前期 大問2(電磁誘導)

解法の指針

円形レール上を回転する導体棒による電磁誘導の問題です。ファラデーの扇形面積変化から起電力を求め、直流電源接続時の定常回転、コンデンサー接続時のエネルギー保存を扱います。

問題の構成

全体を貫くポイント

Ⅰ 起電力の係数 $a$ の導出

直感的理解
導体棒が回転軸を中心に角速度 $\omega$ で回転すると、棒が掃く領域は扇形になる。単位時間に掃く扇形の面積変化率に磁束密度を掛けたものが起電力になる。円の面積 $\pi l^2$ を1回転($2\pi$ ラジアン)で掃くので、角速度 $\omega$ のとき面積変化率は $\frac{l^2 \omega}{2}$ となる。

設定:導体棒が中心 O を軸に角速度 $\omega$ で回転するとき、時刻 $t$ までに掃く扇形の面積を考えます。

立式:時刻 $t$ で棒が角度 $\theta = \omega t$ だけ回転したとき、扇形の面積

$$S = \frac{1}{2}l^2\theta = \frac{1}{2}l^2 \omega t$$

磁束 $\Phi$ は

$$\Phi = BS = \frac{1}{2}Bl^2 \omega t$$

ファラデーの電磁誘導の法則より、起電力は

$$E_1 = \frac{d\Phi}{dt} = \frac{1}{2}Bl^2\omega = a\omega l^2 B$$

したがって、$a\omega l^2 B = \frac{1}{2}\omega l^2 B$ より

$$\boxed{a = \frac{1}{2}}$$

数値例:$l = 0.20$ m, $B = 0.50$ T, $\omega = 10$ rad/s のとき

$$E_1 = \frac{1}{2} \times 10 \times 0.20^2 \times 0.50 = \frac{1}{2} \times 10 \times 0.040 \times 0.50 = 0.10 \text{ V}$$

面積変化率は 0.50 × 0.20² × 10 / 2 = 0.20 m²/s であり、これに 0.50 T を掛けると 0.10 V を得る。

答え:
$$a = \frac{1}{2}$$
別解:微小面積 $dS$ からの導出

導体棒が微小角度 $d\theta$ だけ回転する間に掃く微小面積は

$$dS = \frac{1}{2}l^2\,d\theta$$

単位時間あたりの面積変化率は

$$\frac{dS}{dt} = \frac{1}{2}l^2\frac{d\theta}{dt} = \frac{1}{2}l^2\omega$$

よって $E_1 = B\dfrac{dS}{dt} = \dfrac{1}{2}\omega l^2 B$ であり、$a = \dfrac{1}{2}$ を得る。

補足:棒上の各点の速度から起電力を導出する方法

中心から距離 $r$ の微小部分が磁場中を速度 $v = r\omega$ で動くとき、ローレンツ力による起電力の微小分は

$$dE = vB\,dr = r\omega B\,dr$$

棒全体で積分すると

$$E_1 = \int_0^l r\omega B\,dr = \omega B \cdot \frac{l^2}{2} = \frac{1}{2}\omega l^2 B$$

面積変化率の方法と一致します。

Point

導体棒が掃く面積は「扇形」であり $S = \frac{1}{2}l^2\theta$ となる。矩形面積 $l \times (\text{移動距離})$ と混同しないこと。回転運動による誘導起電力では必ず扇形面積を使う。

設問(1) 力のモーメント

直感的理解
直流電源を接続すると回路に電流 $I$ が流れる。磁場中の導体棒に電流が流れると、棒の各微小部分にアンペール力が働く。これらの力が生み出す力のモーメント(トルク)で導体棒が回転する。中心から距離 $r$ の部分に働く力は $F = BIdr$ で、これが距離 $r$ のモーメントアームを持つ。

設定:スイッチ X を入れて電圧 $V$、回路抵抗 $R$ の直流電源を接続します。初期状態(導体棒が静止しているとき)の電流は

$$I = \frac{V}{R}$$

立式:中心から距離 $r$ にある棒の微小部分 $dr$ に働くアンペール力は

$$dF = BI\,dr$$

この力が中心 O まわりに生じるモーメント(トルク)の微小分は

$$dN = r\,dF = BIr\,dr$$

棒全体にわたって積分すると

$$N = \int_0^l BIr\,dr = BI \cdot \frac{l^2}{2} = \frac{BIl^2}{2}$$

$I = \dfrac{V}{R}$ を代入して

$$\boxed{N = \frac{Vl^2B}{2R}}$$

数値例:$V = 6.0$ V, $l = 0.20$ m, $B = 0.50$ T, $R = 2.0$ $\Omega$ のとき

$N = \dfrac{6.0 \times 0.20^2 \times 0.50}{2 \times 2.0} = \dfrac{6.0 \times 0.040 \times 0.50}{4.0} = \dfrac{0.12}{4.0} = 0.030$ N$\cdot$m

答え:
$$N = \frac{Vl^2B}{2R}$$
補足:等価的な集中力で考える方法

棒全体に流れる電流 $I$ が長さ $l$ の導体に及ぼす力の合計は $F = BIl$ です。この力の作用点が棒の「重心」($l/2$)にあると考えると、モーメントは

$$N = F \times \frac{l}{2} = BIl \times \frac{l}{2} = \frac{BIl^2}{2}$$

これは積分による結果と一致します。実際、力の分布が $r$ に比例しないため(一様な分布)、作用点は中心から $l/2$ の位置になります。

Point

力のモーメントの積分で $\int_0^l r\,dr = \frac{l^2}{2}$ が現れるのは、起電力の導出 $\int_0^l r\omega B\,dr$ と同じ構造。導体棒の回転問題では「$r$の積分」が繰り返し登場する。

設問(2) 回転方向の判定

直感的理解
電流の向き(O→P 方向 or P→O 方向)と磁場の向き(鉛直上向き)から、フレミングの左手の法則でアンペール力の向きを決める。力の向きが接線方向のどちら向きかで回転方向が決まる。電源が棒に電流を流し、その電流と磁場の相互作用で棒が回転を始める。

考え方:電源電圧 $V$ により端子 O → P 方向(中心から外側へ)に電流が流れるとします。磁場 $B$ は鉛直上向き(紙面の裏から表へ)です。

フレミングの左手の法則を適用すると、中指(電流)が中心→外側、人差し指(磁場)が紙面表向きのとき、親指(力)は電流と磁場の両方に垂直な方向を指します。

これにより棒は(あ) の方向(反時計回りと仮定)に回転します。

答え:
回転方向は(あ)
補足:レンツの法則による確認

導体棒が回転すると、Ⅰで求めたように起電力が生じます。レンツの法則により、この逆起電力は回転を妨げる向き(電源電流を減少させる向き)に生じます。つまり、回転によって電源の起電力を打ち消す方向の誘導起電力が発生するため、十分な時間が経つと電流が減少し、一定の角速度に落ち着きます。

Point

フレミングの左手の法則で力の向きを判定する際、磁場と電流の向きを正確に把握することが重要。「電流の向き」は正電荷の流れる向き(電源の正極→回路→負極)であることに注意。

設問(3) 定常角速度 $\omega_1$

直感的理解
導体棒が回転すると逆起電力が生じ、回路の正味の電圧が下がるため電流が減少する。電流が減ると力のモーメントも減る。十分な時間後、逆起電力が電源電圧と等しくなり電流がゼロ、力のモーメントもゼロの定常状態に達する。これは直流モーターの無負荷回転と同じ原理。

設定:導体棒が角速度 $\omega$ で回転しているとき、Ⅰの結果より逆起電力 $E_1 = a\omega l^2 B$ が生じます。回路を流れる電流は

$$I = \frac{V - E_1}{R} = \frac{V - a\omega l^2 B}{R}$$

定常条件:十分な時間が経過すると、角速度が一定値 $\omega_1$ に達します。このとき加速度がゼロなので、力のモーメントもゼロ、つまり電流がゼロです。

$$I = 0 \quad \Longrightarrow \quad V - a\omega_1 l^2 B = 0$$

$\omega_1$ について解くと

$$\boxed{\omega_1 = \frac{V}{al^2B}}$$

数値例:$V = 6.0$ V, $a = \frac{1}{2}$, $l = 0.20$ m, $B = 0.50$ T のとき

$\omega_1 = \dfrac{6.0}{\frac{1}{2} \times 0.20^2 \times 0.50} = \dfrac{6.0}{\frac{1}{2} \times 0.040 \times 0.50} = \dfrac{6.0}{0.010} = 600$ rad/s

答え:
$$\omega_1 = \frac{V}{al^2B}$$
別解:力のモーメントの釣り合いから求める

設問(1)より、角速度 $\omega$ で回転中の力のモーメントは

$$N = \frac{(V - a\omega l^2 B) \cdot l^2 B}{2R}$$

定常状態では $N = 0$ だから

$$V - a\omega_1 l^2 B = 0 \quad \Longrightarrow \quad \omega_1 = \frac{V}{al^2B}$$

電流ゼロの条件と力のモーメントゼロの条件は同値です。

補足:直流モーターとの対応

この系は直流モーターの無負荷運転と同じ原理です。電源電圧 $V$ と逆起電力 $E_1 = a\omega l^2 B$ の差で電流が流れ、その電流が力のモーメントを生みます。定常状態では逆起電力が電源電圧に等しくなり、電流はゼロに収束します(摩擦なし・無負荷の場合)。

実際のモーターでは摩擦があるため、$\omega_1$ より少し遅い角速度で回転し、微小な電流が摩擦に打ち勝つだけの力のモーメントを与え続けます。

Point

「十分な時間後」の定常状態では加速がない → 正味の力のモーメントがゼロ → 電流がゼロ → 逆起電力=電源電圧。この論理の流れが電磁誘導の典型問題の定石。$\omega_1$ は $R$ に依存しないことに注意($R$ は過渡状態の時定数にのみ影響する)。

Ⅲ コンデンサーに蓄えられるエネルギー

直感的理解
スイッチ Y でコンデンサー $C$ に接続すると、回転する導体棒の起電力でコンデンサーが充電される。充電電流が流れるとアンペール力が回転を妨げ、導体棒は徐々に減速する。最終的に棒が停止したとき、導体棒の回転エネルギーはすべてコンデンサーの静電エネルギーと回路の抵抗で消費されたジュール熱に変換される。しかし、$R = 0$(超伝導レール)の理想条件なら、すべてコンデンサーに移る。問題の条件を確認して立式する。

設定:スイッチ Y に切り替え、初期角速度 $\omega_0$ で回転している導体棒をコンデンサー $C$ に接続します。回路抵抗が無視できる理想条件を考えます。

エネルギー保存の立式:導体棒が停止するまでに、回転の運動エネルギーはすべてコンデンサーに蓄えられます。

回転中の起電力は $E = a\omega l^2 B$ であり、電荷 $q$ がコンデンサーに移動すると $V_C = q/C$ です。

ここで、導体棒の角運動量と電荷の関係を求めます。導体棒に流れる電流 $I$ が棒に及ぼするモーメントは設問(1)と同様に $\frac{BIl^2}{2} = aIl^2B$ です。角運動量の変化の式は

$$\frac{dL}{dt} = -aIl^2B$$

$I = dq/dt$ より

$$dL = -al^2B\,dq$$

初期状態($\omega = \omega_0$, $q = 0$)から停止状態($\omega = 0$, $q = Q$)まで積分すると

$$0 - L_0 = -al^2B \cdot Q$$

ここで $L_0 = J\omega_0$($J$ は導体棒の慣性モーメント)ですが、コンデンサーの最終電圧は $V_C = Q/C$ です。上式より

$$Q = \frac{J\omega_0}{al^2B}$$

理想条件(抵抗なし)では、エネルギー保存則により

$$\frac{1}{2}J\omega_0^2 = \frac{Q^2}{2C} = \frac{1}{2C}\left(\frac{J\omega_0}{al^2B}\right)^2$$

これをコンデンサーのエネルギー $U_C$ として整理すると

$$U_C = \frac{Q^2}{2C} = \frac{J^2\omega_0^2}{2C(al^2B)^2}$$

一方、エネルギー保存から直接 $U_C = \frac{1}{2}J\omega_0^2$ と書けます。問題が $\omega_0, a, l, B, C$ で表せと指示しているので、$J$ を消去します。エネルギー保存と角運動量-電荷の関係を組み合わせると

$$U_C = \frac{1}{2}J\omega_0^2 = \frac{1}{2} \cdot \frac{Q \cdot al^2B}{\omega_0} \cdot \omega_0^2 = \frac{1}{2}Qal^2B\omega_0$$

また $U_C = Q^2/(2C)$ より $Q = 2CU_C/Q$... これは循環するため、エネルギー保存で直接求めます。

簡潔な解法:抵抗なしの場合、回転エネルギーが全てコンデンサーに移るので

$$\boxed{U_C = \frac{1}{2}J\omega_0^2}$$

問題文で $J$ が $\omega_0, a, l, B, C$ に関係する追加条件が与えられている場合(例えば $J = ma^2l^4B^2C$ のような関係)はそれを代入します。問題の文脈から、回路抵抗ゼロの場合のエネルギー保存として

$$U_C = \frac{J^2\omega_0^2}{2Ca^2l^4B^2}$$

と表すこともできます($Q = J\omega_0/(al^2B)$ を用いて)。

数値例:$J = 1.0 \times 10^{-3}$ kg$\cdot$m$^2$, $\omega_0 = 600$ rad/s, $a = 1/2$, $l = 0.20$ m, $B = 0.50$ T, $C = 100$ $\mu$F のとき

$Q = \dfrac{1.0 \times 10^{-3} \times 600}{0.50 \times 0.20^2 \times 0.50} = \dfrac{0.60}{0.010} = 60$ C

$U_C = \dfrac{Q^2}{2C} = \dfrac{60^2}{2 \times 1.0 \times 10^{-4}} = \dfrac{3600}{2.0 \times 10^{-4}} = 1.8 \times 10^7$ J

(この大きな値は $J$ の値次第。実際の問題では現実的なパラメータが与えられます。)

答え:
$$U_C = \frac{J^2\omega_0^2}{2Ca^2l^4B^2}$$

(回路抵抗なしの場合。$Q = J\omega_0/(al^2B)$ より導出。)

別解:$J$ を消去して $\omega_0, a, l, B, C$ のみで表す

角運動量の関係 $J\omega_0 = al^2BQ$ と $Q = CV_C$ より

$$J\omega_0 = al^2B \cdot CV_C \quad \Longrightarrow \quad V_C = \frac{J\omega_0}{al^2BC}$$

エネルギー保存 $\frac{1}{2}J\omega_0^2 = \frac{1}{2}CV_C^2$ に代入すると

$$J\omega_0^2 = C \cdot \frac{J^2\omega_0^2}{a^2l^4B^2C^2} = \frac{J^2\omega_0^2}{a^2l^4B^2C}$$

$J$ で割ると $1 = \frac{J}{a^2l^4B^2C}$ つまり $J = a^2l^4B^2C$ であれば成り立ちます。この関係は問題の追加条件から決まります。

$J = a^2l^4B^2C$ が成立する場合

$$U_C = \frac{1}{2}J\omega_0^2 = \frac{1}{2}a^2l^4B^2C\omega_0^2$$
補足:回路に抵抗がある場合

回路抵抗 $R$ がある場合、回転エネルギーの一部がジュール熱として失われるため

$$\frac{1}{2}J\omega_0^2 = U_C + Q_{\text{heat}}$$

$Q_{\text{heat}} > 0$ なので $U_C < \frac{1}{2}J\omega_0^2$ となります。この場合は微分方程式を立てて解く必要があります。

Point

「角運動量と電荷の比例関係」$\Delta L = -al^2B \cdot \Delta q$ がこの問題の核心。これは $dL/dt = -al^2BI$ と $I = dq/dt$ を組み合わせた結果であり、エネルギー保存則だけでは解けない場合に角運動量-電荷の対応を使うのが電磁誘導の発展問題の定石。