→ 電源、と一周します。導体棒の内部では電流が中心 O から端 P へ向かう(外向き)に流れます。
力の向き(フレミングの左手の法則):磁場 $B$ は鉛直上向き(紙面の裏から表)。外向きの電流に対して、左手の法則を適用すると、棒の各部分に働くアンペール力は棒に垂直で、図の(い)の側を向きます。棒全体ではこの向きのモーメントを受けるので、棒は(い)の向きに回り始めます。
ベクトルで確認すると、外向き電流 $+\hat{r}$、磁場 $+\hat{z}$(面に垂直・上向き)に対して力は
$$\vec{F} = I\,d\vec{l}\times\vec{B} \;\propto\; \hat{r}\times\hat{z} = -\hat{\theta}$$$-\hat{\theta}$ は反時計回りと逆向き、すなわち図の(い)の向きです。
棒が(い)の向きに回り始めると、Ⅰで見たように起電力(逆起電力)が生じます。レンツの法則により、この誘導起電力は電源電流を弱める向き(回転を妨げる向き)に発生します。だからこそⅡ(3)で見るように、回転が速くなるにつれ電流が減り、やがて一定の角速度に落ち着きます。回転の向き自体は「電源が流す電流」と「磁場」で決まり、ここでは(い)です。
回転の向きは「電源が流す電流の向き × 磁場の向き」で決まる(始動トルク)。一方、回り始めてから生じる逆起電力はレンツの法則で「回転を妨げる向き」。この2つを混同しないこと。
回路の電流:角速度 $\omega$ で回転中、逆起電力 $E = \alpha\omega$ が生じるので、回路の電流は
$$I = \frac{V - \alpha\omega}{R}$$定常条件:十分時間後、角速度は一定値 $\omega_2$ になります。角加速度 $0$ → 正味のモーメント $0$ → 電流 $0$。よって
$$I = 0 \quad\Longrightarrow\quad V - \alpha\omega_2 = 0$$$\omega_2$ について解くと
$$\omega_2 = \frac{V}{\alpha}$$$\alpha = \dfrac{1}{2}l^2 B$ を代入して、$l,\,B$ で表すと
$$\boxed{\omega_2 = \frac{V}{\alpha} = \frac{2V}{l^2 B}}$$数値で確認:$V = 6.0$ V, $\alpha = 0.010$ V$\cdot$s($l=0.20$ m, $B=0.50$ T)のとき
$$\omega_2 = \frac{6.0}{0.010} = 6.0\times 10^2\ \text{rad/s}$$角速度 $\omega$ のときのモーメントは、Ⅱ(1)の結果で電流を $I=\dfrac{V-\alpha\omega}{R}$ に置き換えて
$$N = \frac{B l^2}{2}\cdot I = \frac{B l^2}{2}\cdot\frac{V - \alpha\omega}{R}$$定常では $N = 0$、すなわち $V - \alpha\omega_2 = 0$ から同じく $\omega_2 = \dfrac{V}{\alpha}$ を得ます。「電流ゼロ」と「モーメントゼロ」は同値です。
定常角速度 $\omega_2 = V/\alpha$ は抵抗 $R$ に依存しない。$R$ は「どれくらいの時間で定常に達するか(時定数)」だけに効く。最終的な回転速度は電源電圧と起電力係数だけで決まる。
定常状態の条件:十分時間後、角速度は一定値 $\omega_3$。角加速度 $0$ より正味のモーメントが $0$、すなわち回路の電流が $0$ です。
$$I = 0$$コンデンサーの電圧:電流が $0$ なら抵抗での電圧降下も $0$ なので、コンデンサー $C_1$ の電圧 $V_{C_1}$ は、そのときの導体棒の起電力 $E = \alpha\omega_3$ にそのまま等しくなります。
$$V_{C_1} = E = \alpha\omega_3$$蓄えられるエネルギー:コンデンサーの静電エネルギーの公式 $U = \dfrac{1}{2}CV^2$ に代入します。
$$U_{C_1} = \frac{1}{2}C_1 V_{C_1}^{\,2} = \frac{1}{2}C_1(\alpha\omega_3)^2$$ $$\boxed{U_{C_1} = \frac{1}{2}C_1\alpha^2\omega_3^{\,2}}$$問題は「$\omega_3,\,\alpha,\,l,\,B,\,C_1$ から必要なものを用いて」と指定しているので、$\alpha$ をそのまま使った上式が答えです($l,\,B$ は $\alpha$ に含まれており不要)。
数値で確認:$C_1 = 100\ \mu\text{F} = 1.0\times10^{-4}$ F, $\alpha = 0.010$ V$\cdot$s, $\omega_3 = 4.0\times10^2$ rad/s のとき、$V_{C_1} = 0.010\times 400 = 4.0$ V となり
$$U_{C_1} = \frac{1}{2}\times 1.0\times10^{-4}\times 4.0^2 = \frac{1}{2}\times 1.0\times10^{-4}\times 16 = 8.0\times10^{-4}\ \text{J}$$過渡的(切り替え直後)には、起電力 $\alpha\omega$ とコンデンサー電圧 $V_{C_1}$ の差で電流 $I = \dfrac{\alpha\omega - V_{C_1}}{R}$ が流れ、抵抗でジュール熱が発生します。しかし定常状態では電流が $0$ に収束するため、抵抗 $R$ での電圧降下 $IR$ も $0$。よってコンデンサー電圧は起電力に等しくなります。途中で失われたジュール熱の分だけ、回転エネルギーの一部は熱に変わっています(Ⅳ(2)で電荷保存として扱われる効果)。
「コンデンサー定常 → 電流 $0$ → 抵抗の電圧降下 $0$ → コンデンサー電圧=起電力」という流れは、起電力源にコンデンサーをつないだ問題の定石。あとは $U=\tfrac12 C V^2$ に入れるだけ。
端子間電圧の確認:仮想コンデンサー2は端子 O–P 間の部分です。回転する棒がこの端子間に見せる電圧(起電力)は
$$V_2 = \alpha\omega$$エネルギーを等しいと置く:回転の運動エネルギー $\dfrac12\beta\omega^2$ を、コンデンサー2の静電エネルギー $\dfrac12 C_2 V_2^2$ と等しいと解釈します。
$$\frac{1}{2}\beta\omega^2 = \frac{1}{2}C_2 V_2^{\,2} = \frac{1}{2}C_2(\alpha\omega)^2$$両辺を整理して $C_2$ を求めます。$\omega^2$ で割ると
$$\beta = C_2\alpha^2 \quad\Longrightarrow\quad \boxed{C_2 = \frac{\beta}{\alpha^2}}$$$Q_2$ を求める:コンデンサーの関係式 $Q_2 = C_2 V_2$ を使い
$$Q_2 = C_2 V_2 = \frac{\beta}{\alpha^2}\cdot\alpha\omega = \boxed{\frac{\beta\omega}{\alpha}}$$念のため、$\dfrac{Q_2^2}{2C_2} = \dfrac{(\beta\omega/\alpha)^2}{2\beta/\alpha^2} = \dfrac{\beta^2\omega^2/\alpha^2}{2\beta/\alpha^2} = \dfrac{1}{2}\beta\omega^2$ となり、確かに回転エネルギーに一致します。
$Q_2 = \dfrac{\beta\omega}{\alpha}$ で $\beta$ は回転の慣性(慣性モーメントに相当)、$\alpha$ は起電力係数です。$\beta\omega$ は回転の「角運動量」に対応する量で、それを $\alpha$ で割ったものが「仮想電荷」になります。これにより、力学(回転)と電磁気(電荷)が同じ枠組みで扱え、Ⅳ(2)で電荷保存則として統一的に計算できるようになります。
$V_2 = \alpha\omega$(起電力そのもの)と置けるのが出発点。あとは本物のコンデンサーと同じ $U=\tfrac12 CV^2$, $Q=CV$ を当てはめるだけ。$C_2=\beta/\alpha^2$ は $\omega$ によらず一定なのがポイントで、これが仮想コンデンサーが「ふつうのコンデンサー」として振る舞う理由。
切り替え前(スイッチ X、十分時間後):仮想コンデンサー2は電源電圧 $V$ まで充電されます。このとき $C_2$ に蓄えられた電荷は
$$Q_{\text{init}} = C_2 V$$コンデンサー1は最初空なので電荷 $0$。
切り替え後(スイッチ Y):$C_1$ と $C_2$ が並列につながり、十分時間後に共通の電圧 $V_f$ になります。問題の条件より「$C_1$ と $C_2$ の電荷の和は変化しない」(電荷保存)ので
$$C_1 V_f + C_2 V_f = Q_{\text{init}} = C_2 V$$$V_f$ について解くと
$$V_f = \frac{C_2 V}{C_1 + C_2}$$$C_1$ のエネルギー:$U = \dfrac12 C V^2$ に $V = V_f$ を代入して
$$U_{C_1} = \frac{1}{2}C_1 V_f^{\,2} = \frac{1}{2}C_1\left(\frac{C_2 V}{C_1 + C_2}\right)^2$$ $$\boxed{U_{C_1} = \frac{C_1 C_2^{\,2} V^2}{2(C_1 + C_2)^2}}$$数値で確認:$C_1 = C_2$, $V = 4.0$ V とすると $V_f = \dfrac{C_2 V}{2C_2} = 2.0$ V。よって $U_{C_1} = \dfrac12 C_1(2.0)^2 = 2.0\,C_1$〔J〕($C_1$ の単位は F)。一般式に $C_1=C_2$ を入れても $U_{C_1} = \dfrac{C_1 C_1^2 V^2}{2(2C_1)^2} = \dfrac{C_1 V^2}{8}$ となり一致します。
切り替え前の全エネルギーは $\dfrac12 C_2 V^2$。切り替え後の全エネルギーは
$$U_{\text{after}} = \frac{1}{2}(C_1 + C_2)V_f^2 = \frac{1}{2}(C_1+C_2)\frac{C_2^2 V^2}{(C_1+C_2)^2} = \frac{C_2^2 V^2}{2(C_1+C_2)}$$これは切り替え前より小さく、差は抵抗でのジュール熱として失われます。コンデンサーをつなぎ替える問題では「電荷は保存するがエネルギーは保存しない」ことに注意。元の物理系では、この熱は回転エネルギーの一部が散逸した分に対応しています。
仮想コンデンサー2を導入したことで、回転体の問題が「電源で充電したコンデンサーに、別のコンデンサーをつなぐ電荷分配問題」に翻訳された。使う法則は電荷保存 $C_1 V_f + C_2 V_f = C_2 V$ だけ。
2つの表式を等しいと置く:Ⅲ より $C_1$ のエネルギーは $\dfrac12 C_1\alpha^2\omega_3^2$、Ⅳ(2) より同じエネルギーは $\dfrac{C_1 C_2^2 V^2}{2(C_1+C_2)^2}$。これらは同一の量なので
$$\frac{1}{2}C_1\alpha^2\omega_3^{\,2} = \frac{C_1 C_2^{\,2} V^2}{2(C_1 + C_2)^2}$$整理:両辺の $\dfrac12 C_1$ を消すと
$$\alpha^2\omega_3^{\,2} = \frac{C_2^{\,2} V^2}{(C_1 + C_2)^2}$$両辺の正の平方根をとって($\omega_3 > 0$)
$$\alpha\omega_3 = \frac{C_2 V}{C_1 + C_2}$$$\omega_3$ について解くと
$$\boxed{\omega_3 = \frac{C_2 V}{\alpha (C_1 + C_2)}}$$妥当性の確認:$C_2$ が $C_1$ に比べて非常に大きい($C_1 \to 0$)極限では $\omega_3 \to \dfrac{V}{\alpha} = \omega_2$ となり、コンデンサー1がほとんど影響しないときは定常角速度 $\omega_2$ に一致します。一方 $C_1$ が大きいほど $\omega_3$ は小さくなり、より多くの回転エネルギーがコンデンサー1側へ移ったことを表します。物理的に妥当です。
数値で確認:$C_1 = C_2$, $V = 4.0$ V, $\alpha = 0.010$ V$\cdot$s のとき
$$\omega_3 = \frac{C_2\times 4.0}{0.010\times (C_2 + C_2)} = \frac{4.0}{0.010\times 2} = 2.0\times10^2\ \text{rad/s}$$これは $\omega_2 = V/\alpha = 6.0\times10^2$... ではなく、ここでは $V=4.0$ V を使ったので $\omega_2 = 4.0/0.010 = 4.0\times10^2$ rad/s。その半分の $2.0\times10^2$ rad/s で、$\omega_3 = \tfrac12\omega_2$($C_1=C_2$ のとき)と整合します。
この大問は「回転する導体棒」を「コンデンサー」に翻訳することで、力学の問題を電気回路の問題として解けることを教えています。対応関係は次のとおりです。
この視点を持つと、Ⅲのように途中の散逸(ジュール熱)を細かく追わなくても、Ⅳ(2)の「電荷保存」だけで最終状態を一気に求められます。
「同じ量($C_1$ のエネルギー)を2通りで表して等号で結ぶ」のが最後の決め手。ⅢとⅣは一見別の解き方だが、答えが一致するからこそ $\omega_3$ が確定する。難問では“別ルートの結果を突き合わせる”発想が効く。