シリンダー内の物質が気体⇔液体の相転移を含みながら熱力学サイクルを行う問題です。飽和蒸気圧下での等温圧縮、定積加熱、断熱膨張を順に解析します。
状態1では全物質が気体なので、理想気体の状態方程式がそのまま適用できる。状態2では気液共存しているが、気体部分だけに状態方程式を適用し、「消えた」気体の mol 数が液体になったと考える。
状態1は全物質が気体、温度 \(T_0\)、圧力 \(p_0\)、体積 \(V_1\) なので:
$$n_1 = \frac{p_0 V_1}{RT_0}$$状態2は気液共存で温度 \(T_0\)、飽和蒸気圧 \(p_0\)、体積 \(V_2\)。気体部分のみに状態方程式を適用すると、気体の物質量は \(\frac{p_0 V_2}{RT_0}\)。液体の物質量は全体から気体分を引いて:
$$n_2 = n_1 - \frac{p_0 V_2}{RT_0} = \frac{p_0 V_1}{RT_0} - \frac{p_0 V_2}{RT_0} = \frac{p_0(V_1 - V_2)}{RT_0}$$数値例:\(p_0 = 1.0 \times 10^5\) Pa, \(V_1 = 8.3 \times 10^{-3}\) m³, \(T_0 = 400\) K, \(R = 8.3\) J/(mol·K) のとき
$$n_1 = \frac{1.0 \times 10^5 \times 8.3 \times 10^{-3}}{8.3 \times 400} = \frac{830}{3320} = 0.25 \text{ mol}$$飽和蒸気圧下での等温圧縮なので、圧力は \(p_0\) で一定。「一定の圧力で体積が減る」仕事は p-V 図上の長方形の面積に等しい。
圧力 \(p_0\) 一定のもとで体積 \(V_1 \to V_2\) に圧縮。外部がピストンにした仕事は:
$$W_{12} = \int_{V_1}^{V_2} (-p_0)\,dV = -p_0(V_2 - V_1) = p_0(V_1 - V_2)$$\(V_1 > V_2\) なので \(W_{12} > 0\)(外部が系に仕事をした)。
数値例:\(p_0 = 1.0 \times 10^5\) Pa, \(V_1 = 8.3 \times 10^{-3}\) m³, \(V_2 = 3.3 \times 10^{-3}\) m³ のとき
$$W_{12} = 1.0 \times 10^5 \times (8.3 - 3.3) \times 10^{-3} = 1.0 \times 10^5 \times 5.0 \times 10^{-3} = 500 \text{ J}$$飽和蒸気圧 \(p_0\) の温度 \(T_0\) で気液共存状態にあるとき、体積を減少させても気体が液体に変わるだけで圧力は変化しない。これは水を沸点で加熱すると温度が変わらないのと同じ原理で、相転移中は温度も圧力も一定に保たれる。
もし温度 \(T_0\) での飽和蒸気圧が \(p_0\) より高ければ、全物質が気体のまま圧縮され、ボイルの法則に従って \(p \propto 1/V\) となる。
気液共存下の等温変化では圧力が飽和蒸気圧で一定。液体の体積は気体に比べ無視できるため、気体部分にのみ \(pV = nRT\) を適用する。仕事は \(p \times \Delta V\) で求まる。
状態1→2で温度は変わらないが、\(n_2\) mol の気体が液体に凝縮する。凝縮すると潜熱 \(L\)(1 mol あたり)を放出するので、内部エネルギーは下がる。一方、理想気体の内部エネルギーは温度だけに依存するため、残った気体の内部エネルギーは変わらない。
温度 \(T_0\) 一定の状態変化だが、\(n_2\) mol の気体が液化する。理想気体の内部エネルギーは温度のみの関数なので、残った気体の内部エネルギーは変化しない。しかし液化で潜熱が放出される。1 mol あたりの凝縮潜熱を \(L\) とすると:
$$\Delta U_{12} = U_2 - U_1 = -n_2 L$$全物質量 \(n_1\) の気体が \((n_1 - n_2)\) mol の気体と \(n_2\) mol の液体に変わり、等温なので気体の内部エネルギーの変化は 0。液体の内部エネルギーは気体より 1 mol あたり \(L\) だけ低い。
数値例:\(n_2 = 0.15\) mol, \(L = 4.0 \times 10^4\) J/mol のとき
$$\Delta U_{12} = -0.15 \times 4.0 \times 10^4 = -6000 \text{ J} = -6.0 \text{ kJ}$$状態1→2の熱力学第一法則 \(\Delta U_{12} = Q_{12} + W_{12}\)(外部がした仕事を正とする場合)を確認:
$$Q_{12} = \Delta U_{12} - W_{12} = -n_2 L - p_0(V_1 - V_2)$$\(Q_{12} < 0\) なので系は熱を放出している。圧縮仕事と凝縮潜熱の両方が系から熱として放出される。
ピストン固定(定積)で温度を上げると、液体が蒸発して全物質が気体に戻る。吸収した熱は①全物質の温度上昇分(定積モル比熱 \(C_V\))と②液体の蒸発に必要な潜熱の和。定積なので仕事は 0。
状態2→3は体積 \(V_2\) 一定。ピストン固定なので外部がする仕事は 0:\(W_{23} = 0\)。
熱力学第一法則より:
$$Q_{23} = \Delta U_{23} = U_3 - U_2$$状態3は全物質が気体、温度 \(T_0 + \Delta T\)。状態2は \((n_1 - n_2)\) mol 気体 + \(n_2\) mol 液体、温度 \(T_0\)。
$$U_3 = n_1 C_V (T_0 + \Delta T)$$ $$U_2 = U_1 + \Delta U_{12} = n_1 C_V T_0 + \Delta U_{12}$$したがって:
$$Q_{23} = U_3 - U_2 = n_1 C_V (T_0 + \Delta T) - n_1 C_V T_0 - \Delta U_{12}$$ $$Q_{23} = n_1 C_V \Delta T - \Delta U_{12}$$\(\Delta U_{12} = -n_2 L < 0\) なので \(-\Delta U_{12} > 0\) となり、蒸発の潜熱分が加算される。
数値例:\(n_1 = 0.25\) mol, \(C_V = \frac{3}{2}R = 12.45\) J/(mol·K), \(\Delta T = 50\) K, \(\Delta U_{12} = -6000\) J のとき
$$Q_{23} = 0.25 \times 12.45 \times 50 - (-6000) = 155.6 + 6000 = 6156 \text{ J}$$吸収熱量を2つの寄与に分けて考えることもできる。
① 温度上昇分:全物質量 \(n_1\) の定積モル比熱を用いて:
$$Q_{\text{temp}} = n_1 C_V \Delta T$$② 蒸発分:\(n_2\) mol の液体を蒸発させる潜熱(\(\Delta U_{12} = -n_2 L\) より \(n_2 L = -\Delta U_{12}\)):
$$Q_{\text{evap}} = n_2 L = -\Delta U_{12}$$合計:\(Q_{23} = n_1 C_V \Delta T + n_2 L = n_1 C_V \Delta T - \Delta U_{12}\)。どちらの表現でも同じ結果。
定積変化では仕事が 0 なので \(Q = \Delta U\)。相転移を含む場合、内部エネルギー変化 = 温度変化分 + 相転移分(潜熱)と分解できる。\(\Delta U_{12}\) に符号情報が含まれているので、式を立てるときは符号に注意。
4つの状態変化を p-V 図上に描く。①等温等圧圧縮(水平左向き)→②定積加熱(垂直上向き)→③断熱膨張(右下へカーブ)→④定積冷却(戻る)。サイクルが閉じるかを確認する。
サイクル 1→2→3→4→1 の各過程を p-V 図上に配置する:
断熱膨張では気体が外部に仕事をするが、熱の出入りがないので内部エネルギー(温度)が下がる。体積が大きく膨張するほど温度は大きく下がる。\(pV^{\gamma} = \text{const}\) のポアソンの関係式を使う。
状態3:全物質が気体、体積 \(V_2\)、温度 \(T_0 + \Delta T\)。
状態4:全物質が気体、体積 \(V_1\)、温度 \(T_4\)。
断熱変化の関係式 \(TV^{\gamma-1} = \text{const}\) より:
$$(T_0 + \Delta T) \cdot V_2^{\gamma - 1} = T_4 \cdot V_1^{\gamma - 1}$$ $$T_4 = (T_0 + \Delta T) \left(\frac{V_2}{V_1}\right)^{\gamma - 1}$$ここで比熱比 \(\gamma = \frac{C_V + R}{C_V}\) である。
数値例:\(T_0 = 400\) K, \(\Delta T = 50\) K, \(V_2/V_1 = 0.40\), \(\gamma = 5/3\)(単原子分子)のとき
$$T_4 = 450 \times (0.40)^{2/3} = 450 \times 0.543 = 244 \text{ K}$$確かに \(T_4 < T_0 = 400\) K(断熱膨張で大幅に冷却)。
\(pV^{\gamma} = \text{const}\) と状態方程式 \(pV = nRT\) を組み合わせる。状態方程式から \(p = \frac{nRT}{V}\) を代入すると:
$$\frac{nRT}{V} \cdot V^{\gamma} = \text{const} \implies T \cdot V^{\gamma - 1} = \text{const}$$これは上と同じ結果。あるいは圧力で表すと \(T^{\gamma} p^{1-\gamma} = \text{const}\) となり、\(p_3\) を求めてから \(T_4\) を計算する方法もあるが、体積の比が直接与えられているので \(TV^{\gamma-1}\) の方が簡潔。
マイヤーの関係 \(C_p = C_V + R\) より、比熱比は:
$$\gamma = \frac{C_p}{C_V} = \frac{C_V + R}{C_V} = 1 + \frac{R}{C_V}$$単原子理想気体:\(C_V = \frac{3}{2}R\) → \(\gamma = \frac{5}{3} \fallingdotseq 1.67\)
2原子理想気体:\(C_V = \frac{5}{2}R\) → \(\gamma = \frac{7}{5} = 1.40\)
問題文で \(C_V\) が与えられている場合、\(\gamma - 1 = R/C_V\) と置き換えると式がすっきりする:
$$T_4 = (T_0 + \Delta T)\left(\frac{V_2}{V_1}\right)^{R/C_V}$$断熱変化の公式 \(TV^{\gamma-1} = \text{const}\) は全物質が気体のときのみ有効。過程(C)で「気体から液体への変化なし」と問題文で明示されていることが、この公式の適用条件を保証している。相転移があると潜熱が加わり、ポアソンの関係式は使えない。