水に浮かんだ物体を押し込んで離すと,ボヨンボヨンと上下に揺れます。この運動は,振幅が小さいときは綺麗な「単振動」になりますが,大きく押し込みすぎると「非線形な振動」へと変化します。
まず,物体にはたらく力を整理しましょう。アルキメデスの原理より,浮力の大きさは「物体が押しのけた流体(水)の重さ」に等しくなります。
図1(a)より,一辺 $L$ の立方体のうち,水面より上に出ている部分が $L/3$ なので,水中に沈んでいる部分の高さは $L - L/3 = \frac{2}{3}L$ です。
したがって,水没している体積 $V_{\text{sub}}$ は,底面積 $L^2$ を掛けて,
$$ V_{\text{sub}} = L^2 \times \frac{2}{3}L = \frac{2}{3}L^3 $$
水の密度を $\rho$,重力加速度を $g$ とすると,求める浮力 $F_{\mathrm{0}}$ は以下のようになります。 $$ F_{\mathrm{0}} = \rho V_{\text{sub}} g = \boldsymbol{\frac{2}{3}\rho L^3 g} $$
物体は静止しているので,鉛直方向の「重力」と「浮力」がつり合っています。
物体の密度を $\rho_{\text{obj}}$ とすると,物体の質量は $m = \rho_{\text{obj}}L^3$,重力は $mg = \rho_{\text{obj}}L^3 g$ です。
つり合いの式 $\text{重力} = \text{浮力}$ より, $$ \rho_{\text{obj}} L^3 g = \frac{2}{3}\rho L^3 g $$ 両辺を $L^3 g$ で割ると, $$ \rho_{\text{obj}} = \boldsymbol{\frac{2}{3}\rho} $$
つり合い条件「重力=浮力」から $\rho_{\text{obj}} / \rho = $ 水没割合が導けます。この比率は物体の形状によらず成り立つ普遍的な関係です。
つり合いの位置から $x$ だけ変位した(上がった)状態を考えます。
以下のシミュレーターで,スライダーを動かして位置 $x$ を変えたとき,「浮力」と「合力」がどう変化するか確認してください。
水中に沈んでいる部分の長さは $h(x) = \frac{2}{3}L - x$ です。 浮力 $f$ はこれに比例するので, $$ f = \rho L^2 \left( \frac{2}{3}L - x \right) g $$ 合力 $F$(上向き正)は「浮力 - 重力」です。重力 $mg$ はつり合いの浮力($x=0$ のときの浮力)と等しいので, $$ F = f - mg = \rho L^2 g \left( \frac{2}{3}L - x \right) - \frac{2}{3}\rho L^3 g $$ $$ F = \boldsymbol{- \rho L^2 g x} $$ このように,合力は変位 $x$ に比例する復元力($F=-Kx$)となり,単振動の方程式が導かれます。
$x = -L/4$ で放した場合,これは単振動の範囲内なので,振動の中心 $x=0$ に対して対称な位置まで上がります。 $$ x = \boldsymbol{\frac{L}{4}} $$
角振動数を $\omega$ とすると,運動方程式 $ma = -Kx$ より $\omega = \sqrt{K/m} = \sqrt{\frac{3g}{2L}}$。
最大速さは,
$$ v_{\mathrm{max}} = A\omega = \frac{L}{4}\sqrt{\frac{3g}{2L}} = \boldsymbol{\frac{1}{4}\sqrt{\frac{3gL}{2}}} $$
数値例:一辺 \(a = 0.10\) m の立方体(密度 \(\rho = 600\) kg/m³)が水に浮くとき、沈んだ深さは
\(d = \dfrac{\rho}{\rho_w} a = \dfrac{600}{1000} \times 0.10 = 0.060\) m = 6.0 cm
浮力は \(F = \rho_w g a^2 d = 1000 \times 9.8 \times 0.010 \times 0.060 = 0.588\) N ≒ 0.59 N
浮力による復元力は $F = -\rho L^2 g\, x$ なので,実効バネ定数は $K = \rho L^2 g$,周期は $T = 2\pi\sqrt{m/K} = 2\pi\sqrt{2L/(3g)}$ です。単振動の公式がそのまま使えます。
問5の Case C(大きく沈める場合)を観察してください。運動の種類が切り替わる様子がグラフにはっきりと表れます。
Case A, B は単振動の等時性により同じ周期。Case C は浮力が飽和する区間を含むため復元が遅れ,周期が長くなります。上の実験で3つのケースを比較してみましょう。
赤い点をドラッグして,各区間での力の変化を確認してください。
F-xグラフが「折れ線」になるのは,浮力の式が区間によって切り替わるためです。境界点 $x = -L/3$(完全水没の限界)と $x = 2L/3$(完全に浮上する限界)で力の式が変わります。
$x = -L/3 - d$ まで沈めると,最初は「完全水没」の状態からスタートします。
始点($x = -L/3 - d$)から最高点($x = 2L/3$)まで,合力 $F$ がした仕事の総和は,運動エネルギーの変化($0 \to 0$)に等しいためゼロになります。
$W_{\mathrm{1}} + W_{\mathrm{2}} = 0$ より, $$ \frac{1}{3}\rho L^3 g d - \frac{1}{6}\rho L^4 g = 0 \quad \Rightarrow \quad d = \boldsymbol{\frac{L}{2}} $$
時間の大小関係は以下のようになります。 $$ t_{\mathrm{A}} = t_{\mathrm{B}} < t_{\mathrm{C}} $$ Case A, Bは通常の単振動(等時性)ですが,Case Cは「力が弱い(飽和する)」区間を含むため,引き戻すのに時間がかかります。
Cの場合(遅くなる理由)
もし単振動のままなら,深く沈めるほど復元力は「比例して」どこまでも強くなり,その分猛烈な勢いで加速して戻ってきます。
しかしCase C(完全水没)では,ある深さを超えると浮力が「最大値」で頭打ちになり,それ以上強くなりません(力が飽和する)。
本来ならもっと強い力で引き戻されるはずの区間で,弱い一定の力しか受けないため,加速が鈍くなります。その結果,最高点に戻ってくるまでに余計な時間がかかってしまうのです。
$d = L/2$ は「等加速度区間での仕事」と「単振動区間での位置エネルギー変化」を等置して求めます。Case Cの周期は $t_C \fallingdotseq 3.12\sqrt{L/g} > t_A \fallingdotseq 2.56\sqrt{L/g}$ で,等時性が破れます。
なぜグラフが「二次関数」や「三角関数」になるのか,運動方程式から実際に式を導いて確かめましょう。
物体が完全に水没している区間($x < -L/3$)を考えます。
ここでは浮力が最大値 $\rho L^3 g$ で一定となるため,合力 $F$ も一定になります。
$$ F = \rho L^3 g - mg = \frac{1}{3}\rho L^3 g $$
運動方程式 $ma = F$ より,加速度 $a$ も一定です。
$$ a = \frac{F}{m} = \frac{\frac{1}{3}\rho L^3 g}{\frac{2}{3}\rho L^3} = \frac{1}{2}g $$
加速度が一定の運動(等加速度運動)なので,変位 $x$ は時間の二次関数になります。
$$ x(t) = x_{\mathrm{0}} + v_{\mathrm{0}} t + \frac{1}{2}at^2 $$
Case Cの場合,初速度 $v_{\mathrm{0}}=0$ なので,まさに放物線(二次関数)を描きます。
物体が部分的に水没している区間($-L/3 \le x \le 2L/3$)を考えます。
ここでは合力が変位に比例します(問2より)。
$$ F = -Kx \quad (K = \rho L^2 g) $$
運動方程式 $ma = -Kx$ は単振動の微分方程式であり,その解は時間 $t$ の三角関数(サイン・コサイン)になります。
$$ x(t) = A \sin(\omega t + \phi) $$
$t_{\mathrm{A}}$ と $t_{\mathrm{C}}$ の時間を実際に計算して,どのくらい違うのか比較してみましょう。
① $t_{\mathrm{A}}$ の計算(単振動の半周期)
$$ t_{\mathrm{A}} = \frac{T}{2} = \pi \sqrt{\frac{m}{K}} = \pi \sqrt{\frac{2L}{3g}} \fallingdotseq \boldsymbol{2.56 \sqrt{\frac{L}{g}}} $$
② $t_{\mathrm{C}}$ の計算(等加速度+単振動)
まず,赤エリアを距離 $d=L/2$ だけ加速度 $g/2$ で進む時間 $t_{\mathrm{const}}$ は,
$$ \frac{L}{2} = \frac{1}{2}\left(\frac{g}{2}\right)t_{\mathrm{const}}^2 \quad \Rightarrow \quad t_{\mathrm{const}} = \sqrt{\frac{2L}{g}} \fallingdotseq \boldsymbol{1.41 \sqrt{\frac{L}{g}}} $$
次に,青エリアに入ってから最高点までの時間は,以下の図のように考えると,単振動の周期 $T$ の $1/3$ に相当することが分かります。
$$ t_{\mathrm{SHM}} = \frac{T}{3} = \frac{2}{3}\pi \sqrt{\frac{2L}{3g}} \fallingdotseq \boldsymbol{1.71 \sqrt{\frac{L}{g}}} $$ 合計すると, $$ t_{\mathrm{C}} = t_{\mathrm{const}} + t_{\mathrm{SHM}} \fallingdotseq (1.41 + 1.71)\sqrt{\frac{L}{g}} = \boldsymbol{3.12 \sqrt{\frac{L}{g}}} $$
2つのグラフが滑らかにつながるのは,境界 $x = -L/3$ で両方の力の式が同じ値 $F = \frac{1}{3}\rho L^3 g$ をとるためです。力が連続なら加速度も連続なので,物体は衝撃なく運動が切り替わります。