一様な磁場中の電子の円運動、コイルの電磁誘導、そしてベータトロンの原理に至る流れです。 図1→図2→図3の順で、磁束密度の時間変化と誘導電場・運動エネルギー増加を扱います。
真空中で、z軸正の向きに磁束密度 \(B\) [T] の一様な磁場がかかっています。 電気量 \(-e\)(\(e>0\))、質量 \(m\) [kg] の電子が、y軸正の向きに速さ \(v_0\) [m/s] でx軸を通過します。
フレミングの左手の法則を使います。左手の親指=力、人差し指=磁場の向き、中指=電流の向きです。
磁場 \(\vec{B}\) はz軸正の向きなので、人差し指をz軸正に向けます。 電子は負の電荷なので、電流の向きは電子の速度の向きと逆向きです。電子がy軸正の向きに動くので、電流はy軸負の向きです。したがって中指をy軸負に向けます。
このとき、左手の親指が指す向きが、磁場から電流(ここでは電子)が受ける力の向きになります。人差し指をz軸正、中指をy軸負にすると、親指はx軸負の向きを指します。
磁場から受ける力の大きさは \(F = e v_0 B\) で、これが向心力となります。 \(m\frac{v_0^2}{r} = e v_0 B\) より、 \[ r = \frac{m v_0}{e B} \]
条件:電子の質量 9.11×10⁻³¹ kg、速さ 1.0×10⁷ m/s、磁束密度 0.010 T。
主要公式のまとめ:
$$r = \frac{mv_0}{eB}, \quad T = \frac{2\pi m}{eB}, \quad f = \frac{eB}{2\pi m}$$ $$r = \frac{9.11 \times 10^{-31} \times 1.0 \times 10^7}{1.60 \times 10^{-19} \times 0.010} = 5.7 \times 10^{-3}\,\text{m}$$ $$T = \frac{2\pi \times 9.11 \times 10^{-31}}{1.60 \times 10^{-19} \times 0.010} = 3.58 \times 10^{-9}\,\text{s}$$具体的な計算:電子(m = 9.11×10⁻³¹ kg、e = 1.60×10⁻¹⁹ C)が速さ 1.0×10⁷ m/s、磁束密度 0.010 T のとき、軌道半径は約 5.7 mm、周期は約 3.6×10⁻⁹ s となります。
\[ r = \frac{9.11 \times 10^{-31} \times 1.0 \times 10^7}{1.60 \times 10^{-19} \times 0.010} = \frac{9.11 \times 10^{-24}}{1.60 \times 10^{-21}} = 5.7 \times 10^{-3}\,\text{m} = 5.7\,\text{mm} \]同じ速さ・同じ磁場で陽子(\(m_p = 1.67 \times 10^{-27}\,\text{kg}\))の軌道半径は \(r_p = m_p v_0/(eB) = 1.04\,\text{m}\) となり、電子の約 1800 倍(質量比)です。
等速円運動の周期は \(T = \frac{2\pi r}{v_0}\) です。(ア)の \(r\) を代入すると、 \[ T = \frac{2\pi}{v_0} \cdot \frac{m v_0}{e B} = \frac{2\pi m}{e B} \] \[ \textbf{(イ)}\quad \frac{2\pi m}{e B} \]
磁場中の荷電粒子の円運動では、半径 \(r = mv/(eB)\) と周期 \(T = 2\pi m/(eB)\) が基本公式です。特に周期は速さに依存しない(サイクロトロン振動数)ことが重要で、ベータトロンやサイクロトロンの動作原理の基盤となります。
太さが無視できる1巻きの円形コイルの半径を、図1の円運動の半径(ア)に等しい \(\frac{mv_0}{eB}\) とします。 (イ)と同じ長さの時間の間、コイルを貫く磁束密度の大きさが \(B\) から \(B + \Delta B\)(\(\Delta B > 0\))に一定の割合で一様に増加するとします。
ファラデーの電磁誘導の法則より、誘導起電力の大きさは \[ |\mathcal{E}| = \left| \frac{d\Phi}{dt} \right| \] です。コイルの面積を \(S = \pi r^2 = \pi \left( \frac{mv_0}{eB} \right)^2\) とすると、 磁束の変化率は \(\frac{d\Phi}{dt} = \frac{\Delta B \cdot S}{T}\)(\(T\) は(イ)の周期)です。
\(T = \frac{2\pi m}{eB}\) なので、 \[ \mathcal{E} = \frac{\Delta B \cdot \pi \frac{m^2 v_0^2}{e^2 B^2}}{\frac{2\pi m}{eB}} = \frac{\Delta B \cdot m^2 v_0^2}{e^2 B^2} \cdot \frac{eB}{2\pi m} = \frac{m v_0^2 \Delta B}{2\pi e B} \cdot \pi = \frac{m v_0^2 \Delta B}{2 e B} \]
磁束密度が円周上で \(B\) から \(B+\Delta B\) に一定の割合で増加するとき、円周に接線方向の誘導電場が生じます。 半径 \(r\) の円軌道を貫く磁束が時間 \(T\)((イ)の周期)のあいだに \(\Delta\Phi = \pi r^2 \Delta B\) だけ増加するので、円周に沿った誘導起電力の大きさは \(\frac{\Delta\Phi}{T} = \frac{\pi r^2 \Delta B}{T}\) です。 誘導電場の強さ \(E\) は円周上で一定とみなせば、起電力は \(E \times 2\pi r\) に等しいので、 \[ E \cdot 2\pi r = \frac{\pi r^2 \Delta B}{T} \quad \Rightarrow \quad E = \frac{r \Delta B}{2T} \] となります。
電子(電気量 \(e\))がこの誘導電場から受ける力の大きさは \(eE\) で、円周の接線方向に働きます。 電子が1回転(距離 \(2\pi r\))する間にこの力がする仕事は \[ W = eE \times 2\pi r = e \cdot \frac{r \Delta B}{2T} \cdot 2\pi r = \frac{e \pi r^2 \Delta B}{T} \] です。ここに \(r = \frac{mv_0}{eB}\)、\(T = \frac{2\pi m}{eB}\) を代入すると、 \[ W = \frac{e \cdot \pi \frac{m^2 v_0^2}{e^2 B^2} \cdot \Delta B}{\frac{2\pi m}{eB}} = \frac{m v_0^2 \Delta B}{2B} \] となります。
問題文では \((\Delta B/B)^2\) の項は無視できるとしているので、1回転のあいだの磁束密度の変化 \(\Delta B\) は \(B\) に比べて小さく、電子の速さや軌道半径の変化も十分小さいとみなせます。 したがって、上で求めた誘導電場がする仕事 \(W\) が、そのまま運動エネルギーの増加量とみなせます。
ファラデーの法則では、閉曲線が囲む面を貫く磁束の時間変化率が誘導起電力を決めます。誘導電場が電子にする仕事は \(W = e \cdot \Delta\Phi / T\) であり、コイルの形状や磁束の分布によらず、磁束の総変化量のみで決まります。
電子の円運動の半径を \(r_0\) [m] とし、その中心軸に半径 \(r_0/2\) の円柱状の鉄心を挿入します。 z軸正の向きに磁場を加えたとき、鉄心内(半径 \(r_0/2\) より内側)の磁束密度の大きさは、常に鉄心の外側の磁束密度の大きさの \(\alpha\) 倍(\(\alpha > 1\))であるとします。
鉄心なしのとき、半径 \(r_0\) の円を貫く磁束は \(\Phi_0 = B \cdot \pi r_0^2\) です。
鉄心ありのとき:内側(\(r \leq r_0/2\))の磁束密度は \(\alpha B\)、外側(\(r_0/2 < r \leq r_0\))は \(B\) です。 したがって、半径 \(r_0\) の円を貫く磁束は \[ \Phi = \alpha B \cdot \pi\left(\frac{r_0}{2}\right)^2 + B \cdot \left( \pi r_0^2 - \pi\left(\frac{r_0}{2}\right)^2 \right) = \frac{\alpha B \pi r_0^2}{4} + B \cdot \frac{3\pi r_0^2}{4} = \pi r_0^2 B \cdot \frac{\alpha + 3}{4} \] 鉄心なしの磁束 \(\Phi_0 = \pi r_0^2 B\) との比は \[ \frac{\Phi}{\Phi_0} = \frac{\alpha + 3}{4} \]
z軸正の向きに加える磁場の磁束密度の大きさを時間変化させ、電子が円周を1回転する間に、鉄心の外側の磁束密度が \(B\) から \(B+\Delta B\) に増加するようにします。 このとき、半径が一定に保たれるために「軌道の内側を貫く磁束の増加量」が満たす条件を、(ア)(イ)(エ)の結果から求め、その条件に(オ)の式をあてはめて \(\alpha\) を求めます。
[半径一定のとき、必要な運動エネルギー増加]
(ア)の結果 \(r = \frac{mv}{eB}\) は、半径 \(r\) が速さ \(v\) と磁束密度 \(B\) の比 \(v/B\) で決まることを示しています。つまり、同じ半径 \(r_0\) を保つには「\(v\) と \(B\) が同じ割合で増減する」必要があります。
いま \(B\) が \(B + \Delta B\) に増えたとすると、半径を \(r_0\) のままにするには速さを \(v\) から \(v + \Delta v\) に増やし、\(\frac{v+\Delta v}{B+\Delta B} = \frac{v}{B}\) が成り立つようにすればよいです。両辺の分母をはらうと \((v+\Delta v)B = v(B+\Delta B)\)、展開して \(vB + B\Delta v = vB + v\Delta B\) なので、\(B\Delta v = v\Delta B\)、すなわち \(\Delta v = \frac{v \Delta B}{B}\) が得られます。問題文では \((\Delta B/B)^2\) の項は無視するとあるので、\(\Delta B\) は \(B\) に比べて十分小さく、この1次近似で十分です。
したがって、1回転のあいだに電子が得るべき運動エネルギー増加量は
\[
\Delta K = \frac{1}{2}m(v+\Delta v)^2 - \frac{1}{2}mv^2 \fallingdotseq mv\,\Delta v = \frac{m v^2 \Delta B}{B}
\]
です。
[誘導電場のする仕事:(エ)の内容を用いる]
(エ)では、軌道を貫く磁束が時間 \(T\)((イ)の周期)のあいだに \(\Delta\Phi\) だけ増加するとき、誘導電場が電子に1回転でする仕事が \(W = e \cdot \frac{\Delta\Phi}{T}\) であることを、誘導電場の強さから導きました。ここで「軌道を貫く磁束」とは、電子の円軌道が囲む円の内側の面を貫く磁束のことで、ファラデーの法則によれば誘導起電力(単位電荷が閉曲線を1周するときの仕事)は、その閉曲線が囲む面を貫く磁束の時間変化率で決まります。(カ)では鉄心があり、軌道の内側の磁束の分布は(エ)の一様な場合と異なりますが、閉曲線は同じ「半径 \(r_0\) の円」なので、この円が囲む面を貫く磁束の増加量を \(\Delta\Phi_{\text{内}}\) と書けば、やはり \(W = e \cdot \frac{\Delta\Phi_{\text{内}}}{T}\) が成り立ちます。したがって、
\[
W = e \cdot \frac{\Delta\Phi_{\text{内}}}{T}
\]
です。半径が一定に保たれるには、この仕事が運動エネルギー増加 \(\Delta K = \frac{m v^2 \Delta B}{B}\) に等しければよいので、
\[
e \cdot \frac{\Delta\Phi_{\text{内}}}{T} = \frac{m v^2 \Delta B}{B}
\quad \Rightarrow \quad
\Delta\Phi_{\text{内}} = \frac{m v^2 \Delta B}{B} \cdot \frac{T}{e}
\]
(ア)の \(r_0 = \frac{mv}{eB}\) と(イ)の \(T = \frac{2\pi m}{eB}\) を代入すると、
\[
\Delta\Phi_{\text{内}} = \frac{m v^2 \Delta B}{B} \cdot \frac{2\pi m}{e^2 B}
= 2\pi \cdot \frac{m^2 v^2}{e^2 B^2} \cdot \Delta B = 2\pi r_0^2 \Delta B
\]
したがって、半径を一定に保つには、1回転のあいだに軌道の内側を貫く磁束が \(\Delta\Phi_{\text{内}} = 2\pi r_0^2 \Delta B\) だけ増加していればよいです。この条件をベータトロン条件といいます。
[(オ)の結果を使う]
ベータトロン条件を満たす \(\alpha\) を求めます。(オ)より、半径 \(r_0\) の円を貫く磁束は鉄心ありのとき
\[
\Phi_{\text{内}} = \pi r_0^2 B \cdot \frac{\alpha + 3}{4}
\]
です。\(B\) が \(B + \Delta B\) に増加するとき(\(\alpha\) は一定)、この磁束の増加量は
\[
\Delta\Phi_{\text{内}} = \pi r_0^2 \cdot \frac{\alpha + 3}{4} \cdot \Delta B
\]
です。これが上で求めた「半径一定に必要な増加量」\(2\pi r_0^2 \Delta B\) に等しければよいので、
\[
\pi r_0^2 \cdot \frac{\alpha + 3}{4} \cdot \Delta B = 2\pi r_0^2 \Delta B
\quad \Rightarrow \quad
\frac{\alpha + 3}{4} = 2
\quad \Rightarrow \quad
\alpha = 5
\]
ベータトロン条件「軌道内の平均磁束密度が軌道上の磁束密度の2倍」は、\(r = mv/(eB)\) から \(v\) と \(B\) が同じ割合で増える必要があることと、誘導電場のする仕事 \(W = e\Delta\Phi/T\) の2つを組み合わせて導きます。鉄心で内側の磁束を集中させることで \(\alpha = 5\) が得られ、これにより電子の軌道半径を一定に保ちながら加速できます。