鉛直に置いたシリンダーとピストンに閉じ込められた理想気体の状態変化を扱う熱力学の総合問題です。[A]は単一シリンダーでの圧力・温度・仕事の基本、[B]はコックで接続された2つのシリンダー間の気体移動と熱力学第1法則・エンタルピーまで問います。
ピストンは鉛直方向で静止している。ピストンの上面には大気圧 \(p_0\) と おもり(質量 \(m\))の重力がかかり、下面からは気体の圧力 \(p_1\) が押し上げている。つり合いの式を立てればよい。
ピストンの力のつり合い(鉛直方向、断面積 \(S\))を考えます。ピストン+おもりは静止しているので、上向きと下向きの力がつり合います。
ピストン下面にかかる気体の圧力を \(p_1\) とすると:
$$p_1 S = p_0 S + mg$$ $$p_1 = p_0 + \frac{mg}{S}$$例えば \(p_0 = 1.0 \times 10^5\) Pa、\(m = 5.0\) kg、\(g = 9.8\) m/s²、\(S = 1.0 \times 10^{-3}\) m² のとき:
$$p_1 = 1.0 \times 10^5 + \frac{5.0 \times 9.8}{1.0 \times 10^{-3}} = 1.0 \times 10^5 + 4.9 \times 10^4 = 1.49 \times 10^5 \text{ Pa}$$大気圧の約1.5倍になります。おもりの重さが断面積で割られて圧力の寄与になるという関係が確認できます。
問題文に「ピストンは質量が無視できる」とあるため、ピストン自体の重力は考えません。おもりの質量 \(m\) のみが重力の寄与となります。もしピストンの質量 \(M\) もある場合は \(p_1 = p_0 + \frac{(m+M)g}{S}\) となります。
鉛直シリンダーでは、気体の圧力はピストンの位置によらず一定(\(p_0 + mg/S\))です。これは定圧過程になることを意味しており、以降の設問の鍵となります。
外力でピストンを押し込むが、ピストンの力のつり合いの式は変わらない(ゆっくり移動 → 準静的過程)。つまり圧力は \(p_1\) のままの定圧変化。定圧で体積が減れば温度も下がる — シャルルの法則の通り。
ピストンにゆっくり外力を加えて圧縮するため、ピストンは常につり合っています。よって気体の圧力は \(p_1\) のまま変わりません。これは定圧過程です。
定圧過程ではシャルルの法則が成り立ちます。シリンダー底面からピストンまでの距離が \(x\) のとき、気体の体積は \(V = Sx\) なので:
$$\frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2} \quad \Longrightarrow \quad \frac{Sx_1}{T_1} = \frac{S \cdot \tfrac{5}{8}x_1}{T_2}$$ $$T_2 = T_1 \times \frac{\tfrac{5}{8}x_1}{x_1} = \frac{5}{8}T_1$$例えば \(T_1 = 400\) K のとき:
$$T_2 = \frac{5}{8} \times 400 = 250 \text{ K}$$体積が \(\frac{5}{8}\) 倍に圧縮されたので、温度も \(\frac{5}{8}\) 倍(250 K ≒ −23 °C)に下がります。
「ゆっくり」移動させるということは準静的過程を意味します。ピストンの加速度は実質ゼロなので、ピストンの力のつり合いの式は常に成り立ちます。つまり \(p_1 = p_0 + mg/S\) は変わらず、定圧過程です。
もし急激に圧縮すると、ピストンに加速度が生じ、気体の圧力は \(p_1\) からずれます(非準静的過程)。
定圧過程では体積と温度が比例します。体積が \(\frac{5}{8}\) 倍になれば温度も \(\frac{5}{8}\) 倍。圧縮して体積が減ると温度が下がるのは、外部から熱を奪われている(冷やされている)ことを意味します。
定圧で体積が減る → 気体は「される側」。\(p\text{-}V\) グラフの長方形の面積が仕事の大きさに対応する。体積が減るので気体は負の仕事をし、外部から正の仕事をされる。
定圧 \(p_1\) のもとで体積が \(Sx_1\) から \(S \cdot \frac{5}{8}x_1\) に変化するので、気体が外部にする仕事 \(W_\text{gas}\) は:
$$W_\text{gas} = p_1 \Delta V = p_1 \left(S \cdot \frac{5}{8}x_1 - Sx_1\right) = p_1 S \left(\frac{5}{8}x_1 - x_1\right)$$ $$W_\text{gas} = p_1 S \times \left(-\frac{3}{8}x_1\right) = -\frac{3}{8}p_1 S x_1$$気体がされた仕事(外部が気体にした仕事)はこの符号を反転させて:
$$W_\text{on gas} = -W_\text{gas} = \frac{3}{8}p_1 S x_1$$\(p_1 = p_0 + \frac{mg}{S}\) を代入すると:
$$W_\text{on gas} = \frac{3}{8}\left(p_0 + \frac{mg}{S}\right)Sx_1 = \frac{3}{8}(p_0 S + mg)x_1$$ピストンが距離 \(\frac{3}{8}x_1\) だけ下向きに移動します。ピストンにかかる力のうち、下向き(圧縮方向)の力は大気圧 \(p_0 S\) と重力 \(mg\) と外力 \(F\)、上向きは気体の圧力 \(p_1 S\) です。
ゆっくり移動するのでつり合い条件から \(F = 0\)(外力は微小)。大気圧と重力が気体に対してする仕事は:
$$W = (p_0 S + mg) \times \frac{3}{8}x_1 = \frac{3}{8}(p_0 S + mg)x_1$$同じ結果が得られます。
定圧過程での仕事は \(p\text{-}V\) 図の長方形の面積。体積が減る(圧縮)ときは気体は負の仕事をし、外部から正の仕事をされます。問題で「された仕事」を聞かれているので符号に注意。
コックを開くと、シリンダーAから圧力の高い気体がシリンダーBに流入する。Aのピストンは下がり、Bのピストンは上がる。ピストンBには大気圧だけがかかる(おもりなし)ので、Bの気体の圧力は \(p_0\)。全体の物質量は保存されるが、A側とB側で圧力も温度も異なるため、それぞれにボイル・シャルルの法則を適用して \(y_2\) を求める。
コックを開いた後、ピストンAは \(x = x_2\)、ピストンBは \(y = y_2\) まで移動します。
圧力の関係:
しかし細孔栓を通してAとBの気体は圧力が等しくなるまでつり合うとあるので、ピストンBにかかる力は大気圧のみだが、A側の気体の圧力は \(p_1\) のまま。これは問題の条件(ピストンBにかかる力は常につり合っている)から、B内の気体の圧力は \(p_0\) です。
全体の物質量保存:初期状態でA内のみに気体があり、\(n\) mol とすると:
$$n = \frac{p_1 \cdot S x_1}{R T_1}$$状態変化後:A内は圧力 \(p_1\)、体積 \(Sx_2\)、温度 \(T_2(x_2)\)。B内は圧力 \(p_0\)、体積 \(Sy_2\)、温度 \(T_2(x_2)\)(細い管を通して熱的にも平衡に達するため温度は等しいとする)。
ただし問題文をよく読むと、A内の気体の温度は \(T_1\) のまま(capillary + 断熱材の条件)、B内の温度を \(T_2(x_2)\) とします。物質量保存から:
$$\frac{p_1 S x_1}{R T_1} = \frac{p_1 S x_2}{R T_1} + \frac{p_0 S y_2}{R T_2(x_2)}$$両辺を \(\frac{RS}{S}\) で整理すると:
$$\frac{p_1 x_1}{T_1} = \frac{p_1 x_2}{T_1} + \frac{p_0 y_2}{T_2(x_2)}$$ $$\frac{p_0 y_2}{T_2(x_2)} = \frac{p_1(x_1 - x_2)}{T_1}$$ $$y_2 = \frac{p_1(x_1 - x_2)}{p_0} \cdot \frac{T_2(x_2)}{T_1}$$問題文に「シリンダーA内の気体の温度は \(T_1\) のまま」とあります。これは、気体が細孔栓を通してゆっくり流出し、A側のシリンダー・ピストンが断熱材で囲まれているため、A側では準静的な定温・定圧過程が進むためです。
一方、B側に流入した気体は膨張(細孔栓を通る断熱自由膨張に近い過程)するため、温度は一般に \(T_1\) とは異なります。
2つのシリンダーの気体は同じ物質だが、圧力も温度も異なる。物質量保存 \(n_A + n_B = n_\text{total}\) を状態方程式で書き換えて関係式を作るのが定石。
気体が膨張すればピストンを押して正の仕事をし、圧縮されれば負の仕事をする。A側では圧力 \(p_1\) で体積が減少、B側では圧力 \(p_0\) で体積が増加する。どちらも定圧過程なので仕事は \(p\Delta V\) で計算できる。
シリンダーA内の気体がした仕事 \(W_A(x_2)\):
A内の圧力は常に \(p_1\)(定圧)。ピストンが \(x_1\) から \(x_2\) へ移動(\(x_2 < x_1\) なので下降=体積減少):
$$W_A(x_2) = p_1 S(x_2 - x_1) = -p_1 S(x_1 - x_2)$$シリンダーB内の気体がした仕事 \(W_B(x_2)\):
B内の圧力は常に \(p_0\)(定圧)。ピストンが \(0\) から \(y_2\) へ移動(上昇=体積増加):
$$W_B(x_2) = p_0 S y_2$$気体全体が外部にした仕事の合計は:
$$W_\text{total} = W_A + W_B = -p_1 S(x_1 - x_2) + p_0 S y_2$$これは、おもりの位置エネルギーの減少と大気が受ける仕事のバランスで理解できます。A側ではおもり+大気が押し込み、B側では気体が大気を押し上げています。
定圧過程での仕事は \(W = p\Delta V = pS\Delta x\)。体積が減る方向なら負、増える方向なら正。AとBで圧力が異なる(\(p_1 \neq p_0\))ことに注意。
細孔栓を通して気体が移動する過程では、外部との熱のやり取りがない(断熱材)。したがって熱力学第1法則で \(Q = 0\) とおけば、内部エネルギーの変化は気体がされた仕事に等しい。おもりの位置エネルギー変化も考慮に入れる。
シリンダー全体(A + B + 細い管)は断熱材で覆われているので \(Q = 0\)。熱力学第1法則より:
$$\Delta U = U(x_2) - U(x_1) = -W_\text{total} = -(W_A + W_B)$$\(W_A\) と \(W_B\) を代入すると:
$$U(x_2) - U(x_1) = -\left[-p_1 S(x_1 - x_2) + p_0 S y_2\right]$$ $$\boxed{U(x_2) - U(x_1) = p_1 S(x_1 - x_2) - p_0 S y_2} \quad \cdots \text{[ア]}$$ここで、A内の気体は温度 \(T_1\)、圧力 \(p_1\)、B内の気体は温度 \(T_2(x_2)\)、圧力 \(p_0\) です。
単原子分子理想気体の内部エネルギーは \(U = \frac{3}{2}nRT\) で、全物質量 \(n\) は保存されるので:
$$U(x_2) = \frac{3}{2}n_A R T_1 + \frac{3}{2}n_B R T_2(x_2)$$ $$U(x_1) = \frac{3}{2}n R T_1 = \frac{3}{2}p_1 S x_1$$ここで状態方程式 \(pV = nRT\) を使うと \(n_A R T_1 = p_1 S x_2\)、\(n_B R T_2 = p_0 S y_2\) なので:
$$U(x_2) = \frac{3}{2}(p_1 S x_2 + p_0 S y_2)$$よって:
$$U(x_2) - U(x_1) = \frac{3}{2}(p_1 S x_2 + p_0 S y_2) - \frac{3}{2}p_1 S x_1$$ $$= \frac{3}{2}S\left[p_1(x_2 - x_1) + p_0 y_2\right]$$[ア] と等置すると:
$$\frac{3}{2}S\left[p_1(x_2 - x_1) + p_0 y_2\right] = p_1 S(x_1 - x_2) - p_0 S y_2$$ $$\frac{3}{2}\left[-p_1(x_1 - x_2) + p_0 y_2\right] = p_1(x_1 - x_2) - p_0 y_2$$両辺を整理して \(p_0 y_2\) について解くと:
$$\frac{3}{2}p_0 y_2 + p_0 y_2 = p_1(x_1 - x_2) + \frac{3}{2}p_1(x_1 - x_2)$$ $$\frac{5}{2}p_0 y_2 = \frac{5}{2}p_1(x_1 - x_2)$$ $$p_0 y_2 = p_1(x_1 - x_2)$$物質量保存から \(n_B R T_2 = p_0 S y_2 = p_1 S(x_1 - x_2)\)。また \(n_B = n - n_A = \frac{p_1 S x_1}{R T_1} - \frac{p_1 S x_2}{R T_1} = \frac{p_1 S(x_1 - x_2)}{R T_1}\) なので:
$$T_2(x_2) = \frac{p_0 S y_2}{n_B R} = \frac{p_1 S(x_1 - x_2)}{\frac{p_1 S(x_1 - x_2)}{T_1}} = T_1$$空欄[ア]:\(U(x_2) - U(x_1) = p_1 S(x_1 - x_2) - p_0 S y_2\)
空欄[イ]:\(T_2(x_2) = T_1\)
\(T_2 = T_1\) という結果は、細孔栓を通した気体の流れがジュール・トムソン膨張に対応していることを示唆します。理想気体のジュール・トムソン係数はゼロであり、定エンタルピー過程で温度は変化しません。
実際、設問(g)(h)でエンタルピーが登場するのはこの事実と関連しています。
理想気体が細孔栓(多孔栓)を通して膨張する過程では、エンタルピーが保存され、理想気体では温度が変化しない。これがジュール・トムソン効果の理想気体版。実在気体では温度変化が生じ、冷凍技術に応用される。
ピストンAを底まで(\(x = 0\))押し込むと、すべての気体がシリンダーB側に移る。この過程でもエンタルピー \(H = U + pV\) が保存される。単原子理想気体では \(H = \frac{5}{2}nRT\) なので、温度が一定なら \(H\) も一定。
設問(g):状態2(\(x = 0\))での仕事
ピストンAが \(x_1\) から \(0\) まで移動するので:
$$W_A(0) = -p_1 S x_1$$設問(f)の結果 \(T_2 = T_1\) と \(p_0 y_2 = p_1(x_1 - x_2)\) から、\(x_2 = 0\) のとき:
$$p_0 y_\text{final} = p_1 x_1 \quad \Longrightarrow \quad y_\text{final} = \frac{p_1 x_1}{p_0}$$ $$W_B(0) = p_0 S y_\text{final} = p_1 S x_1$$設問(h):エンタルピー
問題文の式(1)に代入すると:
$$U(x_2) - U(x_1) = p_1 S(x_1 - x_2) - p_0 S y_2$$右辺を整理すると、\(p_1 S x_1 = n R T_1\)(初期状態の状態方程式)、\(p_1 S x_2 + p_0 S y_2\) は最終状態の \(\sum p_i V_i = n R T_1\)(温度一定)より:
$$U(x_2) - U(x_1) = (p_1 S x_1) - (p_1 S x_2 + p_0 S y_2) = nRT_1 - nRT_1 = 0$$ではありません。慎重に計算し直すと:
$$p_1 S(x_1 - x_2) - p_0 S y_2 = p_1 S x_1 - p_1 S x_2 - p_0 S y_2$$設問(f)の結果 \(p_0 y_2 = p_1(x_1 - x_2)\) を使うと:
$$= p_1 S x_1 - p_1 S x_2 - p_1 S(x_1 - x_2) = p_1 S x_1 - p_1 S x_2 - p_1 S x_1 + p_1 S x_2 = 0$$すなわち \(\Delta U = 0\) であり、温度が \(T_1\) で変わらないことと整合します。
エンタルピー \(H\) は次のように定義されます:
$$H = U + pV \quad \cdots \text{[エ] は } pV$$この過程では \(H\) が変化していないことが分かります。式(3)の形:
$$H = U + pV$$が一定であることを確認します。\(T, p, V\) のうち必要なもので空欄[オ]を表すと:
空欄[エ]は \(pV\) の和(すなわち \(\sum p_i V_i\))です。
単原子理想気体では \(U = \frac{3}{2}nRT\)、\(pV = nRT\) なので:
$$H = U + pV = \frac{3}{2}nRT + nRT = \frac{5}{2}nRT$$式(4)の形で書くと:
$$H = n \times \frac{5}{2}RT \quad \cdots \text{[オ] は } \frac{5}{2}RT$$空欄[エ]:\(pV\)(エンタルピーの定義 \(H = U + pV\))
空欄[オ]:\(\dfrac{5}{2}RT\)(単原子理想気体のモルエンタルピー)
この問題の[B]全体は、実はジュール・トムソン膨張(多孔栓膨張)のモデルです。
高圧側(A、圧力 \(p_1\))から低圧側(B、圧力 \(p_0\))へ気体が細孔栓を通して流れる過程では:
理想気体では \(H = \frac{5}{2}nRT\) なので \(H\) が一定 → \(T\) が一定。
実在気体では分子間力の影響で \(T\) が変化し、多くの気体は膨張すると温度が下がります。これを利用して空気を液化するのがリンデの方法です。
高圧側の気体が圧力 \(p_1\) で体積 \(\Delta V_A\) だけ押し出されるとき、高圧側の気体がされる仕事は \(p_1 \Delta V_A\)。一方、低圧側で圧力 \(p_0\) のもとで体積 \(\Delta V_B\) だけ膨張するとき、低圧側の気体がする仕事は \(p_0 \Delta V_B\)。
熱力学第1法則(断熱):
$$\Delta U = -(p_0 \Delta V_B - p_1 \Delta V_A)$$ $$U_\text{after} + p_0 V_B = U_\text{before} + p_1 V_A$$ $$H_\text{after} = H_\text{before}$$すなわちエンタルピーが保存されます。
多孔栓(細孔栓)を通す膨張は等エンタルピー過程。理想気体では温度変化なし。実在気体では温度が変化し、これがジュール・トムソン効果。大学入試では「エンタルピー保存」の導出過程がよく出題される。