前期 大問3(電磁気:平行平板コンデンサと導体球の往復運動)

解法の指針

真空中に 2 枚の平行平板 P1、P2 が距離 $d$ を隔てて置かれ、容量 $C$ のコンデンサを形成する。外部回路にはスイッチ S1、S2 と電源 E(起電力 $V$)。2 枚の板の間には質量 $m$・半径 $r$・電荷ゼロの導体球が、初期状態で P1 上に接触している。

$t = 0$ で S1、S2 を同時に閉じると、コンデンサが充電されて板間に一様電場ができる。P1 と接触している導体球は P1 と同電位(例えば負側)になり、電荷を持って P2 に向かって加速される。P2 に到達すると電荷を P2 に渡し、今度は P2 と同符号になって P1 へ戻る。この往復運動が続く。

与えられた数値

板間容量 $C$$2.0 \times 10^{-10}$ F = 200 pF
電源起電力 $V$$10$ V(推定値)
球の質量 $m$$2.5 \times 10^{-4}$ kg
球の半径 $r$$0.5$ cm $= 5 \times 10^{-3}$ m
クーロン定数 $k$$9.0 \times 10^9$ N·m²/C²
板間距離 $d$有限(解説内で使用)
全体を貫くポイント

問1:球が P1 に接触した瞬間に受ける力

直感的理解
スイッチを閉じると、P1 が電源の一極に接続され、P1 の電位が $+V$ になる(または負側)。P1 に接触している導体球はそれと同じ電位になり、同符号の電荷 $q$ を持つ。コンデンサ間の電場 $E = V/d$ が球を P2 に向かって押し出す(同符号反発)。

球が持つ電荷: 球の自己容量 $C_s = 4\pi\varepsilon_0 r = r/k$($k = 1/(4\pi\varepsilon_0)$)。P1 に接触すると球の電位が $+V$ になり、電荷

$$q = C_s V = \frac{r}{k} V$$

与えられた数値を代入:$r = 5\times 10^{-3}$ m, $V = 10$ V, $k = 9\times 10^9$:

$$q = \frac{5\times 10^{-3} \cdot 10}{9\times 10^9} \fallingdotseq 5.6 \times 10^{-12}\ {\rm C}$$

電場と力: 平板間の一様電場 $E = V/d$。球に働く電気力

$$F_e = qE = \frac{qV}{d}$$

P1 と同符号電荷を持つ球は、P1 から反発して P2 に向かう。

重力との比較: 球の重力 $mg = 2.5\times 10^{-4} \times 9.8 \fallingdotseq 2.5\times 10^{-3}$ N。電気力 $F_e = qV/d$。$d = 2$ cm = $0.02$ m と仮定すると $F_e = 5.6\times 10^{-12} \times 500 = 2.8\times 10^{-9}$ N——重力のほうが圧倒的に大きい

これは問題文の「球は P1 上に載っている」状態で成立するには、板を水平配置し、下が P1、上が P2 のような向きとする必要がある。逆に、鉛直方向の加速度に対して重力が支配的なら、電気力だけでは往復運動を起こせないので、板は水平向きに設置、重力の影響を受けない配置と解釈する(例:板の面が上下を向いていて球は転がる)。

以下、重力は無視(板が水平に並んで球が水平に動く配置)とする。

答え:球が受ける電気力 $F_e = qV/d$、重力 $mg$ は設定上無視(水平配置)。
補足:球が板上で滑らかに運動する条件

摩擦なし、重力の水平成分なし、板間の電場のみが球を加速する。問題文の設定はこの理想化された状況で解く。現実の実験では摩擦と重力を無視できるように、板を水平に並べる(球は水平方向に動く)。

Point 導体球が板と接触すると、板の電位を共有し、自己容量 $C_s = r/k$ に相当する電荷を持つ。これが電場 $E = V/d$ に押されて運動する。

問2:時刻 $t'$ で中間点、速度と時間

直感的理解
電場 $E = V/d$ による一定の力 $qE$ で加速される(等加速度運動)。$d/2$ だけ進む時間 $t'$ とそのときの速度 $v'$ を、運動方程式・エネルギー保存の両方から求められる。

加速度: 球の運動方程式 $m a = qE = qV/d$:

$$a = \frac{qV}{md}$$

$d/2$ まで到達する時間 $t'$: 等加速度運動 $x = \tfrac{1}{2}at'^2$、$x = d/2$ と置く:

$$\frac{d}{2} = \frac{1}{2} \cdot \frac{qV}{md} \cdot t'^2 \ \Rightarrow\ t'^2 = \frac{md^2}{qV}$$ $$t' = d \sqrt{\frac{m}{qV}}$$

$d/2$ での速度 $v'$: エネルギー保存 $qE \cdot d/2 = \tfrac{1}{2}mv'^2$:

$$\frac{qV}{d} \cdot \frac{d}{2} = \frac{1}{2} m v'^2 \ \Rightarrow\ v'^2 = \frac{qV}{m}$$ $$v' = \sqrt{\frac{qV}{m}}$$

$d$ まで(P2 到着)の時間: $x = d$ なら $t_f = d\sqrt{2m/(qV)} = t'\sqrt{2}$。

$d$ 到達時の速度: $v_f = \sqrt{2qV/m} = v' \sqrt{2}$。

答え:$t' = d\sqrt{\dfrac{m}{qV}}$、$v' = \sqrt{\dfrac{qV}{m}}$
確認:運動方程式からの v' 計算

$v = at' = \dfrac{qV}{md} \cdot d\sqrt{\dfrac{m}{qV}} = \sqrt{\dfrac{qV}{m}}$——エネルギー保存と一致。

Point 等加速度運動では「中間点の速度」は終点速度の $1/\sqrt{2}$ 倍。これはエネルギー保存からすぐ確認できる。

問3・問4・問5:P2 到着後の非弾性衝突と往復

直感的理解
球が P2 に衝突するとき「完全非弾性」なので、球の運動エネルギーはすべて熱になり速度は 0 に。すみやかに球は P2 と電位が等しくなる(電荷再分配)。その後、P2 と同符号電荷を持って P1 に向かい、再加速される。これで球は繰り返し往復する。

問3 P2 到着後: 完全非弾性衝突で速度 0、電位が P2 と等しくなる(電荷の一部が球→P2 または P2→球に移動する)。

その後の運動は、球が P2 と同符号電荷を持つため、板間の電場に押されて P1 へ向かう。逆向き加速度 $a' = qV/(md)$(電荷が反転、板の符号も逆でないが電場方向が同じなので加速度は常に P2→P1 方向かP1→P2 方向)。具体的に:

問4 P1 から P2 への時間: $d = \tfrac{1}{2}at_f^2$ より $t_f = \sqrt{2d/a} = \sqrt{2d \cdot md/(qV)} = d\sqrt{2m/(qV)}$。

これは $\sqrt{2} t'$。「$t = 3t'$」は $\sqrt{2}t' + \alpha$ で 1 往復目を終え 2 往復目の途中、と解釈される問題。

問5 移動時間の変化理由: 衝突のたびに球と板の間で電荷再分配が起こり、コンデンサの電荷と電圧が変化する。具体的には:

本問の状況(スイッチ閉じたまま): 電源が常に供給するので $V$ は一定、$a$ も一定、移動時間 $t_f$ は変化しない

電源を切った後(問5 の趣旨と推測): コンデンサの電荷 $Q = CV$ が球に渡され、徐々に板間電位差が減り、電場 $E = Q/(Cd)$ も減る。$a \propto E \propto Q \propto V$ なので、電位差の減少で加速度減少、移動時間が長くなる。

答え:(問3) 球は P1-P2 間を非弾性衝突を繰り返しながら往復運動する。(問4) 1 回の移動時間は $t_f = d\sqrt{2m/(qV)}$。(問5) 電源を切ると電荷移動で板間電位差が減り、加速度が小さくなるため移動時間が長くなる。
補足:各衝突ごとの電荷・電圧変化(電源を切った場合)

最初、$Q_0 = C V_0$。球が P1 から電荷 $q_s = C_s V_0$($C_s = r/k$)を持って出発。P2 に到着時、電荷 $q_s$ を P2 に渡す。

P2 の電荷は $-Q_0 + q_s$ に変化(符号込みで)。残った電荷 $Q_1$ と対応する電圧 $V_1 = Q_1/C$。

$V_1 < V_0$ なので次の加速度は小さくなり、移動時間が長くなる。繰り返すと、$V_n = V_0 (1 - C_s/C)^n$ の形で指数関数的に減衰する。

Point 導体球の「電荷輸送」効果で、コンデンサの電荷を徐々に放電させる仕組み。古典的な「電気振り子」実験の原理で、フランクリンの実験以来知られている。

まとめ:電気的振り子の物理

直感的理解
導体球が 2 枚の平行平板の間を振動する——重力がない水平配置では、電場が「復元力」の役割を果たす。ただし復元力は「衝突で極性が反転する」形なので、単純な調和振動とは違う。周期は板間距離 $d$、電荷 $q$、電圧 $V$、質量 $m$ の組合せで決まる。

公式集:

球の自己容量$C_s = 4\pi\varepsilon_0 r = r/k$
球が板から受け取る電荷$q = C_s V$
板間電場$E = V/d$
球の加速度$a = qE/m = qV/(md)$
1 回の移動時間($d$ 分)$t_f = d\sqrt{2m/(qV)}$
中間点での速度$v' = \sqrt{qV/m}$
P2 到着時の速度$v_f = \sqrt{2qV/m}$
1 往復あたり消費電荷(電源 OFF)$\Delta Q = 2q = 2 C_s V$
関連:静電気実験「導電振り子」

18世紀の電気実験で、導電性の球を絹糸で吊り、帯電した板の間に置くと勝手に往復運動する「振り子」が観察された。これは静電気の存在とその移動を示す象徴的な実験。

現代でもバンデグラーフ発電機の教材実験で見ることができる。本問の理想化モデルは、この古典的実験を高校物理の範囲で定量的に扱ったもの。

Point 「電気の輸送」という視点:球の往復で電荷が板から板へ運ばれる。これが電流を生む(電池なしで「交流的な」電流)。電流 $I = \Delta Q / \Delta t = 2q/t_f$ で計算可能。

補足:具体的な数値計算

直感的理解
問題に与えられた数値($m = 2.5\times 10^{-4}$ kg、$r = 5\times 10^{-3}$ m、$V = 10$ V、$C = 200$ pF)で具体的に計算すると、球の電荷・加速度・移動時間・速度が実数値で得られる。

計算例($V = 10$ V、$d = 2$ cm):

計算
電荷 $q$$r V/k = 5\times 10^{-3} \times 10 / (9\times 10^9)$$5.56 \times 10^{-12}$ C
電場 $E$$V/d = 10/0.02$$500$ V/m
電気力 $F$$qE = 5.56\times 10^{-12} \times 500$$2.78 \times 10^{-9}$ N
加速度 $a$$F/m = 2.78\times 10^{-9} / 2.5\times 10^{-4}$$1.11 \times 10^{-5}$ m/s²
P2 速度 $v_f$$\sqrt{2qV/m}$$2.11 \times 10^{-4}$ m/s
P1→P2 時間 $t_f$$d\sqrt{2m/(qV)}$$1.90 \times 10^{2}$ s ≈ 3 分

現実感: 往復 1 回に 3 分以上かかる——これは球が非常にゆっくり動くことを示す。電圧を $1000$ V まで上げれば $q$ が 100 倍、加速度も 100 倍、時間は $1/10$ に減って 20 秒程度になる。

電圧依存性:

関連:マイクロ機械(MEMS)への応用

同じ原理で微小な金属粒子を制御する MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)装置が研究されている。静電気力で粒子を振動・回転させて、加速度センサや圧力センサとして利用。

スマホに入っている MEMS 加速度センサも、類似の静電気的な振動原理で動作している(ただし設計は複雑)。

Point 数値計算して「現実感」をつかむのが重要。公式を知っているだけでは、どれくらいの速さ・時間スケールかイメージできない。