大問1:立方体の浮き沈みと単振動

解法の指針

直感的理解
水に浮かぶ物体を押し込むと浮力が増え,離すと元に戻ります。これは「バネ」と同じ仕組みです。ただし,完全に沈めると浮力が頭打ちになり,バネの比例関係が崩れます。この「比例する区間」と「頭打ちの区間」の違いが問題の核心です。

水に浮かんだ物体を押し込んで離すと,ボヨンボヨンと上下に揺れます。この運動は,振幅が小さいときは綺麗な「単振動」になりますが,大きく押し込みすぎると「非線形な振動」へと変化します。

用語:線形(Linear)と非線形(Non-linear)

問1 つり合いと密度の導出

直感的理解
「水中に沈んでいる体積分の水の重さ=浮力」がアルキメデスの原理の全てです。物体の密度が水の $2/3$ 倍だから,体積の $2/3$ が沈んでいます。

(1) 浮力の大きさ

まず,物体にはたらく力を整理しましょう。アルキメデスの原理より,浮力の大きさは「物体が押しのけた流体(水)の重さ」に等しくなります。

図1(a)より,一辺 $L$ の立方体のうち,水面より上に出ている部分が $L/3$ なので,水中に沈んでいる部分の高さは $L - L/3 = \frac{2}{3}L$ です。
したがって,水没している体積 $V_{\text{sub}}$ は,底面積 $L^2$ を掛けて, $$ V_{\text{sub}} = L^2 \times \frac{2}{3}L = \frac{2}{3}L^3 $$

水の密度を $\rho$,重力加速度を $g$ とすると,求める浮力 $F_{\mathrm{0}}$ は以下のようになります。 $$ F_{\mathrm{0}} = \rho V_{\text{sub}} g = \boldsymbol{\frac{2}{3}\rho L^3 g} $$

(2) 物体の密度

物体は静止しているので,鉛直方向の「重力」と「浮力」がつり合っています。
物体の密度を $\rho_{\text{obj}}$ とすると,物体の質量は $m = \rho_{\text{obj}}L^3$,重力は $mg = \rho_{\text{obj}}L^3 g$ です。

つり合いの式 $\text{重力} = \text{浮力}$ より, $$ \rho_{\text{obj}} L^3 g = \frac{2}{3}\rho L^3 g $$ 両辺を $L^3 g$ で割ると, $$ \rho_{\text{obj}} = \boldsymbol{\frac{2}{3}\rho} $$

答え
(1) $F_{\mathrm{0}} = \dfrac{2}{3}\rho L^3 g$
(2) $\rho_{\text{obj}} = \dfrac{2}{3}\rho$
補足:氷山の一角
この「物体の密度 / 水の密度 = 水没する体積の割合」という関係は,立方体に限らず広く成り立ちます。
例えば氷の密度は約 $0.92 \text{g/cm}^3$,海水の密度は約 $1.03 \text{g/cm}^3$ です。比率を計算すると $0.92 / 1.03 \fallingdotseq 0.89$ となり,氷山の約90%は水面下にあることがわかります。
Point

つり合い条件「重力=浮力」から $\rho_{\text{obj}} / \rho = $ 水没割合が導けます。この比率は物体の形状によらず成り立つ普遍的な関係です。

問2 単振動の運動方程式

直感的理解
つり合い位置からの変位 $x$ に比例した復元力 $F = -\rho L^2 g x$ が生じます。これはバネ定数 $K = \rho L^2 g$ のバネと全く同じ。だから単振動になります。

(1) 合力の導出と力の変化

つり合いの位置から $x$ だけ変位した(上がった)状態を考えます。
以下のシミュレーターで,スライダーを動かして位置 $x$ を変えたとき,「浮力」と「合力」がどう変化するか確認してください。

水中に沈んでいる部分の長さは $h(x) = \frac{2}{3}L - x$ です。 浮力 $f$ はこれに比例するので, $$ f = \rho L^2 \left( \frac{2}{3}L - x \right) g $$ 合力 $F$(上向き正)は「浮力 - 重力」です。重力 $mg$ はつり合いの浮力($x=0$ のときの浮力)と等しいので, $$ F = f - mg = \rho L^2 g \left( \frac{2}{3}L - x \right) - \frac{2}{3}\rho L^3 g $$ $$ F = \boldsymbol{- \rho L^2 g x} $$ このように,合力は変位 $x$ に比例する復元力($F=-Kx$)となり,単振動の方程式が導かれます。

注意点:復元力の向き
式にマイナスがついていることに注目しましょう。
$x > 0$(上に変位)のときは $F < 0$(下向き),$x < 0$(下に変位)のときは $F > 0$(上向き)となり,常に「つり合いの位置に戻そうとする力」がはたらいています。

(2) 最高点の位置

$x = -L/4$ で放した場合,これは単振動の範囲内なので,振動の中心 $x=0$ に対して対称な位置まで上がります。 $$ x = \boldsymbol{\frac{L}{4}} $$

別解:運動方程式から解く
運動方程式 $ma = -Kx$ より,この運動は単振動です。初速0で動き出した位置が振幅の端点となるため, 変位 $x$ は時間 $t$ の関数として次のように表せます($t=0$ で $x=-L/4$)。 $$ x(t) = -\frac{L}{4} \cos(\omega t) $$ 最高点は $\cos(\omega t) = -1$ となるときなので, $$ x_{\mathrm{max}} = -\frac{L}{4} \times (-1) = \boldsymbol{\frac{L}{4}} $$

(3) 中心通過時の速さ

角振動数を $\omega$ とすると,運動方程式 $ma = -Kx$ より $\omega = \sqrt{K/m} = \sqrt{\frac{3g}{2L}}$。
最大速さは, $$ v_{\mathrm{max}} = A\omega = \frac{L}{4}\sqrt{\frac{3g}{2L}} = \boldsymbol{\frac{1}{4}\sqrt{\frac{3gL}{2}}} $$

答え
(1) $F = -\rho L^2 g\, x$
(2) $x_{\mathrm{max}} = \dfrac{L}{4}$
(3) $v_{\mathrm{max}} = \dfrac{1}{4}\sqrt{\dfrac{3gL}{2}}$

数値例:一辺 \(a = 0.10\) m の立方体(密度 \(\rho = 600\) kg/m³)が水に浮くとき、沈んだ深さは

\(d = \dfrac{\rho}{\rho_w} a = \dfrac{600}{1000} \times 0.10 = 0.060\) m = 6.0 cm

浮力は \(F = \rho_w g a^2 d = 1000 \times 9.8 \times 0.010 \times 0.060 = 0.588\) N ≒ 0.59 N

Point

浮力による復元力は $F = -\rho L^2 g\, x$ なので,実効バネ定数は $K = \rho L^2 g$,周期は $T = 2\pi\sqrt{m/K} = 2\pi\sqrt{2L/(3g)}$ です。単振動の公式がそのまま使えます。

実験室:グラフ形状の違い(放物線とサインカーブ)

直感的理解
力の性質がグラフの形を決めます。完全水没区間では力が一定なので等加速度運動(放物線),部分水没区間では力が変位に比例するので単振動(サインカーブ)になります。
左:物体をドラッグして実験できます / 右:$x-t$グラフ(上)の曲線の違いに注目!

問5の Case C(大きく沈める場合)を観察してください。運動の種類が切り替わる様子がグラフにはっきりと表れます。

Point

Case A, B は単振動の等時性により同じ周期。Case C は浮力が飽和する区間を含むため復元が遅れ,周期が長くなります。上の実験で3つのケースを比較してみましょう。

問3 力と位置のグラフ

直感的理解
F-xグラフは3つの区間に分かれます。完全水没(左)で一定,部分水没(中央)で直線(バネと同じ),空中(右)で一定。実験室シミュレーションの右下グラフで確認できます。

赤い点をドラッグして,各区間での力の変化を確認してください。

答え:(イ)
グラフは,完全水没区間(左側)で正の定数,単振動区間(中央)で右下がりの直線,空中(右側)で負の定数となります。
Point

F-xグラフが「折れ線」になるのは,浮力の式が区間によって切り替わるためです。境界点 $x = -L/3$(完全水没の限界)と $x = 2L/3$(完全に浮上する限界)で力の式が変わります。

問4・問5 大振幅運動と周期

直感的理解
深く沈めすぎると浮力が「最大値で頭打ち」になります。本来ならもっと強い力で引き戻されるはずの区間で弱い一定力しか受けないため,戻りが遅くなります。だから Case C は周期が長くなるのです。

問4 エネルギー保存則によるアプローチ

$x = -L/3 - d$ まで沈めると,最初は「完全水没」の状態からスタートします。
始点($x = -L/3 - d$)から最高点($x = 2L/3$)まで,合力 $F$ がした仕事の総和は,運動エネルギーの変化($0 \to 0$)に等しいためゼロになります。

$W_{\mathrm{1}} + W_{\mathrm{2}} = 0$ より, $$ \frac{1}{3}\rho L^3 g d - \frac{1}{6}\rho L^4 g = 0 \quad \Rightarrow \quad d = \boldsymbol{\frac{L}{2}} $$

別解:運動方程式によるアプローチ
ダイナミクス(力と加速度)の視点でも解いてみましょう。完全水没区間では合力が一定なので,等加速度運動になります。
  1. 加速度を求める
    運動方程式 $ma = F_{\mathrm{1}}$ より, $$ a = \frac{F_{\mathrm{1}}}{m} = \frac{\frac{1}{3}\rho L^3 g}{\frac{2}{3}\rho L^3} = \frac{1}{2}g $$
  2. 接続点での速度を求める
    距離 $d$ だけ加速した直後($x=-L/3$)の速度 $v$ は,$v^2 - 0 = 2ad$ より, $$ v^2 = 2 \cdot \frac{1}{2}g \cdot d = gd $$
  3. 単振動区間の力学的エネルギー保存則
    単振動の範囲に入る直前($x=-L/3$)と,最高点($x=2L/3$)の2か所で力学的エネルギー保存則を立てます。
    $$ \underbrace{\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}K\left(-\frac{L}{3}\right)^2}_{\text{直前のエネルギー}} = \underbrace{0 + \frac{1}{2}K\left(\frac{2L}{3}\right)^2}_{\text{最高点のエネルギー}} $$ これを整理すると,$\frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{6}KL^2$ となり,各値を代入して解くと $d = L/2$ が得られます。

問5 周期の比較と解説

時間の大小関係は以下のようになります。 $$ t_{\mathrm{A}} = t_{\mathrm{B}} < t_{\mathrm{C}} $$ Case A, Bは通常の単振動(等時性)ですが,Case Cは「力が弱い(飽和する)」区間を含むため,引き戻すのに時間がかかります。

Cの場合(遅くなる理由)
もし単振動のままなら,深く沈めるほど復元力は「比例して」どこまでも強くなり,その分猛烈な勢いで加速して戻ってきます。
しかしCase C(完全水没)では,ある深さを超えると浮力が「最大値」で頭打ちになり,それ以上強くなりません(力が飽和する)。
本来ならもっと強い力で引き戻されるはずの区間で,弱い一定の力しか受けないため,加速が鈍くなります。その結果,最高点に戻ってくるまでに余計な時間がかかってしまうのです。

答え
問4: $d = \dfrac{L}{2}$
問5: $t_{\mathrm{A}} = t_{\mathrm{B}} < t_{\mathrm{C}}$
Point

$d = L/2$ は「等加速度区間での仕事」と「単振動区間での位置エネルギー変化」を等置して求めます。Case Cの周期は $t_C \fallingdotseq 3.12\sqrt{L/g} > t_A \fallingdotseq 2.56\sqrt{L/g}$ で,等時性が破れます。

【深掘り】運動の数式化とグラフの正体

直感的理解
「力が一定 → 等加速度 → 二次関数」「力が変位に比例 → 単振動 → 三角関数」。力の性質がグラフの形を決めています。境界点で力が一致するので,2つのグラフは滑らかにつながります。

なぜグラフが「二次関数」や「三角関数」になるのか,運動方程式から実際に式を導いて確かめましょう。

(1) 赤エリア:なぜ二次関数になるのか?

物体が完全に水没している区間($x < -L/3$)を考えます。
ここでは浮力が最大値 $\rho L^3 g$ で一定となるため,合力 $F$ も一定になります。 $$ F = \rho L^3 g - mg = \frac{1}{3}\rho L^3 g $$ 運動方程式 $ma = F$ より,加速度 $a$ も一定です。 $$ a = \frac{F}{m} = \frac{\frac{1}{3}\rho L^3 g}{\frac{2}{3}\rho L^3} = \frac{1}{2}g $$ 加速度が一定の運動(等加速度運動)なので,変位 $x$ は時間の二次関数になります。 $$ x(t) = x_{\mathrm{0}} + v_{\mathrm{0}} t + \frac{1}{2}at^2 $$ Case Cの場合,初速度 $v_{\mathrm{0}}=0$ なので,まさに放物線(二次関数)を描きます。

(2) 青エリア:なぜ三角関数になるのか?

物体が部分的に水没している区間($-L/3 \le x \le 2L/3$)を考えます。
ここでは合力が変位に比例します(問2より)。 $$ F = -Kx \quad (K = \rho L^2 g) $$ 運動方程式 $ma = -Kx$ は単振動の微分方程式であり,その解は時間 $t$ の三角関数(サイン・コサイン)になります。 $$ x(t) = A \sin(\omega t + \phi) $$

(3) Case C の時間を本気で計算してみる

$t_{\mathrm{A}}$ と $t_{\mathrm{C}}$ の時間を実際に計算して,どのくらい違うのか比較してみましょう。

① $t_{\mathrm{A}}$ の計算(単振動の半周期)
$$ t_{\mathrm{A}} = \frac{T}{2} = \pi \sqrt{\frac{m}{K}} = \pi \sqrt{\frac{2L}{3g}} \fallingdotseq \boldsymbol{2.56 \sqrt{\frac{L}{g}}} $$

② $t_{\mathrm{C}}$ の計算(等加速度+単振動)
まず,赤エリアを距離 $d=L/2$ だけ加速度 $g/2$ で進む時間 $t_{\mathrm{const}}$ は, $$ \frac{L}{2} = \frac{1}{2}\left(\frac{g}{2}\right)t_{\mathrm{const}}^2 \quad \Rightarrow \quad t_{\mathrm{const}} = \sqrt{\frac{2L}{g}} \fallingdotseq \boldsymbol{1.41 \sqrt{\frac{L}{g}}} $$ 次に,青エリアに入ってから最高点までの時間は,以下の図のように考えると,単振動の周期 $T$ の $1/3$ に相当することが分かります。

$$ t_{\mathrm{SHM}} = \frac{T}{3} = \frac{2}{3}\pi \sqrt{\frac{2L}{3g}} \fallingdotseq \boldsymbol{1.71 \sqrt{\frac{L}{g}}} $$ 合計すると, $$ t_{\mathrm{C}} = t_{\mathrm{const}} + t_{\mathrm{SHM}} \fallingdotseq (1.41 + 1.71)\sqrt{\frac{L}{g}} = \boldsymbol{3.12 \sqrt{\frac{L}{g}}} $$

補足:接続点での滑らかさ
$x = -L/3$ の境界で,グラフはカクッと折れ曲がるのではなく,滑らかに接続します。
これは,境界点において単振動の力 $F = -K(-L/3) = \frac{1}{3}\rho L^3 g$ と,完全水没時の一定力 $F = \frac{1}{3}\rho L^3 g$ が一致するためです。力が一致するということは加速度も急変せず,物体は衝撃を受けずにスムーズに運動が切り替わります。
Point

2つのグラフが滑らかにつながるのは,境界 $x = -L/3$ で両方の力の式が同じ値 $F = \frac{1}{3}\rho L^3 g$ をとるためです。力が連続なら加速度も連続なので,物体は衝撃なく運動が切り替わります。