関西学院大学 2019 大問〔Ⅰ〕

解法の指針

本問は、鉛直ばね + 板 + 小球の3段階にわたる力学問題です。ばねを自然長から $d$ だけ縮めた状態から手を放し、板と小球が離れるまで・離れた後の運動を追います。

問題の構成

全体を貫くポイント

[A](1):小球に加えている力の大きさ

直感的理解
ばねを自然長から $d$ だけ縮めたとき、ばねは押し返す力 $kd$ を発生させます。この力は板を介して小球に伝わります。重力と釣り合う位置は「つり合い位置(自然長より $\dfrac{mg}{k}$ 下)」なので、初期位置はつり合い位置よりさらに $d$ だけ下にあります。

設定:ばね定数 $k$、質量 $m$ の小球。ばねの上端に質量を無視する板があり、その上に小球。ばねを自然長から $d$ だけ縮めて押さえている。

立式:押さえる力を $F$ とする。小球と板を合わせた系に対するつり合い式を立てると、

$$F + mg = k \cdot d$$

左辺:下向きの力(手で押す $F$ + 重力 $mg$)、右辺:ばねの上向きの押し返し力。ただし、ここで $F$ は小球を静止させるために「上から押さえる追加の力」を指し、ばねが縮んでいる状態を維持するための力です。問題設定では「ばねを縮めて押さえている」という状況なので、ばねから受ける力 $kd$ が「ばねからの力」、その一部が重力で消費され、残りが押さえる力。つまり

$$F = k d - m g$$

しかし、問題文の設定を単純化して「手で加える力 $F$ が小球だけに作用し、板の質量を無視すれば」、系はばねが縮んだ状態で止まっているので、板を押す力は ばねの弾性力 $kd$ と釣り合う必要があり、$F = kd - mg$ か $F = kd$(重力を外部で別に考える場合)のどちらになるかは設定次第。

本解では「手で加える押し下げ力 $F$」を「外部からの押し下げ力」とし、板と小球を1つの系として考える場合:

$$\text{ばねの力} \; k d = F + m g \quad \Longrightarrow \quad F = k d - m g$$

ただし、問題が「小球に加える力」のみを問うていて、重力を別勘定とする場合の答えは $F = kd$。

答え:
$$F = k d \;(\text{ばね自身が押し返す力の大きさ})$$

または系全体で $F = kd - mg$(押さえる外力)

補足:つり合い位置からの相対変位で考える

つり合い位置はばねが $\dfrac{mg}{k}$ 縮んだ所。自然長から $d$ 縮めた位置はつり合い位置から $d - \dfrac{mg}{k}$ だけさらに下。つり合い位置を基準にした復元力は $k \cdot (d - \dfrac{mg}{k}) = kd - mg$ で、これが運動方程式における復元力成分になる。

Point

鉛直ばね問題では、「自然長基準」「つり合い位置基準」のどちらで考えるかで式が違って見える。つり合い位置を基準にすれば、単振動として扱え、振幅と周期が読みやすい。

[A](2):ばねが自然長に戻るまでの時間

直感的理解
ばねと小球は単振動をします。縮めた位置(下端)から自然長位置(つり合い位置の上)に達するまでは、単振動の $1/4$ 周期 + αではなく、つり合い位置を1回通過する分の時間。精密には周期を使って時間を計算します。

設定:ばねを自然長から $d$ 縮めた位置で放す。つり合い位置は自然長より $\dfrac{mg}{k}$ 下。小球の位置を $x$(つり合い位置を基準、下向きを正)とすると、運動方程式は、

$$m \ddot{x} = -k x$$

これは角振動数 $\omega = \sqrt{\dfrac{k}{m}}$、周期 $T = 2\pi\sqrt{\dfrac{m}{k}}$ の単振動。

初期条件:$x(0) = d - \dfrac{mg}{k}$(つり合い位置から下向き)、$\dot x(0) = 0$。解は、

$$x(t) = \left(d - \frac{mg}{k}\right) \cos(\omega t)$$

自然長位置は $x = -\dfrac{mg}{k}$。この位置に達する時刻 $t_1$ を求める。

$$-\frac{mg}{k} = \left(d - \frac{mg}{k}\right) \cos(\omega t_1)$$ $$\cos(\omega t_1) = \frac{-mg/k}{d - mg/k}$$

$\omega t_1 = \arccos\left(\dfrac{-mg/k}{d - mg/k}\right)$。特に $mg \ll kd$(重力の影響が小さい場合)は簡略化されて $\omega t_1 \fallingdotseq \dfrac{\pi}{2}$、よって、

$$t_1 \fallingdotseq \frac{\pi}{2\omega} = \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{k}}$$
答え:
$$t_1 = \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{k}}\;(\text{重力の影響を無視した場合})$$

厳密には $t_1 = \dfrac{1}{\omega}\arccos\left(\dfrac{-mg/k}{d - mg/k}\right)$

補足:周期の導出

単振動の周期 $T = 2\pi\sqrt{\dfrac{m}{k}}$ は、振幅 $A$ によらず一定。この性質を「等時性」と呼び、ガリレオが振り子で発見した性質と本質的に同じ。

$1/4$ 周期はつり合い位置から最大変位まで(またはその逆)。したがって「縮めた位置→自然長」の時間はつり合い位置を少しだけ上に過ぎる点までの時間なので、厳密には $1/4$ 周期より少し短くなる。

Point

単振動の周期は振幅に依存しない(等時性)。振動の「時間の問題」は、まず $x(t) = A\cos(\omega t)$ の形に書いてから、条件を満たす時刻を $\arccos$ で求めるのが基本。

[A](3):板と小球が離れた後の小球の速さ

直感的理解
板と小球は最初、同じ速度で動きます。ばねが自然長を超えて伸びると、板の加速度が下向き(減速方向)になり、小球は重力加速度 $-g$ で減速するよりも板の方が速く減速するので、板の垂直抗力が 0 になる瞬間に両者が分離します。

分離条件:板から小球への垂直抗力 $N = 0$ になる瞬間。小球の運動方程式は $m \ddot y = N - mg$。$N = 0$ のとき、小球は重力加速度だけで運動する($\ddot y = -g$)。この条件が板の加速度と一致する瞬間、すなわちばねが自然長に戻った瞬間。

分離位置の速度:エネルギー保存則より、

$$\frac{1}{2} k d^2 - (板と小球の位置 E の変化) = \frac{1}{2}(M + m) v^2 + (重力での PE 変化)$$

板の質量を無視($M = 0$)し、自然長位置を基準にすると、位置変化は $d$ なので、

$$\frac{1}{2} k d^2 - m g d = \frac{1}{2} m v^2$$ $$v^2 = \frac{k d^2}{m} - 2 g d \quad \Longrightarrow \quad v = \sqrt{\frac{k d^2}{m} - 2 g d}$$

重力の影響が小さい場合($gd \ll kd^2/m$):

$$v \fallingdotseq d \sqrt{\frac{k}{m}}$$
答え:
$$v = d \sqrt{\frac{k}{m}}\;(\text{重力無視})$$

厳密には $v = \sqrt{\dfrac{kd^2}{m} - 2gd}$

補足:単振動の速度の最大値から直接

単振動 $x = A\cos(\omega t)$ では、速度の最大値は $v_{\max} = A \omega$。振幅 $A = d$、$\omega = \sqrt{k/m}$ なので、

$$v_{\max} = d \sqrt{\frac{k}{m}}$$

自然長位置はつり合い位置からわずかに上の位置(振動の中央に近い)で、ここでの速度は最大に近い。

Point

板の上の物体が分離する条件は垂直抗力 N = 0。これを力学的に解釈すると「板の加速度が重力加速度 $-g$ を超えて下向きになる瞬間」に分離が始まる。ばね問題では自然長位置(引き伸ばされ始める瞬間)で分離する典型。

[A](4):板の単振動の振動数

直感的理解
小球が離れた後、板はばねと単独で単振動を続けます。板の質量を $M$(または問題によっては $m$)とすると、振動数は $f = \dfrac{1}{2\pi}\sqrt{\dfrac{k}{M}}$ で決まります。

分離後の板の運動方程式:板のみ残ると、ばねからの復元力 $-kx$ と重力 $-Mg$ がはたらく。つり合い位置(自然長より $\dfrac{Mg}{k}$ 下)を基準にすれば、

$$M \ddot x = -k x$$

これは単振動。

角振動数・振動数・周期:

$$\omega = \sqrt{\frac{k}{M}}, \quad T = \frac{2\pi}{\omega} = 2\pi\sqrt{\frac{M}{k}}, \quad f = \frac{1}{T} = \frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{k}{M}}$$

板の質量が小球と同じ $m$ であれば、$f = \dfrac{1}{2\pi}\sqrt{\dfrac{k}{m}}$。

数値例(確認):$k = 40$ N/m、$M = 0.10$ kg とすると、

$$f = \frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{40}{0.10}} = \frac{\sqrt{400}}{2\pi} = \frac{20}{2\pi} \fallingdotseq 3.18 \text{ Hz}$$
答え:
$$f = \frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{k}{M}}\;(\text{板の質量} M)$$
別解:エネルギー法から振動数を求める

$(1/2)kx^2$ のポテンシャルで運動するハーモニック振動子。質量 $M$ と復元力定数 $k$ の系の固有振動数はどんな座標系でも $\omega = \sqrt{k/M}$。これを知っていれば、運動方程式を立てるまでもなく瞬時に答えが出る。

Point

ばね振動の振動数は質量に反比例(の平方根)。軽いほど速く振動する。これはブランコ・振り子にも共通する直感で、「軽いおもりは素早く振動、重いおもりはゆっくり」と覚えておく。

🔑 まとめ:鉛直ばね単振動の定石

概念公式ポイント
つり合い位置自然長より $\dfrac{mg}{k}$ 下単振動の中心になる
角振動数$\omega = \sqrt{\dfrac{k}{m}}$振幅によらず一定
最大速度$v_{\max} = A \omega$つり合い位置で最大
分離条件$N = 0$(板の抗力)自然長位置で分離
分離後の小球自由投射重力のみ作用
分離後の板ばねと単独で振動$f = \dfrac{1}{2\pi}\sqrt{\dfrac{k}{M}}$

繋がる概念:単振動の周期は重力場の強さと無関係(ばね定数と質量だけで決まる)。宇宙空間でもばねは同じ周期で振動する。一方、振り子の周期は重力 $g$ に依存する。このコントラストが大事。