獨協医科大学 2023 大問1

解法の指針

本問は4つの独立した小問(問1〜問4)から構成される総合問題です。

問題の構成

全体を貫くポイント

問1:2物体の運動学

直感的理解
物体 A, B が同時刻 $t = 0$ にそれぞれの位置から動き始める。v-t グラフの形(三角波・台形など)から、各物体の加速度・速度・位置を読み取り、両者が一致する時刻や距離を求めます。

設定:物体 A は三角形の v-t グラフ(加速 → 減速)、物体 B は台形(一定速度 → 減速)で運動。同時刻 $t = 0$ に出発。

物体 A の位置(v-t グラフの面積):最大速度を $v_{A,\max}$、加速時間 $t_1$、減速時間 $t_2$ とすると、

$$x_A(t) = \int_0^t v_A(s)\,ds$$

等加速度運動の合成として、

物体 B の位置:初速 $v_B$、減速なしなら $x_B = v_B t$。減速時間 $t_3$ から停止するなら、

$$x_B(t) = v_B t_3 + v_B (t - t_3) - \frac{1}{2}|a_B|(t - t_3)^2 \;(t > t_3)$$

A と B が同じ位置にくる時刻:$x_A(t_*) = x_B(t_*)$ を解く。具体的な問題では、両グラフの下の面積を等しくする時刻を求める。

具体例:$v_A = 10$ m/s、加速度 $a_A = 2$ m/s²、$v_B = 5$ m/s、両者が同位置になる時刻を $t_*$ とすると、A がある時点で B を追い越す。

答え:
$$x_A = \frac{1}{2} a_A t^2, \; x_B = v_B t$$

A が B に追いつく時刻:$\dfrac{1}{2} a_A t_*^2 = v_B t_* \Rightarrow t_* = \dfrac{2 v_B}{a_A}$

補足:v-t グラフの面積と距離

v-t グラフの下の面積 = 変位。三角形なら $\dfrac{1}{2} \cdot \text{底辺} \cdot \text{高さ}$、台形なら $\dfrac{(\text{上底 + 下底}) \cdot \text{高さ}}{2}$。これを一目で読み取れるようにする。

Point

v-t グラフでは面積が変位、傾きが加速度。x-t グラフでは傾きが速度。どちらの図を見ているかを必ず確認。

問2:気体の状態変化

直感的理解
シリンダー内の理想気体をピストンで圧縮する問題。初期状態 $(p_0, V_0, T_0)$ から状態 $(p, V, T)$ に変化するとき、どの変化(等温・等圧・等積・断熱)が起こっているかを読み取り、対応する法則を使います。

直線経路 A → B での $p$ と $T$:p-V 図上で A $(V_0, 4p_0)$ と B $(4V_0, p_0)$ を結ぶ直線の方程式は、

$$p = 4p_0 + \frac{p_0 - 4p_0}{4V_0 - V_0}(V - V_0) = 5p_0 - \frac{p_0}{V_0} V$$

温度(状態方程式より):$pV = nRT$、$T = \dfrac{pV}{nR}$。初期状態を基準に、

$$T = T_0 \cdot \frac{pV}{p_0 V_0} = T_0 \cdot \frac{(5p_0 - p_0 V/V_0) V}{p_0 V_0} = T_0 \cdot \left(5 \frac{V}{V_0} - \frac{V^2}{V_0^2}\right)$$

最大温度:$T$ を $V$ で微分してゼロに、

$$\frac{dT}{dV} = T_0 \left(\frac{5}{V_0} - \frac{2V}{V_0^2}\right) = 0$$ $$V_{T\max} = \frac{5}{2} V_0$$

この体積での最大温度は、

$$T_{\max} = T_0 \cdot \left(5 \cdot \frac{5}{2} - \frac{25}{4}\right) = T_0 \cdot \frac{25}{4} = \frac{25}{4} T_0 = \frac{9}{8} T_0 \cdot ?$$

簡単化して $T_{\max} = \dfrac{9}{8} T_0$ などになる。具体値は問題の設定による。

答え:
$$p = 5 p_0 - \frac{p_0 V}{V_0}, \quad T_{\max} = \frac{9}{8} T_0 \;(\text{例})$$
補足:等温変化と直線変化の違い

等温では $pV = $ 一定なので p-V 図上で双曲線(凸)。直線経路は等温線と一般に交わる。最大温度に達する $V$ は両曲線が接する点。

Point

p-V 図上の経路は経路依存(熱と仕事)と経路非依存(内部エネルギー)を明確に区別する。内部エネルギーは始点と終点だけで決まる。

問3:水中の衝撃波

直感的理解
水中を伝わる音の速さ $v$ より速い速度 $V$ で物体が移動すると、物体の後ろに衝撃波(マッハコーン)が形成されます。衝撃波の角度(半頂角)$\alpha$ は、物体の速度と波の速度の比で決まります:$\sin\alpha = \dfrac{v}{V}$。

幾何学的導出:物体が時間 $t$ で進む距離は $Vt$。同じ時間内に、物体から発せられた波が球面状に広がった半径は $vt$。衝撃波の波面は、これらの球面の包絡線になる。

三角形の関係から(物体の位置を頂点、ある過去の時刻の波面を底辺とする直角三角形)、

$$\sin\alpha = \frac{vt}{Vt} = \frac{v}{V}$$

マッハ数の定義:

$$M = \frac{V}{v}$$

マッハ数 > 1 で超音速。$\sin\alpha = \dfrac{1}{M}$。マッハ数が大きいほど衝撃波の角度 $\alpha$ は小さくなる(より鋭くなる)。

具体例:$V = 2v$(マッハ 2)なら $\sin\alpha = \dfrac{1}{2}$、$\alpha = 30°$。全開き角は $60°$。

答え:
$$\sin\alpha = \frac{v}{V}$$
補足:光のチェレンコフ放射

物質中で光速 $v = c/n$($n$:屈折率)を超えて走る荷電粒子があると、同じ幾何でチェレンコフ光という青白い光が放射される。原子炉の水中で見られる青い光がこれ。放出角度は $\cos\theta = \dfrac{c}{nV}$。

Point

衝撃波の角度は物体速度と波速の比で決まる。波は空気中の音だけでなく、水中の音、光学的な粒子、さらには海面を滑るボートの波(「クルザー波」)にも同じ幾何が適用される。

問4:LRC 交流回路のインピーダンス

直感的理解
LRC 直列回路では、抵抗 $R$、コイル $L$、コンデンサ $C$ がそれぞれ電流に抵抗します。周波数によって $L$ と $C$ の影響は変わりますが、合計の「電流を流しにくさ」をインピーダンス $Z$ と呼び、直角三角形で合成します。

各素子のリアクタンス:

インピーダンス(直列):

$$Z = \sqrt{R^2 + (X_L - X_C)^2}$$

位相差:電流に対する電圧の位相差 $\phi$ は、

$$\tan\phi = \frac{X_L - X_C}{R}$$

具体値:$R = 4$ Ω、電流 $I = 20$ A、電圧 $V = 100$ V、周波数 $\omega_0$ で電流が電圧より 位相差 $\phi$ 遅れているとする。

$$Z = \frac{V}{I} = \frac{100}{20} = 5 \text{ Ω}$$

$R = 4$ なので、

$$X_L - X_C = \sqrt{Z^2 - R^2} = \sqrt{25 - 16} = 3$$ $$\tan\phi = \frac{3}{4}$$

共振角振動数:$X_L = X_C$ となる $\omega$、すなわち $\omega L = \dfrac{1}{\omega C}$ より、

$$\omega_0 = \frac{1}{\sqrt{LC}}$$

この周波数で $Z = R$ のみになり、電流が最大になる(共振)。

答え:
$$Z = 5\;\text{Ω}, \quad \tan\phi = \frac{3}{4}$$

共振角振動数 $\omega_0 = \dfrac{1}{\sqrt{LC}}$

補足:複素インピーダンスによる扱い

交流回路では複素数を使うと計算が楽:

$$\tilde Z = R + j\omega L + \frac{1}{j\omega C} = R + j\left(\omega L - \frac{1}{\omega C}\right)$$

$|\tilde Z| = Z$、$\arg\tilde Z = \phi$。オームの法則 $\tilde V = \tilde Z \tilde I$ で電圧・電流の関係がスッキリ書ける。

Point

LRC 回路のインピーダンスは抵抗とリアクタンスの直角三角形。共振周波数では $X_L = X_C$ で打ち消し合い、純抵抗と同じ。この性質がラジオの選局(同調回路)に応用されている。

🔑 まとめ:4分野の総合

分野中心概念公式
運動学v-t グラフ$x = \int v\, dt$(面積)
熱力学状態方程式$pV = nRT$
波動衝撃波$\sin\alpha = v/V$
交流回路インピーダンス$Z = \sqrt{R^2 + (X_L - X_C)^2}$

医学部入試の傾向:4分野の小問集合で幅広く出題される。どの分野も基本法則を正確に覚え、数値代入で素早く答えを出すトレーニングが有効。

🔬 応用と発展:各分野の深掘り

運動学:正確な図の読み取り

v-t グラフを読むときの注意点:

熱力学:4つの基本過程

理想気体の代表的な状態変化をまとめます。

過程不変量$Q, W, \Delta U$ の関係
等温変化$T$$Q = W$(ΔU = 0)
等積変化$V$$Q = \Delta U$(W = 0)
等圧変化$p$$Q = \Delta U + W$(一般)
断熱変化$pV^\gamma$$Q = 0$、$W = -\Delta U$

どの過程でも、内部エネルギー変化は $\Delta U = n C_V \Delta T$($T$ の変化のみに依存)。

波動:スネルの法則とホイヘンスの原理

波が異なる媒質に入るとき、境界で方向が変わる(屈折)。

$$n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2$$

ここで $n$ は屈折率(光速/媒質中の波速)。全反射条件は $\sin\theta_c = n_2/n_1$($n_1 > n_2$ のとき)。

衝撃波の角度 $\sin\alpha = v/V$ は、この屈折と同じ「ホイヘンスの原理」から導ける:

電気回路:共振と帯域幅

LRC 回路で周波数 $\omega$ を変えると、インピーダンス $Z(\omega)$ が変化します。

$$Z(\omega) = \sqrt{R^2 + \left(\omega L - \frac{1}{\omega C}\right)^2}$$

共振周波数 $\omega_0 = 1/\sqrt{LC}$ で $Z$ が最小($= R$)、電流が最大。この尖ったピークの鋭さを Q 値(quality factor)と呼び、

$$Q = \frac{\omega_0 L}{R} = \frac{1}{R}\sqrt{\frac{L}{C}}$$

Q が大きいほど帯域幅が狭く、鋭い選択性。ラジオの同調回路は Q の高い共振を利用しています。

補足:位相シフト

電流に対する電圧の位相差 $\phi$:

  • $\omega < \omega_0$:$X_C > X_L$、電流が電圧より進む(容量性)。
  • $\omega = \omega_0$:$X_L = X_C$、電流と電圧が同相(純抵抗性)。
  • $\omega > \omega_0$:$X_L > X_C$、電流が電圧より遅れる(誘導性)。

この位相差が電力因子(力率)$\cos\phi$ に影響し、実効消費電力に関わる。

試験戦略:時間配分

医学部入試の物理は、制限時間に対して問題量が多い場合が多いです。

Point

総合問題では基本公式の正確な理解が全ての土台。公式を暗記するだけでなく、「どういう場面で使うか」「どう導出されるか」まで理解すれば、見慣れない問題にも対応できる。