大問2:磁場中の電子の運動とベータトロン

解法の全体像

一様な磁場中の電子の円運動、コイルの電磁誘導、そしてベータトロンの原理に至る流れです。 図1→図2→図3の順で、磁束密度の時間変化と誘導電場・運動エネルギー増加を扱います。

[I] 図1:磁場中の電子の等速円運動

直感的理解
磁場中を運動する荷電粒子は、速度に垂直な力(ローレンツ力)を常に受けるため、等速円運動をします。力は常に速度と直交するので、粒子の速さは変わらずエネルギーは変化しません。負電荷の電子では力の向きが正電荷と逆転することに注意しましょう。

真空中で、z軸正の向きに磁束密度 \(B\) [T] の一様な磁場がかかっています。 電気量 \(-e\)(\(e>0\))、質量 \(m\) [kg] の電子が、y軸正の向きに速さ \(v_0\) [m/s] でx軸を通過します。

(a) 磁場から受ける力の向き

フレミングの左手の法則を使います。左手の親指=力、人差し指=磁場の向き、中指=電流の向きです。

磁場 \(\vec{B}\) はz軸正の向きなので、人差し指をz軸正に向けます。 電子は負の電荷なので、電流の向きは電子の速度の向きと逆向きです。電子がy軸正の向きに動くので、電流はy軸負の向きです。したがって中指をy軸負に向けます。

このとき、左手の親指が指す向きが、磁場から電流(ここでは電子)が受ける力の向きになります。人差し指をz軸正、中指をy軸負にすると、親指はx軸負の向きを指します。

答え:(a)
(2) x軸負

(ア) 円運動の半径

磁場から受ける力の大きさは \(F = e v_0 B\) で、これが向心力となります。 \(m\frac{v_0^2}{r} = e v_0 B\) より、 \[ r = \frac{m v_0}{e B} \]

答え:(ア)
\[ r = \frac{m v_0}{e B} \]

条件:電子の質量 9.11×10⁻³¹ kg、速さ 1.0×10⁷ m/s、磁束密度 0.010 T。

主要公式のまとめ:

$$r = \frac{mv_0}{eB}, \quad T = \frac{2\pi m}{eB}, \quad f = \frac{eB}{2\pi m}$$ $$r = \frac{9.11 \times 10^{-31} \times 1.0 \times 10^7}{1.60 \times 10^{-19} \times 0.010} = 5.7 \times 10^{-3}\,\text{m}$$ $$T = \frac{2\pi \times 9.11 \times 10^{-31}}{1.60 \times 10^{-19} \times 0.010} = 3.58 \times 10^{-9}\,\text{s}$$

具体的な計算:電子(m = 9.11×10⁻³¹ kg、e = 1.60×10⁻¹⁹ C)が速さ 1.0×10⁷ m/s、磁束密度 0.010 T のとき、軌道半径は約 5.7 mm、周期は約 3.6×10⁻⁹ s となります。

\[ r = \frac{9.11 \times 10^{-31} \times 1.0 \times 10^7}{1.60 \times 10^{-19} \times 0.010} = \frac{9.11 \times 10^{-24}}{1.60 \times 10^{-21}} = 5.7 \times 10^{-3}\,\text{m} = 5.7\,\text{mm} \]
📐 電子とイオンの軌道半径の比較

同じ速さ・同じ磁場で陽子(\(m_p = 1.67 \times 10^{-27}\,\text{kg}\))の軌道半径は \(r_p = m_p v_0/(eB) = 1.04\,\text{m}\) となり、電子の約 1800 倍(質量比)です。

(イ) 円運動の周期

等速円運動の周期は \(T = \frac{2\pi r}{v_0}\) です。(ア)の \(r\) を代入すると、 \[ T = \frac{2\pi}{v_0} \cdot \frac{m v_0}{e B} = \frac{2\pi m}{e B} \] \[ \textbf{(イ)}\quad \frac{2\pi m}{e B} \]

Point

磁場中の荷電粒子の円運動では、半径 \(r = mv/(eB)\) と周期 \(T = 2\pi m/(eB)\) が基本公式です。特に周期は速さに依存しない(サイクロトロン振動数)ことが重要で、ベータトロンやサイクロトロンの動作原理の基盤となります。

[II] 図2:電磁誘導とベータトロン

直感的理解
磁束が増えると、それを打ち消す向きに誘導電場が生じます(レンツの法則)。この誘導電場は円周の接線方向に生じ、電子を加速します。ベータトロンはこの原理を使い、変動磁場で電子を周回させながらエネルギーを与える加速器です。

太さが無視できる1巻きの円形コイルの半径を、図1の円運動の半径(ア)に等しい \(\frac{mv_0}{eB}\) とします。 (イ)と同じ長さの時間の間、コイルを貫く磁束密度の大きさが \(B\) から \(B + \Delta B\)(\(\Delta B > 0\))に一定の割合で一様に増加するとします。

(ウ) 誘導起電力の大きさ

ファラデーの電磁誘導の法則より、誘導起電力の大きさは \[ |\mathcal{E}| = \left| \frac{d\Phi}{dt} \right| \] です。コイルの面積を \(S = \pi r^2 = \pi \left( \frac{mv_0}{eB} \right)^2\) とすると、 磁束の変化率は \(\frac{d\Phi}{dt} = \frac{\Delta B \cdot S}{T}\)(\(T\) は(イ)の周期)です。

\(T = \frac{2\pi m}{eB}\) なので、 \[ \mathcal{E} = \frac{\Delta B \cdot \pi \frac{m^2 v_0^2}{e^2 B^2}}{\frac{2\pi m}{eB}} = \frac{\Delta B \cdot m^2 v_0^2}{e^2 B^2} \cdot \frac{eB}{2\pi m} = \frac{m v_0^2 \Delta B}{2\pi e B} \cdot \pi = \frac{m v_0^2 \Delta B}{2 e B} \]

答え:(ウ)
\[ \frac{m v_0^2 \Delta B}{2 e B} \]

(エ) 1回転あたりの運動エネルギー増加量

磁束密度が円周上で \(B\) から \(B+\Delta B\) に一定の割合で増加するとき、円周に接線方向の誘導電場が生じます。 半径 \(r\) の円軌道を貫く磁束が時間 \(T\)((イ)の周期)のあいだに \(\Delta\Phi = \pi r^2 \Delta B\) だけ増加するので、円周に沿った誘導起電力の大きさは \(\frac{\Delta\Phi}{T} = \frac{\pi r^2 \Delta B}{T}\) です。 誘導電場の強さ \(E\) は円周上で一定とみなせば、起電力は \(E \times 2\pi r\) に等しいので、 \[ E \cdot 2\pi r = \frac{\pi r^2 \Delta B}{T} \quad \Rightarrow \quad E = \frac{r \Delta B}{2T} \] となります。

電子(電気量 \(e\))がこの誘導電場から受ける力の大きさは \(eE\) で、円周の接線方向に働きます。 電子が1回転(距離 \(2\pi r\))する間にこの力がする仕事は \[ W = eE \times 2\pi r = e \cdot \frac{r \Delta B}{2T} \cdot 2\pi r = \frac{e \pi r^2 \Delta B}{T} \] です。ここに \(r = \frac{mv_0}{eB}\)、\(T = \frac{2\pi m}{eB}\) を代入すると、 \[ W = \frac{e \cdot \pi \frac{m^2 v_0^2}{e^2 B^2} \cdot \Delta B}{\frac{2\pi m}{eB}} = \frac{m v_0^2 \Delta B}{2B} \] となります。

問題文では \((\Delta B/B)^2\) の項は無視できるとしているので、1回転のあいだの磁束密度の変化 \(\Delta B\) は \(B\) に比べて小さく、電子の速さや軌道半径の変化も十分小さいとみなせます。 したがって、上で求めた誘導電場がする仕事 \(W\) が、そのまま運動エネルギーの増加量とみなせます。

答え:(エ)
\[ \frac{m v_0^2 \Delta B}{2B} \]
Point

ファラデーの法則では、閉曲線が囲む面を貫く磁束の時間変化率が誘導起電力を決めます。誘導電場が電子にする仕事は \(W = e \cdot \Delta\Phi / T\) であり、コイルの形状や磁束の分布によらず、磁束の総変化量のみで決まります。

[III] 図3:鉄心を挿入した場合

直感的理解
鉄心は透磁率が高いため、磁束を集中させます。電子軌道の内側に鉄心を置くと、軌道を貫く総磁束が増え、磁束変化率も増えます。これにより誘導電場が強くなり、電子は1周あたりより多くのエネルギーを得ます。ベータトロン条件(α = 5)は「軌道内の平均磁束密度が軌道上の磁束密度の2倍」を実現するための値です。

電子の円運動の半径を \(r_0\) [m] とし、その中心軸に半径 \(r_0/2\) の円柱状の鉄心を挿入します。 z軸正の向きに磁場を加えたとき、鉄心内(半径 \(r_0/2\) より内側)の磁束密度の大きさは、常に鉄心の外側の磁束密度の大きさの \(\alpha\) 倍(\(\alpha > 1\))であるとします。

(オ) 半径 \(r_0\) の円を貫く磁束の倍率

鉄心なしのとき、半径 \(r_0\) の円を貫く磁束は \(\Phi_0 = B \cdot \pi r_0^2\) です。

鉄心ありのとき:内側(\(r \leq r_0/2\))の磁束密度は \(\alpha B\)、外側(\(r_0/2 < r \leq r_0\))は \(B\) です。 したがって、半径 \(r_0\) の円を貫く磁束は \[ \Phi = \alpha B \cdot \pi\left(\frac{r_0}{2}\right)^2 + B \cdot \left( \pi r_0^2 - \pi\left(\frac{r_0}{2}\right)^2 \right) = \frac{\alpha B \pi r_0^2}{4} + B \cdot \frac{3\pi r_0^2}{4} = \pi r_0^2 B \cdot \frac{\alpha + 3}{4} \] 鉄心なしの磁束 \(\Phi_0 = \pi r_0^2 B\) との比は \[ \frac{\Phi}{\Phi_0} = \frac{\alpha + 3}{4} \]

答え:(オ)
\[ \frac{\alpha + 3}{4} \]

(カ) ベータトロンで半径を一定に保つための \(\alpha\)

z軸正の向きに加える磁場の磁束密度の大きさを時間変化させ、電子が円周を1回転する間に、鉄心の外側の磁束密度が \(B\) から \(B+\Delta B\) に増加するようにします。 このとき、半径が一定に保たれるために「軌道の内側を貫く磁束の増加量」が満たす条件を、(ア)(イ)(エ)の結果から求め、その条件に(オ)の式をあてはめて \(\alpha\) を求めます。

[半径一定のとき、必要な運動エネルギー増加]
(ア)の結果 \(r = \frac{mv}{eB}\) は、半径 \(r\) が速さ \(v\) と磁束密度 \(B\) の比 \(v/B\) で決まることを示しています。つまり、同じ半径 \(r_0\) を保つには「\(v\) と \(B\) が同じ割合で増減する」必要があります。 いま \(B\) が \(B + \Delta B\) に増えたとすると、半径を \(r_0\) のままにするには速さを \(v\) から \(v + \Delta v\) に増やし、\(\frac{v+\Delta v}{B+\Delta B} = \frac{v}{B}\) が成り立つようにすればよいです。両辺の分母をはらうと \((v+\Delta v)B = v(B+\Delta B)\)、展開して \(vB + B\Delta v = vB + v\Delta B\) なので、\(B\Delta v = v\Delta B\)、すなわち \(\Delta v = \frac{v \Delta B}{B}\) が得られます。問題文では \((\Delta B/B)^2\) の項は無視するとあるので、\(\Delta B\) は \(B\) に比べて十分小さく、この1次近似で十分です。 したがって、1回転のあいだに電子が得るべき運動エネルギー増加量は \[ \Delta K = \frac{1}{2}m(v+\Delta v)^2 - \frac{1}{2}mv^2 \fallingdotseq mv\,\Delta v = \frac{m v^2 \Delta B}{B} \] です。

[誘導電場のする仕事:(エ)の内容を用いる]
(エ)では、軌道を貫く磁束が時間 \(T\)((イ)の周期)のあいだに \(\Delta\Phi\) だけ増加するとき、誘導電場が電子に1回転でする仕事が \(W = e \cdot \frac{\Delta\Phi}{T}\) であることを、誘導電場の強さから導きました。ここで「軌道を貫く磁束」とは、電子の円軌道が囲む円の内側の面を貫く磁束のことで、ファラデーの法則によれば誘導起電力(単位電荷が閉曲線を1周するときの仕事)は、その閉曲線が囲む面を貫く磁束の時間変化率で決まります。(カ)では鉄心があり、軌道の内側の磁束の分布は(エ)の一様な場合と異なりますが、閉曲線は同じ「半径 \(r_0\) の円」なので、この円が囲む面を貫く磁束の増加量を \(\Delta\Phi_{\text{内}}\) と書けば、やはり \(W = e \cdot \frac{\Delta\Phi_{\text{内}}}{T}\) が成り立ちます。したがって、 \[ W = e \cdot \frac{\Delta\Phi_{\text{内}}}{T} \] です。半径が一定に保たれるには、この仕事が運動エネルギー増加 \(\Delta K = \frac{m v^2 \Delta B}{B}\) に等しければよいので、 \[ e \cdot \frac{\Delta\Phi_{\text{内}}}{T} = \frac{m v^2 \Delta B}{B} \quad \Rightarrow \quad \Delta\Phi_{\text{内}} = \frac{m v^2 \Delta B}{B} \cdot \frac{T}{e} \] (ア)の \(r_0 = \frac{mv}{eB}\) と(イ)の \(T = \frac{2\pi m}{eB}\) を代入すると、 \[ \Delta\Phi_{\text{内}} = \frac{m v^2 \Delta B}{B} \cdot \frac{2\pi m}{e^2 B} = 2\pi \cdot \frac{m^2 v^2}{e^2 B^2} \cdot \Delta B = 2\pi r_0^2 \Delta B \] したがって、半径を一定に保つには、1回転のあいだに軌道の内側を貫く磁束が \(\Delta\Phi_{\text{内}} = 2\pi r_0^2 \Delta B\) だけ増加していればよいです。この条件をベータトロン条件といいます。

[(オ)の結果を使う]
ベータトロン条件を満たす \(\alpha\) を求めます。(オ)より、半径 \(r_0\) の円を貫く磁束は鉄心ありのとき \[ \Phi_{\text{内}} = \pi r_0^2 B \cdot \frac{\alpha + 3}{4} \] です。\(B\) が \(B + \Delta B\) に増加するとき(\(\alpha\) は一定)、この磁束の増加量は \[ \Delta\Phi_{\text{内}} = \pi r_0^2 \cdot \frac{\alpha + 3}{4} \cdot \Delta B \] です。これが上で求めた「半径一定に必要な増加量」\(2\pi r_0^2 \Delta B\) に等しければよいので、 \[ \pi r_0^2 \cdot \frac{\alpha + 3}{4} \cdot \Delta B = 2\pi r_0^2 \Delta B \quad \Rightarrow \quad \frac{\alpha + 3}{4} = 2 \quad \Rightarrow \quad \alpha = 5 \]

答え:(カ)
\(5\)
Point

ベータトロン条件「軌道内の平均磁束密度が軌道上の磁束密度の2倍」は、\(r = mv/(eB)\) から \(v\) と \(B\) が同じ割合で増える必要があることと、誘導電場のする仕事 \(W = e\Delta\Phi/T\) の2つを組み合わせて導きます。鉄心で内側の磁束を集中させることで \(\alpha = 5\) が得られ、これにより電子の軌道半径を一定に保ちながら加速できます。