なめらかな水平面上に置かれた三角柱(質量 \(M\)、斜面の傾き \(\theta\))の上に小物体(質量 \(m\))を置き、滑り下ろす問題です。三角柱が自由に動ける場合と床に固定された場合を比較し、加速度・垂直抗力を求めます。
水平方向に外力がないので、系全体の水平方向の運動量が保存されます。三角柱の水平方向の加速度を \(A\)(左向き正)、小物体の三角柱に対する斜面方向の加速度を \(a'\)(斜面下向き正)とします。
三角柱の水平方向の運動方程式:
$$ MA = N\sin\theta \quad \cdots (1) $$小物体の運動方程式(地面から見て):
小物体は三角柱上で斜面を滑り降りますが、三角柱自体も加速度 \(A\) で左に動くので、地面から見た小物体の加速度は三角柱の加速度と相対加速度の合成になります。
水平方向(右向き正):
$$ m(a'\cos\theta - A) = -N\sin\theta + 0 $$ただし水平方向の力は垂直抗力の水平成分のみ。系の運動量保存より:
$$ MA = m(a'\cos\theta - A) $$鉛直方向(下向き正):
$$ m \cdot a'\sin\theta = mg - N\cos\theta \quad \cdots (2) $$斜面に沿った方向(三角柱の加速度系)の運動方程式:
$$ ma' = mg\sin\theta + mA\cos\theta \quad \cdots (3) $$(1), (2), (3) を連立して解きます。(1) より \(A = \frac{N\sin\theta}{M}\) を (3) に代入:
$$ ma' = mg\sin\theta + m\cdot\frac{N\sin\theta}{M}\cdot\cos\theta $$(2) より \(N = \frac{m(g - a'\sin\theta)}{\cos\theta}\) を代入して整理すると:
$$ a' = \frac{(M + m)g\sin\theta}{M + m\sin^2\theta} $$三角柱の加速度は (1) と (2) から:
$$ \boxed{A = \frac{mg\sin\theta\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}} \quad [\text{ア}] $$垂直抗力:
$$ \boxed{N = \frac{Mmg\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}} \quad [\text{イ}] $$小物体の鉛直方向の加速度 \(a_y\)(下向き正)は:
$$ a_y = a'\sin\theta = \frac{(M+m)g\sin^2\theta}{M + m\sin^2\theta} \quad [\text{エ}] $$一般化座標として三角柱の水平変位 \(X\) と小物体の斜面上の変位 \(s\) を取ります。
小物体の位置は:
$$ x_m = X + s\cos\theta, \quad y_m = -s\sin\theta $$運動エネルギー:
$$ T = \frac{1}{2}M\dot{X}^2 + \frac{1}{2}m\left[(\dot{X} + \dot{s}\cos\theta)^2 + \dot{s}^2\sin^2\theta\right] $$ポテンシャルエネルギー:\(V = -mgs\sin\theta\)
ラグランジュ方程式から同じ結果が得られます。\(X\) が循環座標なので水平運動量保存が自動的に成り立ちます。
三角柱が自由に動く場合、垂直抗力は固定時の \(mg\cos\theta\) より小さくなります(分母の \(M + m\sin^2\theta > M\) より)。三角柱が「逃げる」ことで、小物体への拘束力が弱まるのです。また \(M \to \infty\) で固定斜面の結果 \(a' \to g\sin\theta\)、\(N \to mg\cos\theta\) に一致します。
三角柱が自由に動け、斜面に動摩擦係数 \(\mu'\) の摩擦がある場合を考えます。小物体が滑り出す条件を求めます。
小物体が三角柱に対して静止している場合、系全体が一体として運動します。しかし床はなめらかで水平方向に外力がないので、系全体は水平方向に加速しません。つまり小物体も三角柱も静止したままです。
このとき、斜面に沿って小物体に働く力のつり合い:
$$ mg\sin\theta = f + mA\cos\theta $$ここで \(A = 0\)(系全体が静止)なので:
$$ f = mg\sin\theta $$垂直抗力は:
$$ N = mg\cos\theta $$静止摩擦力の最大値 \(f_{\max} = \mu' N = \mu' mg\cos\theta\) を超えると滑り出します:
$$ mg\sin\theta > \mu' mg\cos\theta $$ $$ \boxed{\tan\theta > \mu'} \quad [\text{オ}] $$これは固定斜面の場合と同じ条件です。三角柱が動けても、静止状態では系全体が動かないため、滑り出し条件は変わりません。
滑り出した後の運動では、動摩擦力 \(f = \mu' N\) が斜面上向きに働きます。設問(1)の式で \(mg\sin\theta\) を \(mg\sin\theta - \mu' N\) に置き換えると:
$$ a' = \frac{(M+m)g(\sin\theta - \mu'\cos\theta)}{M + m\sin^2\theta - m\mu'\sin\theta\cos\theta} $$直感的には「三角柱が逃げるから滑りやすそう」と思うかもしれませんが、静止状態では三角柱も動いていないので、小物体にとっては固定斜面と同じ状況です。
数学的にも、静止状態では水平方向の運動量保存から系全体の速度がゼロであり、斜面に沿った力のつり合いは固定の場合と完全に一致します。
差が出るのは滑り出した後の運動です。三角柱が動くことで相対加速度が変わり、摩擦力の大きさも変化します。
三角柱が動ける場合でも、静止摩擦の限界条件は \(\tan\theta > \mu'\) で不変です。これは「静止状態では系全体が動かない」ことから理解できます。滑り出し後の運動は設問(1)の結果に摩擦項を加えて解きます。
三角柱が固定されていると、通常の斜面問題になります。
斜面方向(下向き正)の運動方程式:
$$ ma = mg\sin\theta $$ $$ \boxed{a = g\sin\theta} \quad [\text{コ}] $$斜面に垂直な方向の力のつり合い:
$$ \boxed{N = mg\cos\theta} \quad [\text{サ}] $$次に、床が三角柱に及ぼす力を求めます。三角柱全体の力のつり合い(三角柱は静止)を考えます。三角柱には以下の力が作用します:
三角柱の水平方向のつり合い:
$$ F = N\sin\theta = mg\cos\theta\sin\theta $$ $$ \boxed{F = mg\sin\theta\cos\theta} \quad [\text{シ}] $$三角柱の鉛直方向のつり合い:
$$ R = Mg + N\cos\theta = Mg + mg\cos^2\theta $$ $$ \boxed{R = (M + m\cos^2\theta)g} \quad [\text{ス}] $$設問(1)の結果との比較:三角柱が自由に動く場合は \(N = \frac{Mmg\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}\) でしたが、固定された場合は \(N = mg\cos\theta\) です。\(\frac{Mm}{M+m\sin^2\theta} < m\) なので、自由な三角柱の方が垂直抗力は小さいことが確認できます。
2つの場合を表にまとめます。\(\theta = 30°\)、\(M = 5m\) の場合の数値も示します:
| 物理量 | 自由な三角柱 | 固定された三角柱 |
|---|---|---|
| 小物体の斜面加速度 | \(\frac{(M+m)g\sin\theta}{M+m\sin^2\theta}\) | \(g\sin\theta\) |
| 垂直抗力 | \(\frac{Mmg\cos\theta}{M+m\sin^2\theta}\) | \(mg\cos\theta\) |
| 数値例(\(\theta=30°\)) | \(a' = 5.44\) m/s\(^2\), \(N = 7.84\) N | \(a = 4.9\) m/s\(^2\), \(N = 8.49\) N |
自由な場合は斜面加速度が大きく、垂直抗力が小さくなります。三角柱が逃げる分、小物体はより速く落ちます。
固定斜面では \(a = g\sin\theta\)、\(N = mg\cos\theta\) という基本結果に帰着します。床の反力は「三角柱 + 小物体の重力の鉛直成分」を考えますが、小物体が加速しているので \(R \neq (M+m)g\)になる点に注意。小物体の鉛直加速度分だけ \(R\) が減少します:\(R = Mg + mg\cos^2\theta = (M+m)g - mg\sin^2\theta\)。