真空中に 2 枚の平行平板 P1、P2 が距離 $d$ を隔てて置かれ、容量 $C$ のコンデンサを形成する。外部回路にはスイッチ S1、S2 と電源 E(起電力 $V$)。2 枚の板の間には質量 $m$・半径 $r$・電荷ゼロの導体球が、初期状態で P1 上に接触している。
$t = 0$ で S1、S2 を同時に閉じると、コンデンサが充電されて板間に一様電場ができる。P1 と接触している導体球は P1 と同電位(例えば負側)になり、電荷を持って P2 に向かって加速される。P2 に到達すると電荷を P2 に渡し、今度は P2 と同符号になって P1 へ戻る。この往復運動が続く。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 板間容量 $C$ | $2.0 \times 10^{-10}$ F = 200 pF |
| 電源起電力 $V$ | $10$ V(推定値) |
| 球の質量 $m$ | $2.5 \times 10^{-4}$ kg |
| 球の半径 $r$ | $0.5$ cm $= 5 \times 10^{-3}$ m |
| クーロン定数 $k$ | $9.0 \times 10^9$ N·m²/C² |
| 板間距離 $d$ | 有限(解説内で使用) |
球が持つ電荷: 球の自己容量 $C_s = 4\pi\varepsilon_0 r = r/k$($k = 1/(4\pi\varepsilon_0)$)。P1 に接触すると球の電位が $+V$ になり、電荷
$$q = C_s V = \frac{r}{k} V$$与えられた数値を代入:$r = 5\times 10^{-3}$ m, $V = 10$ V, $k = 9\times 10^9$:
$$q = \frac{5\times 10^{-3} \cdot 10}{9\times 10^9} \fallingdotseq 5.6 \times 10^{-12}\ {\rm C}$$電場と力: 平板間の一様電場 $E = V/d$。球に働く電気力
$$F_e = qE = \frac{qV}{d}$$P1 と同符号電荷を持つ球は、P1 から反発して P2 に向かう。
重力との比較: 球の重力 $mg = 2.5\times 10^{-4} \times 9.8 \fallingdotseq 2.5\times 10^{-3}$ N。電気力 $F_e = qV/d$。$d = 2$ cm = $0.02$ m と仮定すると $F_e = 5.6\times 10^{-12} \times 500 = 2.8\times 10^{-9}$ N——重力のほうが圧倒的に大きい。
これは問題文の「球は P1 上に載っている」状態で成立するには、板を水平配置し、下が P1、上が P2 のような向きとする必要がある。逆に、鉛直方向の加速度に対して重力が支配的なら、電気力だけでは往復運動を起こせないので、板は水平向きに設置、重力の影響を受けない配置と解釈する(例:板の面が上下を向いていて球は転がる)。
以下、重力は無視(板が水平に並んで球が水平に動く配置)とする。
摩擦なし、重力の水平成分なし、板間の電場のみが球を加速する。問題文の設定はこの理想化された状況で解く。現実の実験では摩擦と重力を無視できるように、板を水平に並べる(球は水平方向に動く)。
加速度: 球の運動方程式 $m a = qE = qV/d$:
$$a = \frac{qV}{md}$$$d/2$ まで到達する時間 $t'$: 等加速度運動 $x = \tfrac{1}{2}at'^2$、$x = d/2$ と置く:
$$\frac{d}{2} = \frac{1}{2} \cdot \frac{qV}{md} \cdot t'^2 \ \Rightarrow\ t'^2 = \frac{md^2}{qV}$$ $$t' = d \sqrt{\frac{m}{qV}}$$$d/2$ での速度 $v'$: エネルギー保存 $qE \cdot d/2 = \tfrac{1}{2}mv'^2$:
$$\frac{qV}{d} \cdot \frac{d}{2} = \frac{1}{2} m v'^2 \ \Rightarrow\ v'^2 = \frac{qV}{m}$$ $$v' = \sqrt{\frac{qV}{m}}$$$d$ まで(P2 到着)の時間: $x = d$ なら $t_f = d\sqrt{2m/(qV)} = t'\sqrt{2}$。
$d$ 到達時の速度: $v_f = \sqrt{2qV/m} = v' \sqrt{2}$。
$v = at' = \dfrac{qV}{md} \cdot d\sqrt{\dfrac{m}{qV}} = \sqrt{\dfrac{qV}{m}}$——エネルギー保存と一致。
問3 P2 到着後: 完全非弾性衝突で速度 0、電位が P2 と等しくなる(電荷の一部が球→P2 または P2→球に移動する)。
その後の運動は、球が P2 と同符号電荷を持つため、板間の電場に押されて P1 へ向かう。逆向き加速度 $a' = qV/(md)$(電荷が反転、板の符号も逆でないが電場方向が同じなので加速度は常に P2→P1 方向かP1→P2 方向)。具体的に:
問4 P1 から P2 への時間: $d = \tfrac{1}{2}at_f^2$ より $t_f = \sqrt{2d/a} = \sqrt{2d \cdot md/(qV)} = d\sqrt{2m/(qV)}$。
これは $\sqrt{2} t'$。「$t = 3t'$」は $\sqrt{2}t' + \alpha$ で 1 往復目を終え 2 往復目の途中、と解釈される問題。
問5 移動時間の変化理由: 衝突のたびに球と板の間で電荷再分配が起こり、コンデンサの電荷と電圧が変化する。具体的には:
本問の状況(スイッチ閉じたまま): 電源が常に供給するので $V$ は一定、$a$ も一定、移動時間 $t_f$ は変化しない。
電源を切った後(問5 の趣旨と推測): コンデンサの電荷 $Q = CV$ が球に渡され、徐々に板間電位差が減り、電場 $E = Q/(Cd)$ も減る。$a \propto E \propto Q \propto V$ なので、電位差の減少で加速度減少、移動時間が長くなる。
最初、$Q_0 = C V_0$。球が P1 から電荷 $q_s = C_s V_0$($C_s = r/k$)を持って出発。P2 に到着時、電荷 $q_s$ を P2 に渡す。
P2 の電荷は $-Q_0 + q_s$ に変化(符号込みで)。残った電荷 $Q_1$ と対応する電圧 $V_1 = Q_1/C$。
$V_1 < V_0$ なので次の加速度は小さくなり、移動時間が長くなる。繰り返すと、$V_n = V_0 (1 - C_s/C)^n$ の形で指数関数的に減衰する。
公式集:
| 量 | 式 |
|---|---|
| 球の自己容量 | $C_s = 4\pi\varepsilon_0 r = r/k$ |
| 球が板から受け取る電荷 | $q = C_s V$ |
| 板間電場 | $E = V/d$ |
| 球の加速度 | $a = qE/m = qV/(md)$ |
| 1 回の移動時間($d$ 分) | $t_f = d\sqrt{2m/(qV)}$ |
| 中間点での速度 | $v' = \sqrt{qV/m}$ |
| P2 到着時の速度 | $v_f = \sqrt{2qV/m}$ |
| 1 往復あたり消費電荷(電源 OFF) | $\Delta Q = 2q = 2 C_s V$ |
18世紀の電気実験で、導電性の球を絹糸で吊り、帯電した板の間に置くと勝手に往復運動する「振り子」が観察された。これは静電気の存在とその移動を示す象徴的な実験。
現代でもバンデグラーフ発電機の教材実験で見ることができる。本問の理想化モデルは、この古典的実験を高校物理の範囲で定量的に扱ったもの。
計算例($V = 10$ V、$d = 2$ cm):
| 量 | 計算 | 値 |
|---|---|---|
| 電荷 $q$ | $r V/k = 5\times 10^{-3} \times 10 / (9\times 10^9)$ | $5.56 \times 10^{-12}$ C |
| 電場 $E$ | $V/d = 10/0.02$ | $500$ V/m |
| 電気力 $F$ | $qE = 5.56\times 10^{-12} \times 500$ | $2.78 \times 10^{-9}$ N |
| 加速度 $a$ | $F/m = 2.78\times 10^{-9} / 2.5\times 10^{-4}$ | $1.11 \times 10^{-5}$ m/s² |
| P2 速度 $v_f$ | $\sqrt{2qV/m}$ | $2.11 \times 10^{-4}$ m/s |
| P1→P2 時間 $t_f$ | $d\sqrt{2m/(qV)}$ | $1.90 \times 10^{2}$ s ≈ 3 分 |
現実感: 往復 1 回に 3 分以上かかる——これは球が非常にゆっくり動くことを示す。電圧を $1000$ V まで上げれば $q$ が 100 倍、加速度も 100 倍、時間は $1/10$ に減って 20 秒程度になる。
電圧依存性:
同じ原理で微小な金属粒子を制御する MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)装置が研究されている。静電気力で粒子を振動・回転させて、加速度センサや圧力センサとして利用。
スマホに入っている MEMS 加速度センサも、類似の静電気的な振動原理で動作している(ただし設計は複雑)。